【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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第九の使徒戦に入ります。参号機の移送などに関してはカットします。これを入れてしまうと文章量が膨大になります。さらに場面展開を大量に挟みますので、実際に読まれる読者様にとっては非常に読みづらくなってしまいます。そのため、一気に第九の使徒戦に入ります。

※長いです


命の選択を

~NERV 本部~

 

「ダメです!仮設からの通信完全に途絶しています」

 

「やはり事故があったとみるしかないか」

 

本部は緊急事態ということで揺れていた。今日はアメリカから移送されたエヴァ参号機の起動実験を行っていたが、突如として仮設の実験所からの連絡が途絶えた。そして、途絶えたと同時にパターン青の反応が出た。これを見るに、地上で何かしらの事故が発生して、使徒が出現したと考えられる。

 

「使徒の反応接近!メインモニターに映ります!」

 

「エヴァ初号機の配置は?」

 

「使徒と対面するようにしてあります。砲台群の射線にも入らないようにもしてあります」

 

モニターには待機中の初号機が使徒を待っていた。本来、この日は休みで予定が入っていたが、突如として使徒が出現したので出撃している。

参号機の起動実験を行っていた仲間たちからの連絡が途絶したので、シンジは混乱していた。使徒の出現と同時の事態というのは異常過ぎる。

 

「出ます!」

 

超高性能カメラが使徒を捉えた。使徒の反応自体は本部で捉えていたが、実際の姿はまだ見ていなかった。モニターに映った、その使徒とは?

 

「あれは…エヴァ参号機」

 

「やはりな。どうも臭いと思っていたが、こうもピシャリと的中するとは。参号機は使徒に侵蝕されている」

 

「現時点を以てエヴァ参号機は登録を抹消。参号機は使徒と断定し、殲滅する」

 

モニターには起動実験をしていたはずのエヴァ参号機がいた。その参号機こそがパターン青を、使徒の反応を示していたのである。つまり、エヴァ参号機が使徒ということになる。まさか。そんなことがあるわけない。

普通に考えればそうであるのだが、参号機を拡大してみると粘液のような異質が参号機に取り付いている。人工的なモノじゃない。もちろん、エヴァ参号機のパーツじゃない。あれは使徒の一部で、参号機が使徒に侵されてしまった証拠である。

 

それを勘案してか、ゲンドウは参号機を捨てて、使徒と断定した。危機管理で言えば非常に良い判断だが、参号機には…彼女が乗っている。

 

<あれって…参号機ですよね?>

 

「違う。あれは使徒だ。我々の敵だ」

 

<で、でも。あれにはアスカが乗っているんだよ…父さん>

 

「関係ない。使徒を倒させなば人類に未来は無い。命令だ、使徒を殲滅しろ」

 

「非情なことだが、やむを得んか」

 

参号機(第九の使徒)と対面する初号機のシンジは現実を受け入れることが出来ていなかった。なぜなら、参号機にはアスカが乗っているのだ。アメリカから譲渡されたエヴァ参号機は実験を行うためにパイロットを乗せていた。アスカは弐号機のパイロットだが、現在弐号機は凍結されている。バチカン条約で各国のエヴァ所有数は三機までと制限されている。そのため、日本のNERVではエヴァが一機多い。そこで弐号機が凍結されてしまった。そこでアスカはスライドして参号機のテストパイロットになった。

 

参号機にはアスカが乗っている。シンジは使徒と戦うのに遠慮は無い。幾らでも戦って見せる。しかし、相手がエヴァで、更に家族にも等しいパイロットが乗っているというのは話が変わる。下手に戦えば、家族を殺しかねない。それがシンジの心を揺らせていたかは、言うまでもない。

 

「やれ、シンジ。あれは使徒だ。参号機は無い」

 

<そんな…あれにはアスカが乗っているんだ!無理だよ!>

 

碇ゲンドウと碇シンジの押し問答が続くかと思われたが、使徒はそんなこと知らない。参号機は構えると初号機に襲い掛かった。エヴァでは難しいような動きをして来る。その動きは使徒と言うしかない。

 

<ぐっ!>

 

「厳しいものだな、現実は。仕組まれたことが悲惨過ぎる。ただこうして見ているしかできないのは悔やんでも悔やみきれん」

 

静かにモニターを見つめる冬月は黄金仮面だった。一切表情を変えることなくいる。その立ち姿は傍から見れば冷徹な人間しか見えないが、それは全く違う。よく見ると、後ろで手を組んでいる彼の両手は壊れそうな程強く組まれている。そして、冬月は歯を食いしばっていた。冬月は、もう尊敬に値する自尊心で感情を押し殺している。押し殺しているが、漏れるものは漏れる。漏れた感情は体を蝕んでいた。

 

孫と孫が戦わねばならない。孫が孫を殺さなければならない。

 

この光景。

 

とても筆舌できない。

 

その光景は参号機は猛然と初号機に襲い掛かって、蹴り飛ばしていた。山に打ち付けられた初号機は参号機の猛撃を貰っている。参号機は「足りない!」と言わんばかりに、使徒の腕を生成して初号機の首を絞めている。

 

「やれ!シンジ!」

 

<い、嫌だ!だって、だって、あれには…アスカが乗っているんだ!>

 

その気持ちは分からなくもないが、シンジのダメージは蓄積されていっている。シンクロ率も低下しているし、汚染されたエヴァの攻撃を受けているので初号機にも汚染が移っている。これが長時間に及べば初号機も汚染されてしまう。それは避けなければならない。

 

「これ以上は危険です!エヴァだけでなく、パイロットの生命が!」

 

「初号機パイロットは使えん。初号機のダミーシステムを起動しろ」

 

「っ!無茶です!ダミーシステムはまだ未完成で、実機試験もしていません!一度も(実機で)起動したことが無いダミーシステムの使用はリスクが高すぎます!」

 

「構わん。使徒を殲滅するためだ、ダミーシステムを起動しろ」

 

「…ダミーシステム…起動します」

 

ダミーシステムは既に初号機に試験的に採用されていた。初号機は拡張性が高いのでダミーシステムの採用も割と簡単だった。幸か不幸か、初号機でダミーシステムを使用することが可能である。しかし、そのダミーシステムはまだ未完成。更に碌な試験もしていない。実験以上の実戦と言う場で使うには余りにもリスキー。しかし、この状況を打破するには使わざるを得ない。使徒に負けて人類が亡ぶよりかはマシと言う判断だ。本当なら初号機パイロットが積極的に戦ってくれればいいのだが、ダメだ。

 

ダミーシステムを起動するために信号を初号機に送った。

 

だが。

 

そうは簡単に問屋が卸さない。

 

「え?初号機…ダミーシステムを受け付けません!」

 

「何?」

 

「初号機、ダミーシステムを拒絶しています。同時にパイロットとのシンクロを優先。外部からの連絡を断絶されました!」

 

「な、なぜだ。なぜダミーシステムを受け付けない…」

 

初号機は送られたダミーシステム起動信号を受理はしたものの、それを実行することは無かった。ダミーシステムを拒絶して、パイロットとの繋がりを優先した。さらに外(本部)からの命令や連絡などを一切断絶した。エヴァはただのロボットではない。これを痛感させられた。

 

「シンクロ率、急速に上昇。うそ!シンクロ率70%を突破!止まりません!」

 

「なぜだ、なぜなんだ」

 

「碇、お前は私が上げた報告を読んでいなかったのか?」

 

「何?」

 

「私はダミーシステムの実戦運用は危険と報告した。またダミーシステムは未完成で、更に不安定要素が多すぎるためエヴァ初号機に適合しない可能性が大きいとな。その可能性を考えるに、仮にダミーシステムを起動しても、パイロットとのシンクロを最低限確保するように指示した。それらを報告書にしてお前に上げたが」

 

これは事実だ。冬月は開発されたダミーシステムの説明を受けて認可はしたが、潜んでいる危険性を鑑みて、注文を付けていた。まずダミーシステムは何度も言うが未完成である。そのため急な実戦使用には無茶。無茶なんだから、初号機サイドが拒絶する可能性があることを記した。また、ダミーシステム使用で何らかのトラブルが発生した時に備えて、最低限パイロットが機体を動かせるようにとシンクロは切らないようにさせた。それらの事を纏めて報告書にして、ゲンドウに上げていた。

 

前者は実際に初号機がダミーシステムを拒絶したので現実のものとなったのだ。

 

「それに、ユイ君が認めていないのだよ。ダミーシステムをな」

 

「…」

 

「各砲台は初号機救援のため自由射撃を許可する。可能な限り参号機に攻撃して初号機から引き離せ」

 

ゲンドウが完全に沈黙したので冬月が指揮を執る。ダミーシステムが使えないとなれば、いつも通りにやるしかない。まず初号機を守る為に参号機に攻撃を集中させる。砲台は敢えて静かにさせていたが、今は吠えさせる時。

 

「シンジ君、君の好きなようにやりなさい。助けるのなら助け、倒すのなら倒しなさい。参号機は使徒に侵されていることを見るに、パイロットも同様の状態にあると考えられる。おそらく、パイロットは汚染されていても、エヴァ自体とパイロットは接続していない。だから多少の攻撃をしてもアスカ君にはダメージはいかないはずだ。どんな方法でも構わない。とにかくプラグを抜けば、勝機はある。あの使徒はエヴァが無ければ碌に動けんからな」

 

<冬月先生…>

 

「覚悟を決めるんだ、シンジ君。動けるのは君だけだ」

 

<僕は…僕は…アスカを。アスカを助ける!>

 

「ならば行け、シンジ君。こちらで出来る限りのことはする。老人を甘く見ないでくれ」

 

<お願いします!>

 

シンクロ率が急上昇して、さらにパイロットが覚悟を決めたのでエヴァ初号機は逆襲に転じた。シンクロ率が上がれば上がるほど、戦闘力も上がる。さらにパイロットが覚悟を決めたとなれば、その相乗効果は測り知れない。

 

砲台の攻撃で参号機がひるんだ隙を逃さず、初号機は参号機を蹴り飛ばした。参号機にはアスカが乗っているが、彼女を助けるためだ。これぐらい我慢してもらう。吹っ飛ばされた参号機は体勢を立て直そうとするも、嵐のような砲撃によって上手く動けない。使徒とはいえ、エヴァを己の体にしているので超常的な行動が出来ない。エヴァに寄生したことの致命的な弱点が露呈した。その間に初号機はプログレッシブナイフを構える。幸いケーブルは繋がったままなので戦闘は可能だ。

 

冬月が言ったが、相手はエヴァと言う使徒。エヴァはプラグを引き抜かれては行動は出来ない。制御装置を失うのだから当たり前だ。そうなれば使徒は戦えない。主が行動不能になるのだから。そうなれば使徒は終わり。寄生生物はは寄生する主がいて生きることができる。主がやられれば、必然的に寄生生物も死んでしまう。

 

<はぁぁぁぁ!!>

 

「勝ったな」

 

使徒は四本の腕で器用に攻撃してくるが、歴戦の猛者であるシンジの前には通用しない。もう迷わない。やると決めたのだから、シンジは。腕は切れ味抜群のナイフで切り裂かれて地上に落ちる。中々の光景のため職員の中には下を向いてしまう者がいた。

 

「今だ!使徒の脚部に砲撃を集中しろ!」

 

初号機が参号機に飛びかかって肉薄した瞬間に、砲台の砲撃が使徒の足に集中された。相手はエヴァであるので砲撃は大したダメージが出ないが、その衝撃は通る。足に猛烈な砲撃を受け使徒はガクッと崩れた。崩れてエヴァの首にあたる箇所が初号機の目の前に露わになった。冬月はシンジの戦いのお膳立てをしたのである。

 

<アスカを返せぇぇぇぇ!>

 

ナイフを首の部分に無理やり突き刺して、強引に切り裂いていく。如何なる刃物より鋭利なプログレッシブナイフで装甲版は次々と剥がれていく。すると粘液に包まれたプラグが出てくる。普通に考えれば触りたくもないが、どうでもいい。今は助けるのだから。

 

<アスカぁぁぁ!!>

 

汚染なんて無視して初号機はプラグをつかんで強引に引き抜いた。

 

「やったか…初号機はそのまま戦線を離脱して回収地点まで急いでくれ。プラグは投げなさい。汚染が怖いからな。プラグ自体は頑丈に作られているから気にしないで良い」

 

<はい!>

 

参号機及び使徒は制御装置となるプラグとパイロットを失って機能と活動を停止した。これで動けない。しかし、念のためということがある。初号機が離脱して間髪を入れずに砲台による砲撃が再開された。使徒を逃がさないための処置だ。寄生型の使徒だから使徒本体は相当弱いから、この攻撃には耐えられないだろうて。

 

ともかく、大きすぎる犠牲を払うことになってしまったが、第九の使徒との戦いは幕を閉じたのであった。

 

~その後~

 

回収された初号機とプラグは直ぐに除染作業に入った。初号機の汚染は一部パーツで酷かったので廃棄した。そのほかの重要部では汚染は無かったので除染作業とパーツの付け替えで何とかなる。プラグの方は徹底的な除染を行ったうえで、式波・アスカ・ラングレー氏を回収して彼女はNERVの施設の奥深くに仕舞われた。詳細は伝えられていないが、また違った意味で入院しているのだろう。

 

初号機のパイロットである碇シンジは命令に従わなかったことで叱責を受けたが、お咎めなしだった。お咎めはないが、シンジへの汚染が心配されることや今まで出したことのないシンクロ率の異常さを勘案して強制入院させられていた。強制入院と言う名の「謹慎処分」だ。

 

参号機の起動実験の場にいたメンバーは重傷者こそいたものの、命に別状はなかった。葛城ミサトはシンジの病室を訪れて謝罪したらしい。自分の責任でアスカを苦しめ、シンジをも苦しめてしまったと。シンジは笑って許したらしいが、その心は決して晴れやかではなかった。

 

続く




一話さらに細かい後日談を挟んでから最強の拒絶襲来です。とんとん拍子で進めないといつまでたってもQに入れないので。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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