【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
~夜遅くの冬月家~
NERVから直で連絡が入る端末がけたたましく鳴った。リビングでお茶を飲んでいた冬月は何事かと端末を手に取って、連絡を受ける。
「何?そうか…うむ。わかった、詳細は明日聞こう。すまないが、総力を以て情報収集にあたってくれ。あぁ、どんな手段を取っても構わん。政府も国連の言うことも無視でよい。そうしてくれ」
一通りの報告を受けて、電話を切った。そこまで長い時間話すことは無かったが、冬月の顔は非常に険しいものだった。リビングにはシンジもおり、珍しく表情を険しくさせた冬月に聞いた。
「何かあったんですか?使徒ですか?」
「いや、違う。違うんだが、相当の緊急事態が発生した。レイ君を呼んできてくれ、二人にも話した方がいい」
「わかりました」
シンジはレイを呼びに行った。レイは部屋で一人いるはずだ。何をしているかはプライベートに関わるので不明だが、おそらく勉強でもしているだろう。そのプライベートを邪魔するのは気が引けるが、事態が事態なのでご勘弁願おう。
程なくして、レイも来た。
「今さっき、本部から緊急連絡が来た。シンジ君には言っておいたが使徒ではない。だから、二人が出撃することは無い。そして、その内容だが。二人はNERV第二支部のことは知っているかね?」
「えぇ。北アメリカのNERVですよね」
「そう。北アメリカのアメリカ合衆国にあるNERVの支部だ。その第二支部が消滅した」
「消滅?」
「消滅だ。衛星で確認したらしい」
「え…NERVの支部が丸々消えたんですか?」
二人は信じられないという感じだ。無理もない。世界で一番の力を持つNERVが消滅するなんてありえない。消滅は使徒の出現で襲撃される限りは無い。今回、使徒出現の報告は無かったし、態々使徒がアメリカに行くなんて考えられない。
しかし、事実としてNERV第二支部が消え去った。
「詳細な情報は現在本部が総力を以て収集に当たっている。なぜ消滅したかは不明だが、何となく見当はつく。まぁ、ともかくだ。二人は何があってもいいように構えていてくれ。本部は大丈夫だろうが、念のためな。さて、私も仕事が忙しくなる」
この日、三人は特に動くことはなかった。
翌日、NERV本部で色々と知ることになったが。
~翌日~
NERV本部の会議室には上層のメンバーが集められた。使徒戦の実質的な指揮を執る葛城ミサト、NERVの技術部長赤木リツコ、赤城リツコの助手の伊吹マヤ、何となく来た加持リョウジ、そしてNERVのブレイン冬月コウゾウだ。
「第二支部の消滅の原因は間違いなくエヴァ肆号機の暴走です。第二支部では直前まで肆号機で試験を行っていました」
「アメリカ合衆国の焦りが招いたことですよ。日本に対抗するために肆号機の試験を強行し、しくじったと」
「エヴァ肆号機では人工のS2機関を搭載していた。そのS2機関のテストをしていたのだろう。使徒の動力源で無限機関であるS2機関を無理やりコピーしてエヴァに乗せようとしたんだ。無茶なことだよ」
「まったくその通りです。我々も第五の使徒のコアを分析しようと試みましたが、一切分析することはできませんでした。S2機関をコピーするのは余りにも暴挙が過ぎます」
人工衛星からの映像やNERV第二支部の情報から見るに、消滅事故の原因はエヴァであると断定された。第二支部では前も述べたが使徒のS2機関のコピーを作成してエヴァに搭載する実験をしていた。一応、建前としては「エヴァの限界稼働時間の足かせを無くす」という目的だ。しかし、本音は「日本のNERV及びエヴァに対抗する」ために実験をしていた。使徒を殲滅してきた日本は国際的に大きな力を持っている。これにより、これまで大国だったアメリカ合衆国の力が衰えてしまっていた。幸いにもNERVの第二支部を有していたので、支部でエヴァの研究を行って日本に対抗する。特にエヴァの悲願である限界稼働時間の足かせを取り除くことが出来れば大きなメリットになり、自国の力を強めることができる。しかもバチカン条約に触れない範囲で出来る。
その願望が先走り過ぎての自爆だ。
ただ、2人だけは気づいていた。このNERV第二支部の消滅事故が仕組まれた事であることに。
「原因がS2機関の暴走であることは間違いないから、エヴァ初号機及び零号機、弐号機が同様の事を起こす可能性はありません。今まで通り、エヴァは運用することができます。ただ、石橋を叩いて渡っておいて損はありません」
「念のため、エヴァ各機を常に監視して、暴走が起こらないようにしたほうがいいでしょう」
「赤木君はエヴァの事故防止を徹底してくれ。事故防止のためと言えば、政府も黙らせることができる。あの事故を日本で起こしたくないだろうからな」
「承知しました」
エヴァに関して色々とすると必ず政府が文句を言ってくる。エヴァを直したり、改造したりすると必ずだ。弐号機の受け入れの時にも盛大な抗議をしてきた。現在政府の力は無いに等しいから、わぁわぁ言いたくなる気持ちは分からなくもない。使徒と戦うNERVは如何なる機関よりも大きな力を持っている。戦略自衛隊を擁する政府よりも圧倒的に上だ。そりゃそうだろう。NERVが使徒を倒すことで人類存続の希望をつないでいるのだから、必然的にNERVが力を持つ。誰がどう言ってもそうなる。そうなるのだが、やっぱり国としては面白くない。本当は国が一番の力を持っているのに、NERVと言う組織に力を持っていかれている。
「国の頭の固い人間は面倒ですね。副司令の心労を測れますよ」
「私の心労なんてものはパイロットたちに比べたら軽い。命はかかっていないからな」
冬月はその抗議や圧力を毎日のように突っぱね返している。名前はNERV総司令の碇ゲンドウであるが、実質的に動いてるのは冬月だ。抗議は時には丁重に扱い、時には無視したりしている。使徒を殲滅せねば人類の未来は無いことは誰でも理解できることなのに、政府や国の人間はお構いなしに煩い。それをピシャリとシャットアウトしている冬月の仕事は称賛されるべきだ。
されるべきだが、本人はパイロットたちに比べれば「何てことは無い」と言った。さすがはパイロットファーストの冬月コウゾウ副司令である。
「しかし、残ったエヴァ参号機はどうするのか?」
「確かに。参号機が残っています。あのエヴァにはS2機関は搭載されていないはずですが」
第二支部にはエヴァ参号機と肆号機がいた。後者で人工S2機関の各種試験をしており、前者はサブとして置いていた。今回の事故で肆号機は自爆したので、参号機が残された。これをどうするのか。
「だとしても、アメリカとしては自分が持っておくのは非常に怖い。二回も悲惨な事故を起こされてはな」
「となりますと、日本に譲渡して来る可能性が大きいかと」
「そうなる」
「面倒なエヴァを押し付けてくる。嫌な国よ」
参号機は腐ってもエヴァだ。エヴァなのだから使徒と戦える。ならば使徒が出現する日本に譲渡したほうが外面が良い。同時に厄介者を排除できる。まさに一石二鳥である。その代わりアメリカの力は衰える一方だが、自爆されるよりは遥かにマシだ。
「その時になれば分からないですが、渡してくるでしょうね」
「バチカン条約が本当に邪魔ね。既にこちらではエヴァ三機を運用しているのに」
仮に参号機が譲渡されるとバチカン条約に触れてしまうことになる。四機となるので、一機は凍結封印しなければならない。使徒と戦うことを考えれば三機でも、四機でも足りない。
「その辺は私の仕事だ。不利益の無いようにするから、各員は使徒出現に備えてくれ」
「「「はい!」」」
一人、加持リョウジはボソッと呟いた。
「シンジ君には苦しい日々が始まりますよ…副司令。あなたの出番です」
続く
次話が第九の使徒戦です。
それでは次のお話でお会いしましょう。