【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
※ちょいちょい時を遡ります。また、幾度か視点変更をします
冬月の巧妙な罠に嵌ったヴンダーは動けずにいた。二隻のNHGがカルヴァリーベースに降下していくことでヴィレの眼をくぎ付けにし、結界の下に潜ませていた四番艦で奇襲を仕掛けた。確かに、NERVのNHGは合計で四隻建造されていた。そのうち、末っ子の四番艦は建造途中で、未完成のはずだった。ヴンダーのように攻撃力が不足して、戦闘艦として未完成ではない。武装を含めた様々な箇所にて、まだ完成していない所があった。全体で見てNHGとして未完成である。いくらNERVのブレインで、奇策を講じてくることに定評のある、冬月コウゾウ副司令でも未完成な兵器を使ってくるはずがない。あるとしても、精々、儀式で使うぐらいだ。戦闘には到底出せない。
しかし、それは常識で考えればである。
冬月コウゾウは老練で老獪なリリンだ。他のリリンを騙すことは、手慣れていた。
結果的に四番艦の体当たりで引きずられていくヴンダー。指揮所内は完全に沈黙と絶望にあった。一応、エヴァ弐号機と八号機の射出に成功して、二人は今頃、向こうで頑張っているはずである。彼女たちが頑張ってくれたらよいのだが、どこか空気が悪い。
作戦が上手く行けば、二人から連絡が入るはずである。しかし、待てど暮らせど来ない。
そんな空気の中、指揮所内をけたたましい警報音が支配した。
「っ!艦内に異常な高エネルギー反応!同時に…」
「パターン…解析不能?」
突如としてヴンダー艦内に超高エネルギー反応が確認されて、同時にMAGI(コピー)が人間/使徒/エヴァを見分けるシステムを起動して、謎の反応を頑張って判定しようしていたのだが、出された結論は解析不能。まず、MAGIが反応するということは、この3つのうちどれかなのだが。
「何が起こっているというの…」
「この艦に、ここまでのエネルギーを放出するものはたった一つよ。彼女が目覚めたの…ユイさんが」
「まさか…シンジ君が?」
艦長と副長は伊達に14年間戦って来たわけではない。現在、ヴンダー内で起こっていることを予想することはできる。ほぼ確定だが、これは、ある者が目覚めたことを裏付けている。ヴンダーにて眠っていた彼女が目覚めた。彼の帰りを受けて。
「先輩っ!大変です!」
「どうしたの?マヤ、あなたの持ち場はどうしたの?」
指揮所に息を切らして、伊吹マヤが来た。彼女は指揮所ではなく、また別の所で指揮を執っているはずだ。ここに来ることは、少なくとも戦闘中にはない。マヤは普段ならリツコの問いに答えるが、今回はそうはいかなかった。
「勝手に、私たちも知らないプログラムが起動されています!それに帯同して、ヴンダーの脊髄が変容してます!」
「何?それは、本当なの?」
「はい!この目で見ました!」
リツコはマヤの報告を受けて、自分の端末を確認した。端末でヴンダーの状況を確認することができるからだ。端末を見ると、先に受けた超高エネルギー反応が移動しているのを確認できる。艦内を器用に動きまわることはなく、一直線に上へと向かっている。どうやら、超常的な力で艦内をすり抜けて移動しているらしい。
また、同時にヴンダーで謎のプログラムが起動されていることを彼女も確認した。これは誤表示でも何でもない、真なる事実だ。
「なるほど…私たちは、最後の最後まで。あの人の手の上で転がされていたというわけね。今までの戦闘も全部が、このためだけの布石。盛大な茶番だったと。どうする?ミサト。あなたが判断をしなければならないわよ」
ミサトは下を向いていた。その目線の先には、艦長用のMAGIのモニターがある。そこに表示されているのはリツコと同じ内容だ。
ただ、もう少しだけ、表示は追加されていた。
「希望のエヴァと少年。エヴァ初号機と碇シンジ君。全ては、貴方が仕組んだんですね。それに加えて、希望の槍までも用意するとは。まったく、本当に恐ろしい方ですよ、あなたは。冬月コウゾウ副司令。私たちの完敗です」
下を向くのをやめて、真正面を見つめる。すると、更に報告が入った。
「未確認のエヴァが三機接近中!NERVのエヴァです!」
「構うな…冬月副司令の迎えだ。これから先は、全て流れに任せる。我々が出来ることは、行く者を見送るだけだ。本艦は戦闘能力を喪失しており、戦うことは出来ない。弐号機、八号機との連絡もつかない。万策尽きたのだ」
「…」
指揮所は再び沈黙に含まれる。もう、自分たちの出番は無い。
そうして、カルヴァリーベース付近にまで降下したヴンダーを含めた四隻のNHGは、それを囲むようにして展開する。そして、二隻のNHGからは大きな槍が形成され、ヴンダーからは光の柱が形成される。これも全て、謎のプログラムによるものだ。
「希望のアディショナルインパクト…シンジ君に託すのが、一番の正解だったのね。冬月副司令の狙いはこれだった。絶望の槍ロンギヌス、希望の槍カシウス。人たる者が、全てを終わらせるために作り上げたのが神殺しの槍こと、ガイウスの槍。3本の槍による、アディショナルインパクトが」
真正面を見ていると、NERVの3機のエヴァが見えて来る。ヴンダーまで来るかと思われたが、ピタッと制止する。お利口さんなエヴァたちだ。あれらはNERVが儀式のために建造したエヴァだが、儀式の目的は既に最初から書き換えられていた。
3機のエヴァは、誰かを待つかのように静止している。
そして、ミサトたちの前に、その待ち人が現れた。
「エヴァ初号機…やっぱり。シンジ君、あなただったのね」
それは、エヴァ初号機だった。見間違えるはずがない。嫌と言うほど付き合って来た、たった一機のエヴァ。
そのエヴァ初号機は覚醒状態にあるようで、頭上には天使の輪が浮いている。ただ、これまでと決定的に違うことがあった。それは、あのエヴァに一種の頼もしさを覚えるということだ。以前にも、エヴァ初号機は覚醒したことがあったが、その時は初号機に、心底恐怖を覚えた。
だが、今は違う。あのエヴァ初号機は頼もしい。
少し時は遡る
~シンジ達~
出現した初号機にシンジは語り掛けた。
そして、数秒ほど目を閉じる。
10秒も経っていない。目を開けると、そこは初号機のプラグ内だった。
そして、忘れるはずがない、一人の少女がいた。
「ごめんなさい、碇君。私は碇君をエヴァに乗せてしまった」
「いいんだよ、綾波。これは僕が招いたことなんだ。だから、僕は自ら望んでエヴァに乗って、終止符を打つ。君が謝ることはないよ。行こう…綾波。アスカを助けなきゃ」
「えぇ」
シンジの代わりに初号機を操作していたのは綾波だった。彼女は初号機を守る為に、己の身を犠牲にしていた。愛する少年が帰ってくるまで。本当なら、彼を再びエヴァに乗せたくなかった。でも、それは、彼が望まなかった。だから、守ったのだ。
二人は息を揃えて、同時に放った。
「「エヴァンゲリオン初号機…起動」」
シンジの眼が赤く光るのと同時に、エヴァ初号機も覚醒状態に入る。
それを見ていた、彼の親友たる少年。
「パイロットである碇シンジ君の覚醒。使徒である僕でもたどり着けない領域か。全ては、シンジ君のシナリオですか、冬月先生。なら、僕も行かないと。エヴァ第壱拾参号機は僕とシンジ君のエヴァだからね。リリンの王、碇ゲンドウのエヴァではない」
浮いていくエヴァ初号機に付随するように、少年も浮遊して行く。
全てが変わり始める。いや、もう最初から変わっていたのだ。ゼーレのでも、リリンの王のでもない。一人の少年のシナリオ通りに進んでいる。これは途中から書き換えられたのではない。最初から、全部が決まっていたのだ。シナリオは。
ヴンダーから完全に離脱した初号機は、外に出る。そして、ヴンダー艦橋部の前で浮遊する。何も言わないで行ってしまうのは、あまりにも薄情が過ぎる。如何なる時でも、挨拶をするのは大事。特に、世話になった人への挨拶は。
「エヴァ初号機…やっぱり。シンジ君、あなただったのね」
「正確には、僕と綾波、そして母です。あと、冬月先生もですね」
「そうね…ごめんなさい、シンジ君。最初から、シンジ君に任せていればよかったわね。私たちで何とかしようとしたけど、それは結果として、逆にシンジ君を苦しめて、追い詰めてしまった。あなたには謝っても、謝り切れない」
「ミサトさん。もう、いいんです。この後は僕がやるので。ミサトさんは、皆さんをお願いします。父は僕が止めますので」
「そうね。息子である、あなたがするべきことね。ヴィレは、もう手を出しません。シンジ君の好きなようにやって」
「ありがとうございます。その槍をいただきます」
そう言うと、初号機の所に不思議が形をした槍が文字通りで飛んでくる。神殺しを司りし槍、ガイウスの槍だ。
「ミサトさん、加持リョウジ君は凄い良い奴だったよ。全てが終わったら。彼と一緒にいてあげてくださいね。お父さんが、お願いしていましたから。それじゃ、行ってきます」
初号機はカルヴァリーベース本体へ飛んで行った。リリンの王で、シンジの実の父である、碇ゲンドウを止めるため。そして、世界を希望で包み込むために。待っていた三機のエヴァは初号機を守るかのように編隊を組む。また、よく見ると、また違う少年が、それらに追従している。
賽は投げられた。あとは彼に任せるだけだ。
「行ってらっしゃい…シンジ君」
ヴィレの職員たちは、もう何も言うことは無かった。
否
何も言えなかった。
~マリ視点~
「な~るほどねぇ…先生の狙いはこれだったのかぁ。ワンコ君と初号機の覚醒。そして、ヴィレを使った、新たなる槍の造成。全ては、このためにってわけね。いくら情報を流してくれていたとはいえ、最初から言ってくれたらよかったのに」
八号機を囲んでいた腕エヴァは動きを停止していた。死んだかのように。
「よっと。冬月先生は、決して私を蚊帳の外に置くことは無く、私のためにも用意してくれたのね。じゃあ、ありがたく、いただきますか」
マリは辛うじて八号機を動かす。八号機の前には、三機のエヴァが立っていた。それぞれ、NERVのアダムスの器とされるエヴァだ。細かく言えば、エヴァMK-10、エヴァMK-11、エヴァMK-12である。それぞれは、オップファータイプと呼ばれるエヴァでもある。
「"犠牲"ね…許してね、アダムスの器さん方。これも、彼の幸せのためなんだにゃ」
八号機が、次々とエヴァに食らいついていった。
続く
未定ですが、今日中にもう一話出します。昨日と同じです。
次回予告
エヴァ初号機とパイロット碇シンジの覚醒
ヴィレによる新しき槍、ガイウスの槍
使徒の力を解放しようとするアスカ
その時、愛する者の声が聞こえた
次回 新世紀エヴァンゲリオン 「アスカ…僕がいるから」