【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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前半は冬月先生回です。


箱舟

「人はいないが、資材だけはあるのは本当に笑える話だな」

 

冬月は一人で三隻の戦艦を眺めていた。その戦艦は基本的には同じ形状をしているのを見るに、同型の戦艦だ。いや、一応だが、若干ながら非常に小さな点で差異は見られる。これらの戦艦はNERVが建造した(厳密には一隻はまだ建造中)大型空中戦艦である。全体として、NHGと呼ばれている。

 

「加持君が強奪していったNHG Buße(ブーセ)は無人式全自動の箱舟として使われている。本来の運用用途を向こうでされているのは、どうもおかしな話だな。人類補完計画のために建造された三隻とは違い、あれは戦闘用の艦艇としては未完成だ。葛城君たちは、よくやっている。エヴァMK-4の波状攻撃を耐え抜いているのは、流石の一言に尽きる」

 

ヴィレで運用されているAAAヴンダーは、元はと言えばNERVで建造されたNHGの一番艦のBußeである。その艦艇を加持リョウジらが強奪して、ヴィレの方で改造された。具体的には主機にエヴァ初号機を補機にS2機関を入れ込んでいる。AAAとなる前のBußeの時から艦内には種子保管ユニットを持っている。これを使って、種の保存を行うべくして、加持は動いた。

 

ただ、前述の通りで種の保存を行うことを想定しているので、戦闘には向いていない。一応主砲を搭載しているが、その火力は決して十分とは言えない。だから無人艦を護衛として付けている。火力が足りないのだが、使い方を工夫すれば幾らでも化ける。指揮を執る葛城ミサトはNERVから刺客として送り込まれるエヴァMK-4の波状攻撃を全て跳ね返した。

 

「パリで行われた戦闘では、4444Cをも撃破したか。マリ君もよくやる。老人の茶番に付き合ってくれている。戦闘後にはユーロNERVの残した置き土産を掘り出した…彼らも彼らで頑張ってくれた。彼らの犠牲は無駄にはせん」

 

最近では、パリに進出していたヴィレに対して、NERVからエヴァMK-4の空中戦仕様(44A)を大量投入した。さらには一気にヴィレを葬り去るために、NERVは禁忌を犯した。電力供給特化型エヴァンゲリオンMK-4(44B)と陽電子砲搭載陸戦型エヴァンゲリオンMK-4(4444C)を投入した。

前者は単純にエヴァ自体を丸々電源装置にしただけで、単体の戦闘力はゼロだ。しかし、問題は後者である。4444Cはその名前の通りで、陸戦仕様のエヴァとなっている。そして、なんとこいつは陽電子砲を持っている。陽電子砲は一撃当たりの威力は如何なる兵器を圧倒する代わりに、大きな弱点がある。それは莫大な電力を必要とすること。しかし、無限機関であるS2機関を持つエヴァを電源装置にして、大量に運用することで、この弱点を克服した。エヴァという発電施設が動くから、陽電子砲本体を移動して使用することが可能になった。また、陽電子砲は再発射の時間がかかるため、連射がきかない弱点もあったが、これも、エヴァを電源装置にすることで、超急速な電力供給を可能にしたことで克服した。

 

しかし、ここで詳しい方なら何か引っかからないだろうか?陽電子砲をエヴァが使用しているのだ。それも使徒相手ではなく、同じリリン相手に。それはバチカン条約違反じゃないのか?この疑問への答えは「ご名答」だ。間違いなく、バチカン条約違反だ。そんなことは百も承知である。違反だとしても、この世界に国連も何もない。誰も違反を通告して、制裁を与えることは出来ない。だから、好き勝手出来る。

 

目的のために、法を犯すことは全く厭わなかった。

 

その超兵器を送り込んだものの、ヴィレのエヴァ八号機の奮戦によって撃破された。戦闘後にヴィレは、花の都ことパリにあったユーロNERVの設備を復旧させて、エヴァ弐号機のパーツやその他のモノを回収した。

 

ユーロNERVはユーロNERVで、後の者に全てを託して、残していた。

 

「シンジ君の人類補完計画のためなら、私は幾らでも禁忌を犯そう。私がこうして、生きているのは、全て彼のためなのだからな」

 

その老人は改めて、覚悟を決めていた。ここまで来たのなら引き下がることはできない。どうせ、ここまで来てしまったのだ。行く所まで行ってしまえ。そして、ゴールテープを切ろうではないか。

 

「カギは揃いつつある。エヴァンゲリオン第壱拾参号機、第十二の使徒、絶望のロンギヌスの槍と希望のカシウスの槍、ネブカドネザルの鍵、黒い月、4隻(見方によっては4機)のNHG。これが揃いつつある。これが揃い、儀式が執り行われることで、アディショナルインパクトを発生される。そして、その先に待っているのは、一人の男のエゴの世界。悪いな、碇。私は、どうも受け入れられない。だから、私は一人の少年に託すとしよう」

 

老人はくるりと180度回転して、歩き出した。

 

「全ては君の手にあるのだよ、碇シンジ君」

 

 

~第三村~

 

「え?」

 

シンジは川釣りをしていたら、誰かに呼ばれた気がした。確かに呼ばれた気がしたのだが、周囲には誰もいない。彼以外に人は誰もいない。いるのは木と岩、土、川、川のお魚ぐらいだ。もちろん、今あげたのが彼に話しかけるわけがない。だから、彼を呼ぶことは有り得ないことだ。

 

でも、呼ばれた。

 

「まぁ…いいか」

 

シンジは気のせいだと思って、釣りに戻る。釣りを続けているのだが、そこまで沢山は釣れていない。鮎が数匹を吊り上げたぐらいで、大漁とは行かないでいた。たくさん釣れ過ぎても、それはせっかく元に戻った自然を破壊してしまう。程々にが一番だ。

 

「アヤナミやカヲル君は上手くやれているのかな?」

 

働いているのはシンジだけではない。アヤナミやカヲルも働いている。アヤナミに割り当てられたのは農業だった。農業と言うと仰々しいが、単に手植えの稲作や畑作を手伝っている。そう言っても、立派な、れっきとした農業だ。農業は第三村の命を守っている、大事な大事なことだ。

カヲルは、トウジの診療所でトウジの手伝いをしている。第三村唯一の医療機関たる鈴原診療所では、毎日人々が診てもらうために診療所を訪れる。いくら高性能機械があっても、訪れてくる人を一人で捌くトウジは大変で仕方ない。そこで、カヲルがサポートに入った。カヲルはトウジのする診療を手伝ったり、医療設備の使用などをしている。

これは余談だが、診療所に新しい看護師さんとして、美麗な若い子が来たということで話題になっている。しかし、本人は一切、何も気にしていない。周りのことは知らない。彼にとっては、碇シンジ君が一番だから。

 

名が挙がらなかったアスカは、ヴィレのエヴァパイロットなので免除されている。死と隣り合わせの戦争に身を投じている彼女に労働を要求するのは、筋が通らない話だからだ。

 

そう、友人のことを心配していると、竿がしなった。

 

「お、来たかな?」

 

何となく、感覚でリールを巻いていく。

 

人が頻繁に立ち入ることが無い山にある川だからか、魚が割と食いついてくれる。ここは水深のある海釣りではなく、水深の浅い川釣りなので一気に引き上げる。

 

針には、一匹のお魚さんがいた。

 

「これは…鮇かな?鮇も鮎と一緒に串にさして囲炉裏で焼くかな」

 

鮇は鮎たちが待つクーラーボックスに放り込まれる。クーラーボックスの中は鮎と鮇でぎゅうぎゅうだ。これ以上は釣れそうにないし、日も降りてきたので、切り上げ時と思われる。

 

竿など釣り道具一式を纏めて、帰る準備をすると。

 

「お疲れ様、どうだった?」

 

「そっちこそ、お疲れ様。まぁ、ボチボチってところかな」

 

「そうか。悪いが碇…」

 

「あぁ、いいよ。料理は任せて」

 

「すまん」

 

車に乗り込んで、第三村に帰っていく二人だった。

 

続く




皆さんが気になっている(気になってなかったらごめんなさい)黒波ちゃんの生末ですが、まだ考え中です。頭の中で様々な候補を上げて、検討しています。なので、「確実にこうなる!」と言う所には行っていないです。

次回予告

老人は一人の少年のために、カギを揃えていた。そのカギが揃い、儀式が行われる時。全てが終わり、全てが始まるだろう。

その少年は山での川釣りを楽しんでいた。

第三村に戻って、少年は久し振りに料理をする。腕を振るうシンジに、それに期待する者達。

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「料理人 碇シンジ」

「久し振りに腕がなるな」

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