【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
あれから10分ほど待ったであろうか。
「葛城二佐が到着しました!」
「冬月、一旦ここを頼む」
「わかった」
(来てしまったか、碇シンジ君。悪いな、この男のエゴのために連れて来てしまって。だが、安心してほしいと言いたい。この私の、老いぼれのできることをしよう)
ゲンドウは椅子を立ってケージへと向かった。十中八九で初号機に第三の少年を(無理やり)乗せるために向かった。この場を任された以上、初号機の出撃までの時間稼ぎはしなければ。
「使徒防衛線突破します!」
「一秒でもいい。エヴァ発進までの時間を稼げ、弾薬は気にしないでよい」
「副司令の命令だ!各防御ラインの防御兵器は総力を以て使徒を迎撃!」
司令の椅子に座ることは無く、各種モニターを立ちながら見つめる。基本的にメインモニターを見るのであるが、ケージを映したモニターも横目で見ておく。そこでは、到着した葛城二佐と第三の少年こと碇シンジ君がエヴァの前に立っていた。説明役で職員たちと赤城リツコもいる。全く変わることが無い(モニター越しの)光景に極めて軽微な苦笑いを浮かべる。
「まったく、みな対応が下手だな。碇は論外として、葛城二佐と赤木君ももう少しは彼に優しくできないものか。だから、彼は絶望してしまうのだよ」
正直言ってシンジの周りの大人(碇除く)は対応が下手過ぎる。いや、職務や状況を考えれば致し方無いともいえる。しかし、それでも度が過ぎる。上手くやれば、彼だってエヴァに乗るのにやる気を出して円滑に使徒殲滅をすることができるかもしれない。それこそ、人類補完計画を防ぐこともできるかもしれない。
そう考えれば、自分自身も積極的にシンジと接していこう。せめて、自分だけは彼にとっての希望となりたいと思う。これでも元々は教育者だった。若人を導くのは仕事だ。
そんなことを考えていれば、ちょうどシンジがエヴァに乗る決意をしている頃であった。綾波レイを出汁にすることで乗らせるとは、ゲンドウの奴は本当に変わらない。
「すまないな、シンジ君。今は耐えてくれ、アフターフォローはさせてもらう」
「サードチルドレンがエヴァに乗るようです!」
「碇から命令が出ているとは思うが、念のためだ。エヴァ初号機の発進準備を急げ。大至急だ、多少無茶をしてもかまわん」
既に碇からエヴァ初号機の発進命令が出されているとは思うが、この本部の中央部にいるのは冬月副司令である。形式上でも中央にいる最上の人間が命令を下さないといけない。
そして、初号機は全く起動しないことで有名だ。いくら手を尽くしても動こうとしないことで、みなが頭を抱えて来た。なぜ初号機は動かないのかと。しかし、二人にとっては簡単なことだ。コアたる者が認める者がいないから。その認める者が来た今、初号機は動いてくれるだろう。
「戻った」
「久しぶりの親子再会だが、何か話したのか?お前も人の親だろう」
「そんなことはない。作戦に不必要な会話はしない。それに、あれは第三の少年。ただのパイロットだ」
「そうか」(そうやって甘く見るから、痛い目に会うのだよ)
「初号機の出撃までには少し時間がかかる、攻撃の手を緩めるな」
防御線はフル稼働で通常兵装を盛大に吐き出している。もちろんダメージを入れることは出来ないのであるが、使徒の注意を引くことはできる。それだけ時間稼ぎをすることができるので、初めて実戦投入される初号機の出撃までの時間を稼ぐ。
と冬月は何かを思ったのか碇に許可を求めた。
「業務上の伝達の関係もある。私からも第三の少年と話しておきたい」
「あぁ。かまわん」
冬月は副司令であるから、エヴァパイロットたちと話さないなんてことは無い。これからも長い付き合いになる。業務上の円滑な伝達をすることを考えれば、予め話をしておきたい。というのは建前で、本音は碇シンジ君と良好な関係を築きたいので早めからお互いを知っておきたいのである。
「すまんが、第三の少年とつないでくれ」
職員たちの尽力で発進準備は急ピッチで行われていたため、シンジ君はプラグに入っていた。緊急だったのでプラグスーツは装着しておらず、必要最低限の設備しかつけていない。パイロットは極限の不安・緊張状態だろうから、少しは安心させたい。
「聞こえるかね?碇シンジ君」
(え、あ、はい)
(冬月副司令!?)
「何を驚いているのだ葛城二佐。私とて副司令である以上、パイロットと話すことは必要だ。さて、シンジ君。私は冬月コウゾウと言う。ここNERVの副指令を務めている。君一人に人類の希望を託すのは気が引けるが、君しかいない。本当に申し訳ないが、どうか許してくれ。せめてだが、こちらで全力の支援はする。だから、君にも頑張って欲しい」
(はい…わかりました。冬月副司令)
そう言って通信は切った。
「お前の息子は意外と礼儀は出来ているんだな」
「…」
そうして発進準備は着々と進んでいって、ついに地上へとエヴァ初号機が放り出されんとする時になった。カタパルトへと初号機が移送されて、固定される。その一連の動きを見る職員たちは正に固唾をのんでいる。
「カタパルト固定完了!」
「安全装置解除」
とんとん拍子で進んでいく発進準備。この時だけのために訓練を重ねてきた職員たちの努力の賜物だ。一番準備が出来ていないのが初号機パイロットだというのは、極めて可哀想で皮肉であろう。
全ての準備が完了すると。本部の中央に戻ってきていた葛城ミサトが冷静に、大きな声で告げた。
「エヴァンゲリオン初号機…発進!!」
「行ったか」
カタパルトで一気に地上へ初号機が射出された。メインモニターには使徒に対面する初号機が映し出される。こうなっては、我々が手を出すことは出来ない。見守るだけである。
赤木リツコや葛城ミサトが一つ一つエヴァの操縦についてパイロットに説明している。
なんせ今が初めてエヴァに乗るというのだから、その動きはぎこちない。使徒の目の前でそんな動きでは死と同義。ただ、初号機が動いただけでも万々歳であるのだが。
「実の息子が苦しむさまを見ても、動じない。本当に道具しか見ていないか。ユイ君…すまないが、エヴァの面では君に頼みたい」
そこからは見ていられないような光景が続いた。一方的に攻撃される初号機。ついには光の槍によって貫かれた。
「パイロットの心拍低下!」
「蘇生装置の準備を!」
「支援砲火を!」
余りにも無茶が過ぎる。いくらエヴァでも、初戦で碌な訓練も積んでいないのに出撃させたのだ。すぐさま援護に入るために動こうとした。
その時だった。
初号機が光った。
「嘘でしょ…」
「まさか暴走!?」
「ユイ君か…悪いな。私で出来ることは私でする。初号機は頼む」
パイロットが動けないというのに、初号機は息を吹き返した。しかも、先とは全く違う。キレキレすぎる動きに皆が注目を余儀なくされる。これは、そう、暴走である。未だに不明な点の多い、一種のオーパーツであるエヴァ。時にはこのように暴走するのである。
「勝ったな」
「あぁ」
その後は、もう、滅茶苦茶だった。倍返しだと言わんばかりの猛攻を初号機は開始した。使徒をも上回る圧倒的な運動量で使徒を動かせない。パワーでも使徒と同等、いや凌駕している。
だが。
「くっ!やはり」
「ATフィールドね」
一度は使徒は対応できなかったが、二度目はない。ATフィールドを展開して絶対防御となる。だが、忘れていないだろうか?相手はエヴァなのである。
「え?ATフィールドを…?」
「まさか!ATフィールドをエヴァ自身の(ATフィールド)で中和しようとしているの!?」
エヴァだってATフィールドを展開することはできる。応用すれば相手のを中和して無効化できるのである。これがエヴァンゲリオン。頼みの綱であったATフィールドを無効化された使徒はお終い。あとは、ボコボコにされるだけであった。初めて人類が使徒に反撃を開始した瞬間に各員が興奮を隠せない。
勝った。
そう言えるだろう。
「あとでお見舞いに行かないとな」
この後の結末を知っている冬月は、誰よりも冷静だった。
あの碇ゲンドウよりも。
続く
優しい冬月コウゾウ。動きます。
それでは次のお話でお会いしましょう。