【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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これで20話です。区切りですね。

※後半に視点がグルグル変わります。どうしても文字にすると視点を変えざるを得ないためです。ご了承ください。


奇跡を待つな…奇跡は起こせ

地上では既にエヴァが配置されて電力供給も完了していた。後は作戦開始を待つだけだ。使徒は成層圏を突破して、もう目視できる高度にまで降りてきている。相も変わらずのNN兵器の大盤振る舞いで爆発がその空を支配している。この贅沢な攻撃の甲斐あってか、使徒の侵攻は遅延を余儀なくされている。そのため、作戦はほんの少しだが余裕がある。

 

エヴァ初号機のプラグ内で作戦始動を待つシンジは何故か落ち着いていた。これまでの使徒戦の経験と訓練とメンタルトレーニングのおかげだ。普通に考えればそうであるが、そうでないのがエヴァ。

 

「なんだろう…こんな状況なのに落ち着く。まるでお母さんの腕の中にいるようだ。なんでだろう。エヴァはロボット…ではないからかな」

 

対使徒汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンはただのロボットではない。一応は人造人間だからロボットと分類するのは難しい。確かにそうだ。ただのロボットじゃない。しかし、その根幹たる部分で考えればだ。エヴァはロボットではない。

 

「お願い、エヴァ初号機。戦うよ」

 

<各機準備はいいわね?>

 

「はい。初号機は問題ありません」

 

<弐号機問題ないわ>

 

<零号機問題なし>

 

「皆大丈夫そうだ、三機なら、三人ならやれる」

 

<作戦に変更はないわ。使徒の予測落下地点は逐次伝えるから柔軟に動いて。では…作戦開始!>

 

「っ!」

 

ケーブルが切り離されてエヴァ三機は同時に動き始める。エヴァが本気を出した時は恐ろしく速い。人間のように走るだけだというのに音速に近い速度を叩き出す。

 

「あそこだと…」

 

<あたしが近いわ!>

 

エヴァのモニターに表示される使徒の予測落下地点と空の使徒を睨んでコースを考えて動く。落下地点を見るに弐号機が一番近いのでアスカが最初に着くと考えられる。となると、弐号機が受け止めて、零号機と初号機でコアを破壊する方向になるだろう。だからシンジは少しでもアスカが苦しまぬようにスピードを上げる。パイロットの中でも異常に高いシンクロ率記録を持つシンジと初号機のコンビは最強。音速を越えて走り出そうとした。その瞬間。

 

上空の使徒はATフィールドを偏向させて真の姿を露わにした。それによって、着弾までのルートが大きく狂った。

 

<使徒が!変形した!?>

 

<くっ!間に合わない!>

 

「ミサトさん!」

 

<予測落下地点を更新したわ!ルート強制変更急いで!>

 

弐号機と零号機の位置を見るに遠い。初号機が一番近いので初号機を一番乗りさせなければ。しかし、ここでスピードを落とすわけにはいかない。だから速度を維持しつつルートを変更させる。そのために地下から道が作られる。初号機はその道に沿って走ればいい。シンジのエヴァ操縦の技術の高さで器用に道を走っていく。使徒と戦い、訓練も積んできた経験が活きていた。

 

音速を越えた初号機は圧倒的な速度で使徒の落下地点に滑り込んでいく。弐号機と零号機もルート変更で急行しているが間に合わなかった。ギリギリセーフのタイミングで初号機は使徒の直下に来た。遠近法のおかげで空にいた時の使徒は割と小さく見えていたが、至近距離で見ると超デカい。もはや、これは隕石である。

 

そんなことはどうでもいい。使徒の直下に来たらやることはただ一つ。

 

「ATフィールド展開!」

 

ATフィールドは使徒だけのものじゃない。エヴァでも展開することができる。ATフィールドを以てして使徒を受け止める。初号機とシンジのパワーで使徒の侵攻はピタリと止められる。使徒としては着弾目前で止められては、もう堪ったもんじゃない。だから初号機を奇襲した。使徒下部から子使徒(適当に作者が名付けた)が出て来て、初号機の手のひらを槍で貫いた。エヴァへのダメージはパイロットにもフィードバックとして入ってしまう。エヴァと同じく、人間の手のひらを貫かれた時の痛みは相当だ。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

<シンジ君!>

 

「ここで…ここで!負けるにはいかないんだ!」

 

目には涙を浮かべ、歯を食いしばって痛みに耐える。耐えて耐えて耐える。本部でも初号機の状況は把握している。だから全員が固唾を飲んで見守るしかない。できることは無いのだから。通常兵器はもう撃てない。

 

「やらせるかぁ!!」

 

掌を貫かれているのと言うのに、初号機は、シンジは痛みを度外視で使徒を押し返している。使徒の圧倒的な重量を二人のパワーが勝っているのだ。パワーで勝っているが、それだけ無理をしているので初号機の損傷とパイロットの痛みも増していく。まさに、彼は身を、命を削っている。当たり前だが長くは持つわけがない。

 

と、ここで、待望の増援が到着した。

 

<待たせたわね!これで!>

 

弐号機が到着し、両手にプログレッシブナイフを構えている。そのナイフでコアを切り裂かんとする。初号機に集中していた使徒だが、新たなる脅威に対応すべく更にATフィールドを弐号機方面に展開した。複数方向にATフィールドを展開できるとは。使徒は本当に進化している。

 

<しゃらくさいわね!>

 

左手のナイフでATフィールドを破り、右手のナイフでそのままコアを突き刺そうとした。これで終わる。勝ったとアスカは確信した。

 

だが、そうは簡単に問屋が卸さないというのが使徒という存在だ。

 

<嘘!?>

 

使徒のコアは心臓部であるから固定されているのが常識だ。これまでの使徒はみな一様にコアが固定されている。だからコアを狙うのは造作もないことだった。しかし、こいつは違った。そのコアが回転して逃げ回る。しかも、目でも機械でも追いつけないような速さで。

 

「ア、アスカっ!は、早く!いつまでっ!持つか!」

 

<わかっている!でも…>

 

もう残像が残り過ぎて赤い円が出来てしまっている。当てずっぽうにナイフを突き刺しても無駄なので慎重に一撃必殺でやるしかない。やりたいのだが、そうもいかない。何とも言えない状況だ。

そうしていると初号機の損傷が拡大してパイロットも痛みに負けてしまう可能性が大きくなっていく。いくらシンジでも人間だ。人間には限界がある。

 

万事休す。絶体絶命。

 

ガシッ!

 

<エコヒイキ!?>

 

<くっ!ううううう!>

 

「あ、綾波っ!アスカっ!今だ!」

 

<わかってるちゅぅのぉ!>

 

なんと現場に到着した零号機は躊躇なく使徒のコアを鷲掴みにした。あれだけの速度で逃げ回る使徒のコアをつかむとは、更に強烈な力で逃げようとするコアを絶対に逃がさない。一見すれば楽なことだが、これは全く楽ではない。使徒のコアをつかむだけでも、それにそれを逃がさないとなれば、想像を絶する労力がかかる。

 

その二人の献身を無駄にはしない。アスカこと弐号機はプログレッシブナイフをコアに向け突き刺した。そして「止めだ!」と言わんばかりに右足で膝蹴りをして二本のナイフを深く刺した。

 

コアは大きなヒビが入り、そのまま崩壊した。心臓を破壊された使徒は活動を停止して、使徒も大崩壊を起こした。

 

かくして使徒の撃破は為された。無謀だと言われたのが嘘だと言うように。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…、勝ったのかな。ありがとう…初号機」

 

パイロット全員が疲労困憊にある。普通なら勝利を祝うのだが、今回は誰もしゃべらない。レイとシンジはグッタリして動けない。アスカはグッタリはしていない。しかし、体育座りをして顔を埋めている。肉体的と言うよりかは精神的な疲れから来ているだろう。

 

~NERV本部~

 

「碇司令と冬月副司令と通信復旧しました!」

 

月の方にいる二人と通信が復活したので、ミサトは敬礼して謝罪した。

 

「私の独断でエヴァ三機を出撃させ、初号機を損傷、パイロット一人を負傷させてしましました。申し訳ありません」

 

<構わん。あの状況で使徒を撃破しただけで奇跡だ。それに損害は考えないでよい。そこらは私の仕事だ>

 

冬月としてはこの通信途絶で指揮系統が死んでいる状態でエヴァを運用して使徒を撃破しただけで奇跡と考えている。それに想像した損害よりも小さいのでいうことは全くない。ここまでやってくれて難癖をつける方が馬鹿だ。ここは褒め称えるのが吉。

 

「感謝いたします」

 

すると二人の間の通信に誰か割り込んできた。

 

<初号機パイロットとつないでくれ>

 

「はっ」

 

なんとゲンドウだった。こういう時には冬月に任せきりの人間が動いたのだ。最高司令官の要望だからすぐに通信を繋げる。何を話すのだろうか?

 

~シンジ視点~

 

痛みに痛む両手を気遣いつつ、シンジは回収を待っていた。

 

すると突然。

 

「え?父さんから?」

 

<シンジ…よくやった。あの状況で使徒を撃破したのはお前の功績だ。今は怪我を癒すためにゆっくりと休め。以上だ>

 

「と、父さん…が褒めてくれた」

 

まさか実の父碇ゲンドウから褒められるとは思いもしなかったので大きく動揺した。衝撃が大きすぎて強く痛む両手のことなんかどうでもよくなってしまったほどだ。痛みをも打ち消す喜び。

 

そんなシンジだった。

 

 

~冬月視点~

 

「珍しいな。お前が子を素直に褒めて、体をいたわるとは。ようやく人の親らしい姿を見せたな」

 

「…」

 

「まぁ、いい。後始末は葛城君がやってくれるだろうが、面倒な書類の処理はお前にも回るからな」

 

「あぁ」

 

ぶっきらぼうであるものの、息子のことを褒めて労わったゲンドウのことを冬月は少しは見直したのであった。

 

続く




次話よりアスカと冬月の関わりが強くなります。簡潔に言って孫が増えます。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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