【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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雷がすごい鳴り響く中で書いたので、動揺して誤字を書いているかもしれないです。

※基本的にシンジの視点を書いているので、一部描写は大幅にカットしています。Qのフォースを全て入れると文字数が莫大な数になり、とても皆様にとって読めるものにならないためです。



フォースインパクト

「やられた…さすがは碇ゲンドウ司令だ」

 

「ダミーシステムのせいで、操縦が効かない!」

 

「シンジ!何が起こっているの!?」

 

第壱拾参号機はシステムが切り替えられた証拠として、目の色が変わる。そして、第壱拾参号機は弐号機に背を向けて、リリスだったものに向かう。大胆にも、弐号機は眼中にないとも言わんばかりの動きだ。

 

「ダミーシステムだ…自律行動と戦闘を行うために開発されたシステム。今僕たちから第壱拾参号機を動かすことが出来ない。このシステムで槍を無理やり引き抜こうとしている」

 

「そんな…」

 

「このエヴァを破壊するつもりでお願い!アスカ!」

 

「くっ…わかった!」

 

シンクロ自体はダミーシステムの方にシフトされたので、何かしらの攻撃を受けたとしてもパイロットである二人にダメージが入ることは無い。そのため、何も遠慮することなく攻撃が可能なのである。それをシンジは理解して、アスカに攻撃を頼んだ。しかし、それにしても、まさか、こんな形で戦うことになるなんて。

 

弐号機は両手に武器を持ち、第壱拾参号機に突進した。二枚の刃が第壱拾参号機の背中の部分を切り裂くかと思われた。しかし、最新型の第壱拾参号機を舐めてはいけない。

 

「ATフィールド!?こんなものが!」

 

首の部分から四機のビットが飛び出す。これらは第壱拾参号機の特有の兵器で、ATフィールドを展開できる。さらに、そのATフィールドを攻撃に転用できるという、まさに絶対の盾と絶対の矛だ。ビットはエヴァ本体と分離して動くため、本体を狙いたくてもビットが邪魔をしてくる。その間にエヴァ本体はリリスだったものに向かえばいい。

 

「このっ!邪魔だぁ!」

 

アスカはビットを相手するのに精一杯であり、とてもだが本体への攻撃はできない。近接戦闘に割り振っていた弱点が出た。ビット自体も自律行動と戦闘が可能となっているようで、面倒な攻撃をして来る。ビットは無人なので有人ではできない挙動をして来る。

 

やはり手段としてはエヴァ本体を完全に破壊とまではいかなくても、行動不能にするぐらいまではしないと。

 

「どうすれば…いいんだ」

 

「まさか、このエヴァにダミーシステムが搭載されているなんてね。君の父上は恐ろしい人だよ」

 

「こんな時に…冬月先生がいれば」

 

ここに冬月がいれば、多少やりようはあったかもしれない。第壱拾参号機を建造したのはロボットのような機械でも設計などをしたのは冬月だった。彼は第壱拾参号機を知っているので、何か教えてくれるかもしれない。しかし、ここはセントラルドグマの最深部。連絡したくても、向こうには届かない。

 

そうこうしているうちに、遂に、リリスだったものの足元にまで来てしまった。このままでは危ない。

 

「アスカ!」

 

「分かっている!あぁ!もう!面倒ね!」

 

アスカの負けん気が勝って、ビット二機を撃破することに成功した。それでも、まだ二機残っているし、更に距離がある。可能な限り早くビットを殲滅しなければ、あのエヴァを止められない。

 

「くっ!あたしがシンジに助けられて、シンジをあたしが助けられないなんて!」

 

「姫~、もうなりふり構わってられないでしょ~?こっちでやっちゃっていいの?」

 

「仕方ない!AA弾の使用を許可するから!」

 

エヴァMK-9を狙撃していたヴィレのエヴァ八号機は目標を変更する。同時に装填していた対エヴァ用徹甲弾から最新のAA弾に変更する。これはアンチATフィールド弾で、絶対防御の無敵要塞を作るATフィールドを無力化して目標に食らいつく。エヴァを守るのはATフィールド。これを破れば道は開ける。

 

「とっておきよ~。贅沢に使うわよん!」

 

正確無比な一撃が、リリスだったものをよじ登るエヴァ第壱拾参号機に放たれた。二発のAA弾は寸分狂うことなく、第壱拾参号機の背中部分に直撃した。しかし、奇妙なことに二発のAA弾はエヴァをすり抜けてしまった。

 

「あのエヴァ…ATフィールドが無い?まさか、あのエヴァは…アダムスの生き残りなのか?」

 

頼みの綱であったAA弾すらも意味をなさなかった。一撃を加えれる手段はもうない。弐号機はビット相手に奮戦していて、ようやく全てのビット撃破した。さすがは歴戦の勇士だ。

 

しかし、無茶な戦闘が祟ってしまった。

 

「うそっ!エネルギー切れ!?」

 

派手な挙動を繰り返していたため、内部電源の消費が激しかったの。消費が激しければ激しい程、それだけエネルギーを食うので、必然的に動ける時間は短くなる。ビットを撃破したかと思われた直後に、非常電源に切り替わってしまった。非常電源は生命維持などの本当に最低限しか動かせない。

 

「コネメガネ!スペア!早く!」

 

「スペア行くけど、もう間に合わない!」

 

見ればエヴァは、もう登頂していた。背中の部分に突き刺さっている二本の槍にまでたどり着くと、エヴァは胸部を唸らせる。すると、胸部に収納されていた二本の腕を展開する。これで四本腕のエヴァとなる。

 

「ヤバい!」

 

「やめろ!」

 

四本の腕は左右二本ずつで二本の槍を掴む。そして力のままに、引き抜かんとする。このために建造されたエヴァ第壱拾参号機。槍を引き抜くことが仕事。その仕事をするだけ。

 

ダミーシステムによって機体操縦を完全に握られているので、パイロット二人が止めることはできない。

 

現実は極めて非情なり。

 

槍は…抜かれてしまった。

 

槍が抜かれて、二本の槍が正常な形態に戻る。それと同時に、リリスだったものが膨張したかと思えば、破裂して周囲に赤い液体をまき散らす。元々、固定されていたエヴァMK-6が空中に放り出される。もし、物理法則が生きているなら、そのまま落下するはずだ。

 

しかし、落下しない。むしろ、不穏な感じがしている。頭部の部分が変に反応する。これは…なんだ?

 

「パターン青!?ヤバい!エヴァに第十二の使徒が生き残っていた!」

 

弐号機はスペアからチャージを行っていて動けない。エヴァ八号機も狙撃をするために潜伏していた。第十二の使徒の撃破しようにもできない。すると、突如として一機のエヴァが躍り出た。

 

「これが命令…」

 

エヴァMK-9だった。死神の鎌でエヴァMK-6こと第十二の使徒の首を切った。切り離された頭部と首からは気味が悪いものがウネウネして出てくる。それらは、空中に浮いて二本の槍を持っていたエヴァ第壱拾参号機をグルグル巻きにする。イメージとしては毛糸の大きな玉だろうか。

 

チャージが完了した弐号機は武器を付け替えて、毛糸玉のような物体に攻撃を行う。

う。

 

「くっ!シンジを返しなさい!」

 

「無駄だよ~姫。あれは全身がコアになっているから。無駄弾はよしな~」

 

その物体は全体が赤くなっていて、使徒にあるコアと瓜二つだ。いや、瓜二つではなく、本当のコアとなっている。確かにコアは明確な弱点であるが、相手の全体がコアとなっていると話は変わる。全てがコアなので一切の攻撃が通らない。いくら弾を撃っても撃っても意味は無い。

 

その光景はアヤナミ・レイも見ていた。自分が招いたことだが、目の前の光景に圧倒された。

 

「何…あれは。知らない…あれは何?あなたは…誰?」

 

疑問しか浮かばなかった。

 

誰も何もすることが出来ないでいると、コアは一気に収縮した。収縮した先にあるのはエヴァ第壱拾参号機。四本の腕をピンと伸ばして、二本の槍を離さないでいる。

 

見慣れたサイズの使徒のコアぐらいの大きさになったコアは、第壱拾参号機によって噛み砕かれた。噛み砕かれた瞬間に、第壱拾参号機は全身が発光した。さらに肩の部分からニョキッと生えてくる。

 

それは異常でしかない。エヴァを越えている。

 

「こいつ…疑似シン化形態を越えている!」

 

「第十二の使徒を吸収することで一気に覚醒したってことか…どうするの、姫。やるの?」

 

「当たり前でしょ!」

 

その頃、当事者二人は何を思っていたのか?

 

一人は顔を両手で覆い、片目だけで外を見ていた。もう一人は項垂れていた。

 

「僕のせいなのか…僕が槍を手に入れようとしたから」

 

「いや、君のせいじゃない。君は槍を手に入れようとするのを途中で止めた。それは正常な判断だよ。これは、君が悪いんじゃない。悪いのは、このダミーシステムを仕組んだ碇ゲンドウだよ。まったく、やられたよ。第一の使徒である僕が、第十三の使徒に堕とされるなんて」

 

急にエヴァは猛烈な上昇を始めて、目にもとまらぬ速さで上空に上がる。空には赤く染まり、あの時と同じようにガフの扉が開かれる。

 

「これは…ガフの扉…まさか」

 

「そう、これはフォースインパクト。碇ゲンドウ司令の人類補完計画における、『魂の浄化』たる儀式だよ。全ての狙いは僕たちを利用して、僕たちの希望を使って、フォースを起こそうとしていたんだ」

 

ダミーシステムが起動されてこそいるが、外の光景を見ることはできる。外は見たことのある景色だ。しかし、先も述べた通りでガフの扉が開かれている。また、地上にある建物の瓦礫が物理法則を無視して浮上している。

 

サードインパクトと同じ。

 

「冬月先生…」

 

二本の槍を持って、頭には天使の輪を付けたエヴァ第壱拾参号機。そのエヴァはガフの扉へと向かおうとする。どうにかして、二人でこれを止めたい。何とか、自分達でやろうと思ったが、外から援護が入った。

 

「うわっ!あれって…ミサトさん!」

 

見れば、ヴンダーが第壱拾参号機に体当たりしていた。体当たりしてエヴァを動かせない。さらに、反射弾を使ってこちらを攻撃して来る。ヴィレとしてはフォースインパクトを絶対に防がなければならない。馬鹿みたいな事をしても、やる。そう、やるのだ。

 

その砲撃で何とか活動停止まで持ち込もうとしていたが、それを護衛の天使は許さない。謎の砲撃によってヴンダーは大損害を受けた。その天使はエヴァMK-9の覚醒状態たる者。アダムスの器はゼーレ肝いりのエヴァである。フォースインパクトを妨げんとする者に裁きを与えるのだ。

 

ヴンダーを使ってでもフォースインパクトを止めようとしたが、それも叶わないようだ。それを見ていたシンジは、違った覚悟を決めた。他人ばかりに頼っていてはダメだ。自分で自分の事はしなければ。自分のしたことには、自分が責任を取る。

 

「カヲル君…ガフの扉は僕が閉めるよ」

 

「うん。全て君の好きなようにすればいい」

 

「ダミーシステムの虚を突くよ」

 

シンジは意識を集中させた。すると、徐々にではあるがシンクロが再開されていく。ダミーシステムが稼働状態であるが、パイロットとエヴァはシンクロできる。これは、ダミーシステムの緊急状況に使用できる特性だ。元となった、旧ダミーシステムは未完成状態だったので冬月が手を加えていた。それは、緊急時にはダミーシステムが稼働中でもパイロットとエヴァのシンクロが優先されるということだ。だが、それは完成版のダミーシステムでは削除された。あくまでダミーシステムが未完成だったから加えられたのだから、完成された以上、必要はない。完成版のダミーシステムは碇ゲンドウ自身の手でシステムが完成されていた。

 

だが、碇ゲンドウでも冬月コウゾウの工作から逃れることはできなかった。老獪さを更に増した老人からは逃れることなんて、不可能なのだ。

 

冬月は完成されたダミーシステムに書き換えを行い、試作型の時と同じように「緊急時にはパイロットとエヴァのシンクロが優先される」とした。ただ、これは試作型の時のように誰にでも分かるよう大っぴらにはせず、バレないように隠した。

冬月の本職は生物学であるが、エヴァの建造に携わっていたので、エヴァのシステムをいじることもできる。その技術と経験で、冬月はダミーシステムの奥深くに仕込みを隠した。

 

ゲンドウの仕込みに、それに仕込みを返した冬月だった。なんと老獪な。

 

「ちょっとでも…シンクロすれば…行ける」

 

シンジは息を一気に吸って、エヴァ第壱拾参号機を操作した。シンクロ率は、お世辞にも高いとは言えないが、少しでもあればエヴァを動かすことが出来る。シンジは意を決して、自らの肉体を顧みず、動いた。両手で持っているロンギヌスとカシウスの槍をエヴァの腹部に突き刺した。シンクロしているので、フィードバックのダメージが入って、凄まじい痛みが全身を走る。

 

シンジはやめない。

 

「これで…エヴァ自体は動かない」

 

二本の槍が刺さったので第壱拾参号機自体の活動は停止する。しかし、ガフの扉が閉じられることは無い。

 

「カヲル君…ごめん。君は生きるんだ」

 

「何を言って…シンジ君!やめるんだ!君が犠牲になることは無い!」

 

「ごめんね…カヲル君。希望はあるから」

 

シンジは辛うじてシンクロ率が維持されていることを逆手にとって、カヲルの操縦系統を断絶し、プラグの緊急脱出装置を起動させた。ダブルエントリーシステムを採用している関係で、片方のパイロットが緊急時にはもう片方のパイロットが強制排出させることができる。カヲルが乗ったプラグは外へと排出された。

 

これにより、第壱拾参号機の四つの目の内、二つの目が閉じられた。しかし、まだ二つの目が残っている。ゼーレの本命が離脱しても、疑似シン化形態を終わらせることが出来ていない。これは、碇シンジが"ゲンドウにとっての保険"ということを意味している。

 

「本当に差し違えるしかない。ごめん…過ちを繰り返さないためには、僕が犠牲になる」

 

突き刺していた二本の槍を再び引き抜くと、そのまま、一本を自分の心臓にあたる部分、もう一本をプラグのある部分をパイロットである自分ごと完全に貫通するように刺そうとした。

 

まさに、差し違える覚悟。自らの命を捨ててまで、フォースインパクトを止める。

 

シンジの覚悟はとてもだが筆舌できない。

 

器用に二本の槍で命を捨てようとしたとき。

 

「そんなことはやめなさい。何もかも、全てを背負おうとするんじゃない。希望はあるんだから」

 

「え?」

 

「そうだよ!冬月先生の言うことは、素直に聞けっての!ワンコ君!」

 

突如、エヴァ第壱拾参号機に何かが取り付いた。それはピンク色に塗装されたエヴァだった。そう、エヴァ八号機だ。取り付いたエヴァは、首元を探っている。おそらく外から強制的にプラグを排出させようとしている。

 

「君は頑張っている。でも、少しは他人を頼りなさいっての!何もかも全部背負い込んでいたら、つまらないし疲れるよ!いい加減にしなさい!」

 

「っ!」

 

シンジは衝撃を受けつつも、脱出に備えて第壱拾参号機に楔を打ち込んだ。再び二本の槍を腹部に突き刺したのである。既に活動は停止しているから、ダメ押しをすることは要らない。しかし、物事には"万が一"ということがある。第壱拾参号機がそう簡単に起きないように、槍で楔とする。

 

「行けっ!」

 

突き刺した直後に、自身の視点が目まぐるしく変わる。シンジの乗るプラグが強制排出された。本命も保険までをも失った第壱拾参号機は疑似シン化形態から元に戻った。そして、そのまま地へと落下していく。

 

上空では、綺麗に開かれていたガフの扉は数秒も経ることなく、閉じられた。

 

かくして、フォースインパクトは中途半端に起こされはしたが、結果的に完全に発生することは無かった。

 

 

~NERV本部~

 

「酷い有様だな。フォースインパクトは途中まではいったが、結果的には完全な発生には至らず。エヴァンゲリオン第壱拾参号機も再起動には相当の時間を要する」

 

「あぁ。だが、これでいい。ゼーレの少年を排除することはできなかった。葛城大佐の動きも想定外だったが、既にシナリオは書き変えられた。次の最後の儀式のためのカギは揃う。今は…これでいい」

 

「カギか…そのカギがそろって、本当にお前の望む世界が待っているかは分からんがな」

 

続く




次話でQは終わります。

次回予告

起こされてしまったフォースインパクト。

全てを背負い込む覚悟をしたシンジは、己の命を捨ててまでフォースを止めようとした。それを許さない者が、彼を助けた。

結果的に中途半端な形で終わったフォースインパクト。再びの大悲劇は免れた。

生還したシンジとカヲル。二人はこの先をどう歩もうとするのか?

そして、最後の段階へと入る冬月。老人は何をする?

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「フォースの後」

「一人でやろうとするんじゃないわよ…シンジ。お帰り」


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