【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
第三村は慌ただしい様子にあった。普段の穏やかな、ゆっくりとした時間の流れる第三村ではない。全くの真逆だ。
これは、つい最近来た連絡のせいである。
「ヴィレのヴンダーが来るやと?」
「あぁ。ヴィレの最後の寄港になる」
「シンジはどうするんや?」
「さぁな…まぁ、碇は大丈夫だ。碇は見た目の変化はないが、心の変化は著しかった。俺たちが心配するのも、野暮ってやつだ」
「せやな。なぁ、シンジ…頼むで」
ヴンダーが第三村に来ることは、シンジ達も聞いていた。その当事者たちは一堂に会していた。
~ケンスケの家~
「やっと、迎えが来るのね」
「最後の戦いの時が来たということだね」
ヴィレの貴重な戦力であるアスカの回収も含めての諸々の目的で、AAAヴンダーが第三村に来る。第三村でアスカを回収して、クレーディト及び第三村への物資の引き渡しなどを行えば、再び飛ぶことになる。飛ぶ先は、言わずとも分かるだろう。
全ての始まりの地、南極である。
「言わなくても分かるとおもうけど、みんな連れて行くからね。第三村に置いておくなんてことはしないわよ。嫌がっても、無理やり連れて行くから」
「分かっているよ。むしろ、僕は進んでいくから」
「シンジ君が行くなら、僕がついて行かない選択肢なんてない。それに、万が一の時は僕の命は幾らでも差し出そう。元々は、あの時(フォース)に無くなっていた命だ。今更、惜しむこともない」
「碇君についていく」
アスカ以外の三人は皆ヴンダーに乗ることを選んだ。無論、乗らないという選択肢は用意されていないから、一者択一である。仮に拒否したり、悩んだりしたら、アスカは無理やりにでも連れて行くつもりだった。下手に第三村に置いておいて、NERVに奪取されたら堪らない。安全だと思っていたヴンダーでも、エヴァMK-9の強襲によってシンジを奪われた。いや、奪取された原因には、辛すぎるシンジへの対応が一番だと思われるが。
第三村は封印柱はあっても、防衛設備は無い。ハリネズミの針よりも多い第三新東京市とは大違いで、第三村は丸裸である。もし、ここにエヴァでなくても、何かしらの襲撃されたら、もう無理だ。
「そう、ならよかった。ただ、向こうでの生活は苦しいわよ。あたしたちでさえ、信頼されてないから、常時監視されている。自分から下手なことをしなくても、向こうから来たら、たっぷりの爆薬で吹き飛ばされる。当たり前だけど、爆薬で吹っ飛ぶなんて御免ね」
「変なことはしてこないと思うよ。リリンの王は、最後の儀式を行おうとしているからね」
「全ての鍵は揃っているだろうから、後は実行するだけ。でも、あの碇ゲンドウだから、何をして来るか分からないでしょ」
「確かに、それはそうだ」
碇ゲンドウが何をしようとしているのかは分かるのだが、その手段が読めない。今まで予想だにしていない手段を取って来た男だ。なんと、第一の使徒をフォースのトリガーにしてしまう程の人物。過剰なぐらいに警戒しても、損は無い。
「その儀式だけど、カギを使えなくすればいい。あたしともう一人でエヴァ第壱拾参号機の強制停止を試みて、それが成功すれば勝ち。ロンギヌスとカシウスの槍があっても、エヴァが使えなければ、アディショナルインパクトは起こせない」
「嫌なことだよ。僕たちの希望のエヴァが絶望のエヴァになるなんてね」
「元々絶望のエヴァよ。それも、まさかダミーシステムを搭載しているとは思わなかったエヴァ」
やけにアスカが詳しいなと思われた方がいるかもしれないが、情報をリークされているから全てを知っている。協力者が過去にいた、また現在にいるので、逐一入ってくる。だから、割と知っている。
「でも、ヴィレの戦力で足りるの?」
「シンジ…あんたねぇ。あたしがいるのよ?それに、もう一機エヴァがいるし、ヴンダーもある。それを率いるは葛城ミサト。これを豪華メンバー以外と言わないなら、何と言うの?」
シンジは純粋にヴィレのことを心配した。ヴィレの戦力は旗艦ヴンダーに無人艦、エヴァ弐号機と八号機という超豪華メンバーである。その他にも人間の兵士がいるが、とてもではないが生身の人間が戦えるわけがない。人間を除き、巨大空中戦艦にエヴァ二機と言うのは常識で考えれば、一国に匹敵する戦力だ。
しかし、この世界を常識で見てはならない。もし、常識で見る者がいたら、一年も経たずして死に追いやられる。何から何まで常識なんてものは通用しない。いや、この世界の辞書から常識の二文字を削除したほうがいいかもしれない。誇張しすぎだと言われるかもしれないが、世界はそのぐらいだとご理解いただきたい。
「僕はNERVにいたから分かるけど、NERVの戦力は正直に言って、ヴィレが子供に見えてしまうよ。向こうでは完全自律戦闘が可能なエヴァが数え切れない程ある。それに、何か隠しているようだし」
「そうだけど、質は量を上回る。たかが無人のエヴァが、私たちに勝てるわけないでしょ?」
ヴィレの戦力を数だけで見て、1としよう。対してNERVの戦力は10000となるだろう。もちろん、これは大雑把なので正確には異なる。数で言うと圧倒的な差があるのを言いたい。
しかし、質で見るのであれば変わってくる。NERVのエヴァは自律戦闘型の無人機であるから芸がない。対して弐号機など、パイロットが乗っていれば、多芸なことが出来る。古来から数で攻める戦法は有力だが、それが絶対とは限らない。世の中に絶対なんてないから至極当然だ。
「心配してくれるのは嬉しいけど、シンジは心配し過ぎ。あたし達に任せなさい。シンジたちが出る幕はないわ」
アスカは強がっているのではなく、「シンジを巻き込みたくない」、「シンジを苦しめたくない」の心でこのように言った。それは彼女の純粋な心からの思いである。
しかし、シンジは故無い不安感に包まれていた。理由のない不安感と言うのは、理由が無いから「くだらない」と言われがちだが、馬鹿にしてはいけない。人間には第六感と言うものがある。その第六感を軽視すると、時には死へとつながる。実際に、第六感を信じたおかげで、死から免れたということがある。
※私の曾祖父がそうです
「シンジ君、今は彼女を信じよう。大丈夫だから」
「そ…そうだね」
カヲルはシンジが潰れないように諭した。
そのシンジは無理やり自分を落ち着かせた。ちょっと考えすぎだと。また、心配要素しかないわけではない。幸い、安心要素と言うのもある。なぜなら、向こうには自分の恩師がいる。あの方がいれば、どうにかなるかもしれない。幾度となく窮地を打開してきた人がいる。
「冬月先生がいる。先生…」
シンジは恩師を想った。その恩師は向こうにいる。自分のために、いろんなことを教えてくれた。助けてくれた。いつもそばにいてくれた。恩師がいなければ、今頃自分は心を壊してしまっていただろう。離れたから、本当に分かった、恩師のありがたさを。
その恩師は、自分に好きにするように言ってくれた。何をしても、恩師は認めてくれる。自分を見てくれる。
だから、恩師の言葉を忘れることなく、最善を尽くそう。
「本当にもしもだよ。クドイけど、最悪の最悪の場合は、僕も出るからね。僕の父さんがやっていることなんだから、本当は息子である僕が止めないといけない。もちろん、自分で全部やろうとしないで、人に頼ることも大事だよ。それでも、人に投げっ放しも良くないから。自分で出来ることはやらないと」
「そうだけど…シンジに出来るの?第壱拾参号機は向こうにあるから使えるわけがない。エヴァだって、弐号機と八号機だけ。ヴンダーもミサトが使う。シンジが使えそうなものって…まさか」
アスカは何かを思い出して、言葉に詰まった。彼女の言う通りで、シンジが使えそうなものは無い。しかしである。果たして本当にそうだろうか?何かを忘れていないだろうか?
「僕の事を待ってるからね、綾波が」
「ファーs、いえ、レイね」
「それに、もっと言えば僕の母さんもいる。父さんには、僕の母さんを会わせてあげないと」
シンジは笑顔で言った。
それは、サードチルドレン。運命を定められた少年の顔ではない。
親を想う子供の顔だった。
続く
次回予告
第三村に来たヴィレの旗艦AAAヴンダー
最後の戦いに身を投じるための準備が進む。シンジ達は、ヴンダーに自ら進んで乗り込む。
周囲から何を言われようと、どう見られようと構わない。
僕は僕のするべきことをする。
次回 新世紀エヴァンゲリオン 「碇さん!」