【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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Qの考察難しくてすぐにセントラルドグマ突入に行っちゃいそうなので、ちょいちょいヴィレ側の動き(独自考察&オリジナルストーリー)で入れていきます。本話はNERVの動きです。

※色々とギュッと纏めているので省略したところがあります


真実:後編

外の様子を目に心に焼き付けたシンジは、行きと同じ道で本部の建物へと戻っていた。下りはともかく上りなら階段の先が見えるので踏み外すことは無い。それでも足場が悪いことに変わりはないので慎重に階段を踏んでいく。

 

すると、シンジは不思議そうに呟いた。

 

「なんで冬月先生は防護服を着なくていいんだろう?僕はこの世界に慣れていないから着ているけど、冬月先生は慣れているのかな?」

 

シンジが防護服を着ている理由は「非常に高いL結界密度の中で活動するため」である。基本的に人間(リリン)はサードインパクトで浄化された大地では防護服を着なくてはLCLに還ってしまう。なのでシンジは防護服を着ている。しかし、冬月コウゾウと渚カヲルは着ていない。後者は訳ありなので着なくていいのはシンジは何となく分かっていた。彼はシンジ達人間のことをワザとリリンと呼んでいる。普通の人間なら「人間」と呼ぶはずだが、彼は「リリン」と呼んでいる。そこから考えるに、彼は人間とは違う存在なのだろう。しかし、前者は違う。あの人は正真正銘の冬月コウゾウで、人間だ。家族だから分かるとかではなく、常識的な感覚で分かる。人間なのに防護服を着ていない。

 

はて?なぜだろうか?

 

「あの人は僕とも君とも違うからね。老練な冬月先生は三味ぐらい違うんだよ」

 

「そう…だね」

 

理由になっていないが、シンジは納得した。それは昔から分かっている。いつも人の三歩先を歩んでいた。使徒戦では的確な指示を飛ばし、エヴァの使徒撃滅に多大な貢献をしていた。さらに国連や日本からの圧力を弾き返して、自分たちを守ってくれていた。その過去を考えれば、冬月コウゾウという人物が異常であることは明白だ。今現在はその昔から14年も経ているので、長い年月に帯同する経験は冬月をもっと磨き上げたのだろう。

 

頼もしい恩師の背中を見ながらシンジは本部に戻った。戻るなり、冬月に連れられて二人はとある施設へと向かった。そこは指揮所やエヴァのケージから割と離れていて、シンジも知らない場所だった。施設としての機能は保っているようだが、主要部は停電している。真っ暗とまではいかないが暗い。一応、非常灯が点いているので一切見えないことは無いので行動はできた。

 

「まぁ、適当に座ってくれ」

 

「はい」

 

「ここ失礼するよ」

 

なぜか敷かれていた畳の冬月と二人は座る。ご丁寧にも三人分の座布団が置かれていた。シンジとカヲルは隣り合い、冬月はその対面に座った。二人が座ったところで冬月は一呼吸置いてから話始めた。

 

「さて、シンジ君。君には真実を話せばなるまいと思っていてね。先に見せてたのは君の真実だ。私がこれから話すのは君の父親。碇ゲンドウの真実だよ」

 

「はい…先生は父の先生でもありましたから、知っているんですね」

 

「あぁ。碇ゲンドウは私の教え子だ。それは知っているのだから、所々端折りながら話すよ。まず、君のお母さんであり、ゲンドウの愛する人であった碇ユイ君は初号機のコアにいることは教えた。それを受けて、ゲンドウはどう思ったかを話そう」

 

「父さんがですか。あの父さんですから、何を思ったのでしょう」

 

シンジにとって父こと碇ゲンドウは非常に冷えた人物だ。感情の浮き沈みが分からず、ポーカーフェイスの極みだ。感情を推し量ることができない。だから、父にとっての妻が消えた時には何も感じなかったか、何か感じたのか。わからない。

 

「大前提として、私はユイ君に次いで二番目に碇の近くにいた人間だから、私は碇の感情は読めた。ハッキリ言って、碇は悲しんだ。そして心から寂しがり、本当の孤独を感じた。似合わんだろうが、ユイ君が消えた日から碇はユイ君を捜し回っていたよ」

 

「え?あの父さんが」

 

「君のお父様は見かけによらないんだ。外で強そうに見える人間でも、内面では弱い」

 

「そう。その通りだった。碇は他人に察されないように碇なりに過ごしていたが、私には通用せんよ。ユイ君を捜して捜しての永遠の無限回廊だった。S-DATで外との繋がりを一切断ち、学とピアノだけに人生を尽くしていた彼を、自分を全て愛してくれる碇ユイ君を失いたくなかった。だが、事実として失ってしまった。人類の希望たるエヴァ初号機のコアに消えてしまった。悲しみに染まって、感じたことのない本当の孤独を碇は知った。碇は本当の孤独に心を砕かれた。本当なら人は悲しみを乗り越えようとするのだが、碇は違った。失ったのなら取り返せばいい。再びユイ君と会おうと」

 

「そんなことが出来るんですか?母さんは完全にコアになってしまっているので、それは不可能…」

 

「普通に考えれば、君の言う通りさ。でも、リリンの王たる碇ゲンドウは違ったんだ。本気で、何もかもを捨ててまでやろうとした。そして、彼が思いついたのが」

 

「まさか…人類補完計画ですか?」

 

シンジは人類補完計画の名前自体は知っていた。それは超がつく機密ではあるが、NERVが担当している以上漏れるものは漏れる。どこから聞こえてきたのが人類補完計画だった。内容までは知っていないが。

 

「正確にはその発展だが、まぁその解釈でいい。少々難しいことを話すがいいかな?君に大きく関わることだ」

 

「はい」

 

「まず、人類補完計画というのはNERVよりも上にある秘密組織ゼーレにより主導された計画だ。ゼーレとはNERVの親とでも考えてくれ。人類の発展の礎となった『死海文書』の内容を解読したゼーレはセカンドインパクト以前から行動を開始した。死海文書には技術だけでなく、人類も使徒も書かれていた。使徒が人類を滅ぼし、リリスと融合してインパクトを起こそうとしていることもあった。それは将来的に人類が滅ぶことを示していたのは分かるね。だから、ゼーレは人類の存続のために使徒の撃滅を盛り込んだ人類補完計画を作り上げた。もっとも、発案者はまた違うがね。それは追々話すとしよう」

 

「その計画の道具がエヴァですね」

 

「ご名答だ。まず、不慮の事故に見せかけて、南極の使徒を活動させることでセカンドインパクトを起こす。これにより全ての始まり、プロローグとする。その後、使徒が本格的に襲来すると、エヴァにより使徒を撃滅する。これで人類の滅びまでのカウントダウンを長引かせるのと同時に、進化のための儀式の条件を満たす。そして、エヴァによって人類の強制的な進化の儀式を行う。これにより人類は存続することが出来るとした。面白いのは人自体ではなく、この世界自体を変えることで存続を図ったことだ。儀式というのは、君が良く知るエヴァ初号機の覚醒とリリスの目覚めだ。前者によるニアサードインパクト、後者によるサードインパクト。この二つが組み合わさった儀式によって、ゼーレの人類補完計画は果たされた。長くなったが、これが第一段階と思ってくれ」

 

「要約すれば、ゼーレの人類補完計画の発展形として碇ゲンドウの人類補完計画があるんだ。まずは、大前提となるゼーレの人類補完計画を説明した。人類が人類でいれるために起こしたのがセカンドインパクトとサードインパクト。これだけ理解できればいいよ」

 

「セカンドインパクトとサードインパクト。赤い海と土地の全てが赤い世界…人が死に、生物が滅んだ世界…か。これが、そのゼーレの人類補完計画の発動の結果。そして、父はこれに飽き足らず、更に進めようとしているのですか」

 

シンジが少し息巻いて話した。その直後バチン!という音と共に電灯がともされた。ハッキリとクッキリと空間の奥の方が見えるようになった。

 

「ふむ、やっと停電が解消したか」

 

「え…なんですか?あれって?」

 

「このNERVが作って来たエヴァの試作型たちだよ」

 

奥の方にはエヴァと思われる大きな物体が積み上がっている。見たことがないエヴァであるのでシンジは気味悪く感じた。これらはカヲルが言ったのが答えである。極初期のNERVの初期メンバーたる碇夫妻と冬月、その他のメンバーたちによって開発されていたエヴァたちだ。使徒のコピーという奇想天外なプロジェクトだったので、エヴァ開発は超絶に難航した。それを示すのがこの極初期型の試作エヴァの山だ。

 

少しばかり経つと更に機械が動いて、三人の左に十字架を見せた。

 

「あれも…ですか」

 

「話が逸れるが、そうだな。あれは辛うじて形になった初期型のエヴァだよ。エヴァ初号機の父親とでも思ってくれればいい。碇とユイ君達我々は何度も何度もエヴァを作って来た。全ては人類の存続のためにだ。しかし、あの時から変わった。碇は自分の望みを叶えるために、途中からエヴァを、シナリオを変えた」

 

「自分の望み。父の望みですか」

 

「碇の望みは失った愛する者を取り戻すこと。そして、愛する者と永遠の時を、誰も二人を邪魔しない世界で過ごすことだ。碇ユイを取り戻して、碇ユイと碇ゲンドウの二人は、格差も争いも何もない真の平和な世界で永遠に生き続けるのが望みの全貌だよ。そのために、第一段階にゼーレの人類補完計画を起こす。これは既にセカンドインパクトとサードインパクトで達成されている。だから既に第一段階は完遂された。第二段階を完遂するだけだ。それは…便宜上碇の人類補完計画とで言おう。この方が適当だ。この"碇の人類補完計画"で完全に人類を完全に滅ぼす。これにより全てが一つになった世界でユイ君を捜し、見つける。そうして再会を果たし、二人で永遠を生きるだけだ。そのためだけに、人類を全ての種を死に追いやっている。世界が赤くなろうと、人類が種が絶滅しようと、地球が世界がどうなろうとも関係ない。ユイ君と再会するためなのなら何でもする。もう止まることは無い、まさに暴走機関車だな」

 

ちょっと冬月の説明はアバウトなので、カヲルが捕捉する。捕捉も長ったらしいが、許してほしい。物が物だからご勘弁願おう。

 

「正確には全てのリリンの魂を融合して一つにするんだ。そして大きな一つの生命体となった"リリン"の中から碇ユイだけを救う。その世界は何もない。いるのは碇ゲンドウとユイの二人だけなんだ。だから、碇ゲンドウにとっては最高の舞台となる。長くなったけど、とにかく、碇ゲンドウは碇ユイと再会するために動いている。全ての人類を種を犠牲にしても、自分の望みを叶えようとしている。碇ゲンドウ、彼一人の望みのためだけに盛大な自爆が行われようとしている。そう理解してほしい」

 

非常に長くなったので、まとめる。結論中の結論は「碇ユイを取り戻して、二人で永遠に生きる。そのためには自分流の人類補完計画を発動する」ということになる。

 

これがどうなろうとも、人類が存続する道は無い。これだけは断言しよう。

 

「父さんは母さんに会うために、僕たちを利用している。利用して、その…人類補完計画を発動することで、ミサトさんもリツコさんもアスカも…みんなを死に追いやる。みんなが死んだ世界で、父さんは母さんと永遠に生きる。それって…完璧なエゴじゃないですか」

 

「そうだな。矮小なエゴだな」

 

「父さんは自分のエゴのために生きているんですね。母さんと会うために…僕と一緒なんですね。僕も綾波を助けるために…色々としてしまった。父さんと同じです」

 

シンジもレイを助けるという望みのために動き、結局としてニアサードインパクトを引き起こしてしまった。それが父である碇ゲンドウと重なったのである。違うと言いたいが、それは憚られる。他人が口出しすべきじゃない。

 

「さて、私が話せることはこれぐらいだ。後は、渚カヲル。君から伝えてくれ」

 

「はい。シンジ君、君はどうしたい?」

 

「どうしたい…可能ならこの世界を元に戻したい。僕がしてしまったことの清算がしたい。僕がしてしまったことはやり直しが効かないかもしれないけど、それでも。僕はやり直したい。父さんのしていることを止めたいけど。止めても世界は戻ってこない。でも、世界を元に戻せば皆が幸せになる。それに、父さんも動けなくなる。一石二鳥だよ」

 

「うん。君の思いは伝わったよ。実は、エヴァ第壱拾参号機はそのために使えそうなんだ。サードインパクトの後に、セントラルドグマには"リリスだったもの"がある。それにロンギヌスの槍とカシウス槍の二本の槍が刺さっている。その二本の槍があれば、世界は君の思いのままにできるんだ。二人で槍を手に入れる。あとは…いいね?」

 

「ロンギヌスの槍とカシウスの槍。この二本の槍で世界をやり直す。僕たちの槍で、やり直す。そうすればいいんだね。僕たちの槍があれば、世界は救える。そういうことでしょ?」

 

「その通りだよ。僕と君ならやれる。世界は取り戻せるんだ」

 

「やろう…カヲル君。二人で槍を手に入れよう」

 

「でも、シンジ君。一つ約束してほしい」

 

「何?カヲル君」

 

カヲルは今まで以上に引き締まった表情で、真面目な顔をしている。

 

「今、僕が話したことはあくまで理想論に過ぎないんだ。実験も何もしていない論理上の事に過ぎない。だから、現実はそう上手くいかないことが考えれる。もしもの時は、可能な限り僕の言うことに従って欲しい。何があってもね。もしかしたら、二本の槍は僕たちの槍じゃないかもしれない。無理に槍を使えば、逆の悲劇を招いてしまうことになる。だから、僕の言うことを聞いて動いて貰いたいんだ」

 

「その時、その時で臨機応変に対応するから、下手に動くなってこと?」

 

「そう。君には悪いけど、言うことを聞いてほしい。本当は引き抜いてはいけないのに、槍を引き抜いてしまってフォースインパクトを引き起こしたくはない。違うかい?」

 

「違わない。むしろ、当たり前だよ。フォースインパクトを引き起こすぐらいなら、僕は素直に引き下がる。だって、それじゃ、本末転倒じゃないか。生きているうちに必ず希望はあるんだ。いつだって希望はある。だから、その時じゃなくてもいいよ。また次の時に、僕たちの希望の槍で希望を掴めばいい」

 

「君は強いね」

 

「そんなことないよ…僕は希望を信じているだけだから」

 

覚悟を決める碇シンジ。それを受け止める渚カヲル。

 

二本の槍。

 

これが全てを握っているのは言うまでも無い。

 

続く




次話はヴィレの動きになるかなぁっと考え中です。

次回予告(次話になるかは未定だけど、書いておく)

自分の実の父親。碇ゲンドウの目的を知ったシンジ。全てを犠牲にしてまで、自らのエゴを貫かんとする父を止めるため、世界を元に戻す決意をする。

その決意を受け取ったカヲル。カヲルとシンジは世界を元に戻すために第壱拾参号機の出撃を待つ

対して、全てを何者かの手によって知らされた葛城ミサトと赤木リツコ。二人はその何者かに警戒する。ヴィレの悲願たるNERV殲滅を果たすため。

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「老獪なるフィクサー」

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