【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
「13」の文字が刻まれた半球体上のドームにロボットアームが刺さって、ドームを引っぺがしていく。引っぺがされた部分から赤い液体が流れ出す。それは火山が噴火したかのようである。赤い液体であるLCLは津波となって流れ出てくる。それを眺める人間が二人いた。二人は割と距離を取っていたが、あまりの液体の強さに赤い雨が降ってきた。
「ついに完成したか」
「あぁ。エヴァンゲリオン第壱拾参号機…最後の執行者だ」
「お前の面倒な注文のせいで、建造するのに苦労したよ。ただでさえ、新機軸を大量に詰め込んでいるのに、それを完全無人で作るというのだからな」
「…」
「だんまりか。まぁ、いい。私はパイロットたちと最後の調整をしてくるぞ」
一人は去って行った。ドームからは一機のエヴァが機械によって取り出されている。そのエヴァは形状や塗装といった外見で見れば、少しエヴァ初号機と似ている。しかし、胸部の構造など異なる点も多い。このエヴァはエヴァンゲリオン第壱拾参号機だ。リリスの抜け殻のあるセントラルドグマに突入するために建造された。通常のエヴァでは絶対に突破できない、セントラルドグマを塞いでいるリリスの結界を破るために。
しかし、それは表向きの理由に過ぎない。
「あと少しだ…あと少しで会えるなユイ。来るべき、契約の時だ」
一人でエヴァ第壱拾参号機を見る男がいた。
その男を置いて行って、パイロットがいるだろう部屋に向かっている一人の老人。その者は廊下を歩きつつ、彼の日常と化した独り言呟きをしていた。傍から見れば異常だが、その呟いていることは重要だった。
「また一つ鍵が揃ったか。しかし、それにしてもだな。自らの子と、使徒をダシにして自らの願いをかなえようとするとは。私には到底出来ん。碇の奴は…本当に変わらん。さぁ、私ができることは、彼らが誤らんように導くだけだ」
そのころ、パイロットたちは。
~シンジの部屋~
「時が来たよ…シンジ君」
「うん、やっと時が来たんだね」
渚カヲルはシンジの部屋を訪れていた。冷静だったカヲルに対して、シンジはやや興奮の状態にあった。シンジはこの時を待っていた。自分がしてしまったことのやり直しの機会を…待っていた。
シンジはベッドに座っていて、カヲルはシンジの隣に座ろうとした。しかし、座るのをやめてシンジの首をまじまじと見つめた。
「やっぱり…これがあるとね。エヴァに乗らないために、この首輪をつけられたんだけど。僕の罪と罰を象徴する存在なんだ」
「その首輪が君を縛るなんてね」
そう言って、カヲルはシンジの首に手を回した。カヲルの手は首を撫でたかと思うと、小さな音とも共に首輪が外れた。首を縛っていたものが消えたので、シンジはハッとした。ずっと首輪をつけていた。この瞬間で首から感覚が消えた。感覚が消えたのがどうも慣れなかった。
「元々この首輪は、リリンが僕を恐れて作った物なんだ。君を恐れたわけでも、罰を与えるためでもないと思うよ。仮にそうだとしたら、それは大きな間違いだ。君だけにすべてを背負わせるのはね。だから、それは僕が背負おう」
そう言って、カヲルが首輪を自分の首に着けようとした瞬間だった。
「ダメだ!」
シンジは抜群の瞬発力で、首輪を弾き飛ばした。首輪は吹っ飛んで入り口の方に打ちつけられた。幸いにも壊れていないようだ。いや、壊れてくれても全く大丈夫なのだが。
「ダメだよ…カヲル君。万が一、君が死んじゃったら困るよ。ここで、僕が話せるのは冬月先生と君だけなんだから」
「シンジ君…」
「彼は君のことをただの仲間だとは思っていないということだ。君のことは親友だと思っているんだよ」
入り口の方から聞きなれた声が聞こえた。二人は入り口を見ると、そこには老人が立っていた。足元に落ちていた首輪こと、DSSチョーカーを拾うかと思われたが、思いっきり足で踏みつぶした。頑丈な革靴を履いていたので、その首輪は粉々にとまではいかなかったが、完全に壊れた。
「せ、先生」
「こんなもので、シンジ君を縛れると思ったのなら、それはとんだ勘違いだな。さらに罰を与えんとするなら尚更だ。どうかな?いいストレス解消になったと思うんだが」
「やれやれ…あなたには及びませんね」
普段の調子の冬月にシンジとカヲルは笑ってしまった。いつもの調子でDSSチョーカーを踏みつぶしたので、笑わざるを得なかった。普段あれほど温厚な人が、こんなワイルドなことをするなんて。しかも、これを「ストレス解消」というのだ。彼の苦労はわからなくもないが、それ以上だったのだ。
「いいんですか…それを壊して」
「何を言うのだね。私は君の保護者なのだから、君にある危害を取り除くのが仕事だ。葛城君や赤木君も何かを思って君を縛ろうとしたのだが、それはこの私が許さん。それだけのことだよ」
ヴィレの大人たちとは違い、ちゃんと自分を見つめてくれる冬月コウゾウは、本当に頼りになる大人だ。シンジが一番慕っている大人だ。
「さて、時間が惜しいからな。作戦の最終確認をさせてもらうよ」
冬月はシンジとカヲルの二人の前に立って、作戦概要を伝える。概要といっても、本当に簡単だ。第一にセントラルドグマを蓋しているリリスの結界を突破する。第二にセントラルドグマ内部に突入する。第三にリリスの抜け殻に刺さっている二本の槍、ロンギヌスの槍とカシウスの槍を引っこ抜く。最後に二本の槍を以てして、世界をやり直す。
とってもシンプルだ。
「護衛であのアヤナミがつくんですか」
「そうだ。最大の障害であるリリスの結界を突破するためにはエヴァ第壱拾参号機だけで足りる。しかし、エヴァ一機だけでは怖い。セントラルドグマは14年間、誰一人として侵入を許していない。我々も目視はどころか、モニター越しにでも確認していない。だから、あそこに何があるのか、何が待っているのか、全く見当もつかない。となれば、味方が多くて損は無い。護衛に出すのはエヴァMK-9だから戦力に不足はない」
「なるほど…でも、セントラルドグマの中の敵だけでなくて、ミサトさん達が来る可能性も考えられますよね。ヴィレはNERVの敵なので」
「無論、それも大いに考えられる。彼女たちにとって、二本の槍は禁忌に等しい。それをNERVに握られては堪らないというと考えて順当だ。シンジ君にとっては辛いかもしれないが、彼女たちと戦闘をする可能性はあり得る。いや、必ずある」
シンジは顔を下に向けてしまった。その姿を見てカヲルは腕を回す。シンジは暫くの間、考えていたようだが、意を決した顔で冬月を見た。
「構いません…アスカと戦うことになっても、世界を取り戻すためなら戦います。もちろん、殺してしまうなんてことはしません。なんというか…その、程よいところで止めます」
「辛いのに、よく覚悟を決めたね。シンジ君は」
「辛いよ…辛いけど、やらないといけなんだ。やらないと、未来はつかめない」
真剣な眼差しをしているシンジ。その顔に冬月は安心した。いくら自分がサポートやケアをしていても、彼は不安定だ。周囲の環境の目まぐるしい変化に追いつけず、潰れないかとヒヤヒヤしていた。しかし、それは杞憂だった。彼はとっても強かった。
「よく言ったシンジ君。気休めかもしれないが、エヴァ第壱拾参号機は最新型だ。新しいだけに戦闘力はエヴァで一番。大船に乗った気持ちでいなさい」
「はい」
「では、作戦の準備をな。悔いのない選択をしなさい」
冬月は部屋を後にした。
去って行く冬月の背中を見て、シンジはグッと拳を握った。
~それから暫くして~
一機のエヴァが鎮座している。その前で少年二人が立っていた。
「よし…いこうカヲル君」
「僕のことはカヲル、でいいよ」
「じゃあ…僕も、シンジ、でいいよ」
続く
次回予告
シンジを縛る、罰を与えんとする首輪は老人によって踏みつぶされた。それから解放されたシンジは、覚悟を決める。
プラグスーツに身を包み、エヴァンゲリオン第壱拾参号機でリリスの結界を突破して、セントラルドグマに突入せんとする。
しかし、そこに忍び寄る二機のエヴァ。
次回 新世紀エヴァンゲリオン 「セントラルドグマ突入」
「シンジっ!!」