【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
ニアサーに関しては皆さん様々なお考えがあると思いますが、何度も申し上げていますが、新劇場が骨のストーリーです。なのでニアサーは…です。
※長いので所々に誤字脱字があるかもしれません。お手数をおかけしますが、誤字報告していただけると助かります。
NERV本部は焦燥の中にあった。パターン青の反応を検知したのでいつも通りに迎撃を開始した。しかし、今回の使徒は今まで見て来た使徒とスケールが全く違った。圧倒的な攻撃力と防御力。使徒の進化が著し過ぎて笑いたくなる。
「第81、23,56,09砲台消滅!第A7防御陣地壊滅!」
「なんという火力だよ…一撃で砲台と装甲ビル群を吹き飛ばすなんて」
「使徒、依然として侵攻中!止められません!砲台の攻撃や装甲ビルの防御も意味をなさず、時間稼ぎもできません!」
「使用可能な砲台を全て使用して構わん。弾薬も全て撃ち尽くせ」
司令席に座る碇ゲンドウの隣で立つ冬月も若干の焦りを感じていた。この使徒は本当に危険だ。いや使徒は危険であることは周知の事実であるのだが、今回は本当に格が違う。圧倒的な力を持つ攻撃偏重の使徒だ。それでいて、防御力も群を抜いている。この使徒には、ぜひとも矛盾と言う文字を辞書で引いてもらいたい。そして、この使徒はバランスと言う概念を置いて行ってしまったようだ。
「第十の使徒。最強の拒絶か…よりにもよって、こんな時に来るなんてな」
「あぁ」
NERVで使用できるエヴァは二機しかいない。それは零号機と初号機だが、初号機はパイロットが入院中なので動かせない。ダミーシステムがあるが、必ず初号機がダミーシステムを受け付けてくれるとは言えない。超大ピンチである。だから、NERV自慢の無人砲台が絶えず火を噴いているが、猛攻虚しく消し炭にされていた。
「全砲台の内60%が壊滅!最終防御ライン抜けられます!」
「この日のために用意した準備は足りなかったか」
無人砲台や装甲ビルで幾重にも作った、NERV本部を守る防御ラインに大穴が開いてしまった。その穴を進んでくる使徒。もう、本部の至近にまで来た。至近と言っても、本部は地下深くにあるのでまだ大丈夫だ。それも本部の上は分厚い特殊装甲版が24層にも重ねられている。
そのはずなのだが、地下深くにあるNERVを大きな揺れが襲った。地震ではない。使徒の攻撃による衝撃が襲ったのだ。
「なっ!24層もある特殊装甲版が溶解!?」
「一撃で全部溶かし切ったというの…規格外ね」
「まずいな…こうもあっさりとやられるとはな」
「これだと、メインシャフトが丸見えに!」
使徒は本部まで通ずるメインシャフトから降りてくる。もう、こうなっては冬月自慢の無人砲台の攻撃は不可能だ。更に特殊装甲版も全て溶解して、こちらまで一直線で来れてしまう。
最後の覚悟、玉砕の覚悟でやるしかない。
「葛城ミサト三佐」
「はっ!」
「NERV本部全域及び総員に最終戦闘命令を発出。君たちには悪いが、最後まで付き合ってもらうよ」
「はい、元よりその覚悟です。非戦闘員は緊急避難を。規定の戦闘員は最後の覚悟を持って戦って!」
冬月は早々に手を打った。こうなったら本部での決戦しかない。本部の目の前で戦闘を行うので、戦う必要のない非戦闘員は全員を避難させる。ミサトをはじめとする幹部級の職員やその他の下部戦闘員は最後まで戦って貰う。とても非情な命令ではあるが、全員がすんなりと受け入れていた。皆同じ思いである。自分の命を厭わない。全ては人類の存続のために戦う。
「エヴァ初号機を緊急発進。ダミーシステムを使う」
「はい、エヴァ初号機の発進だ!ダミーシステムを使用、大至急だ!」
使徒の様子を伺うために無人砲台での攻撃を主としていたが、ここまでとは思っていなかった。緊急の大至急でエヴァを出させる。零号機はパイロットの綾波レイが搭乗するのを待っている。対して初号機はダミーシステムを使う関係である程度の時短が可能になる。プラグを挿入して放り出せばすぐにでも戦える。ちょっと違うが即効なのだ。
そして、ゲンドウ肝いりのダミーシステムの出番がようやく来たのだ。
しかし、エヴァに関して、このNERVで誰よりも早く動く者がいた。
「何?弐号機が!?誰も発進許可を出していないぞ!」
緊急の報告でケーブルでエヴァ弐号機が移送されていることが知らされた。弐号機はバチカン条約で凍結されていて使用は停止されている。さらにパイロットは入院中なので動かすことは出来ないはずだ。
「なるほどな…やはり君がか。やれやれ、早いことだな」
~エヴァ弐号機~
「ふ~間に合った~。凍結されていた弐号機のロックを誰か知らないけど、解除してくれて助かったにゃ~。ま、下手人は分かるけどね。冬月先生…あなたは本当に食えない人ですね」
弐号機のプラグ内で伸びをしながら独り言を呟く少女がいた。正式なエヴァのパイロット登録はされていない人物だ。
「先生だけに全部押し付けるのはいけませんからね。先生の老体に鞭を打たせるのはご法度。さって、いっちょ行きますかぁ!」
サブマシンガンを手にした弐号機は走り出した。使徒は空中に浮遊して弐号機を伺っている。両者ともに睨み合いをすることは無く、弐号機はサブマシンガンの一連射を見舞う。弾は劣化ウラン弾を使用していて、その貫徹力はお墨付き。しかし、それもでATフィールドの前には無力となる。
「やっぱし、これは効かないかぁ。っと!やばっ!」
使徒は高速で移動しつつ、守りの手段であるATフィールドを攻撃に転用してきた。具体的には、ATフィールドを押し付けることで無慈悲のプレス攻撃をしてきた。その威力たるや凄まじい。弐号機がいた地点には大きなクレーターが出来ている。あんなの貰ったら死しかない。
「最強の拒絶…第十の使徒ねぇ。ちょっち、こいつは頑張らないと!」
弐号機は無茶な回避で体勢を崩していたので、器用に体勢を立て直した。そして、迫りくる使徒に突撃を敢行した。マシンガンにはプログレッシブナイフと同じ素材で作られた銃剣がつけられている。ATフィールドで銃撃は阻まれる異常、エヴァでの肉弾戦でしか勝機は無い。
「ほっ、ほっと!当たらないよ!」
使徒だって懐に入り込まれるわけにはいかない。近づかれる前にATフィールドを使ったプレス攻撃で押しつぶそうとする。それを華麗に避けていく弐号機。この弐号機の奮戦の光景はNERV本部の士気の向上に強く貢献していた。指揮所の意気消沈に近い空気を消し去り、空気を盛り上げている。
しかし、「最強の拒絶」はその名の通りで全てを受け付けない。
拒絶する。
全てを。
「ATフィールドが固すぎるし、多すぎる。埒が明かないって!」
何とか近づいて銃剣を突き刺そうとするが、絶対防御のATフィールドが拒絶する。一枚だけならどうにかなるが、何十枚もある。一枚が恐ろしく硬いのに、これが何重にもある。
この使徒はそのATフィールドが攻撃に転用できるというのだから驚きだ。なんと万能なことか。
回避一辺倒で戦いようがない弐号機は次第に追い込まれて、瓦礫の山に飛ばされた。打ち付けられたがエヴァ自慢の装甲でダメージは少ない。フィールドバックのダメージはあるが。
「元のパイロットには悪いけど、弐号機には無茶をさせるよ」
スクッと立って、少女は大きな声で言った。
「モード反転。コード、ビースト!」
プラグ内は赤く染まって、モードが反転する。そしてパイロットにはとてつもない負担がかかる。気を緩めれば死につながりかねない苦しみ。筆舌できないほどの苦しみ。しかし、それだけ力があるということ。事実パイロットの目は獰猛に輝く。
「我慢してね…エヴァ弐号機。あたしも…我慢…するからっ!!」
弐号機の背部からパーツが出現して、機体自体が変化する。まさにビースト。エヴァの本当の姿が露わになる。その異様な光景を本部の人間は固唾を飲んで見ているしかない。
~本部指揮所~
「弐号機にあんな機能が…」
「極秘で開発されていると聞いた、エヴァ弐号機の裏システムね。あれがエヴァ弐号機の本当の姿よ」
誰も知らない姿を見せるエヴァ弐号機。それが人々の脳裏に焼き付いた。
「エヴァ初号機の発進は?」
「ダメです!ダミーシステムを受け付けません!再起動を繰り返していますが、全く受け付けません!」
ダミーシステムは前の使徒戦後に大改良を加えて完成度を高めていた。更に試験も数回していてデータはある。ダミーシステムの問題だった完成度の低さは気にしないでいいレベルに改善された。それだと言うのに初号機は絶対に受け付けようとしなかった。
「なぜなんだ…なぜ受け付けない」
ゲンドウはブツブツと呟いていたが、何かを思って、徐に立った。そして、冬月に言い慣れた言葉を放った。
「冬月…ここは頼む」
そう言ってゲンドウは消えていった。何回この場を冬月に任せれば気が済むのだろうか。老体を労わって欲しいものだと言いたいが、この状況では言う暇はない。
「ダミーシステムは要らんよ碇。パイロットは私が動かなくとも、彼から来てくれるだろう」
冬月はゲンドウを見送って、司令席の前に立つ。モニターには使徒に猛撃を与えんとする弐号機が映っていた。ビーストモードは伊達ではない。通常時には破れなかった使徒のATフィールドをいとも簡単に砕いて行っている。それも一枚とかではなく、十枚とかを一回でだ。
「無茶をすることだよ、まったく。援護のために零号機は出せないか?」
「出せます!しかし、兵装が」
「何でも構わん。レイ君の好きなようにさせてやれ」
零号機は発進準備を完了している。完了しているのだが使徒に通用する攻撃ができる兵器が見つからなかった。徒手空拳では物足りない。だから兵装を考えていたが、ここは大人たちが考えるよりかは、パイロットの柔軟な考えに頼ったほうがいいだろう。
「弐号機がっ!」
伊吹マヤの悲鳴に近い報告が指揮所に響いた。見れば先から猛撃をしていたはずの弐号機が使徒の腕らしきものに貫かれていた。防御を捨て、攻撃だけに特化した形態のビーストモードは諸刃の剣。防御力皆無のため貰った一撃が致命傷になる。
「まだ零号機は出せないのか!弐号機を見殺しにするな!」
「零号機出ます!」
救援のためにエレベーターで零号機が出てきた。零号機はみんな大好きNN巡航ミサイルを担いでいる。エヴァで運用できる最大火力の兵器はNN兵器しかない。全てを焼き尽くすNN兵器を担いでいるということは、そういうことだ。手持ちで特攻しようとしているのだから、パイロットの覚悟がよくわかる。
「パイロットに伝達だ。今更で申し訳ないが、エヴァの全ての制限を解除する。そして自由戦闘を許可する。好きなように戦いなさい。それと、万が一のことがある。自爆の用意を」
「はっ」
NERV本部の最後の手は自爆だ。死なばもろとも。
自由に動いていいとのお墨付きをもらった零号機は使徒に特攻を開始する。弐号機と挟み込みの形をとっていたので、使徒は対応が遅れた。NN巡航ミサイルが直撃する直前にATフィールドを展開して防いでいる。防御から攻撃するにしても、エヴァが担いでいるのはNN兵器なので下手に手を出せない。いくら使徒でも、NN兵器は痛いのだから当然だ。
「最低限の人員を除き、規定の戦闘員も避難したまえ。何もここにいる全員が死ぬ必要はない」
冬月は先の先を読んで更に人員を避難させる。オペレーターや指揮官、一部の希望者を除いた職員も避難する。万策が払底しつつある状況だ。となれば、無用な被害を出してしまうことは絶対に避けたい。だから、せめて避難させる。残ったのはオペレーター達と葛城ミサト三佐、赤木リツコ博士、冬月だった。
「弐号機!零号機と共同しています!」
「なんで…そこまでしても戦うの。もう、戦えないのに!」
弐号機は貫かれたことで片腕を喪失し、頭部も損傷している。全体から赤い液体が流れ出していて、フィールドバックによるパイロットへのダメージは測り知れない。そのショックで死んでいてもおかしくない。そんな状態なのに、自身の救援で来た零号機を逆に援護しようとしている。救援に来た意味がなくなってしまうが、パイロットにとってはそれでいいのだろう。こちらから自由戦闘を許可している。だから、我々は何も言えない。
「使徒のATフィールド、食い破られます!」
「あと少しで!」
使徒自慢のATフィールドもビーストモードで普通のエヴァでなくなった弐号機の前には紙に同じ。腕を失っても、頭部の一部を欠損しても、機体が生きているのなら全然戦える。ATフィールドにかみついて、それを食い破っている。同時に零号機もNNミサイルを最大推力で直撃させようとしている。
そして、時が来た。
「行けっ!」
「今だ!」
ついに最後のATフィールドが食い破られて、使徒に零号機が特攻した。その直後に大爆発がモニターを支配した。勝ちだと思われる。しかし、冬月は老練な目で捉えていた。使徒のコアが外郭で守られる瞬間を。
~ほぼ同時点 弐号機~
「え?」
全身に血が垂れていて、怠くてたまらない体を奮起させて使徒に攻撃をしていた。最後の最後のATフィールドを己の口を使って破った瞬間に、彼女の体は宙を舞っていた。共同戦線を敷いていた仲間の零号機が片腕で弐号機を後方に投げ飛ばしたのだ。随分と荒々しい行為だが、その最後に聞こえた通信が全てを伝えた。
<ありがとう、弐号機の人。私は…もういいの。でも、碇君だけは。だから、あなたは碇君をお願い>
そうして弐号機は放り出されて、さらにNNミサイルの炸裂に帯同する衝撃波で吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされたのと同時にビーストモードも解除された。機体がこれ以上の戦闘に持たないからだ。
飛ばされた先は運が良いのか悪いのかは分からないが、病院があるところだった。なぜ態々病院に投げ飛ばした?その答えは通信に隠されている。
「いったた。もう、乱暴なんだから。彼女は自分の身を犠牲にしてまで、彼の事を守りたかったのね」
飛ばされた先で何とか弐号機を動かす。もう戦えないが、動くだけならできる。弐号機が不時着した場所は本部と直結する建物だった。ふと下を見ると、崩れた建物の壁から外を覗いている一人の少年がいた。その少年は目をひん剥いて、目の前に広がる光景に圧倒されているようだった。
~シンジ視点~
「え…零号機が…綾波が」
病室は監獄だった。謹慎処分と同義の強制入院だからやむを得ないことなんだが、それが災いした。なぜなら、病室には窓がなく外の状況を把握することができなかったからだ。本部のある地下深くにいるから外の状況を知らなくてもいいのだから、特に問題は無かった。しかし、今は違う。病院内を警告音が鳴り響き、とんでもない揺れが部屋を襲っていた。
このことから、シンジはNERV本部を使徒が襲っていると想像することが極めて容易だった。自分も戦おうとしたのだが、ここから動くことができなかった。外からしか病室は操作が出来ないためだ。
しかし、ようやく動けるようになった。物理的に病室の壁が破壊されたためである。そして、彼の目の前には弐号機がだらんとしている。それを気にすることなく、シンジは目の前の光景に圧倒された。あれだけ立派だったNERV本部は破壊されている。辛うじてピラミッドが残っているぐらい。
しかし、それすらもどうでもよくする出来事があったのだった。
「嘘…使徒が」
大爆発の爆炎と煙が晴れるとそこには無傷の使徒と活動を停止した零号機がいた。至近でNN兵器の爆発を受けたのに使徒に効いていない。そんな冗談が通じる訳がない。でも、現実は非情だった。それだけに飽き足らず、使徒は零号機を捕食した。これまで一度も見られなかった使徒の行動。捕食して零号機の頭部だけを吐き出すと、使徒は綾波らしい体を形成した。
その光景が如何にシンジの心を深く傷つけたかは、言わなくてもご理解いただけると思う。
「あ、綾波…な、なんで」
「あ、っちゃー。あれをされたら参ったね」
弐号機の外部スピーカーから声が聞こえた。弐号機に乗っている人間だ。
「嘘だ…綾波が使徒に食べられた」
「嘘じゃなさそうだよ…少年。私は…その綾波ちゃんに頼まれていてさ。君のことを託されている」
「綾波が…そうか。綾波は僕が入院中だから無理をさせないために自分が犠牲になったんだ…ごめん。僕は綾波を迎えに行かないと。すいません!僕を本部まで!」
「うん…承ったよ」
辛うじて動ける弐号機は片手にシンジを乗せて動き始めた。病院から本部までは通路で直結しているが、その通路は使えない。かと言って、瓦礫の上を少年を走らせるのもダメだ。だからエヴァで運ぶ。随分と贅沢なタクシーだ。
「母さん…お願い。僕の願いのために」
~本部~
「パターンオレンジに変わります!」
「やられた!これだと自爆できない!」
使徒の反応は青からオレンジに切り替わった。つまり、エヴァの反応となる。これをされると本部の自爆が不可能になる。システムが使徒をエヴァと判断してしまうからだ。よって、最後の玉砕も封じられた。
もう、終わりなのか。
「総員避難!せめて生き残って!」
ミサトの鶴の一声でオペレーターたちも避難を開始した。越権行為だが、この場では知ったことではない。冬月も同じ命令をするだろう。オペレーターが避難を開始するのと同時に、使徒からの光線が本部を直撃した。モニターは破壊され、設備の殆どが使用不可になる。
「すまないが、ちょっと貸してもらえるかね」
いつの間にか降りてきた冬月が何とか生きているMAGIを操作した。MAGIはNERVの命なので、頑強に作られていたのが幸いした。
「これでよしと」
「え?自爆システムが復旧?」
「副司令…何を?」
「君たちに秘密にしていてすまなかったね。万が一の万が一に備えて、システムが使えないときに備えてな。私の方で予備のシステムとでもいうのかな、それを作らせてもらった。これは非常に簡易的で、私が端末で操作すれば直後に自爆がされる。自爆のためにはNN地雷を大量に埋め込ませておいた。NN地雷が爆発すれば、本来の自爆用の爆薬に誘爆するだろう」
冬月が持っている端末には独自の自爆システムが組まれている。冬月が最後を悟った時に、操作すれば本部直下にあるNN地雷が爆発する。その爆発があれば本来の自爆用の爆薬に誘爆する。つまり、結果的に玉砕が可能と言うことだ。
「後は、彼次第だが。備えあれば患いなしだからな」
「シンジ君ですか…」
~ケージ~
「なぜだ…なぜ私を受け付けない!ユイ!」
「父さん!」
ケージで悪戦苦闘する碇ゲンドウ。その前に少年がいた。
「シンジ!なぜここにいる。お前は入院しているはずでは」
「父さん…僕はエヴァンゲリオン初号機パイロットの碇シンジです!」
「っ!」
シンジがそう叫ぶと、先まで暴れていた初号機が急に大人しくなった。そして、プラグを開いた。「乗って」と言わんばかりの行動。ここまでされてはゲンドウも認めるしかなかった。
「そうか…行け、シンジ」
「はい!」
シンジは患者着のままでプラグに乗り込んだ。初号機は作業をしなくても勝手にプラグを受け入れて、勝手に起動した。まるで、シンジの事を待っていたかのように。
残されたゲンドウは出撃する初号機を見て、不敵に笑った。
「シナリオ通りだな」
~本部~
「来るなら来なさい。第十の使徒よ」
もう全員が覚悟していた。ここで散ることを。だから、設備を破壊して目の前に使徒が来ても一切動じることは無かった。表情も変えることは無い。その目の前の使徒は止めを刺さんと光線を撃とうとした。
その時
「初号機!」
「シンジ君!」
「間に合ったか」
壁をぶっ壊して初号機が躍り出て来た。そしてそのまま使徒を殴りつける。使徒も負けじと撃ち放とうとした光線を初号機に見舞う。しかし、体勢が崩れていたので左腕を切断するだけにとどまった。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
そのままパワーで押していき、一気にカタパルトまで押し出した。
「ミサトさん!」
「ロック強制解除!全部やって!」
本当はエヴァを地上に射出する装置に初号機は使徒を蹴りつける。そして、その装置を使って一気に上に上がる。まずは此処から使徒を引き離す。
「行ったか…ユイ君出番だぞ」
初号機は使徒を上に叩き出すと、そのまま馬乗りになって殴りつける。使徒も反撃しようにもガッチリ馬乗りホールドされているので上手く反撃できない。このままシンジ君と初号機の独壇場となるのかと思われたが、エヴァの運用面での致命的な弱点がこの場面で出た。
「電源がっ!」
「まずい!限界活動時間が来てしまった!」
「シンジ君っ!」
初号機は限界活動時間を迎えてしまった。
急に動きを止めた初号機に使徒は情け容赦なく腕を槍として初号機の腹部を貫いた。その一撃はまさに命を奪い去る攻撃だった。貫かれて投げ飛ばされた初号機。初号機に空いた穴からは赤い液体が噴射されている。指揮所から携帯端末を持ってきていた伊吹マヤが思わず悲鳴を上げた。そして、エヴァ初号機の分析を間髪入れず行う。
「初号機パイロットの生体反応が弱くなります!」
「ここ…までなの?」
全員がが希望から絶望に突き落とされたかに思われた。しかし、ただ一人。長いこと生きてきた人間は何時であっても希望はあることを知っていた。必ず希望はある。だから、老人は真っすぐな目で初号機を見ていた。一切、その目を逸らさないで。
「行きなさい、全ては君の望みのためにな。シンジ君」
「お願い、母さん。僕の望みを…綾波を助けるために手を貸して。綾波を…綾波をっ!返せっ!!」(初号機プラグ内)
初号機は再起動を果たした。まさか、あり得ない。限界活動時間を迎えて、エネルギー切れなのに動いている。暴走かと思われたが、違う。なぜなら目が違う。その目は赤く染まっていて、通常時のエヴァではない。
それに、初号機の頭上には光の輪が出来ている。
「プラグ深度180オーバー!危険です!」
「やめなさいシンジ君!人間に戻れなくなるわ!」
「世界がどうなってもいい…僕がどうなってもいい。だけど、だけど!綾波だけはっ!助けるっ!」
「行きなさいシンジ君!」
「ミサト!」
「誰かのためじゃない!あなた自身の願いのために!」
使徒に向かい歩みを進める初号機は異常でしかない。使徒は大復活を遂げた初号機を優先攻撃対象として振り向きざまに光線を放った。初号機は健在だった右腕でATフィールドを展開する。そのATフィールドは光線を受けきった。一切、初号機にダメージは入らない。使徒は光線が無意味だと察して、槍を飛ばして肉薄した。至近距離、いやゼロ距離で光線を撃ち放つ気だ。確かにゼロ距離なら威力は減衰しないので理にかなっている。
しかし、使徒を超えたのが初号機とシンジ君だった。
ゼロ距離からの一撃と言うのに、それですら無効化している。これがエヴァだと言うのか?誰か教えてほしい。
それを見ていた冬月に加持が話しかけた。
「初号機の覚醒ですか、冬月先生」
「あぁ。全ては仕組まれたことだが、ここからだよ。私の仕事はな」
「ゼーレが黙っていませんよ」
「私には関係ない。人類補完計画がいくら人類の存続に必要だと言っても、それ以外に策が無いわけではないだろうに。それに、私には私のシナリオがある。もっとも、それは彼にとって茨の道であることに変わりはないがな」
「そうですか。なら、俺は俺の仕事をしますよ。この後はゼーレの少年とあなたに任せます」
「うむ。加持リョウジ君。今までご苦労だった」
加持リョウジは幹部職員たちの方に向かっていった。
さて、見れば初号機は使徒の攻撃を全て受けきって、衝撃波で使徒を盛大に吹っ飛ばした。使徒の攻撃なんて比ではない。使徒を圧倒する。神に近いエヴァによる怒りの大反撃である。使徒は吹っ飛ばされたものの、すぐに追撃に備えて自慢のATフィールドを幾重にも展開するが、初号機は限りなく神に近い存在になっている。使徒風情が盾突くのは一億年早い。エヴァも負けじと光線を放って、使徒のコアを守る外殻を真っ二つにした。
「エヴァ初号機とパイロットは覚醒して、限りなく神に近い存在になったか。なんとも壮観な光景だ」
空は赤く染まり始めている。全てが始まる。この時から。
初号機は使徒の上に立ち、コアに手を添える。傍から見れば何をしているのか分からないが、パイロットと親しい者達にはわかる。使徒に吸収された綾波を取り返そうとしている。自分の愛する者を助ける。そのためだけにパイロットは自分の身を捨てようとしている。もう人間でなくなった碇シンジ君。彼は限りなく神に近い存在としての力を遺憾なく発揮していたのだ。初号機は浮き上がっていき、その頭上には赤いバウムクーヘンのような円が開かれた。ガフの門である。
「これも必要なくなったか」
冬月は手に持っていた端末を捨てた。それは万が一の自爆用の起爆装置だったが、それは要らなくなった。初号機が覚醒したのだから、もう要らない。冬月はシンジ君のことを誰よりも信頼している。覚醒と言う超常的な状態でも、絶対にその信頼がぶれることは無い。
「さて、これからは”二人”で働かないといけないか。彼は癖が多い人間…使徒だが、シンジ君とは良く付き合って欲しいものだ。そろそろ、彼が来てもおかしくない頃だ」
浮遊状態で手をかざしていた初号機は一気に手を引き上げた。すると使徒は赤い液体に還ったかと思えば、人間の形となった。それは誰がどう見ても綾波レイであった。そして初号機は綾波レイを抱きしめる。ガフの門へと向かっていく初号機。
この光景はある一人の女性にとって見覚えがあり過ぎた。
「これって…何が起きているんですか…」
「サードインパクト…その始まりね。エヴァ初号機が覚醒することで限りなく神に近い存在となった。そして今から始まる。サードインパクトがね。あの時と同じよ」
「セカンドインパクトの続きが始まる…南極で見たのと同じ光景。父さん」
葛城ミサトは幼少期に経験した南極でのセカンドインパクトの光景が脳内で再生されていた。赤い空に、赤いバウムクーヘンことガフの門が開かれる。コアを持った存在が浮かんで行く。あの時と全く同じ。全ての終わりが始まる。
「サードインパクトが起こる…人類が滅ぶべき時が来たということね」
天へと向かっていく初号機と綾波レイ。全ては彼と彼女の望みのために。二人の望みが引き起こすこと。それがサードインパクトである。
「シンジ君…」
そのまま儀式が行われるかと思われたが、一本の槍が初号機を貫いた。空から放たれた救いの槍?それとも裁きの槍?どちらだろうか?それは冬月でも断言できない。断言できないが、その光景はしっかりと見ていた。
「ようやく来たか。忙しくなるぞ、タブリスよ」
「えぇ。望むところですよ、冬月先生。そして、お待たせ碇シンジ君。今度こそ」
空から舞い降りる一機の青きエヴァ。
そして、そのエヴァを操る銀髪の美しき少年。
「君のことは幸せにしてみせるよ。全ては君の幸せのために」
続く
と言うことで破が終わりました。次話よりQに入ります。意味深なセリフからご理解いただけると思いますが、Qは割と変わります(予定)。
それでは次のお話でお会いしましょう。