【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
先生のシナリオが幕を開ける…
アスカの弐号機を第壱拾参号機の所へ向かわせるために、マリは自ら進んで、腕エヴァとの戦闘を請け負った。出て来たのは、間に合わせで作られてあろうエヴァだ。これをエヴァと言うか、言わないか、それは人によるが、名前が付けづらいので、一応でエヴァとしておこう。
エヴァらしき腕を数基結合しており、見た目に合う、トリッキーな動きをして来る。
ただ、読めない動きではない。ちゃんと見ていれば全然読める。
「さて、請け負った仕事はきちんとやらないと!」
鞭を振るって、次々と腕エヴァを撃破していく。量産機でも何でもない急造兵器なので、その戦闘力は極めて低い。ただ腕があるだけなので、碌な攻撃が出来ない。MK-7のように武器は無く、引っ掻くも出来なさそうだ。
しかし、いくら間に合わせでも油断してはいけない。
「数を揃えてくるのは、流石ですよ。先生」
撃破していくが、先のエヴァMK-7と同じく、数が多い。MK-7よりも小さく、余剰パーツだけで作った感じから見るに、相当の量産性を持っていると考えるのが順当。
いくら倒しても、わらわらと出て来る。鞭を振るっても振るっても、やりきれない。こいつらに取り付かれることがあるので、時折片方の腕で引っぺがすのだが、その直後に、この兵器の威力を知ることになる。
引っぺがされた一機は爆発を起こした。エヴァの爆発にしては極めて微弱だが、威力は十分ある。あの爆発をゼロ距離、いや、ピッタリついた、結合状態で貰うわけにはいかない。いくら正規のエヴァでも、あれを貰えば腕が吹き飛ぶ。あの腕エヴァの腕は移動と敵に取り付くだけのもので、本命は自爆攻撃のようだ。非常に賢くて、非常に面倒な攻撃だ。元々自爆するのを目的とした攻撃なので容赦がない。連中は端からマトモに戦おうとしていないのだ。
「くっ!さっきの量産機風情よりも嫌なことね!」
自爆上等の攻撃ほど怖いものはない。近づかれたら、まず間違いなく爆発されるので、如何にして近づかせないかが重要になる。幸いにも、鞭はリーチに優れる。それに振り回せるので、一度に複数機を撃破できる。
「先生の課題は、変わらず熾烈ね!」
鞭を一度振り回す度に、腕エヴァが爆発する。爆発が爆発を呼ぶかのように見える。
「姫!頼むわよ!」
ここで腕エヴァを抑えなければ、弐号機の行動、作戦行動に大きな支障が出てしまう。そんなことは許されない。ここまで来て、作戦失敗というのはお笑いにもならない。死ぬ気は毛頭ないが、死ぬ覚悟で止める。
自分が防波堤となって、腕エヴァの濁流をせき止める。
1人の少女と1機のエヴァが孤軍奮闘している頃、全てを託された少女は、目標物にたどり着くことができた。
~アスカ視点~
「さて、やるか」
第壱拾参号機は嘗ての第二の使徒リリスのように、十字架に磔にされている。ご丁寧にもロンギヌスとカシウスの槍が突き刺さっていて、動くことは無いだろう。静止状態の目標に作業をするのは造作もないことだ。
「本当なら第壱拾参号機を完全に撃破したいんだけど、できないからの妥協策。この強制停止装置を突き刺して、完全に停止させてしまえばいい」
エヴァ第壱拾参号機はNERVが技術の粋を集めて、そして注入した本気のエヴァだ。性能はヴィレのエヴァを突き放している。ダブルエントリーシステムに4本の腕、ATフィールドを持たない代わりにのATフィールドを展開するインコム、圧倒的なパワー、機体の強度等々、何をどう取っても強いしか言えない。弐号機は幾度となく改修されているとはいえ、14年前からのエヴァ。八号機も弐号機ほどでなくても、古い機体であることに変わりはない。
どうやっても、頑張っても、2機のエヴァでは第壱拾参号機を破壊できないのだ。破壊できないのなら、心臓部を止めてしまえばいい。人間に毒を盛るのと同じ要領で、第壱拾参号機に強制停止プログラムを盛ることで、完全に機能を止める。一生動かなくなれば、リリンの王でも利用することは出来ない。
「これで終わらせる…」
十字架を登り、右手に強制停止装置を持つ。こちらの進撃速度が相手の準備を上回ったようで、第壱拾参号機の再起動は行われていない。アスカは勝ちを確信していた。
「シンジを苦しめた罪を知りなさい」
登頂を果たし、第壱拾参号機の上に立つ。躊躇は無い。自分の愛する者を利用して、フォースインパクトを起こそうとした忌々しきエヴァだ。こんなエヴァなんて、ぐっちゃぐちゃにしてやりたいが、出来ない。非常に残念なことではあるが、それでも一矢報いることが出来るだけでも感謝すべきだ。
「これで…終わりぃ!」
両手で強制停止装置をしっかりと持って、大きく振り上げて、そして怒りを込めて、全力で振り下ろした。ここまで力と怒りを込めていれば、もう一撃必殺だ。余りにも強いパワーでありから、いくら第壱拾参号機でもダメージが入りかねない。
そんな、怒りの裁きの鉄槌であった。
しかし。
甲高い音が響いた。
「ATフィールドっ!?嘘っ!ありえない。このエヴァに、ATフィールドは無いのに」
その通りである。先も述べたが、エヴァンゲリオン第壱拾参号機本体にはATフィールドが無い。その弱点を補うためのインコムだ。それを証明する事実として、アンチATフィールド弾こと、AA弾の攻撃を無効化したことがある。これを鑑みるに、ATフィールドが無いと見るしかない。
だが、第壱拾参号機と弐号機の間にATフィールドが形成された。
まさか…
「このアタシが…私が恐れているの?なんで…」
普通、ATフィールドと言うのは意識して出すものである。使徒戦などで、攻撃が自分に迫っている場合に防御の手段として使う。となれば、第壱拾参号機が展開するはずだが、これにATフィールド自体が無い。
では、こいつではない。じゃあ、誰が?
そう、弐号機である。もっと言ってしまえば、アスカだった。
なぜ?どこからも攻撃は無い。ATフィールドを展開する必要性は皆無だ。それに、アスカ自身も意図してATフィールドを展開するということはしていない。
だが、弐号機が、アスカが展開していた。表の感情や意識して展開していなくても、裏の心が動いた。人間は頭で考えていないことを勝手に体がしてしまう生き物だ。頭では「何もしない」と考えていても、体は「手を出す」ことをしてしまう。
そして、本人は気づいた。彼女は、恐れている。
このエヴァ第壱拾参号機を。
恐れている。
「自分で展開したATフィールドだから、簡単には破れない…」
相手の展開して来たATフィールドなら中和するなどして破ることが出来る。しかし
、これは自分が展開している。だから、タチが悪い。
自分が展開した?
だったら、自分を捨ててしまえ。
もう、たくさんだ。こりごりだ
「ごめん、弐号機…耐えて。もう…シンジに助けられるのは嫌なの!だからアタシが!」
徐にアスカは立って、自分の眼帯を破り捨てた。
アスカの眼が光った。
~同時刻~
孤軍奮闘していた八号機だったが、遂に力尽き始めていた。既にエヴァMK-7との戦闘でかなり疲労している。シンクロシステムの都合上、パイロットの状態が戦闘力にダイレクトに影響する。このエヴァの強みでもあり、致命的弱点でもあることが露呈した。
腕エヴァに取り付かれ、振り払うことも間に合わない。
自爆攻撃を貰った。
「ぐっ!姫…まだなの」
腕エヴァの自爆の威力は遺憾なく発揮されて、八号機の左腕を吹き飛ばした。ガクッと八号機は倒れる。それでも抗う。命ある限り、抗い続ける。その気概だけは誰にも負けていなかった。
しかし、突如として襲い掛かって来た悪寒が彼女を震えさせた。
「何…この感じは。姫の方から?」
状況は変わっていない。全く変わっていない。何かしらの急報も入って来ていない。では、何も起こっていないのだろう。
いや、そんなことは無い。絶対に何かが起こっている。でなければ、こんな悪寒が襲って来ることの証明がつかないではないか。
「もしかしてだけど…姫!人間を捨てようと!」
マリは非常に聡明な人物だった。すぐに、今起きていることに勘付いたのだ。
「使徒の力を使っちゃダメだ!アスカ!ワンコ君に会えなくなる!」
「始まったか。さて、ここからは君の仕事だぞ。シンジ君…私の出番は終わりだ」
続く
多分ですが、ちょっとキリが悪いので今日中にもう一話出します。
次回予告
第九の使徒の力を開放して、終止符を打とうするアスカ
しかし、それは人を捨てることを意味する。
マリが叫ぶ中で、一人の老人は呟いた。
その時、一人の少年が起き上がる。そして、彼を迎えに来る少年と少女。
「行くよ…シンジ君」
「碇君」
「うん、行こう。母さんが待ってる」
次回 新世紀エヴァンゲリオン 「アイする者」
「行け…シンジ君」