【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
追記
書き忘れていた内容があったので、修整しました。
投稿日22:28
「よっし、久しぶりに腕がなる」
シンジは家に戻って、調理場に立っていた。今日手に入った新鮮な鮎と鮇を調理するためだ。それだけではない、お裾分けでもらった野菜もある。料理をするのは14年ぶりであるが、一人で料理を含めた家事全般をしてきたので、動きは体に染み付いている。たとえ長期間してこなくても、勝手に体が動いてくれる。
「大丈夫か?手伝うけど」
「そうだなぁ、魚の処理で時間がかかるから、こっちの片づけをお願いできる?」
「わかった」
調理場でクーラーボックスを開けて、釣ってきた魚の下処理を行う。そのままの鮎や鮇は表面がヌメヌメしているので、流水でしっかりと流す。そして、お腹を押して、フンを出す。出てこなくなるまで徹底的に出す。誰も魚のフンなんて食べたくないだろうから、徹底的にする。そして、内蔵も取ってしまう。よほど内蔵好きでなければ、取ってしまったほうがいい。もちろん、ここは皆さんの好みで変わる。
そのシンジの横ではケンスケが釣り道具などの片づけをしている。ケンスケも夕食の準備をしなければ間に合わないのでは?と思われるかもしれないが、囲炉裏で焼く場合は時間がかかる。おおよそ、最低でも一時間はかかる。だから、片づけをする時間はある。
下処理が終われば、鮎と鮇を串に刺す。串を指すときには、残酷だが口から入れる。串は中骨に沿うように、魚をくねらせて串を刺す。串の先っぽは尾が串の上になるように尾びれに抜くようにする。全ての魚に刺せるだけ刺したら、できる限り形を整える。見た目は美しくだ。そして塩を振ると行きたかったが、振らない。というか、振れない。塩の源たる海水が無いからだ。正確には死の海たる赤い海となっているので、死の海から作られた塩が安全とは言えないからだ。ニアサー/サード以前なら、赤い海の浄化が可能な設備があり、浄化された海水から塩を作っていた。しかし、今はその施設はない。一応、気休めだがヴィレが研究所として浄化施設を復旧させているが、前ほどの能力を持つに至っていない。防護服をつけて活動するだけで一苦労だというのに、さらに海の浄化をして塩を作れというのは、あまりにも酷な話だ。
人間が活動するための最低限の塩の生産は行われいるが、それも最低限で余剰が無い。そのため、塩焼きのように贅沢には使えない。
それでは、面白くない。完全な塩の代替品ではないが、化学的に作られた調味料をすり込む。塩味というよりは、ちょっと辛いという感じだ。化学的に作っているので、多少の量は生産することができる。
「よし、できた。あとは、囲炉裏を」
魚の下処理と焼きの準備を終えたので、シンジが囲炉裏へ向かおうとした時だった。
「戻ったわよ」
「何か音がすると思えば、やはりシンジ君か」
アスカ、カヲルが帰ってきた。アスカは労働の義務が免除されているが、体を動かさないと鈍ってしまう。だから、定期的に体を動かすようにしていた。カヲルは鈴原診療所の手伝いを終えて帰ってきた。今日も、カヲルは鈴原診療所のアイドルとして大人気だ。
そんな二人はお腹を空かしているだろう。
「お帰り。悪いけど、夕食の時まで待ってね」
シンジはその足で囲炉裏へと向かった。囲炉裏と言っても、昔ながらの木や石なのでできた囲炉裏ではない。ケンスケの家は、旧二俣線(現天竜浜名湖鉄道)の施設を流用しているから、他の民家にあるような囲炉裏がなかった。そこで、この家には廃材を流用したお手製の囲炉裏がある。廃材の鉄板やコンクリ材を使って、不燃性を確保している。囲炉裏の三文字に恥じぬように、中央部には炭と灰を置いている。
「火は…いいね。この火力を維持しないと」
「シンジ…炭の扱い方わかるの?」
アスカが聞いてきた。
「え?あぁ、わかるよ。昔、何回か冬月先生がバーベキューに連れて行ってくれたんだ」
「あ…そう…なのね」
「気を遣わなくていいよ。思い出は消えないから」
シンジはニアサー・サード以前に、何回か冬月に連れられてバーベキューに行っていた。その時に、当たり前だが、食材を焼くのに炭を使っていた。その経験があるので、炭の使い方はわかっていた。既に手作りの囲炉裏の炭には火が入っている。
それは冬月と行ったバーベキューで培った。
今、冬月はNERVにいる。副司令という立場で、茶番を演じている。
アスカは、シンジの心を痛めてしまったと思って、言葉に詰まってしまったが、シンジは気にしていなかった。昔なら、気に病んでしまっただろうが、彼は見た目に反して心は成長していた。
「ほら、危ないよ」
たまにだがアツアツの炭から、火の粉が風に乗って舞うことがあるので、アスカを守る。
「ケンケンは?」
「片づけをしているはずだけど…あぁ、来た来た」
ちょうどいいタイミングで、ケンスケが達が来た。片づけをしていたのはケンスケだけだったが、カヲルがついていた。多分だが、ケンスケの手伝いをしていたと思われる。片付けでも、なんでも、一人よりも、二人でやるほうが圧倒的に効率が良い。
「そっちは頼むよ」
「うん、任せて」
「アスカも行ってていいよ、ここは熱いから」
「そうね、そうするわ」
アスカはケンスケについて行った。しかし、カヲルだけは残っていた。彼もついて行けばいいのに。
「炭は火力が強いから、気を付けないといけないよ」
カヲルに言われるまでもなく知っている。「そんなこと知っているよ」なんて無粋なことは言わない。自分の身を案じて注意してくれたんだから。
シンジは火傷しないように、細心の注意を払いながら、串を炭を囲むように配置する。配置が完了したら、微調整をする。わずかな差が味を決めるので、シンジは真剣だった。配置された串は綺麗な円形をしている。
「これで終わりかな?」
「うん、あとは焼けるのを待つだけだよ。ざっと…1時間と少しかな。1時間も焼けば、ふっくらとした美味しい塩焼きになるはず。多分だけどね」
「大丈夫だよ。君が作ったのなら、必ずおいしくなる」
「ありがとう、カヲル君」
基本的にカヲルはシンジのことは全肯定している。余程、間違ったことでない限り、否定はしない。シンジはそんな間違ったことはしないので、現実では全肯定しかしていない。これを美化して言うなら、絶対的な信頼と言おう。全肯定と言うか、絶対的な信頼と言うかは、皆様次第である。
囲炉裏の前に座って、何となく炭を見つめるシンジ。その横にカヲルも座った。
「まだ、考えているのかい?」
「うん、この後僕はどうすればいいのかなって。父さんを止めるって決意はしているけど、なんかね」
「確実に、碇ゲンドウが行っていることは許されることじゃない。でも、碇ゲンドウは君の実の父親だ。君は実の父と向き合うことが不安。かな?」
「すごいな…カヲル君か。僕の考えていたことを違わず読めちゃうんだから」
カヲルの読んだ通りで、シンジは父である碇ゲンドウと真正面から向き合うことができるのか不安だった。これまで幾度か向き合おうとしてきたが、向き合うことはできなかった。自分から、父と向き合うことから逃げてしまっていたのだ。逃げという一種の失敗があるのが、彼にとって足かせとなっていた。
「それは、君次第だ。逃げるも、逃げないも、君が決めることだよ。向き合いたければ、向き合えばいい。逃げるのも自由だ。でも、後になって後悔しないようにするんだ。少なくとも、君の恩師はこう言うと思うよ」
シンジがそれに答えることはなかった。首を振ったりするなどすることもなかった。
しかし、その眼だけは前を捉えていた。それだけは、ここに記しておきたいと思う。
そのあと、シンジは火の監視をカヲルに任せて台所に戻った。ケンスケ宅に配給された野菜を使って料理をするためである。昔のように再生肉はないので、野菜が中心となる。ジャガイモなどの根菜から葉物野菜もある。調味料も化学調味料があるので、頑張れば野菜を大変身させることができる。
ほうれん草があったので、それをサッと茹でて、冷水でしめて、調味料で軽くあえれば即席のお浸しの完成だ。食材を無駄にしないために、ほうれん草は根の部分までちゃんと使う。しっかりと調理すれば、一見食べれらなさそうな所でも全然食べられる。
ジャガイモとニンジンは俗にいうゴロゴロ野菜サイズにカットして、フライパンと鍋を兼用できるハイブリット式フライパンで炒める。しばらく炒めて、火が通ったと思えば、お水と調味料を入れて、煮込みにシフトする。割と時間があるので、弱火でじっくりと煮込む。煮込み終われば、簡単なポトフの完成だ。お肉が無いので質素だが、贅沢は言っていられない。
これ以上にも作りたいが、食材を浪費することはできない。ここらで切り上げである。おかず系の料理を終えたので、あとは主食である。主食は言わずもがな、お米だ、自給自足で稲作をしているので、当然であろうて。
そうして、本日の献立が揃った。白飯に、ほうれん草のお浸し、ポトフ、鮇と鮎の串焼きである。
囲炉裏で焼いた魚は一時間ほど焼いただけはあり、ふっくらとしていた。昔ながらの調理法は素晴らしいことを教えてくれる。4人はシンジの手料理に舌鼓を打った。毎日自炊はしているが、やはりシンジのような家庭料理の達人が作ると全く違った。また、食材が足りない時などは食事をレーションで済ませることがある。そのレーションの味に慣れていると、シンジの料理は最高の一言に尽きた。
存分に味わった面々は、シンジのことを称賛した。
特にカヲルに関しては、シンジの手料理に酔ってしまった。酔った結果、シンジにべたべたと物理的にタッチしたので、時折アスカが引き離すという光景が見られた。
人を酔わせるほどの威力とは、本当に恐れ入る。
続く
次回予告
労働の日々を送る面々だったが、久しぶりに休みをもらった。
気分転換でもということで、みんなで近郊の湖に出かける。
そこには、絶滅したはずの生物が生きていた。
シンジは、その生き物に懐かしき友人を思い出す。
次回 新世紀エヴァンゲリオン 「ペンペン…?」
「クエッ!!」