【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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メインストーリーです。本話は冬月の口から、真実が語られます。

今一度確認いたしますが、本小説の骨は新劇場版となっております。現在は破ですので、次章からQに入ります。Qをどうするかは今も考えています。ただ、大きな流れは変えないつもりです。

お気に入り登録者数が1500人を突破し、UAも8万を突破しました。読者の皆様に心から感謝申し上げます。


教育者として

~NERV本部内病院~

 

「あ、冬月先生」

 

「すまんね、来れなくて。前の使徒戦の後始末で忙しくてな」

 

「いえ、気にしていないです」

 

事実上の謹慎処分を受けているシンジは病室で暇をしていた。入院の名目は汚染の有無を確認することと過労のために休養することだ。汚染の有無は入院時の精密検査で異常無しが確認され、過労のための休養も既に目安の期間を満了している。しかし、退院を許可されていなかった。先も述べたが「謹慎処分」であるので暫くの間は大人しくしないといけない。その間エヴァは零号機と初号機を運用する。初号機のパイロットがいないが、改良がされているダミーシステムを使用する予定だ。先の使徒戦で未完成で碌な試験もしていないダミーシステムを使おうとしたから拒絶された。だから、完全な完成版を以てして初号機を運用することにしている。

参号機は登録を抹消されて使徒である。プラグを引き抜かれて無力化されたが、何があるか分からない。なので参号機は特殊装甲版の壁で囲んで、NN地雷で滅却処理をした。いくら使徒でも宿主が灰燼と化しては生きていけない。

 

「さて、君のことだ。聞きたいことがあるだろう?」

 

「はい…その、アスカは?」

 

シンジは初っ端からキツイことを聞いて来た。使徒に汚染された参号機にパイロットとして搭乗していたアスカの状態が気になる。参号機から強引にプラグを引き抜いたので体自体は無事だと思われるが、やはり汚染が深刻だった。

 

「まず肉体は五体満足でケガは一切ない。しかし、精神を含め全身が使徒に汚染されてしまっている。現在NERVの総力を挙げて除染作業と精神の定着作業を続けているが、時間がかかる。君にとっては心配で堪らないかもしれないが、これだけは断言する。彼女は無事だ」

 

「はい、わかりました。本当なら元気な状態で助けたかったですけど…僕が上手く戦えなかったから」

 

「君が気にすることではない。むしろ、あの状況でよくやった。仲間が使徒として対面する異常事態によく対応した。セカンドチルドレンのアスカ君を救出したんだ。それだけで大戦果だよ。君は胸を張っていい。今回の使徒戦に関しての責任は我々にある。まぁ、私としてはアメリカに押し付けたいがな」

 

先の使徒戦でシンジは上手く戦えなかったと自分を責めていたが、冬月は優しく諭した。初動は受けばかりで上手く動けなかったのは事実だが、今回の事態はNERVが招いたこと。パイロット一人に責任を押し付けるのはあまりにも酷が過ぎる。

今回の責任に関してはNERVと言うよりは参号機を押し付けてきたアメリカにある。アメリカがエヴァを安全に運用して事故を防いでいれば、こんなことは無かった。貴重なエヴァを一機失い、パイロットも入院を余儀なくされた。これは酷い、酷すぎる。NERVは直でアメリカ政府に猛烈な抗議を行った。元をたどればの話でアメリカに全責任があるのだから、極めて当然の処置だ。この使徒戦やエヴァの事故は正式には公表されてないが、水面下で公表されて世界のパワーバランスが大きく変わった。今回の事態を招いたアメリカは国際的な力を失墜し、日本のNERVは被害者の立ち位置のため力を更に増した。これによりNERVは世界各国を上回る権力を有することになった。確固たる力を。

 

「先生は優しいですね」

 

「なに、私は事実を伝えているだけだよ。優しいも何もない」

 

この後も度々シンジは自分を責めた。使徒戦後に叱責を受けたシンジだったから、割り切ったり、開き直ったりすることができなかったのだ。そんな彼を老人は優しく肯定する。その身に、心に寄り添う老人がいた。何もかも受け止めてくれる冬月。使徒戦中のことなどを聞いていると、シンジがふと思い出したかのように聞いて来た。それは冬月にとって予想してはいたが、とても答え辛い質問だった。

 

「そういえば冬月先生は父さんと母さんの先生でもあったんですよね?」

 

「あぁ、まぁ、そうだな。二人は私が京都大学で教鞭をとっていた時の教え子だった」

 

「じゃあ…母さんのことを知っていますよね?その、知りたいんです。母さんのことを。母さんは僕が小さい時に事故で死んでしまったので、記憶が無いんです」

 

「ついに来てしまったか…この時が」

 

冬月はいつにも増して真剣な表情で、鋭い目でシンジの目を見つめた。シンジはその目に、過去に何かあることを感じ取った。

 

「これから私が話すことは誰に対しても秘密でいてくれ。碇の奴にもな。いつかは君に真実を伝えねばならないと思っていたが、よもや君から来るとはな」

 

「わかりました。絶対に秘密にします」

 

「そうか…まずは君の母親を知るところからだな」

 

冬月は制服の内ポケットから一枚の写真を取り出した。小さな写真だが、シンジはその写真にくぎ付けになった。自分らしき赤ちゃんを抱く一人の女性に。その女性は一番身近な人にそっくりとかではなく。全くの同じだったからだ。

 

「君が生まれた時に、私に見せてくれたんだよ。君を」

 

「これって…母さん。母さんは綾波?」

 

「そう、正真正銘の君のお母さん。碇ユイ君だ」

 

「嘘だ…母さんが綾波?」

 

シンジは写真に写る自分の母親が綾波レイであることに混乱していた。無理もない。冬月は無理に話そうとしないでいた。二呼吸ぐらい置いてからは話し始めた。

 

「順を追って説明するから冷静に聞いてくれ。この人は君のお母さん、碇ユイ君。彼女は私の研究室の一人だった。大学で彼女は碇と私と共にエヴァにつながる研究をしていた」

 

「え、エヴァの?」

 

「そう。人類の存続を図るための研究をね。そこで考え出されたのがエヴァだった。エヴァを建造することで人類の存続のカギとしたのだよ。しかし、知っての通り。エヴァは簡単には作れなかった。一番の問題はエヴァの制御装置だった」

 

そういうとシンジはハッとした。何かに気づいてしまったらしい。

 

「そういえば、初号機に乗っているときが一番安心して落ちつく。まさか…母さんは」

 

「何度も初号機に乗っているから察しが良いな。そう、エヴァ初号機の制御装置として君の母さん。碇ユイ君は犠牲になった。正確にはエヴァ初号機のコアへのダイレクトエントリーシステムを考案して、自らがそのシステムになることを望んだのだ。そして、初号機のコアになった。結果的に肉体は完全に消失した。その様子は君も見ていたよ。覚えていないのも仕方ない。君の記憶が消去されているからな。その後に残ったのはユイ君のデータ。そして、気になっていることの答えだ。綾波レイは君のお母さんのクローンだ。そう残されたユイ君のデータを基にして作られたクローン。アヤナミシリーズだよ」

 

「か、母さんが初号機の中に…。そして、綾波は母さんのクローン…なんですか」

 

「君にとって、苦しい、受け入れられないことは百も承知だ。それでも、君には真実を知って欲しかった。老人の老婆心という奴だよ、どうか勘弁してくれ」

 

「いえ…いいんです。なんて言うか、先生だから受け入れられます」

 

「すまない。今まで隠していて。君にこんなことを頼むのは認められないが、言わせてくれ。君のお母さんは君を守る為に、犠牲になったんだ。初号機のコアとして君を守っている。君が望めば、ユイ君は何でもしてくれる。彼女には君を置いて行ってしまったことの罪の意識があるだろう。そして、レイ君だが。彼女は彼女なんだ。レイ君はレイ君、れっきとした君のレイ君だ。たとえクローンだろうと関係ない。彼女とどう付き合うかは君の自由だが、私としては今まで通りに接してほしい」

 

「なんで僕が先生の頼みごとを断るんですか。そんなことは絶対にしません。冬月先生、教えてくれてありがとうございます。母さんのことはわかりました。そして、綾波のこともわかりました。真実を知ったからと言って、絶対に僕は変わりません。綾波は綾波です。これは先生が言った通りそのままです」

 

「そうか、とにかく君の自由だから好きにしなさい。全ては君の願いを叶えるためにな。ユイ君が眠るエヴァ初号機は君の望みを叶えてくれる。使徒を倒して、君の願う世界のためにな」

 

「はい」

 

この後、シンジは気持ちの整理のために冬月とずっと話していた。表面上で理解したように見せているだけで、内心はまだ理解できていなかった。それは冬月もわかっていたので、トコトン付き合った。彼が落ち着くまで。

 

真実を知ったシンジ。真実を知っても、彼は変わることは無い。それは確かだろう。

 

しかし、現実は非情だった。

 

最強の拒絶が来る。

 

続く




次話は最強の拒絶襲来です。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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