【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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3話でお気に入り登録者数が100人を超えました。たくさんの読者様にご拝読いただき、ありがとうございます。

また、本話より少しだけ時系列が狂い始めます。予めご了承ください。


使徒との戦いの後

第四の使徒との戦いを終え、対使徒戦はNERVに全権が与えられた。全権が与えれたことで冬月を含めNERV内部は大忙しの日々を送っていた。ただ、冬月は極めて優秀な人間なので仕事はパッパと瞬時に終わらせていった。その仕事の手際の良さは職員たちから噂になるほどであった。

だが、仕事が終われば。さらに仕事が増えるのである。

 

「第四の使徒との戦いでは辛勝か。良く言うものだな。事情を知らないから仕方ないとは言え、外野がうるさいものだ」

 

先の戦闘の反省ということで様々なデータを分析して、次の使徒戦に備えようとしていた。一応外部からの意見を入れたが、ひどいことだ。こちらの苦労を知らないで適当なことを書いてある。形だけ受け入れておこう。

 

「しかし、初号機が暴走するとは。お前でも読めなかったか?」

 

「あぁ。読めなかったが、問題はない。数多いエヴァの中でも、エヴァ初号機は違うからな」

 

「ユイ君か…愛する息子を守る為に自我を目覚めさせたとみるべきだな。つまり、母は強しということか。その第三の少年だが、学校には馴染めているらしい。ただし、少し軋轢があるようだぞ」

 

「構わん。計画に影響を及ぼすことが無いのなら、どうでもいい」

 

「お前の息子だというのに、まったく」

(やはりか。わかってはいたが、碇の奴は自身の息子が苦しもうと知らんぷり。自分が他者との交流を断ってきて、自身の息子を道具としか見ていないからできる芸当。恐れ入るよ、お前には。ユイ君、すまないがシンジ君の精神面では私が出張らせてもらうよ)

 

「それより、次の使徒戦に向けての準備はどうなっている?」

 

「初号機パイロットは時間があれば訓練をさせている。前回は碌な訓練を積まずに戦わせたからな。次には最低限には戦えるようにはしないといけない。赤城君の指導の下でやらせている」

 

「訓練は徹底的にさせろ。使徒を倒さねば…未来は無い」

 

「お前が未来を語るのか、碇」

 

~訓練施設~

冬月とゲンドウが仕事をしている頃、話題の碇シンジは訓練に興じていた。興じていると言うと語弊があるが、本人としては別に嫌ではなかった。自分がエヴァに乗ることで他者から必要とされる。その欲求が皮肉にも彼をエヴァに乗らせていたのである。

 

「センターに入れてスイッチ。センターに入れてスイッチ…」

 

同じ動作を繰り返しているだけであるが、訓練で出来ても実戦で出来ないことが考えられる。だから何度も何度も繰り返すことで実戦でも自然に体が動くようにするのである。反復することで体で覚える。エヴァはある意味で体育会系なのだ。

 

「シンジ君、そろそろ休憩時間に入るわ。短時間だけだけど上がって」

 

「はい」

 

訓練用のプラグから上がったシンジは、休憩スペースで栄養ゼリーを飲んで休む。エヴァに乗っていることが日課で、生きがいと化していた彼にとって訓練もまた日常の一部だった。前の戦いで不甲斐ない戦いをしてしまったのもあって、彼は訓練に励んでいた。というのは建前で、学校であったトラブルでストレスを感じていた。そのストレスをぶつける場所がないので訓練で忘れようとしていたのだ。

 

休憩スペースで誰もいないことを確認すると、ブツブツとつぶやきだした。

 

「僕はエヴァに乗って使徒を倒す。命を懸けているのに、なんで殴られなきゃいけないんだ。僕は戦っているだけなのに。この気持ちは誰にもわかってくれない」

 

「果たしてそうかね?」

 

「え?」

 

休憩スペースには誰もいないことを確認したのに、誰か他人の声がした。自分の愚痴を聞かれてオロオロした。しかし、そこにいた人物は幸いでったから安心した。その人物とは。

 

「冬月先生…いるなら言ってくださいよ。愚痴をこぼさなかったので」

 

「それほど聞かれて困るとは思わんよ。愚痴ぐらい老人でも聞くことはできる。私生活で何かあったのだな」

 

常にサードチルドレンのことは監視しているので、学校で何が起こったのかは知っている。しかし、知っているからと言って最初からその話に入ってはならない。ちゃんと話を相手から聞くのが重要だ。

 

「えぇ。まぁ、はい」

 

「気にせんでいい。話してみてくれ」

 

やはり、報告で上がった通りの話を聞いた。学校でクラスメイトから殴られたらしい。クラスメイトのご家族が第四の使徒とエヴァ初号機(シンジ)の戦闘で負傷したらしい。それで八つ当たりに近い殴りを受けたらしい。気持ちはわからなくはない。しかし、だからと言って殴っていいということではない。ただの暴行行為で到底許されるわけがない。殴りを正当化される事情なんてことは無い。

 

「そんなことがあったのか。君はどう思った?殴られて」

 

「僕だって…世界を守る為に戦っているんです。殴られるなんて、ありえません。だって、むしろ、感謝してほしいぐらいですよ。その、この前の戦いで負けていたら、みんな死んでいるかもしれないんですから」

 

「そうだな。君はよくやったよ。その事件の責任は我々にある。突然呼び出されて、碌な訓練や説明がないままに君をエヴァに乗せてしまった。そして、市民の避難誘導を確実にできなかったNERVに責任がある。すまなかった」

 

冬月はベンチに座りつつであるが頭を下げた。まさかNERV副司令が頭を下げるとは思いもしなかったので、シンジは慌てて返した。そんな偉い人が安易に頭を下げるべきではない。

 

「あ、いや!僕だって戦えなかったので、冬月先生が謝ることはっ!頭を上げてください」

 

「そうか。優しいなシンジ君は」

 

冬月は自身に責任があると思った時には頭を下げて素直に謝る。謝るべき時には謝ることが大事だ。もちろん、自身が絶対に悪くないときには突っぱねることも大事。今回に関しては本当にNERVサイドに落ち度があって、冬月自身もシンジに対して極めて酷なことをさせてしまったと考えているので謝った。

シンジは自分も不甲斐ない戦いをしてしまったと自覚しているので、冬月には謝らないで欲しかった。NERVの人間の中でも何かと目をかけてくれて、優しくし、認めてくれる冬月に対してシンジは本当の先生のように思っていたのもある。

 

「私から何かをすることはできないが、君は世界を救っているんだ。それは事実だ。そして、それを私は何があろうと認める。誰が何を君に言っても、私は認める。だから、頑張ってくれ。一応、気休め程度かもしれないが、防衛施設の強化は指示してある。使徒にダメージを与えるのには力不足だが、気を引いたりすることはできる。支援なら任せてくれ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

事実として冬月はいち早く第三新東京市の防衛設備の強化を指示していた。総司令の碇ゲンドウとしては、別に悪いことではないので即許可を出した。対使徒戦をマトモにできるのはNERVだけだから至極真っ当な指示でもある。既に強化のために装甲版の増設や兵装ビルの建設。ミサイルやバルカン砲群などの新規建設を相次いで行っている。また戦略自衛隊の所持していたNN兵器もNERVの方で改造を指示していて、新型兵器として開発中だ。せめて、せめてチルドレンたちが楽に戦えるようにと冬月は働いていた。傍から見ればこのNERVの地下にある宝物を守り切るためであるが。

 

「さ、休憩時間は終わりかな。私は仕事に戻らせてもらうよ。碇の奴が寂しがっているかもしれん」

 

「父さんですか…」

 

「シンジ君。君の父親は相当の人物だ。気を付けたまえ。あの男は自分の願いのためには容赦をしない。君は君の幸せのために戦うのだよ」

 

そう言って冬月は仕事に戻っていった。残されたシンジは訓練に戻ろうと立って歩き出した。冬月の最後の言葉を反芻しながら。

 

「僕の幸せ…か」

 

続く




メンタルサポートも冬月の大事な仕事です。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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