【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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冬月コウゾウ先生ってエヴァの登場人物の中でも一番レベルに優秀な人だと思うんですよね。


初対面

「やれやれ、面会が許されたのというのに。面会をしようとするのが私だけとは。皆も薄情なんだな」

 

冬月はお見舞いの品を手に提げて病室へ向かっていた。碇シンジ君のお見舞いを兼ねた交流のためである。あの第四の使徒との戦闘は完全勝利に終わった。初号機の暴走により使徒は殲滅された。本格的なエヴァの実戦投入だったため、諸問題が噴出したが人類が初めて使徒に勝利した瞬間だった。喝采が叫ばれたのである。ただ、その立役者のパイロットは入院を余儀なくされた。無理もない。あの状況で出撃して生還するだけで奇跡に近い。

 

「ここか」

 

事前に看護師さんから教えられた病室に着くと、ノックをする。いくらこちらが上司でも、礼儀は必要である。

 

コンコン

 

「はい?どうぞ」

 

「失礼するよ」

 

「あ、あなたは」

 

ベッドに横たわっていたシンジ君は思わず体を起こそうとしていた。冬月はすかさず断った。

 

「あぁ、起きないでいい。下手に体を動かすと、疲れた体に障る」

 

見た目は健康そうだが、人間の体は見かけだけではな分からない。見た目が良くても、実は内臓面で病気を持っていたりと言うことが良くある。シンジ君は単にエヴァでの初戦で負傷し、疲労困憊であったため入院していた。お医者様の診断では特に問題はないとのことであるが、静養して悪いことは無い。その静養中に冬月は会いに来た。

 

「ここ失礼するよ」

 

手身近な椅子に座って、お見舞いのフルーツセットをベッド備え付きの椅子に置く。

 

「さて、出撃の時ぶりかな。碇シンジ君」

 

「えっと…冬月コウゾウ副司令?」

 

「そう。改めて自己紹介をさせてもらうよ。私は冬月コウゾウ。このNERVの副司令をしている。さしずめ、君の父の碇ゲンドウの右腕だ。君はエヴァンゲリオン初号機パイロットとなるから、私はシンジ君の上司と思ってくれ」

 

「はい。わかりました」

 

「これから長い付き合いになると思うから、よろしく頼むよ」

(やはり、碇ゲンドウの奴とは似ていない。むしろ、ユイ君に似ているな)

 

今のところ、やはり碇シンジ君は碇ゲンドウとは全然似ていない。見た目もこの礼儀良さも似ていない。ゲンドウの奴なら人付き合いを嫌って突っぱねそうだ。対してユイ君は人付き合いが上手く、いろんな人が彼女を好いていた。見た目はユイ君と似ている。性別は違うが、どこかユイ君の雰囲気がある。

 

「今は静養の身だ。ほら、果物だ。疲れた体には果物が一番だ」

 

「ありがとうございます」

 

持ってきた果物は果物の中でも栄養があり消化が良いものをピックしてある。具体的にはバナナ、リンゴ、モモである。それぞれ消化が良く、栄養もある。バナナはエネルギー充填を即効でできる。リンゴ、モモはビタミンなどがある。この世の中で果物は高級品だが、世界の中でも一番の力を持つNERVならいくらでも手に入れることができる。ある意味で職権乱用である。

 

「どうだね?エヴァに乗ってみて。気にせず、正直に言っていい」

 

「そうですね…最初は怖かったです。と言うか、今でも怖いです。初めて見るエヴァに乗って、使徒と戦うなんて。今回はよくわかりませんが、生きて帰ってこれました。また、戦うときには死ぬかもしれないと…思って」

 

「そうだな。君のような若い少年に人類の存亡を託し、死と隣り合わせの戦場に出すのは極めて非道だ。君の思うことは尤もなことだ。だが、現実としてだ。使徒と戦うためにはエヴァしかない。そのエヴァを動かせるのは君しかいないのだよ」

 

「わかっています。誰かに必要とされるのなら、僕は戦います」

 

(碇の奴…彼の欲求を逆手にとって操るとはな。悪い男だ)

 

「私としては、そうしてくれると本当にありがたい。今現在、エヴァを動かせるのは君しかいないからな」

 

「僕以外にもエヴァとパイロットっているんですか?」

 

(しまった。つい口を滑らしてしまったが、早めの内に伝えておいた方がいいか。後々で無用な混乱を招きたくはない)

 

「細かいことまでは私でも知れないことがあるが、動くエヴァはあと二体いる。他にも試験機などでエヴァがあるが、それらは実戦投入は無いから気にしないでよい。その二体の内の一つは君も知っている人物が扱う」

 

シンジは少し考えると、「ハッ」と思い出した。

 

「あの少女…ですか?」

 

「そう、彼女はエヴァンゲリオン零号機のパイロットだ。同時にこのNERVには君の初号機のほかに零号機がいる。君以外にもエヴァとパイロットはいるから少しは安心してくれ」

 

「彼女はなんていうんですか?あ、その。同じパイロットなら話してみたいなって」

 

(やはりユイ君のクローンの綾波レイに惹かれるか。いつかは話さねばならないが、今はそこまで干渉しないでおこう。少年少女の健全な交流を邪魔するのは野暮だな)

 

「彼女の名前は綾波レイ君だ。話すのは自由だが、気をつけたまえ。彼女は難しいぞ」

 

「あ、えっと!いや、そんな、その、やましいことは無いので!」

 

「フフッ。そうかもしれないな。若いとは良いことだ、老人になれば出来ることは限られて来るからな」

 

冬月コウゾウは見た目からわかる通り、結構高齢である。一応だが、まだ超高齢とではなく、高齢者の入り口にいる。この世の中で長生きできたのは幸運だったと言える。

 

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

 

「何かな?」

 

「冬月副司令にご家族はいらっしゃらないんですか?」

 

「あぁ、私は独り身だよ。家族はいない」

 

「そう…ですか」

 

「独り身だからこそ、私は君を自分の孫のようにして助けよう。これを」

 

胸ポケットから一枚の紙を取り出して、シンジに手渡す。そこには電話番号とメールアドレスが書かれていた。

 

「これって」

 

「私の連絡先だ。何かあれば、連絡してくれ。こんな老人でも、一応NERVのナンバーツーだからな。私にできることがあれば、何でもさせてもらうよ。それに、昔の話だが、私は大学で教鞭をとっていてね。勉強でも何でも教えられることは教えよう。老人のただのお節介だが、頼りたい時は頼ってくれ」

 

「はい、ありがとうございます。冬月副司令」

 

「ふむ、ちょっと堅苦しいな。そうだな、冬月先生とでも呼んでくれ」

 

逐一副司令と言われては、堅苦しくてたまらない。若干カジュアルだが、ちゃんと敬意を払っている呼び方で「先生」が適しているだろう。というか、そのように呼んでくれるとありがたい。先も述べたが、元は教育者だったからだ。

 

「あ、じゃあ。冬月先生。今日はありがとうございました。これから、色々と頼らせてもらいます。僕が頼れる人は少ないので」

 

「そうしてくれ、老人に出来ることはさせてもらうよ」

 

そう言って冬月は病室を後にした。副司令との役職であるかあら、暇と言うわけではない。仕事はたっぷりとあるので、長いこと病室に居座ることはできなかった。それに、また別の人がお見舞いに来るかもしれない。そんなことを考えて、長時間いることは無かった。

 

短時間の面会であったが、碇シンジ君は初めて面と面を向かい合って会った人物には好印象を抱いていた。自身の父で色々と複雑な想いのある人物の右腕だから警戒したが、それは必要なかった。極めて物腰柔らかな人物で、誰よりも優しかった。今現在で一番近しい葛城ミサトも優しいが、初出撃時のことを考えればちょっと…だった。だが、冬月は違ったのである。

 

「冬月先生か…いい人だったな。父さんとは大違いだ」

 

なんで、あれ程優しい人が父碇ゲンドウの隣にいるのかと疑問に思ってしまった、碇シンジ君であった。

 

続く




沢山のかたにお読みいただき、感謝申し上げます。ありがとうございます。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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