【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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かの者は敵なのか?それとも味方なのか?

いったい、どちらだというのか?

追記
本話が2話投稿されていましたので、被りの一話を削除しました。大変失礼いたしました。
投稿21時34分


老獪なフィクサー

渡り鳥のように飛んでいる数多もの軍勢。複数の軍艦が陣形を組んでおり、その中心部には周りの軍艦の約十倍はあろうかと思われる巨大な戦艦が飛んでいる。神の視点から見れば、それはそれは、とても壮観である。

 

その戦艦の名前はAAAヴンダー。神殺しを司る艦だ。

 

艦の中央部では二人の司令クラスの人間が話していた。

 

「彼が持ってきてくれた『死海文書』と禁忌の『裏死海文書』、いつ読んでも解せないわね」

 

「すべての生命の母たる存在が残した物だから当然よ。私達のような小さな生き物である人間には、到底理解できない。でも、何とか先のことを知ることができたし、何よりもSEELEとNERVのして来たことを知ることができた。それだけでもよかった。アイツにしては…よくやったわ」

 

「リョウちゃんにしてはね。でも、最期は許せないわよ。女としてね。ミサトのこととあの子を置いて行って、一人だけ先に行ってしまうなんてね。この置き土産でバーターがとれるとでも思っていたのかしらね」

 

「それは全てが終わった時に話しましょう。今は、この来たるフォースインパクトをどのように止めるかが問題よ。NERVで建造中とされているエヴァンゲリオン第壱拾参号機が使徒と融合し、フォースインパクトが起きることによって魂の浄化が行われてはまずいわ。せめてフォースを止めないと、最後のアディショナルインパクトへの介入ができなくなってしまう」

 

「そうね。まずは目先のフォースを止めないといけない。でも、こちらの戦力が圧倒的に劣っている。使えるのはこの艦とエヴァが二機だけ。それも、エヴァは部品の確保も碌にできないから実戦で満足に戦えるか微妙よ。向こうはただでさえ、アダムスの器にエヴァMK-4の大量投入が可能となっている。これじゃあ勝ち目はないわ」

 

今現在の状況でヴィレが投入できる戦力は無人艦が数隻、AAAヴンダーが一隻。そして、エヴァンゲリオン弐号機改とエヴァンゲリオン八号機とエヴァが二機となっている。

 

対して敵であるNERVは確認できるだけで艦艇はいない(NHGは建造中であるのでカウントしない)。エヴァがあるだけなのだが、量が尋常ではない。NERVのエヴァは使徒のなりそこないことエヴァMK-4が主力となっている。これは名前だけはエヴァMK-4であるが、自律行動と戦闘を行うことができる。ただ、単騎の戦闘力は通常のエヴァに遠く及ばないので常に群衆となって動く。これは空中戦仕様に宇宙仕様、その他の特殊型と数え切れないほどの種類がある。全てを挙げてはキリがないので、ここで切らせてもらう。

 

一応だが、パイロットが乗る通常型準拠のエヴァとしてエヴァンゲリオンMK-9ことアダムスの器。そして、現在建造中の新型エヴァとしてエヴァンゲリオン第壱拾参号機がいる。まず、このエヴァの時点で両者数が揃っている。

 

「しかし、加持を通して謎のフィクサーが情報を流してくれた。第壱拾参号機の建造時期やフォースを起こすカギについて。それが無ければ我々はここまで動けなかった。その情報があれば戦術的不利は覆せる。敵を知って、己を見つめれていればやりようはある」

 

昔から言われていることだ。古代中国で兵法を解いた孫氏の言葉にこれがある。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と。そのままの意味で、敵のことも自分のことも知っていれば戦に負けることはないということ。今のヴィレもそうしようとしている。敵であるNERVの情報を得て、自分であるヴィレの戦力を把握している。これに努めれば負けはしないと思う。

 

「問題はそのフィクサーね。私たちに肩入れしてくれるのはありがたいけど、私たちはその人物の掌の上で好きなように踊らされている感じがする。ハッキリ言って、気持ち悪いわ」

 

「同意する。全ての行動が誰かに仕組まれているかのように。あの碇司令ではないことは確実だから、質が悪い。こんな盛大な茶番を開くことができるのはそうそういない。あの加持が知っていたから、行く前に聞けばよかった」

 

「リョウちゃんに聞いても無駄よ。彼でも勝てない大物なんだから…それに、あなただって正体の察しはついているでしょ?」

 

「決して正解だとは思わない。いえ、思いたくないけど。何となくね」

 

ミサトは手に持っている「裏死海文書」の写しから目を離して、これからの行動計画が書かれている電子ボードに目を移した。そこにはセントラルドグマ強行突入との文字が書かれていた。

 

「NERV副司令にして、裏の老獪な大戦略家。冬月コウゾウ」

 

「私もそうだと予想するわ。ただでさえSEELEがごく限られた人物にしか見せていなかった『死海文書』と『裏死海文書』を自由に閲覧でき、さらにそれの写しを取ることができる。NERVの動きをすべて把握できる人物となれば、必然的にあの人しかいない。冬月コウゾウ副司令しかね」

 

ミサトはサングラスを外して、大きなため息を吐いた。そのため息はやるせない気持ちが強く表れている。自分たちで全てを変えようと動いているのに、それは全部、とある老人から操作されていている。そう思えて仕方なかった。

 

「あの人は本当に恐ろしいわよ。いかなる戦力よりも恐ろしい」

 

「まったくね」

 

ヴィレのトップ級の人間二人でさえ恐れるNERVのブレイン。

 

しかし、かの者は他の人間からは複雑に思われていた。孫からは。

 

~ヴンダー内エヴァパイロットの部屋~

 

「あと少しでセントラルドグマ突入の日だよ~、姫」

 

「うるさいわね」

 

「何々~?愛しのワンコ君と再会できるのが楽しみなの?」

 

「違っ!いや、そ、そうね。そうよ」

 

なんと意外にもアスカは反抗することはなく、認めた。これにはマリも驚き桃ノ木だ。

 

「ありゃ?どうしたの、本当に」

 

「別に、自分の気持ちに素直になろうとしているだけよ。あの時、沸騰した感情に流されてアイツを突っぱねちゃった。先生の教えを守れなかった」

 

「確かにワンコ君はニアサードインパクトのトリガーとなって、サードへとつながる道を作ってしまったと見ることはできる。でも、そうしたのはゲンドウ君だからねぇ。姫の気持ちもわかるけど、あの時は失敗だにゃ」

 

アスカはシンジと14年ぶりの再会を果たしたときに、衝動的に彼を板越しで殴ってしまった。それは間違いなく彼女の心からきている行動だった。しかし、それは正解だとは言えなかった。第九の使徒に侵食された際に自分を助けてくれた。いくらニアサーやサード発生に関与していたとは言え、それは彼は全ての元凶によって"させられた"だけだ。だから優しく見れば被害者と言えないだろうか。

そして、アスカは先生の教えを守れなかった。人間は瞬間的な感情に流されやすい。だから、「常に自分に素直であれ」と言われていた。

 

「そう…だから、アイツに謝りたいの。シンジに」

 

「そうだね。彼ならわかってくれるよ。なんせ、姫も教わった先生の教え子だからね。そういえば、その先生にも会えるじゃん。もっと楽しみじゃない?」

 

「それは…何にも言えないわ。冬月先生はNERVの副司令。そうである以上、あたしの敵なの。そう!冬月先生は敵なのよ!」

 

マリはアスカの心の叫びを黙って聞いた。まさにその通りであるから、反応することができない。アスカのように孤独だった少女がようやく縋ることができる大人に出会ったのに、その人は今や敵となっている。それがどれだけショックかはご想像に容易い。それだけなら、割り切って鬼になることができるだろう。だが、現実はそんな簡単じゃない。アスカにとって祖父に等しい冬月コウゾウは単純に「敵」の一文字で片づけることができない。ミサトやリツコが苦しむように、敵か味方か分からないのだ。敵ならば鬼として引き金を引くことができるだろうが、もしかしたら味方かもしれない。味方に銃口を突きつけ、ましてや引き金を引くなんてできるだろうか?いや、できない。

 

「姫。今は時を待つしかないよ。その時になれば、全てわかる。これは、私の勝手な勘だけど、冬月先生は私たちのために役者になっている。私たちが未来を掴むために、先生は自分を犠牲にしている。だから、その犠牲を無駄にしちゃいけない」

 

力は無かったが、しっかりと頷いたアスカだった。

 

続く




やばいやばい。セントラルドグマに一気に入りそうだ。

次回予告

刻一刻と迫りくるセントラルドグマ強行突入作戦を前に、全てを仕組んでいる人物を恐れる葛城ミサトと赤木リツコ。二人が恐れるは冬月コウゾウだった。

老人が敵となり、動揺を押し殺していた少女は少しずつ前を向く。

NERVでも準備が進む中で、老人はある少女と対話する。アダムスと。

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「君ならどうする?」

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