【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
※読者様からのリクエスト反映回です
※ちょっと短いです
~NERV本部~
歓迎パーティーも終わり、アスカ・レイ・シンジの三人組は親交を更に更に深めた。シンジの手作り料理の威力は底知れない。その温かい、ほっこりするおいしさでアスカの心を解きほぐした。それにより、アスカはようやく本心で二人と付き合うようになった。それは決して仕組まれたことではなく、彼女からの自発的なことだ。元々の仕組まれた運命を変えたのは…言わずもがな冬月コウゾウだ。老人はパーティーではチビチビと冷酒を呑んで大人しくしていただけに過ぎないが、老獪な彼は悟られないように環境を作り上げのだ。
さて、前置きが長くなったが本編に入る。
今日は祝日となる日で学校は休みであるが、NERVに休みは無い。NERVに休みが無いのだからエヴァパイロットたちにも休みは無い。今日はただの訓練ではなく、シンクロテストを行う日となっている。エヴァの戦闘力はシンクロ率に大きく左右される。シンクロ率が高ければ高い程、パイロットとエヴァが一種の共鳴をして、エヴァとパイロットが一心同体になる。よって、戦闘力が高くなる。
そのシンクロ率を計測して向上させるために定期的にシンクロテストを行っていた。これからの使徒戦のためには必須のテストだが、レイを除くパイロット二人からは不評だった。
なぜなら。
「はぁ~なんでプラグスーツを脱がなきゃいけないのよ!」
「しょうがないよ…そうしなさいってリツコさんが言うんだから」
「…」
「こればかりは勘弁してくれ。テストのためなんだ」
パイロット待機室ではパイロット三人と老人一人が話していた。これからパイロット三人はシンクロテストに臨む。ただ、シンクロテストでパイロットはプラグスーツを着用しない。つまり、裸ということ。思春期にある二人にとっては非常に受け入れがたい。しかし、そうしなければテストが出来ないので我慢してもらうしかない。
レイは元々クローン人間であるので羞恥心が無い。だから、問題ない。また、シンジの(レイにとって)逞しい裸体をコッソリ見ることができるので、彼女にとってはお得だった。シンジは初号機と長いことを付き合って来たので、もう慣れている。しかし、アスカにとっては違う。自身の裸体が見られることは絶対にないが、それでもということがある。
「私も一応色々と赤木君にはお願いをしているのだが、彼女でもない袖は振れない。すまないね、私からできることは無くて」
今更で申し訳ないが、なぜパイロット待機室に冬月がいるのか。その答えは非常に簡単で、パイロット三人が望んだからだ。パイロット三人は毎日冬月と接していて、孫のように可愛がってもらっていた。冬月も身寄りのない人間なので三人は孫だ。毎日ヒアリングで学校の事を聞き、エヴァの事など何から何まで聞いている。どんな愚痴でも何でも。これはそれほど大したことではないが、とても大事。心と心を通わせることになるからだ。
「ほら冬月先生が困っているよ?アスカ」
「む…そ、そうね。まぁ、冬月先生が言うなら…しょうがないわね」
アスカもシンジ達と同じく冬月を慕っていた。第八の使徒との戦いの後から彼女は冬月を頼るようになった。加持リョウジという大人も近くにいたが、彼より冬月のほうが良い大人だった。年齢を重ねていて、落ち着いており、多方面で含蓄のある老人の方が魅力的だ。その老人は温厚で自分に寄り添ってくれたのもある。何時でも如何なる時でも寄り添ってくれる祖父が彼女にいた。一応、申し上げておくが、あくまで家族の祖父なだけで、また違う意味で隣にいてくれる少年がいる。
「ほら、頑張ってきなさい。シンクロテストが終われば、みんなで何処かに食べに行こう」
「あ…」
「「あ…」」
冬月は思い切ったことに、アスカの頭を撫でた。もうアスカはそんな年齢ではないから不適切と言えば、不適切。しかし、アスカは手を邪険に振り払ったり、手から頭を外したりすることは無かった。そのままの状態を暫くの間受け入れていた。その景色は二人も見ていた。特に一人は目を輝かせていた。
「当たり前でしょっ!あたしはエヴァのエースなの!馬鹿みたいに高いシンクロ率を叩きだしてやるわ!」
「うむ、その調子だ」
頭を撫でられ終えたアスカは強く言い放った。いつもの調子のアスカだ。これなら大丈夫だろう。普段の彼女である。彼女はちょっと歩いて更衣室に向かったが、途中で一旦止まった。
「その…ありがと。おじいちゃん」
聴き取り辛い小さくてボソッとした声だったが、しっかりと冬月の耳には届いていた。パイロットの声なら冬月の耳はデビルイヤー(地獄耳)になる。冬月もこれには驚いた。あのアスカが…と。内心では驚いたが、表面上では大きく頷いて冷静に返した。
「あの…アスカが。さすがだなぁ、冬月先生は」
シンジは冬月の手腕に感嘆した。
すると。
「碇君」
「何?綾波」
「頭…撫でて」
「え?」
「撫でて…撫でて(強引)」
あの光景を見ていたレイは、自分もやって欲しいとせがんできた。レイは純粋なので、シンジに撫でて欲しくて堪らなくなったようだ。戸惑うシンジのことをお構いなしに、シンジの右手を取って自分の頭に乗せようとする。これにはシンジでも困るしかない。どうにかしての打開策を見出すことが出来ず、この事態を招いた張本人にHELPした。
「シンジ君…男ならな」
冬月はシンジの逃げ道を綺麗に無くした。「まぁ、こうなった以上はやり切るのが男だ」と。伝えたいことを大分短縮しているが、ちゃんとシンジに伝わった。
「わ、わかったよ」
困りつつもシンジは覚悟してレイの頭をなでる。第八の使徒戦での両手の負傷は完治しているので、遠慮なく撫でることができる。サワサワとレイの頭を優しく撫でていく。レイはシンジに撫でてもらってご満悦の表情をしている。具体的には顔を赤らめて、シンジを上目で見つめている。
「碇君に頭を撫でてもらうと、心がポカポカする。これが…嬉しい」
「…(シンジも顔を赤らめる)」
「青春だな。老人の前でいちゃつくとは、老人の寿命を縮めかねんことだよ。やれやれだ」
二人は仲良く自滅して行動不能となっており、二分ほど動くことは無かった。そして、それを眺める老人という謎の構図。何とも言えない構図が続いたが、この後シンクロテストがあるので冬月が事態の収拾を図った。
「そこまででいいかね?」
「あ!えっと、はい!」
「はい(満足した)」
シンジは慌てて返答し、レイはホクホクした満足顔で澱みなく答えた。冬月は頷いて、アスカの時と同じように送り出した。
「頑張ってきなさい」
二人も更衣室に向かっていった。
「さて、私は頭を覚まさんとな」
あの光景に酔いそうだったので、頭を覚ますために缶コーヒーを買いに行く。買いに行った冬月の足取りは極めて軽快だったと記しておく。
続く
次話は第九の使徒戦かもしれないです。まだ考え中です。
それでは次のお話でお会いしましょう。