【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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この度UAが10万を突破(本話含めず)いたしました。ありがとうございます。完結に向けて冬月先生が頑張るのでこれからもお付き合いいただけると幸いです。



いいねぇ…二人って

元NERV本部の指揮所があったところは廃墟と化している。周囲を囲む壁だったものは赤くコア化している。その囲まれた部分には所々に草が生えている。名も知らぬ草田。それでも自然の強さを教えてくれる。どんなに過酷な環境でも植物は強く生きる。こんな世界でも力強く生きる姿は人を励ますであろう。

 

その中に一台のピアノがある。ヤマハかスタンウェイだろうか?中々お値段も質も良さげなピアノだ。そのピアノの前に座っている少年が一人いた。

 

「ピアノ…その、僕は弾けないんだけど」

 

「誰も最初から弾けるわけがないから、考えなくていいよ。音を出すだけに集中すればいいんだ」

 

ピアノにはシンジが座っていて、その横にカヲルが立っている。共に座ればいいだろうが、カヲルはシンジの指導役に回ったので立っている。シンジはチェロを弾くことは出来ても、ピアノを弾くことは出来ない。出来ないと言うより、弾いたことが無い。だから彼は初めてピアノに向き合おうとしていた。

 

「ほら、弾いてごらん」

 

「え…」

 

促されてシンジは適当に目についた鍵盤を押してみる。すると音が流れる。現実世界で♪が飛んでいきそうだ。なんとなくで押してみた鍵盤。シンジは振り返ってカヲルを見る。

 

「ほら弾けた。そんなに難しく考えなくていいんだ。音楽は自由だからね」

 

「う、うん」

 

音楽と言うとお堅いイメージが浮かぶかもしれない。確かに音楽はクラシックに代表されてお堅いかもしれない。しかし、それは間違っていると思う。音楽は人の心を表し、人を癒し、人を動かす。それは、音楽は誰にでも保障される自由なのだ。

 

「じゃあ、ステップアップして、こう弾いてみて」

 

カヲルがシンジの至近距離、肌と肌が触れそうに近づいてお手本を見せる。さすがはカヲル君だ。見事な弾きっぷり。指の動きは本当に滑らかで、これは見惚れる。御見それいたしました。

 

「え、え」

 

「大丈夫。すぐに弾けなくてもいいんだ。最初から弾ける人は本当の天才だけだから」

 

シンジはぎこちない動きであるが、ちゃんと弾いて見せた。使ったのは両手の人差し指二本ではあるが、途中で突っ掛かったりしなかった。上手い人から見れば「なんだこれは」と思うだろうが、これでいい。逆にそのように思ったのなら、それはそれで音楽を志す者としてダメだ。

 

「うん、弾けるじゃないか。君はすごいね」

 

「そんなことないよ…ただ、運がいいだけで」

 

「必要以上に自分を卑下しないほうがいい。君は自分を認めることが必要だ。さて、今度は僕が弾いてみるから合わせてみて」

 

カヲルはシンジの隣に座って、軽く指のストレッチをすると本格的に弾き始める。とても言葉に出来ないような弾きっぷりで、シンジはそれに圧倒されてしまう。しかし、シンジだって負けていない。適当なタイミングを見計らって先に教わった音楽を奏でる。

 

「いいよシンジ君。その調子で」

 

「うん」

 

シンジだってチェロを弾くことができる。音楽のセンスが無いことはない。むしろ、才能が大ありだ。一寸狂うことなくシンジの音楽を差し込む。差し込むと言うと語弊がありそうだが、きちんと自分の役を果たしていると思っていただきたい。カヲルの奏でる音楽とシンジの奏でる音楽が合わさって、一つの壮大な音楽となる。たかがピアノ?いや、されどピアノである。

 

そのハーモニーは音、♪が飛んでいく様をなんとなく可視化を出来てしまうほど美しい。もしも、セカンドやサードインパクトが起きておらず、小鳥が生きていたら。間違いなく二人のピアノの周りには小鳥が集まっている。当たり前だが、餌待ちではない。二人の音楽を楽しむために。

 

「すごいじゃないか、初めてでここまで弾けるなんて」

 

カヲルはピアノを弾きなれているので弾きながら話しかけることができる。鍵盤を見ずにシンジの顔を見る余裕がタップリある。対してシンジは合わせることは出来ていても、それは必死に頑張っているためだ。その顔はとても真剣で鍵盤を見ている。話す余裕はない。

 

「いいねぇ…二人って。二人だから出来る…二人だから奏でることができる音楽がある。僕とシンジ君だから出来る音楽だよ」

 

シンジは軽く頷いたりするなどして答える。言葉を発しようとすると、そちらに意識が行ってしまいピアノに集中できない。カヲル君はそれを良く理解しているので、返答を必要とする話はしない。それは一方的にカヲルが話しかけるだけだが、心では相互につながっている。音楽は心と心を繋げる。

 

二人が弾いていると。

 

「おや?何かいい音が聞こえると思えば」

 

仕事を済ませて暇な老人がフラッっと寄って来た。花がいい匂いを出して蜂を引き寄せるように、二人の作り上げる音楽が老人を引き寄せた。老人は二人の邪魔にならぬようにひっそりと佇む。下手に反応するのも邪魔になりそうなので、反応は極めて小さくする。精々、目を瞑って音楽を楽しむぐらいだ。

 

小さな演奏会。二人の音楽が終わると冬月は拍手をして賛美した。

 

「素晴らしい演奏だった。見事な弾きっぷりだった。シンジ君」

 

「恥ずかしいですよ、先生」

 

「何を恥ずかしがるのかね。恥ずかしがる要素は一切無かったよ」

 

「そうだよシンジ君。君は素晴らしい」

 

シンジは顔を赤く染めて「僕恥ずかしいです」を精一杯アピールする。そのアピールを汲み取っているかは不明だが、老人一名と美麗な少年一名は彼を褒めちぎる。老人に関して言えば、彼は昔から褒めて伸ばす教育をしている。シンジは訳ありで複雑な心を持っているので、老人は優しく褒めることを意識していた。考え方は人それぞれであるので誰であろうと厳しくすべきと考える方がいらっしゃるかもしれない。それもそれで正解だ。教育に正解不正解は無い。ただ、暴力を伴う法的にアウトな教育は不正解以前の問題だが。

 

二人はひとしきり弾いたので休憩する。

 

「先生は何か楽器は弾けるんですか?」

 

「いや、恥ずかしながら、私は昔から学しか志していなくてね。全くとは言わないが、音楽には触れてこなかった人生だ。一応、人並みに音楽を嗜みはするがね。特に特定の分野が好きとかは無い。幅広く好きな音楽を楽しむだけだな」

 

「そういえば…先生は昔から部屋で何か音楽を聞いていましたよね?」

 

「あぁ。仕事に疲れて休みたいときは音楽をかけてゆっくりとすることが多い」

 

「何をお聞きになるんですか?」

 

冬月はちょっとだけ考えた。自分が聞く音楽が伝わるか微妙だったからだ。先も述べたが特定のジャンルが好きとかではなく、幅広い音楽の中から特定の曲をピックして聞いている。

 

「君たちが知っているかわからんが、よく聞くのはクラシックとジャズだな。クラシックではハチャトゥリアンの『仮面舞踏会:ワルツ』、ジャズでは『Moanin』『Autumn Leaves』、ジャズグループで言うとMJQ(Modern Jazz Quartet)の『Summer Day』『朝日のように爽やかに』といったところかな」

 

「冬月先生は意外と渋いところがお好きなんですね。MJQは割と昔ですよ」

 

「今となっては古いか。当時は格式高いジャズで名をはせたが…すまん。シンジ君は分からなそうだな」

 

「えっと、ごめんなさい。わかりません」

 

「何、気にすることは無い。知らなくて当然だ」

 

※知らない人は是非聞いてみてください。皆さんの好みに合うとは断言できませんが、いい曲ですので

 

使徒である渚カヲルは知が深いので知っているようだが、シンジはさっぱりと言いたい表情だ。仕方ない。彼が述べた音楽は有名だが、若者が知っているかと問われると否と答えざるを得ないチョイスである。

 

「ふむ、そうだな。では、実際に聞いてみるかね?奇跡的に私の所に音楽データが残っていてね、三人でゆっくりするとしよう。私の仕事は終わらせてあるから、幾らでも寛ぎなさい」

 

「いいんですか?先生のお時間を頂戴して」

 

「構わんよ。どうせ、ここには我々しかいないんだ」

 

「君が遠慮することは無いんだよ。シンジ君」

 

それをカヲル君が言うのか。

 

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせもらいます」

 

「あぁ」

 

この後冬月の執務室で三人は冬月が紹介した音楽を聴いた。ちなみにだが、渚カヲルは碇シンジの傍から離れることは無かった。

 

誰かさんが見ればNNミサイルが飛んできそうだ。

 

続く




次回予告

二人の音楽を奏でるシンジとカヲル。二人の絆は深まっていく。

そんな日を送る中で、とあることに気づいてしまったシンジ。この世界は…真実は…?

友と師に世界を教えてくれと頼むシンジ。二人は悲劇の少年に世界の真実を…理を告げる。そのとき少年は何を思うのだろうか?

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「真実」

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