【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
砂漠化している土地の上には数本のエヴァのプラグが突き刺さっていた。
そのうち一本のプラグには、一人の少女が何とかしてプラグをこじ開けようとしていた。当たり前だが、プラグは外からでも開けられるようにこそなっている。だが、そのプラグの口は固いと言えば固い。少女ぐらいの力では、開けるのに難がある。「絶対に開けるんだ!」と言わんばかりの火事場の馬鹿力で、少女は何とかプラグを開けた。
中には、一人の少年が倒れていた。
「シンジっ!」
少女が大きな声で少年の名前を呼んだが、その少年は起きない。目立った外傷はないのだが、少年は死んだかのように動かない。少女は最悪の事態を想像してしまって、すぐに少年の横のつく。そして、片手をもって手首のあたりに手を添える。脈を測るのだ。
もしもの、最悪のことが考えられたが、それは杞憂で終わった。しっかりと、強すぎず、弱すぎずの至って普通の脈を確認することができた。脈があれば、とりあえずは生きていると言える。
ホッと少女は胸をなでおろした。
「なによ…心配させるんだから。まったく…もう」
少女は少年の横に座って、一休みする。プラグをこじ開けたからの肉体的な疲労と、更に少年を心配した心労も重なったので、とっても疲れてしまった。横で寝ている少年はまた違う過労で疲れているのだろう。無理もない。あの状態からフォースを中断させたんだ。それは簡単そうに見えて、全然簡単ではない。いくら老人が抜け道を用意していて、それを器用に通ったとは言え、高低差のある、凸凹道を歩んだんだ。
「まったく…あんたはそうやって一人で背負い込もうとする。いい加減に学びなさいよ。周りには誰かいるんだから。少なくとも、あたしや冬月先生はついているのよ。冬月先生は向こうの人だけど、自ら進んでピエロになってる。恐ろしい人よね、あたしたちの先生は」
その少女は寝ている少年に話しかける。しかし、少年が反応をすることは無い。脈はあり、呼吸もしている。その意味では反応していると見ることが出来る。でも、それは少女が望んでいる反応ではない。
「ここじゃL結界密度が高すぎるし、リリンじゃ救援に来れない。動くにしても、ちょっと一休みね」
少女は座っていたが、本当に疲れているので横になる。横になるということは、少年にピッタリくっ付くことになる。ただでさえ一人用で狭いプラグだ。どうしてもくっ付く。
すると
「ちょ!」
「ごめん、実は起きてたんだ。こういう時はどうすればわからないからさ。それに、ちょっと、体が動かないんだ。だから、ごめん」
「あんたねぇ…まぁ、いいわ」
横になった少女を少年は抱き寄せて、恋人寝をする。お互いが向かい合って、抱き合っている。それは誠に誠に素晴らしいことだ。ここはプラグ内で、二人を邪魔する者はいない。周りは異常なほど高いL結界密度のおかげでリリンが寄り付くことはできない。普段は活動する上で面倒この上ないL結界密度が、この時には素晴らしい働きをしてくれた。
二人はお互いに見合って健全な意味で抱き合っていた。言葉を交わすことはなく、ただ静寂があった。それが永遠に続くかと思われたが、静寂を破られた。少女の方が動いた。少女は、これまで貯め込んできた感情が溢れ出してきた。溢れ出た感情は外面には「涙」として現れる。涙が止まらない少女は少年の胸元に顔を埋める。少年は優しくそれを受け止める。愛にあふれている。
「いいんだよ…アスカ。セントラルドグマで言ったけど、僕が悪いんだから。君が気にすることは無いんだ。冬月先生の教えは守らないとね。一瞬だけど、忘れてたよ。先生の言葉は覚えていないとね」
シンジは泣きわめく少女を受け止めながら優しくささやく。彼らの恩師にして祖父である人物のことを。かの人物は立場上は彼らの敵となってこそいるが、実情では盛大な茶番を演じている。それを理解できない二人ではない。
「先生は…敵じゃないよね?」
涙声で少女は少年に聞いた。
「あぁ。冬月先生は敵じゃない。見た目だけだよ、僕が向こうにいる時、先生は全部を教えてくれた。ニアサーもサードも…父さんのことも。0から100までの全部を教えてくれた。敵なら、わざわざ、自分たちの手の内を教えるわけがない」
「そう…よね。なら、先生のためにも精一杯やらなきゃ」
涙を拭いて、少女はいつもの凛々しい顔に戻った。
「そうさ。先生は僕たちのために、先生は先生で孤独な戦いをしている」
二人はその後も話していた。おおよそ20分ぐらいが経ったぐらいの時に、来客が現れた。プラグの扉から、ニョキッと二人の者が顔を出していた。
「お邪魔だったかな?シンジ君」
「いや、丁度いいタイミングだったよ。ほら、行こうアスカ」
「うん…SEELEの少年はまだ生きているのね」
「やめてほしいなぁ、その呼び方は。僕はもうSEELEの少年じゃない。言うなれば、碇シンジ君の少年かな」
「どちらにしろ、ヤバいわね」
SEELEの少年と渚カヲルは認識されているようだが、それは違う。つい先のフォース未遂でSEELEは完全に沈黙した。沈黙したというよりは、自分から冬眠に入ったと言った方が適当だろうか。建前はゼーレ所属でも、心は碇シンジ所属である。全ては彼の幸せのために。彼は動くのだ。
しかし、結論としては、少女にとっては彼を危険分子と見るのが正解だ。
「それに、初期ロットもいるみたいね」
「えぇ」
カヲルの横にはアヤナミ・レイが顔を出していた。彼女はエヴァMK-9に乗っていたが、覚醒状態になると同時に操縦をアダムスの器に奪われたので緊急脱出していた。アスカはそのMK-9と戦闘して弐号機と引き換えにMK-9を撃破していた。
「僕はもうNERVでもSEELEの者(物)じゃない。言ったけど、シンジ君の者(物)なんだ。君たちのヴィレに合流することになるだろうけど、そこは理解した上で動いて貰いたいね」
「その言い方はやめようよ。僕たちは相当嫌われているよ」
「嫌われていてもさ。僕はともかく、君を嫌うのは理不尽が過ぎるし、それは愚かだよ。全ての元凶を差し置いて、君だけに押し付けるのは、まさに愚者のすることだよ」
「そうね。最初のアタシがそうだったわ。一応言っておくけど、皮肉なことにエヴァのパイロットである私たちが一番信頼されてないの。暫くヴンダーに戻ることは出来ないけど、戻った時に、ヴンダーで何も起こさないようにミサトたちに言っておくわ」
「そんなことは必要ない。シンジ君に害為す者がいれば、僕が裁きを下すだけだよ」
皆さん忘れてないだろうか?渚カヲルは"まだ使徒"なのである。第一の使徒から第十三の使徒に堕とされただけで、使徒であることに変わりはない。使徒なんだから、そのパワーは無くなっていない。対人なら最強だろう。
「シンジ…面倒な奴に目を付けられたわね」
「そうかもしれないね」
意外と仲良くできている三人に、ちょっと蚊帳の外だった一人が割り込んだ。
「碇君…これ」
「あ、僕のか。ありがとう、アヤナミ」
アヤナミはシンジにS-DATを手渡した。シンジが14年前から使用して来た骨董品だ。シンジが肌身離さず持っていた。それをプラグ内に落としていたのをアヤナミが目ざとく見つけて、シンジに返した。
「さ、行くわよ。せめて、リリンが救出に来れるぐらいまでの所まで行くわ。歩きになるけど、我慢してよね」
「行こう」
「うん」
「あぁ」
シンジ、アスカ、カヲル、アヤナミ・レイの4人は仲良く歩き始めた。彼らの歩く先は途方もなく長く広い赤い大地。
4人が向かう先。
そこは、どこなのだろうか?
続く
多分ですけど、今月で本小説のメインストーリーは終わります。
次回予告
中断されたフォースインパクト
脱出したエヴァのパイロットたちは合流を果たし、動き始める。
彼らが歩んでいく先では、久しき再会が待っていた。恩師と別れようと、シンジは教えを守る。
最後の戦いに備えて、各人が動き始める。
次回 新世紀エヴァンゲリオン 「第三村」