【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
学校での一件で、学校でやや過ごしづらい毎日を送っている碇シンジは、学校での授業にもあまり入っていなかった。出席はしても、授業にそこまで集中することはなかった。休み時間にも一人でいることが多い…ことは無い。というのも、同じクラスには零号機パイロットの綾波レイがおり、彼女とよく過ごしていた。これは冬月が手を回して、二人が自然と仲良くするように仕向けたのと、シンジ本人が彼女に惹かれたためである。
冬月は表向きでは「パイロット同士が仲良くすることで、対使徒戦におけるエヴァ同士の連携を強める」ということで動いた。裏ではシンジの幸せを願って、また将来的なことを考えて布石を打ったのである。表向きの理由は極めて当然なことだから、ゲンドウも了承している。
二人は皮肉にも仕組まれた運命のためか、案外馬が合って仲良くしている。その光景はカップルを通り越して夫婦のようなものであった。どうも傍から見ると綾波がシンジに対して惚けているような感じであるのが原因だ。
そんなシンジと綾波の学校での休み時間。
「そうだ、今度冬月先生のところに勉強を教わりに行こうよ。冬月先生が教えてくれるから」
「碇君が行くなら」
「よし、明日には行こうかな」
冬月は誰よりもパイロットたちに目をかけていて、ファースト、サード両者に分け隔てなく接していた。レイのほうはユイ君のクローンで、冬月にとっては教え子の姿が両者に重なって一層教育者としての心が動いた。それはNERV内では好々爺冬月副司令ということで好意的に受け止められている。
シンジが綾波を誘ったが、冬月はシンジに勉強を教えていた。中学での学問であれば、冬月は全般を教えることができる。数学も英語も教えている。元々は大学教授なだけはあって、教え方が非常に上手だった。長い経験で培ったノウハウが遺憾なく発揮されていた。そのおかげかシンジの成績は学年でも上位に食い込むレベルだった。見事なり冬月コウゾウ。
「そういえばさ、綾波は一人で暮らしているの?」
「えぇ」
※カードの一幕は無い
「え、一人なんだ。ということは一人暮らしなんだね。ちなみに、食事は自分で作っているの?」
「いいえ。食事はカプセルやサプリで済ませているの」
「カ、カプセルに…サプリ…どんな食事なんだ」
まさかのカミングアウトにシンジは思わず硬直する。いくら食糧難の世の中であるとはいえ、そんな食生活とは思いもしなかったからだ。ショックから持ち直したシンジは、少し考え込む。そしてひらめいた。
「よし!じゃあさ、綾波も一緒に住もうよ。僕と葛城さんと」
「え?碇君と?」
「そう。だって、そんな食事なんてダメだよ。それに、一人だと寂しいじゃん。みんなで過ごせば楽しいし、食事は僕が作るから」
既に碇シンジお手製のお弁当を受け取って、それを美味しくいただいている。綾波はシンジの料理は大好きだった。自分のことを考えてくれていて美味しいのだから好きにならないわけがない。さらに、一緒に住まないかとの提案である。レイにとってシンジはたった一人のパイロット仲間で、一緒にいて心からポカポカする(楽しい)と感じる存在だった。だから二つ返事で了承してもよい。だが、問題がある。
「碇司令や赤木博士から許可を得ないと」
「大丈夫だよ。そこは僕に伝手があるから」
赤木博士はともかくとして、シンジから上層部に掛け合うことは普通にできる。ただ、上層部で一番の人間は自身の実の父親で色々と複雑な思いのあるゲンドウである。となるとだ。現状で直で話すのは厳しいものがある。しかし、同等の力を持っていてゲンドウとも近い人間がいる。そう、冬月コウゾウ副司令だ。彼はシンジとは良好な関係を築いていて、教師と生徒のような関係だった。
「冬月先生なら認めてくれる。今度に勉強を教わるついでにお願いしようかな」
シンジが冬月に頼ろうとしているとき、その本人はNERV本部内を動き回っていた。これでも副司令であるから、書類仕事だけでなく内部の監査などの仕事もある。監査と言っても職務をちゃんとこなしているかを確認するだけだ。今は。監査として赤城博士が責任者である部署に来た。また、確認したいこともある。
「ふむ、頑張っているようだな。この前の使徒戦の分析はどうだね?」
監査が来ることはわかっているので赤木博士が出迎えてくれていた。
「正直に言って、不明な点が多すぎます。使徒に関しては依然としてわからないことだらけですが、我々が作り出したエヴァ初号機についてが…」
「やはり、あの暴走か」
「はい」
冬月は前世の記憶から暴走の理由はよくわかっている。言うまでもなく初号機のコアとなっている碇シンジの母、碇ユイの意思による。彼女が愛する子を守る為に、自我を目覚めさせて暴走した。
「エヴァが暴走するのはこれまで零号機で数回あったので理解できないわけではありません。しかし、今回の初号機の暴走は度が違います。使徒を圧倒するパワーに運動量。極めつけは、ATフィールドを展開して中和すること。絶対不干渉の力を持っているATフィールドをいとも容易く無効化するとは」
「エヴァ初号機は大きく言って使徒のコピーだ。だから、理論上は使徒の真似ごとを可能だと言える。しかし、それでもだな」
「まったくです」
エヴァはただのロボットではない。そのことをNERVの職員たちは思い知らされていた。初号機は使徒をコピーして作ったエヴァであるから、一応使徒のできることは初号機でもできる。先の戦いでの初号機の動きは絶対に理解できないわけではないが、それに対してすんなりと首を縦に振ることはできない。この問題は現在も鋭意分析中であるから、上がってくる報告を待つしかない。
冬月は事前に頼んでおいた、全くの別件を聞いた。
「現状で動けるエヴァは初号機だけだ。使徒と延々と素手で戦わせるわけにはいかない。そこで頼んだ対使徒戦用のエヴァの携行武器はどうなっている?」
「NN兵器はまだ完成していませんが、頼まれた改良型の武器はいくつか完成しています。携行式のサブマシンガンからアサルトライフル、ガトリング砲も出来ています。弾頭には劣化ウラン弾を使用していますが、エヴァの装甲版なら放射線は防げます」
「劣化ウラン弾か、ますます市民の避難誘導を徹底せねばならんな。パイロットに負担をかけるようなことは避けたいだけでなく、市民が使徒戦で被ばくするなんてことは絶対にあってはならん」
「一撃のダメージより、確実にダメージを与えることを重視した結果です。貫徹力を考えれば、劣化ウラン弾しかありませんでしたので」
「こればかりは致し方あるまい。私が無茶なことを頼んだのが悪い。使徒を撃滅することが我々の主たる目的だ。それが達成されるためなら、言うことは無い。エヴァ用のNN兵器の改造も頼むぞ」
「はい」
冬月が兵器に関して積極的に口を出すのには理由がある。それは彼がこの世界に違和感を抱いたからだ。それは、前世と使徒が少々違うこと。前世の記憶と経験を頼りにして動こうと考えていたのだが、これによって冷や水を大量に浴びせられた。来る使徒が違うとなれば、記憶は一切通用しない。経験でどうにかするしかない。前世では既存兵装が使徒に通用しないことが多々あったので、せめてシンジ君たちが戦いやすいように兵器に口出ししていたのだ。確実にダメージを与えるために、使徒の体を貫くことを一番としている。ATフィールドを出されては意味がないが、何もやらないよりは遥かにマシである。
赤木博士の部署を離れて、他の部署に向かいつつ冬月は独り言を呟いていた。それも深刻そうに。
「完全に世界は戻ったわけではないということか。ユイ君、私の力で出来ることはするが、この老人の力が果たして及ぶだろうか。いや、やるしかないか。君で出来たんだ。この私に…私に出来ないはずがない。ただの老人の酔狂ではないことを見せつけてやらんとな」
続く
次話が第五の使徒(新劇)の予定です。
※劣化ウランではなくタングステンでもいいのではとのご意見がありましたが、原作では劣化ウランを使用していました。原作を変えてはいますが、変えないところは変えないつもりでいたので、劣化ウランとさせていただきました。原作要素を尊重するためですのでご理解の程よろしくお願いします。
それでは次のお話でお会いしましょう。