【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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リクエストなんですが、本筋のストーリーの兼ね合いなどで反映がずれ込みます。また一部はメインストーリーから完全に離れたIFもございますので、かなりずれ込みます。一応、土日にはリクエストの内の一個を反映できると思います。


ダミーシステム

~NERV本部 技術部~

 

冬月は技術部の長である赤木リツコ博士から呼ばれて技術部の入る区画に来ていた。技術部には要塞施設の強化などを指示している。その報告かと思われたが、全然違った。最近になってようやく試作品が完成したエヴァの特殊な装備だった。装備と言うよりはパーツと言った方が適当かもしれない。

 

まぁ、そんなことはどうだっていい。

 

「これがか」

 

「はい。ダミーシステムです」

 

「対使徒汎用ヒト型決戦兵器のエヴァンゲリオン。それの完全なる無人化を目指したダミーシステムか。既存のエヴァは少年少女のパイロット達がエヴァに直接乗り込んで操作して使徒を殲滅する。しかし、それでは非人道的で看過できん。だからエヴァの完全自立行動及び自立戦闘を行うために開発されたシステムか」

 

「まだ試作品が完成したばかりです。暫くは試験を行ってデータを収集し、更に改良を加えるつもりです」

 

「鋭意取り組んでもらいたいが、正直に言って私としては好きではない」

 

これには赤木リツコも珍しく、目に見えてわかる形で驚いた。副司令で、一番パイロットたちに近い冬月がダミープラグのことを好きではないと発言したからだ。先も述べたがダミーシステムは人道的に見てアウトなエヴァの運用を改善するために開発された。使徒という敵を殲滅するためにエヴァがある。それはそうなんだが、それを操縦するのは少年少女たち。いくら人類の希望とは言え、子供たちを使徒と戦わせて死に追いやるのは人道面から見てダメだ。ということで、エヴァを行く行くは完全に無人化して完全自立戦闘を行えるようにする。そのためにNERVが開発したのがダミープラグだ。

パイロットたちである少年少女たちを解放するという意味では最高に素晴らしいシステムだ。

 

しかし。

 

冬月は認めていなかった。ダミーシステムを。

 

「ダミーシステム。その意図は分からんでもない。いや、むしろよくわかる。だがな、ただの機械に使徒と戦えるかね?確かに、ダミーシステムにはこれまでの使徒との戦闘データを贅沢に、ふんだんに組み込んでいるから戦闘は不可能ではないだろうよ。しかし、人間特有の閃きや根性、心と言うものが機械には一切ない。ただの人間の真似ができるだけに過ぎん機械に使徒と戦えるわけがないと私は思うよ」

 

そう、ダミーシステムは結局は機械なのである。機械は人間と比べて優れている点がたっぷりあるが、使徒との戦闘との面で言えばメリットは弱くなり、最悪はそんなことは無くなる。使徒は人間を遥かに超えた存在だ。機械が使徒を上回る?冗談はやめてほしい。そんなことがあるわけないだろうて。

 

「さすがは副司令ですね。よく見ています」

 

「私とてただ本部で使徒とエヴァの戦闘を眺めているだけじゃない。その戦闘を様々な視点で分析することは葛城君達よりもしている。それに、碇君やレイ君、アスカ君からヒアリングもしているからな」

 

非公式ではあるがパイロットたちと冬月は毎日のように面談してヒアリングをしている。名目としてはパイロットのメンタルケアであるが、実情は単に世間話をするだけだ。世間話と言っても、エヴァの訓練での感想などを汲み取っている。訓練終了後の聞き取りでは聞けなかったことをこの場で汲み取るのだ。冬月はパイロット相手は非常に柔らかい人間なので、三人は気兼ねなく何でも話していた。

 

「パイロットの負担を減らしたい気持ちからこれを作りましたが、使えそうもないですね」

 

「それは君が一番わかっているだろう。ダミーシステムが使えんことは」

 

「えぇ。私は最初から懐疑的でしたよ。冬月副司令の仰ったことは尤もです」

 

赤木リツコ氏もダミーシステムを良く思っていない。その思想は評価できるし頷ける。しかしである。冬月が言ったことと全く同じで、ダミープラグはただの機械。人の真似ができるだけに過ぎない。

 

「とりあえず、実戦使用は控えて試験だけに専念すればいい。素体のエヴァをどうするかは考えないといけないが」

 

「バチカン条約が邪魔で仕方ありませんね」

 

「そうだな。部品の生産にもメスを入れてくるとは。今は何とか弾き返しているが、まったくいい加減にしてほしいものだよ」

 

バチカン条約。これは通称で「現実を見ろよこの野郎条約」とも呼ばれている(嘘です)。内容は多岐に渡るが、基本的に各国のエヴァに関する制限を定めている。エヴァは対使徒戦の切り札である。それは使徒を撃破できる威力を持つロボット(?)である。つまりだ。その気になれば、エヴァを軍事的に転用することが出来てしまう。それを踏まえて、条約でエヴァが人類間の戦争の兵器として使われないようにと制限をかけている。具体的な内容には、エヴァ保有数は3機に限定するなどがある。

なんと、この条約はエヴァの部品の生産に関しても口出しをしてきている。そのため、小さいがエヴァの修復にも影響が出ている。建造はまだしも、部品の生産にまで口出しされてはとてもとても堪ったもんじゃない。そのため、冬月は碇ゲンドウの名を利用してバチカン条約の口出しを蹴っている。理想より現実。これに尽きる。

 

現在、NERV本部はエヴァ初号機、エヴァ零号機、エヴァ弐号機の三機体制でいるからバチカン条約ギリギリの状態。試験的にダミープラグを使うにしても、試験中に使徒が出現されるとエヴァを二機しか出せない。いや、試験中の一機を出せるには出せるのだが、試験装備の状態だと実戦に耐えられない可能性が出てくる。それを考慮している。

 

「まぁ、使徒が来ないことを祈って実機試験をするしかない。このダミープラグを使用できるエヴァは?」

 

「今のところ、使えると断言できるのは初号機だけです。零号機は拡張性が乏しいので使用は難しいです。弐号機は最新型で拡張性も確保されているので使えそうですが、ドイツ製です。慎重になります」

 

「ユーロNERVのドイツか。彼らもよくやるよ。凍結されていた第三の使徒を取り逃がしたかと思ったが、エヴァ仮設伍号機で殲滅したからな。話で聞けば、危ない橋を渡ったらしいがな」

 

「彼らも彼らで必死なのでしょう」

 

エヴァ弐号機は最新型のエヴァだ。ただし、建造されたのはユーロNERVのドイツ。だから、エヴァ弐号機は日本仕様じゃない。一応、日本への輸送と同時に日本仕様にアップデートされたが、根幹はドイツ仕様のままとなっている。それに、エヴァを構成する部品も異なる。だから、ダミーシステムを試験で使うのに慎重にならざるを得なくなる。

 

「それはそうと、NERV北アメリカ支部はどうなっているんですか?」

 

「あぁ。あそこか。アメリカではエヴァの限界稼働時間の足かせを無くすために、使徒のS2機関のコピーを作ることに心血を注いでいるよ。エヴァ肆号機で初期型の人工S2機関のテストをしているらしい。まぁ、本当は我々への対抗心から来ているのかもしれんがな」

 

「S2機関ですか。あれがあればエヴァを無限機関にすることができます。技術者としてはぜひとも欲しい逸品です」

 

「無駄な期待をしない方がいい。使徒の動力源となるS2機関をコピーするということは非常に難しい。ただでさえ使徒自体をコピーしたエヴァ初号機を建造するだけで我々は苦しんだ。さらにS2機関のコピーとなれば難易度は爆発的に上がる。使徒だから扱える逸品をエヴァに組み込もうとする。とてもではないが、まず無茶だ」

 

「確かに、冬月副司令の仰る通りです。海を越えた北アメリカでのことですから、今は気にしないでおいたほうがいいですね」

 

「そういうことだよ」

 

この後、冬月はダミーシステムに関する一通りの説明を受けて、実際にそのデータを閲覧した。冬月はこれを好んではいないが、NERVのエヴァ運用の方針で「将来的に全てのエヴァを無人化する」とされている以上、彼はダミーシステムを認めるしかなかった。

 

冬月は幾つか気になった点が見つかったので、これの改良を指示した。まだまだダミーシステムは完成しきっていない。暫くはデータ取りだけに使用されることだろう。そして、追加で冬月はダミーシステムとエヴァに関して一つの注文を付けた。

 

その注文が後々に大きな意味をもつことになるのだが、それはまだ先のこと。

 

続く




悲しい使徒戦までは日常回を続ける予定です。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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