【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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やぁシンジ君。僕の全ては君のために

懐かしき土地。旧NERV本部に辿り着いたシンジは綾波(?)に案内されるがままに元エヴァ格納庫に立っていた。周りは暗く視界が悪いから困惑したが、どうしようもないので待っていた。

 

すると。

 

大きな音と共に照明が灯された。照明が照らす先には旧NERV総司令官で、自分の実の父親である碇ゲンドウが立っていた。服装や見た目は変わっていない。ただ良く光るメガネではなく、何かの装置を目の部分に付けていた。

 

そんなことはどうだっていい。久しぶりに父と会ったのだから。

 

「久し振りだな…シンジ」

 

「父さん…」

 

「時が来たら、その少年と共にエヴァに乗れ。それまでは待機だ」

 

そうゲンドウが言うと更に追加で証明が灯される。舞台とかであるような照明の照らし方で、銀髪のスレンダー少年が立っている。彼は自分と同じ制服を身に着けていて、どうやら自分と同じようだ。少年はジッとこっちを見つめているので、シンジはちょっとたじろいだ。

 

「エヴァって…」

 

「今、ここでエヴァンゲリオン第壱拾参号機を建造している。壱拾参号機に乗り、命令に従って動け。話は以上だ」

 

「待ってよ!父さん、話したいことがあるんだ!父さん!」

 

シンジの声が届くことは無かった。ゲンドウはそのまま奥の方へと行ってしまった。その代わりと言っては何だが、銀髪の少年が近づいて来た。ヴンダーでの出来事から他人を避けていたシンジだが、相手は少年で自分と似ているので受け入れた。ちなみにだが、綾波らしき少女もゲンドウと同じようにどこかに行ってしまった。

 

ここに二人残されたので、必然的に彼と話すしかない。暗闇の中で二人でお互い触れることなく過ごすのは無理だ。

 

「碇シンジ君だね」

 

「う、うん。えっと、君は?」

 

「僕は渚カヲル…君と同じく運命を仕組まれた少年だよ。このNERVで、僕は君と同じでエヴァのパイロットだよ。碇司令が言っていたけど、君と一緒に建造中のエヴァ第壱拾参号機に乗ることになっているんだ。まだ完成していないから、今はやることがないけどね」

 

「エヴァの…パイロット。エヴァってことは使徒が…いるの?」

 

「それは…難しい質問だね。君が疑問に思うのは…尤もなんだけど、その答えは簡単ではないね」

 

この質問は非常に答えるのが難解だ。答えるのも、その答え自体も難解なので簡単に言うことはできない。

 

「あ、いや!そんなすぐに知りたいわけじゃないから。知りたいことは沢山あるけど」

 

「そうだね。君はまだ目覚めたばっかりだから、この世界の事を知らなくて当然だよ。今、君は知りたいことが沢山あると思うけど、まずは休んだ方がいい。そろそろ、君と僕の先生が来るから」

 

出会ってしまった二人。二人とも運命を仕組まれた悲劇の少年たち。そこにいい意味で割り込んできた者がいた。普通に考えたら割り込まれるのは嫌なものだが、この人物だけは例外だ。

 

「やれやれ。碇の奴と言ったら、いつも説明が足りん。すまないね、碇は全く変わっていなくて」

 

「あ、冬月先生。いえ、気にしないで下さい。父さんに期待はしていなかったので」

 

「そうか。それより、二人は初対面だな。その感じだと…少しは話しているか。私は邪魔だったかな」

 

「そんなことないですよ。先生が邪魔な時なんてないです」

 

「そうですよ、冬月先生」

 

冬月は二人から肯定されてちょっと笑った。いつもの柔らかい雰囲気で二人に話しかける。

 

「ここにいるのもあれだ、私の部屋に来なさい。ここより休むぐらいならできるだろう」

 

「えぇ。そうしましょう」

 

「はい」

 

所々と言うか、元NERVの施設がボロボロになっているが冬月のような幹部級の人間の部屋なら綺麗だろう。昔から物をそこまで持たない冬月なら尚更だ。本当にびっくりするほどのクリーンさだ。

 

そんな冬月の懐かしき執務室に三人は来た。シンジは最低限のNERVの設備が生きていることに安堵した。外側はボロボロのボロでここがNERV本部なのかと疑って仕方なかった。いや、もちろん、ここはちゃんとNERV本部だが、

 

「君を急に連れだして申し訳なかった、シンジ君。目覚めて間もなく、右も左も分からないと言うのに。それに葛城君達とも再会できたのに」

 

「いいですよ、先生。言ったじゃないですか、僕は先生じゃなければ信じられないって」

 

「その様子だと、向こうで何かあったのかな?」

 

カヲルが優しくシンジに聞く。声色が非常に優しくて、もしこの場に女性がいれば速攻で死んでいる。しかし、相手は(使徒では)歴戦の猛者である碇シンジ氏。簡単にはやられないぞ。

 

「うん、えっと」

 

「ここには私たち三人しかいない。盗聴器とかも無いから安心しなさい。何でも、どんなことでも話せばいい。話して楽にな」

 

「大丈夫。僕は君のために生きるから」

 

「はい。実は…」

 

シンジはヴンダーの艦内での出来事を全部赤裸々に話した。乗組員と思われる大人たちから憎悪の目で睨まれたこと、誰も話を聞いてくれなかったこと、久し振りに会ったミサトやリツコに冷たくあしらわれたこと、助けたはずのアスカに殴られたこと、監視の女性がヤンヤンしていたこと等々を。シンジは息継ぎをするぐらいで、間を入れることなく、マシンガンのように話した。その連射を二人は時折頷きながら、真摯に聞いた。

 

「そうか、そんなことがあったのか。さすがに度が過ぎるな」

 

「それはシンジ君は悪くない。君がそう思って当然だよ」

 

「です…よね。もう、こんなことされたら僕は誰も信じられなくなります。冬月先生が助けに来てくれなかったら、多分僕は死んでいました。そう言えば、先生が仰っていましたが、こっちはNERVでも、向こうは何ですか?ヴィレって?」

 

「ふむ。葛城君達からは聞いていないのか」

 

「はい。説明は本当に最低限…いえ、最低限を下回るぐらいでしたから」

 

「ひどいなぁ、シンジ君に説明しないなんて。それなら、僕も行けばよかった。行って説教をしてやりたいよ」

 

軟禁されていた頃は面会で説明がなされたが、それはシンジの身に関することぐらいで、この世界やミサトとリツコたちの事は一切語られなかった。もちろんだが、アスカの事も。全くもって、不親切が過ぎる。

 

「衝撃的なことを言うが、かつての我々の仲間。葛城ミサト、赤木リツコなどその他の元NERVの職員は離反して、敵対している。彼らは自分たちをヴィレと称して、我々(NERV)と戦争をしている。もう10年近くもな」

 

「ミサトさんたちが、先生と敵対…なんで…」

 

「まぁ、色々な理由があるが。大きいのは碇の存在だな」

 

「父さん?」

 

「そう、君のお父様の碇ゲンドウ司令。冬月先生、このことはシンジ君に?」

 

「いや、まだ話すのには時期尚早だ。彼はたださえ混乱している状態なんだ。その状態に重い事を放り込むのは、まさに自殺行為だ。シンジ君は心が疲れているのだ。今はその彼の心をほぐす」

 

シンジは見た目は元気そうなんだが、向こうでの出来事で強いショックを受けていた。幸い、冬月が助けに来たので完全に心を閉ざすことは無かった。しかし、それでも彼の心労を考えればだ。皆さんは疲弊しきった肉体に過激な運動はさせないだろう?心も同じだ。疲れた心に馬鹿みたいに重い重石は乗せてはいけない。

 

「すいません、気を遣わせてしまって」

 

「君が気にすることではないよ。悪いのは向こうなんだから」

 

「そうさ、シンジ君。君がこうして戻ってきてくれて、私は嬉しい。ここは廃墟と変わらずで、昔のような喧騒は無い。一日中が静かだ。時が来るまでゆっくりしなさい」

 

前までは本部から空を見ることはできなかったが、今は空がよ~く見える。天井は全部吹き飛んでいて、一切直されていなかった。だから、ここは光がよく差し込む青空NERVとなる。

 

冬月とカヲルの方からも説明は無かったが、ちゃんと話さない理由を話して、理由はシンジの心を考えての事なのでシンジはスッと納得した。またシンジの冬月への信頼度は富士の山を越えるのもある。そんな信頼している冬月にシンジはお願いをした。

 

「先生、せめて、一つだけ今日の内に知りたいことがあります」

 

「何かね?」

 

「あの…零号機(?)のパイロットは綾波…ではないですよね」

 

シンジはちょっと言葉を詰まらせながら言った。冬月はそれに顔を曇らせる。

 

「…気づくのが早いな。やはり、君の目は狂わせないか。そう、彼女は君のよく知る綾波レイではない。では、彼女が何かは分かるね?」

 

「はい。クローンの別…ですよね」

 

「そうだ。彼女はクローン人間のアヤナミレイ。レイ君とは全くの別人と考えてもらって構わない。私も全力を尽くしたのだが、レイ君は…」

 

「言わないでください、先生。いいんです。また助ければいいんです。綾波は生きています。初号機の中で。綾波は必ず助けますから」

 

「すまない。この老人にできることが無くて」

 

冬月は頭を下げた。彼は昔からそうだ。自分が偉いからと言って絶対に偉ぶらない。謝るべき時は素直に謝る。そのため、シンジから非常に良く思われていた。

それはシンジの隣で彼を見守るカヲルをも感服させていた。腐ってもNERVの副司令なのだ、その人物があっさりと謝る。それがどれだけすごい事かはご理解いただけると思う。

 

「先生は本当に変わりませんね」

 

「フッ…君もな」

 

「いいですね。良き教師と良き生徒というのは。これもリリンの文化か」

 

ちょっと違う気がする。

 

続く




初めて会って少年、渚カヲル。彼は自分と同じと言う。

昔のように、自らに優しく寄り添ってくれる冬月コウゾウ。優しき老人にシンジは心を癒す。新しき仲間も増え、安らぎを感じ始める。

そんなNERVで、冬月は裏で恐ろしい暗躍を続けていた。その暗躍の目的とは?人類補完計画との関連は?

次回、新世紀エヴァンゲリオン 「NERVのブレイン」




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