【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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Qの終わりの方をどうするかガチで考えてます。新劇場版の中で一番難解なのがQなので、ストーリーをどうするか悩んでます。


NERVのブレイン

皆さんはNERVのブレインを知っているだろうか?そのまんま分かり易く言えば、NERVの脳である。世界最高の力を有して、人類の敵で難敵の使徒を相手する組織の脳たる人物がそう呼ばれている。それは誰だろうか?

 

碇ゲンドウ?葛城ミサト?赤木リツコ?伊吹マヤ?

 

違う。全く違う。

 

並べたメンバー達は確かに優秀な人達であるが、その彼らを圧倒する者が一人いるだろうに。忘れていないか?

 

そう。

 

「エヴァMK-4の生産体制は維持可能。話題のエヴァMK-4の損耗は激しいが、所詮は量産機で使徒のなりそこないか。今は需要と供給が釣り合っているから、手を出すことは無いな」

 

執務室で一人、デジタルのデータと睨めっこをする老人がいる。その者は見た目からわかる通り、とても年齢を重ねている。その年齢は74と高齢者に足を入れている。しかし、ただの高齢者じゃない。かつては京都大学で教鞭をとってきており、その頭脳は恐ろしくキレる。それでいて、人格者で訳ありのシンジから非常に厚い信頼を置かれていて、真の彼の家族となっていた。

 

「第壱拾参号機の建造も順調か。碇が面倒な注文を付けた時はどうなるかと思ったが、心の無いエヴァなら問題は無かったというのか。このエヴァに二人を乗せるのは気が引けるが、運命と言うのだろうな。残酷な二文字だよ」

 

エヴァ第壱拾参号機は未だに建造中である。時間がかかるのは仕方ない。NERVはもう人口密度は限りなく0に近い。この理由はとても簡単だ。人がいないから。いるのは碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、碇シンジ、渚カヲル、アヤナミレイ(初期型)である。その他にもアヤナミレイがいるが、大っぴらに活動はしていないので含まない。たとえ含んでも、人数は微増するだけなので結局は焼け石に水である。

何が言いたいかと言うと、前のように職員がいなくなったので全部機械任せなのである。機械は人間に比べて休みが必要なく、ヒューマンエラーを起こすことが無い。なるほど、労働面で見れば最高だ。しかし、機械も機械もで複雑な作業には時間をかけざるを得ない。エヴァのパーツぐらいならともかく、完全にゼロから新しいエヴァを一機を作るとなれば話は全然違う。まぁ、最初期のエヴァ建造に比べればかなり効率化されているが。

 

「エヴァ第壱拾参号機によって碇の悲願たる人類補完計画の実施をする。死海文書に隠されていた人類の存続の希望が消えたな。しかし、ゼーレの言う人類の存続の希望。何が希望だと思わざるを得んな。既に人類を含めてほとんどの種が死に追いやられたというのに。人類の強制的な進化。そのために途方もない数の人が種が死んだ。余りにも犠牲が多すぎる。そして、そのゼーレの人類補完計画を己の私欲のために踏み台とし、世界を滅ぼし、己望む世界を作り上げようとする」

 

一息で言い切ったので冬月は水を含んだ。この世界で水は貴重だが、NERVなら水の合成は幾らでもできる。

 

「フォースを経て、最後のインパクトか。鍵がそろっていくのを止めることは出来ん。しかし、その鍵を使う者を変えればいい。私が出来ることは鍵を用意し、使用者へと道を作るだけだ」

 

冬月は碇ゲンドウと最も近しいので、彼が何をしようとしているのかを知っている。ゼーレをも踏み台として自身の私欲を果たさんとする姿は、ここまで来ると、もはや清々しい。しかし、それを知っているからこそ、阻止して違う方へと転換せんとする者がいるのだ。

 

「死海文書は既に知れ渡った。全てを知っただろう、彼女たちは。私は恨まれているだろうな。ある男を死なせてしまったことで。彼女たちに、私を許してくれと言うつもりはない。私は汚れ役ならいくらでも引き受けるからな」

 

「だからこそ、貴方は彼の傍にいないといけない。彼が汚れるのを、貴方が被りませんと」

 

「来ているのならノックぐらいしなさい。老人は聞かれたくないことも呟いてしまう生き物だ」

 

冬月の執務室にはいつの間にか渚カヲルがいた。神出鬼没の四字が一番似合う人物で、冬月でも出現時刻と場所を読むことは出来ない。

 

「昔から全てを知っているあなただから出来ることは沢山あります。それは、とても人には言えないことがある、でも、貴方はそれを一切嫌がらず、むしろ進んで引き受けた。そんな姿を見て、リョウちゃんは貴方に託していったんです」

 

「加持君か…彼もまた私と一緒だということか」

 

「えぇ。ついでに言えば僕もですが」

 

「そうだな。しかし、君には悪いが、君は生きてもらうしかない。必要な鍵を折ってしまいたくはない」

 

この言い方はこの先を知っていると言わんばかりだ。いや、事実として"彼ら"は先を知っている。先を知っているから動ける。まさか何も知らずで動けるわけがないだろう。

 

「難しい注文をしますね、先生は」

 

「君なら簡単にこなせるだろうに。第一の使徒タブリスなら」

 

「その名前を呼ぶのは先生だけですよ。碇司令は第五の少年(フィフスチルドレン)と呼ぶのに」

 

「我々教員と言うのは本名で呼ぶ生き物なのだよ」

 

「そうですか」

 

含みがある発言が多すぎて「なんのこっちゃ?」と思われるかもしれないが、ご勘弁願いたい。文脈から察していただきたい。

外を見てカヲルは冬月に語り掛けた。

 

「二度の神聖な浄化がなされた結果がこれ。先生はどう思いますか」

 

「緑が失われて赤一色、赤き世界をインフィニティが歩き回る地獄絵図とでも言うのが適当かな。もう慣れてしまったが、どうも受け入れられん。ゼーレの人類補完計画でセカンドインパクトによる海の浄化、サードインパクトによる陸の浄化。何が浄化だと言いたい」

 

「使徒である僕から見ても、この景色は異常としか言えません。前のようにリリンがリリンたる、文化的な世界が好きです。リリンの文化は面白いですから」

 

「君と接していると色々と発見が多い。視点が違うからな。いい刺激となってボケ防止には丁度いい。まさかタブリスとリリンが心を通わせるとは、思わなかったよ」

 

前にカヲルがシンジから「使徒がいるのか?」と聞かれた時に困ったのはこれが理由である。客観的に事実だけ言うのであれば、使徒は残っている。現にこの彼が第一の使徒タブリスだからだ。しかし、主観的な要素を入れ込むと答えは濁りに濁る。なぜならタブリスこと渚カヲルは人間、リリンと同じ立ち位置にいるからだ。人間を滅ぼそうとせず、こうして人間と協調している。さらにリリンに理解を示している。ここまでリリン側の使徒はいない。こう見ると、彼は使徒なのか?そう思えないだろうか。

 

「ボケ防止なんて、冗談は似合いませんよ。一見すれば着実にヴィレをじわじわと追い詰めていますが、実際では必ず隙を見せている。それを見逃さないヴィレもヴィレですが、先生も先生です。ここまで盛大な茶番をすることができる役者はいません」

 

「私は脇役に過ぎん。この舞台に立つ主役たるはシンジ君だ。だから、私はあくまでお膳立てをするだけに過ぎん。この先をどうするかは、この舞台を悲劇とするか、喜劇にするかは彼が決める。どちらに転ぼうとも私が言うことは無い。それが彼が選んだことならば…な」

 

「それがあなたにとって受け入れがたいことでもですか?」

 

「私が受け入れる、受け入れないは関係ない。既に仕組まれているのだ。全ては彼の手にある」

 

「仰る通りです」

 

そう、勘違いする方がいらっしゃるかもしれないが、鍵を使うのは冬月でも渚カヲルでもない。それは…あの少年だ。その鍵を使って何をしようと、誰も文句を言うことは許されない。

 

「神殺し」は神聖不可侵であるからだ。

 

「さて、私は仕事があるのだが、君は手伝ってくれるのかね?」

 

「手伝うも何も、僕が手を出さなくても一瞬で終わらせるじゃないですか。積み上げられたこれら(デジタルデータ)の処理なんて、お手の物の先生が。なんせ、NHG建造をいとも簡単にした。それも、全てに隠し味を入れた」

 

「NHGか。四隻は彼の使う鍵の一つとなる。碇のシナリオにないスパイスを入れるのは極めて当然だろう?」

 

「本当に恐ろしい人です。冬月コウゾウ先生は」

 

NHGに碇ゲンドウのシナリオにないスパイスを入れた冬月コウゾウ。

 

そのピリッとした辛みは、何を生むだろうか?

 

続く




一応申し上げておきますと、Qで本小説は終わらないです。シン・エヴァまで行きます。

次回予告

意味ありげに会話をする冬月コウゾウとタブリス。二人が目指す先とは、一体何なのだろうか?

毎日変わらずの日々に退屈したシンジは、カヲルに誘われてピアノの前に座る。二人が奏でるハーモニー。それを楽しむ一人の老人。

二人なら何でもできる。そう、二人なら。

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「いいねぇ…二人って」


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