【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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今回は長いです。前後半にわけています。

※本話は個人の解釈が大いに含まれますので、「違うなぁ」「え?そうは思わない」「全然違うんだけど」とお思いになられる可能性が高いです。ご注意ください。


前編『人を頼りなさい』 後編『サービス』

前編 『人を頼れ』

 

~冬月の執務室~

 

月旅行から戻って来た冬月はエヴァの修復や都市部の復旧などなど沢山の仕事をこなしていた。全部を一人で請け負うことはなく、大体は部下に振り分けたりして負担を軽減している。また、総司令のゲンドウにも多少は仕事を押し付けている。仕事ぐらいもっとしてほしいものだ。

さて、執務室で仕事をしている冬月の所に客人が訪れた。執務中に訪れることができる人物は限られる。ミサトやリツコでも副司令が仕事中にはいかない。出来上がった書類や報告書などは手渡しではなく内部のネットで送ればいいだけだ。

 

冬月は仕事中との建前であったが、実際には仕事の殆どを終わらせていた。長いこと生きて来た経験があるし、元々の才があるしで仕事をこなす能力は極めて高い。追加で部下に押し付けるという能力も有しているので、仕事の迅速さに更に磨きがかかる。

 

「おや、珍しいな」

 

「シンジから聞いたの、何か相談したこと、言いたいことがあれば冬月副司令(先生)の所へ行けって」

 

「シンジ君がか。ま、座りなさい」

 

この冬月に会いに来たのはアスカだった。彼女は前の使徒戦でパイロットたちとの交流を深めて、積極的に動くようになった。これまで自分一人で戦えると信じて疑っていなかった。彼女はドイツ空軍のエースでエヴァ操縦技術は三人の中でも群を抜いている。さらにエヴァ弐号機は最新型のエヴァで性能も違う。この要素から考えれば、自分が一番だと考えて変ではない。しかし、その本人を打ち砕いたのが前の使徒との戦闘。彼女一人で充分だと思っていたが、一人ではどうにもならなかった。むしろ、三人がかりでやっとだった。

 

その事実が酷く彼女を傷つけた。同時に自分を変えようと藻掻くきっかけになった。

 

「それで、私に話したいこととは何かね?」

 

冬月はソファーに座ったアスカの対面に座る。アスカには何時ものようなハキハキとした覇気がない。冬月だからわかるとかではなく、これは誰がどう見ても分かる。彼女は悩んでいいる。

 

「なんで…なんで誰もアタシを認めないのよ」

 

「認める?」

 

「アタシはこれまでエヴァ弐号機に乗って来て(実験などで)結果を出してきた。使徒戦でも戦える。だからアタシだけでいい。あたし一人でどうにかなると思ってた。でも、ミサトは三人で戦わせた。なんで、なんで」

 

「君は誤解をしているようだな。皆とは言い切れないが、少なくとも、私や葛城君は君のことを認めている」

 

「じゃあ!なんでアタシ一人に任せてくれないの!」

 

「少しは落ち着きなさい。落ち着かないと話したいことも話せない。気持ちが先行して自爆してしまうぞ。エヴァでもそうだ。無用な気分の昂りは死へと向かうだけだ」

 

諭されてアスカは引き下がる。先も述べたが彼女は認めてほしかった。もちろん皆彼女の実力を認めている。じゃあ、「彼女の言っていることは支離滅裂か?」と聞かれれば、それに対する答えは「否」である。

彼女の認めてほしいというのは彼女しか分からないが、察するに「自分に寄り添って、親のように見ていて欲しい」のだろう。その気持ちからと辛い過去の相乗で表面上では、強くツンツンと振る舞っている。

 

出された羊羹を口へ運んで胃を満たすことで気分を落ち着かせたアスカは、シュンとなった。さっきとの落差が大きすぎて冬月は思わず眉をひそめた。

 

「私一人じゃ…だめなの?」

 

「ふむ、難しい質問だな。まぁ、私が思うにダメだな。あの時(来日時)に言ったが君一人ではどうにもならないのが使徒という存在。実際に対面して戦ってみてわかっただろう?」

 

「…えぇ」

 

一瞬でアスカは負けた。

 

「だから三人で戦わねばならん。別に三人を出すのは、決して君を認めていないわけじゃない。君のような強いパイロット一人で勝てるほど使徒は生易しい存在じゃないんだ。それが現実だ。現実を見たほうがいい」

 

「そうね…私ひとりじゃ何もできなかった」

 

クドクなるのであっさりとまとめるが、使徒はアスカだけでは倒せない。それは間違いのない、狂いの無い現実。現実を見つめることが出来ないような人間ではない。

 

「そして、君は人を頼りなさい」

 

「人を…頼る?」

 

「いい加減、素直になれということだよ。どれだけ強い人間でも、周囲の者に頼るときは頼る。私だって副司令という立場だが、遠慮することなく人を頼る。まぁ、これは年齢から来ているのもあるがね」

 

「人を頼るか…一人では戦えないから頼る」

 

「戦闘だけじゃない。なんだっていい。私生活でも何でも、とにかく人を頼りなさい。一人で生きるのを咎めることはしないが、人を頼って、人と繋がって生きることほど楽しいものは無い。こんな老人が言っているんだ。嘘ではない」

 

齢60ほどの老人から言われたら信じるしかないだろう。目の前にいる人間はNERVのブレインと称される傑物。彼を信じないわけがない。アスカは「人を頼りなさい」という言葉を脳内で反芻していた。これまでは自分を認めてくれない他者をある意味で拒絶してきていた。ずっと一人だった。更に親もいない。

話がそれるが、親がいないから愛を求めていた。自分の傍にいてくれて、認めてくれて、頭をなでてくれる親を。

 

話を戻す。

 

「こうやって、人と話すのも人に頼るということになる。こんな老人でも話は聞くことができる。それに、パイロット三人できても構わん。話すことで君の負担が軽くなるなら、私は喜んで付き合うよ」

 

「本当に人に頼っていいの?」

 

冬月はアスカの精神を的確に読んでいた。彼女はずっと一人で生きて来たから、他人を頼ることを億劫に感じたり、悪いことだと感じてしまっていると思っている。だから彼女は一人で戦うことをある意味で至高と思っていた。

 

「あぁ。人と話すだけでも随分と楽しいことだ。特に、私のような老人は話好きでね。こう見えても、シンジ君とレイ君とはよく話している」

 

「…偶には…いや、頻繁にここに話に来ていいの?」

 

「もちろんだ。君が話す相手が、こんな老い耄れでもいいならな」

 

基本的に冬月はパイロット三人に対しては何時如何なる時でもオープン

「そう、わかった。ありがとう、冬月副司令。少しは気分が変わった。また来るわ」

 

「堅苦しいから、私のことは先生でいい」

 

「冬月先生、ありがとう」

 

「うむ」

 

そう言ってアスカは退室した。その退室時の入室時に比べて、彼女は遥かに素晴らしく晴れた顔をしていた。ほんの少しだけでも、人に話すだけで気分はグッと楽になる。

 

「やれやれ、みなそれぞれ苦しみを抱えているか」

 

苦しみを背負った少年少女を戦場に出すのだから、できる限りの支援はする。冬月は自身のエゴを貫くために、パイロットたちを守る。

 

「加持君に相談でもするか」

 

パイロット三人にサービスをしてあげようと思った冬月だった。

 

後編に続く

 

 

後編 『サービス』

 

~二週間ほど経ったとある日~

 

「こ、こんなに徹底しているなんて」

 

「さ、さすがに疲れたわ…」

 

「碇君の体…かっこよかった」

 

何か一人だけはおかしいが、シンジ・レイ・アスカの三人とシンジの友人二人は加持リョウジから招待を受けてとある国立の施設に来ていた。ここではセカンドインパクト前の生物の保存。いわゆる種の保存をしている。まぁ、超すごい水族館と考えれば分かり易いと思う。

 

「いや~申し訳ないね。ただでさえ外からの人を入れるのは憚られることだから。さてお待たせしたね、今からは好きに自由に動いてもらっていい。俺から話は通してあるから。それに聞きたいことがあれば、最高の先生に聞けばいい」

 

「これでも大学の教授をしていたからな」

 

「なんで先におるんや」

 

「簡単だ。面倒なことはサッサと済ませておく。それだけだ」

 

セカンドインパクト以後の世界しか知らない彼らは、教科書や映像などと何かを介して生き物を知っている。だが、ここには本当の意味で初めて見る生き物が数えきれないほどいる。そこで、彼らに教える教師役として冬月が出張ってきた。教師役なら適任以外の言葉が見つからない。元々は大学で教鞭をとっていたんだから。それも生物系の。

 

その冬月はこの施設に入るのに面倒な手順が必要なことを知っていたので、かなり早めに来て手順を済ませていた。何事にも通じるが可能な限り物事は早く終わらせるのが好ましい。

 

「ま、そんなことだ。俺は適当にふらついているから気にしないでくれ。それじゃ

、副司令お願いします」

 

便宜を図ってくれた加持は奥へと消えていった。残った冬月が彼らの面倒を見る。一応、昼食時には皆集合する予定なので問題は無い。

 

自由行動となった少年少女たちは我先にと水槽に向かって、水槽にかぶりつく。無理もない。セカンドインパクト以前に生きていた生物を、本物を自分の目で見ることができるのだから。悪友二人は揃って水槽にへばり付き、感嘆の声を挙げる。バカップルは小さな水槽の前で仲良く手をつないで生物を見つめる。残された一人はバカップルの隣で魚を見ている。

 

「冬月先生…これって?」

 

「それはクラゲという生き物だな。かつての青い海では世界中で見られた生き物だ。非常に珍しいだろう、この見た目は」

 

「はい。なんというか…変?」

 

「神秘的」

 

「フニャフニャしているわね」

 

三者三様のクラゲの見方だ。まぁ、クラゲは本当に不思議な生き物だ。そう考えれば当然の反応と言えよう。

 

「そうだな。この生き物は様々に捉えられる」

 

初めて見るクラゲに三人は興味津々だ。やはり実物をその目で実際に見るのが一番だ。セカンドインパクトによって赤く染まってきた海しか見たことが無い彼らにとって青い「海水」という液体でプカプカ浮くクラゲは珍しい。セカンドインパクトによって海は赤く染まってしまった。その海はもう母なる海ではない。生物の母なる海は、生物を絶滅し尽くした死の海と化してしまったから。三人はその赤き死の海しか知らない。つまり、青々として独特の匂いを放つ海を知らない。今回、海を教えるために招待してくれた加持リョウジには頭が下がる。

 

「このクラゲは…ここだけでしか生きられない」

 

「え?」

 

「この中じゃないとクラゲは生きられない。私も同じ。私もNERVの中でなければ生きられない」

 

綾波は水槽の中で生きているクラゲに自らをあててしまったようだ。確かに綾波は

NERVの中でなければ生きられない。学校などに通っている点では外でも生きられるが、そういうことではない。

 

「そんなことないよ。綾波は僕と生きればいいじゃん。僕がいるから」

 

「え?碇君の中で?」

 

「あ、いや、えっと。なんて言えばいいんだろう」

 

「そんなことは今考えんでいい。その時、その時考えればいい。他の人の強要されずに、自分の望み通りに生きればいい。わざわざ狭い水槽の中で生きようとしないでくれ。この魚やクラゲたちも時が来れば海へ解き放つ時が来る。その時のためにここで研究が行われている。シンジ君はレイ君と一緒に生きたいのだよ。シンジ君、男ならハッキリいいなさい」

 

「碇君…」

 

レイは自分の生きる目的、生きる意味はゲンドウの言われるがままにだった。使徒を倒していくだけ。しかし、今は違う。自分と心を通わせてくれる、一緒にいて楽しいと感じる少年の碇シンジと生きる。それが彼女の生きる目的と意味になった。

しかし、彼女が実際に生きる所はNERVだ。それが彼女を縛っていた。その縛りを断ち切るのがシンジという男。

 

「アタシも混ざりたいなぁ」

 

近くにいたアスカが小声でつぶやいた。そのつぶやきを老人の耳で聴き取れないことは無い。

 

「ほれ」

 

「え?何よ、行けっての?」

 

「行かないでどうする?レイ君だけに独占されたくないのなら行きなさい」

 

アスカはあれから人との交流を更に深めた。深めると言っても相手は冬月やシンジ、レイぐらいである。ミサトともしているが、彼女は仕事で忙しいので必然的に人が限られてしまう。特にシンジとは仲良くしている。来日時のツンツンさは弱まっていて、中学校では一夫多妻制と茶化されるほど。シンジ・レイ・アスカのコンビは有名だ。三人はエヴァパイロット同士なのだから仲良くしてもらわないと困るので、これは非常にいい傾向だ。前に使徒戦で絆がグッと強まった効果が出てきている。

 

それを冬月は良く知っている(アスカとシンジが仲良くしているのをレイから愚痴として聞かされている)ので、アスカをシンジへとけしかけた。冬月は少年少女が青春するのを好きなので私的な願いからもけしかけた。

 

アスカはちょっと迷ったが、バカップルに突撃を敢行していった。いいねぇ。

 

「それでいい。君たちの幸せのために動きなさい。少しぐらい好きに生きてもバチは当たらんよ」

 

「副司令はお優しいようで。どうです?一本」

 

「私は吸わん人間だ。だが、付き合おう」

 

急に、ヌッと現れた加持リョウジに冬月は冷静に対処した。彼は手にタバコを持っていて冬月を誘っていた。傍から見れば単にタバコを吸うのに誘っているだけだが、二人の間では違う。

 

施設の外に出て、一人は空を仰ぎながらタバコを吸い、老人は青い海を眺めている。

 

「副司令はチルドレンたちを導く気でしょうが、碇司令は甘くありませんよ」

 

「碇と一番近くにいるのだから、それぐらいは良く理解している。碇は甘くないからこそ、私はチルドレンたちが自分の幸せのために生きれるようにするのだよ」

 

「そうですか。あぁ、副司令は月を視察してきたと聞いていますが、どんなものを見たんです?」

 

「ゼーレの老人たちが作っている別のエヴァだよ。どうやらだが、君のよく知る人物がそのエヴァ(Mark6)のパイロットだろう。歴史は繰り返されるわけではないと思っているが、少しデジャヴを感じてしまうな」

 

「なるほど。彼もまた目覚めたということですか。変わりませんね、我々は」

 

意味深すぎる会話をする二人。この二人は共通点を有しているのだが、それはなんだろうか?察していただけとありがたい。その二人は一旦話を切って空気を吸った。

 

「君は主たる目的以外にもやらねばならないことが多いだろう?身寄りのない老人は気兼ねなくやれるが、君のように背負っているものが多いとな」

 

「正直言って逃げ出したいですよ。俺は背負いすぎています。昔のことを。それでも、主なことを優先しますよ。だって、俺は生かされたので。生かされた以上、生を全うしませんと」

 

「彼女のことはいいのか?」

 

彼女とは一体誰だ?

 

「フッ…(タバコを吸い挟む)、それは使徒を撃破するよりも難しいことですね。俺もどうすればいいのか、悩んでいるところです。なんせ長生きをするつもりは一切ないですから」

 

「そうか。君の人生に関して、私が言うことはない。君のやり直しの人生なんだから、君の思うようにしたまえ。ただ、私から一つだけ、これだけは言わせてくれ」

 

「なんでしょう?」

 

「女性を悲しませるな。男と言うのはどうも無責任なところがある。それで悲しませることが無いようにな」

 

「肝に銘じておきます。冬月先生」

 

「君も私をそう呼ぶのか」

 

この対談の場で、結構大事なことが話された。この場で話されたことが、これからの生末を大きく変えることになる。

 

やり直しの人生。

 

そう、やり直しは効くのだ。

 

だから…生きる。

 

続く




この後からは少しずつですが変わります。具体的に言っちゃうと面白くないので、お楽しみに。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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