【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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おじいちゃんの奮闘が始まる。


※1.途中から冬月先生が出てきますが、現実に対面していなくても、セリフは全て「」となっています。
※2.原作と作戦行動内容の順序が変わっています
※3.文字数が爆発的に増加しないように、原作の描写を削っています


悪いね…私の劇に付き合ってもらうよ

ヴンダーは相も変わらず衛星軌道上にいた。地球上は遠いのであるが、地球上であまりにも目立ちすぎる光景を余裕でとらえることができた。

 

「黒き月が移動を開始!目標は南極の方向へ移動!」

 

「機関始動、南極への奇襲を行う」

 

地球上では黒き月と呼ばれる異様な物体が移動を始めた。遠近法の関係でノロノロと動いているように見えてしまうが、実際では、図体の割に結構な速度で移動している。その方向は、言わずもがな、セカンドインパクトが起きた、全ての始まりの地、南極。

 

地球上で最も、穢れなき地は南極だけだ。

 

ありとあらゆる生命が還った。

 

ありとあらゆる生命が存在しない。

 

そこでなければ、アディショナルインパクトを起こすことはできない。

 

「南極でNERVを打ち倒し、ここで全てを終わらせる!」

 

衛星軌道上で浮遊状態だったヴンダーは、機関を始動する。そして、一気に大気圏へと突入していく。ヴンダーは空中戦艦という、超ド級の艦である。全てが戦艦の枠を超えている。

 

だから、宇宙から地球への突入も楽々と行える。

 

自慢の推進力と重力の合わせ技で、恐ろしい速度を持つ。そして、一気に南極圏へと向かう。南極はセカンドインパクトの爆心地である。そこはただの赤い世界ではない。

 

「出ます!」

 

大気圏を突破して、雲を貫き、完全に地球に突入した。すぐさま、重力下の姿勢制御を開始する。無重力から重力下に来たので、ヴンダーの制御ガラリと変わる。艦の制御を行う操舵手は、額に脂汗を浮かべている。ここで失敗するわけにいかないのだ。その重圧は想像を絶する。

 

「見えた…黒き月だ」

 

ヴンダーから、黒き月を視認することができる。名前で「月」とは言うが、月たる要素は無い。それを助長するように、黒き月から何かが飛んでくる。むく鳥の大群衆が作り出す不気味な、とても筆舌し難い、アレである。それが、ただのむく鳥なら可愛いものだが、それはむく鳥じゃない。エヴァだ。見た目にもこだわったエヴァである。

 

「来ました!NERVのエヴァです!数は…無理です!数えきれません!」

 

「雑魚に構うな!弐号機と八号機の射出地点までは突っ込む!」

 

黒い月から繰り出したるは、NERVの誇る物量の権化だった。それは、見慣れたエヴァMK-4ではない。エヴァMK-7こと、真の量産型エヴァンゲリオン。見た目は、ゲテモノのMK-4と打って変わって、完全にエヴァだ。これは量産機の完成形と言えるだろう。ただ、通常のエヴァと異なるのは頭部がガイコツとなっている点である。これによって、数だけで不気味なのに、その不気味さに磨きがかかる。

 

数が数だけに無視できないのであるが、ヴィレの長の葛城ミサトは無視を選択した。確かに、まだエヴァ弐号機と八号機の発進地点までは遠い。ここで動きを狂わされるわけにはいかない。

 

「量産機ごときでヴンダーを止められるものなら止めてみろ」とでも言うのだろう。

 

「敵機、防壁を形成!」

 

「数を活かした戦法ね。よくわきまえているわね」

 

量産機は所詮、量産機。真正面から戦っても大したダメージを与えることはできない。ならば、ここは時間を稼ごう。パイロットの乗っていない無人機だから、気軽に捨て駒にできるのがMK-7の一番の強みだ。今回は攻撃ではなく、防御の捨て駒にした。幾千、いや、幾万のエヴァが合体して巨大な盾となる。それはヴンダーをも上回る大きさである。

 

「主砲斉射!」

 

さすがに盾を貫くには、盾に少しでも穴を開けなければならない。穴は開けられなくても、脆くはしておきたい。そのために、ヴンダーの主砲が火を噴いて、エヴァMK-7の盾に直撃する。速射性に優れる主砲の攻撃に、直撃を受ける度に盾は削れていった。

 

「全速で突っ込め!」

 

「全速行きます!」

 

ヴンダーは己を矛にして、盾に突貫した。圧倒的な運動エネルギーと重量の組み合わせは偉大だ。エヴァMK-7の大盾に突っ込んだヴンダーは、無理やり盾をこじ開けて、無茶苦茶に突破した。

 

「抜けました!くっ!まだ、来ます!」

 

「エヴァの発進地点までは?」

 

盾を抜けたというのに、まだまだエヴァがいる。いったい、どれだけの量を用意したんだ。ここまでだと、数えるという概念が消えてなくなりそうだ。ただ、幸いにも、盾を迅速に突破できたので、向こうの攻撃がこちらの動きに追い付けていない。

 

「あと1000…700…450…100…」

 

エヴァはその運動エネルギーを使った滑空で、黒い月に取り付く手筈になっている。あくまで滑空で行くので、決まった地点で、決まったタイミングにヴンダーから射出しないといけない。

 

量産機が来る前に、エヴァの射出を行うことができた。

 

「発進!」

 

「弐号機及び八号機、発進!」

 

ヴィレの誇る戦力のエヴァ弐号機とエヴァ八号機は仲良く二人揃って、ヴンダーから射出される。当たり前だが、徒手空拳の状態で戦うわけにはいかないので、両機ともに武器を持っている。近接戦闘に秀でているアスカは格闘兵装を持ち、射撃の腕が良いマリはガトリング砲を持っている。

 

「頼んだわよ。アスカ…マリ」

 

猛スピードで黒い月に向かって行ったエヴァ2機を見送る。NERVも馬鹿ではないから、2機のエヴァを脅威と見ないはずがない。第壱拾参号機を強制停止させるのは弐号機の仕事だ。だから、NERVはヴィレのエヴァをヴンダー以上の脅威と見ることができる。

 

実際に、それを証明するかのように、ヴンダーに向かって来ていた量産型エヴァは弐号機と八号機の方に向かっていった。

 

その一部が向かうなら理解できるが、なぜか、全部が2機に向かって行った。これは解せない。それでは、ヴンダーを止める手立てが無くなってしまうではないか。

 

まさかだが、ヴンダーをこのまま素通りさせることがあるわけがない。

 

その疑問の答えは、新たなる脅威と言う形で示された。

 

「っ!前方の下方より新しい反応!」

 

「敵反応、来ます!」

 

突如として結界から、巨大な艦艇が出現してきた。結界を盛大に破って、これまた黒い戦艦だ。黒き月だから、黒色で合わせているのかは不明である。もし、本当にそうなら面白みに欠ける。

 

「AAAヴンダーことNHG Buße(ブーセ)と姉妹艦。二番艦NHG Erlösung(エアレーズング)ね」

 

「なるほど…冬月コウゾウ副司令らしいわ。我々と対等に戦おうとするのは」

 

「悪いね。しばらく、私の劇に付き合ってもらうよ」

 

冬月が実際に乗って、操っているのはヴンダーと姉妹である二番艦の Erlösungである。ドイツ語で「救済」を意味する名を持つNHGの一隻だ。ヴンダーと姉妹であるのだが、血が繋がっているとは到底思えない。

 

なぜなら…

 

「ぐっ!やられました!直撃です!」

 

「砲撃戦用意!敵艦の攻撃能力を削ぐために、主砲は敵艦の管制部及び主砲部を狙え!進路そのまま!誘導弾発射地点までは一切の回避行動をとらない!」

 

「了解!」

 

この二隻の決定的な違いは、純粋な火力である。ヴンダーは元々は「種の保存」を主たる目的とした艦であるので、攻撃能力は無かった。一応、ヴィレに強奪されたときに主砲がつけられたが、火力勝負では劣勢。無理くりして戦闘艦にしたので、見た目の割には、未完成となっている。対して、Erlösungは最初から戦闘艦として設計されて、建造された。ガチガチの攻撃特化仕様なので、その火力は桁違いだ。

 

「使徒を模した主砲。生半可は許さないで、如何なることでも全力の徹底が絶対。流石ね、副司令は。全く変わらない」

 

「すまんね。私は手を抜くことを何よりも毛嫌いしている。その結果が、この艦だよ」

 

Erlösungの主砲は合計で7門。これだけで既にヴンダーを上回っている。もう、勝ちだ。しかし、冬月がそのぐらいで満足をするだろうか?答えは、ヴンダーの受けたダメージを見れば簡単だ。

 

"否"

 

絶対に手を抜かない老人は恐ろしかった。その主砲は砲身が無い。ただの球体である。なんだこれは?見た目だけなら間抜けだが、現実としての威力は凄まじかった。そして、主砲が火を噴くではなく、主砲が光った。そう、光ったのである。それも、あの最強の拒絶こと、第十の使徒の攻撃と同じように。

 

「火力が違いすぎますって!」

 

「狼狽えるな!ここで沈むことはない!」

 

「ここまで来たんだよ。止まれるわけがねぇ!」

 

火力で圧倒的に負けていて、真っ正面から撃ち合えば負けが決まっている。しかし、ミサトは一切揺るがなかった。回避行動はとらない。ここで変に回避をすれば、進路が大きく狂ってしまう。翼に携える誘導弾を第壱拾参号機を守る防壁に、確実に、効果的に直撃させるためには、動くわけにはいかない。

 

「ほう…そのまま行っていいのかね?」

 

冬月は頑として回避をとらないヴンダー及び葛城ミサトに感心した。これは相当の覚悟が無ければできない。その覚悟は、称賛に値する。「敵ながら天晴れ」だ。

しかし、それは同時に、こちらの土俵に居座るということを意味する。こちらの土俵だから、こちらの好きなように出来てしまう。

 

「私は年のせいか、用意周到を極めてしまっていてね」

 

撃ち合いをしつつ、意地でも、突貫をやめないヴンダーだった。

 

すると、更なる急報が指揮所を支配した。その急報は朗報ではなく、悲報だった。

 

「正面に新しい反応!」

 

「NHGは合計で4隻。完成した艦はもう1隻いたはず」

 

「三番艦…NHG Erbsünde(エルブズュンデ)か!」

 

もう一隻の黒いNHGがヴンダーの前に立ち塞がった。

 

「私を、"ただ老いただけ"だと思わないでくれ」

 

続く




次回予告

圧倒的な火力でじりじりとヴンダーを追い詰める冬月のErlösung(エアレーズング)

意地の突貫を止めないで全速で突っ込むヴンダーは死中に活を求める

しかし、冬月は生易しい人ではなかった

三番艦Erbsünde(エルブズュンデ)がヴンダーの正面に出現する

挟み撃ちをされるヴンダー

絶望的な状況に、ミサトは

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「冬月の妙策」

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