【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
※大どんでん返しがあります
光が晴れて、そろそろかと目を開けようとした。
そこには、昔のような光景が広がっている。赤くない。建物も、土地も、全てが赤くない。気味が悪い月も見えない。
のはずなのだが、なぜか、瞼が開かない。
「誰?そんなことをするのは」
「さて、だーれだ?」
シンジは自分が、俗に言う「だーれだ?」をされていたと理解した。顔の両目を手で覆われていて、後ろから声が聞こえた。これは間違いなく、「だーれだ?」をされている。そして、その声は非常に聞き覚えがある。ある時は自分を助けてくれて、ある時は自分を説いてくれた。忘れるはずがない。
「胸の大きないい女」
「大正解っ!」
「はぁ…戻ってきたのに、最初にそんなことする?」
「え~、だってさぁ」
シンジは両目の覆いが外れたので、やっと外を見ることができる。改めて、赤くない世界を見ることができる。自分がいるのは、とある駅のホーム。そのホームから、自分たちが乗ってきたと思われる電車が発車していった。
「まぁ、いいとして。シンジ、本当にご苦労様」
「お疲れ様、シンジ君。これが君の望んだ世界。エヴァンゲリオンが存在しない世界か。これで、ようやく、全てが終わったんだね」
「そして、始まる」
彼の前には、レイ、アスカ、カヲルの3人が立っていた。あれ、何かがおかしい。本当なら、もう1人いるはずだ。その1人は、彼の後ろから現れた。シンジの首に両腕を回して、勢いよく現れた。昔のシンジなら、身体の能力的にグラついてしまっただろう。
しかし、今は違う。
エヴァの呪縛と言う、エヴァパイロット特有の時の停滞から解放されていた。14年間、髪の毛以外に時が経過することが無かった彼らだが、シンジと碇ユイ・ゲンドウ夫妻によるアディショナルインパクトで解放された。14年間貯め込んでいたものが、一気に解き放たれたのだ。
つまり、結果として、彼らは正式に14年という時を経たのである。
「フフッ、やっぱり匂いが違うからだね。君は」
「ちょっと。やめてよ、皆がいる前で」
マリは両腕のロックを外すことなく、スンスンとシンジの匂いをかいだ。二人っきりならまだしも、ここには2人の他に3人いる。それでは、さすがに人前が過ぎる。シンジは嫌がったが、それをマリは許さなかった。
数秒ぐらい経って、やっとシンジは許された。
「フフン!いいにおい~」
「いい加減にしなさい、マリ。レイが怒るわよ」
「おっと、こりゃ失礼」
マリはロックを解除した。いつの間にか、レイがシンジの横に立っていたからだ。音もなく、気配なく忍び寄ったのだろう。いくらマリでも、レイと真正面からやり合いたくはない。ここで引いたのは極めて賢明だ。
怒ったレイは怖い。
「さて、これからどうするんだい?」
「あ、そうじゃん。世界は書き換えられたけど、これからを考えていなかったわ」
「ぜ~んぶ。流れに身を任せればいいんじゃない~?」
確かに、世界は書き換えられた。エヴァンゲリオンの存在しない世界として。その世界なら、いくらでも、なんでもできるだろう。
彼らは、もう少年少女ではないのだから。
「どうしたの?綾波?」
シンジはこれからを考えていると、綾波が腕を絡めてきた。そして、力いっぱいに己に抱き寄せてきた。ちょっと不器用な綾波らしく、力加減を間違っている。弱ければよかったが、異常に力が強かった。シンジは痛がることは無く、顔を顰めることすらしなかった。素晴らしい精神力と忍耐力である。
「何かするにしても。私は碇君と離れたくない」
「あぁ…それなら安心して。僕は綾波と離れるつもりはないよ。というか、皆と離れることは絶対にない。あれだけ…一緒に頑張ってきたんだ。そんなことはしない。約束する」
「そうよねぇ。なら、こうしても、文句は無いわよねぇ」
今度はアスカも腕を絡ませてきた。そして、綾波と同じく抱き寄せてくる。さらに、さらには力も強い。加減がわからないレイと違って、彼女はちゃんとわかる筈だ。だが、敢えて丁度良い強さにしなかった。異常に力を強めることで、彼がではなく、自分が離さないとアピールしているのである。
「ちょ、ちょっと。2人とも、動けないから」
「動かなくていい」
「それはレイに同意するわ」
「アスカぁ…綾波ぃ」
情けない声を出して、許しを請うシンジ。それを、渚カヲルは笑って見ていた。微笑ましい光景だと、心から感じていた。彼は碇シンジの幸せを心から願っている。それが彼の生きる意味だ。彼が幸せそうなら、それに越したことは無い。
「いつもなら、『僕も混ざりたい』なんて言うんじゃないの?」
「そんな無粋なことは言わないよ。彼が幸せそうなところに、入り込んだり、それをすることを希望することは良くないからね。それに、いくら(二人の)ガードが固くても、僕は僕さ。そう簡単に諦めはしない。チャンスはゼロじゃないんだ。いつでも希望はある」
「恩師の教えを上手く使ったわね」
「笑って見てないで、助けてよぉ!」
「悪いけど、それは僕にはできない」
「男なんだから、喜びなさいな」
ダブルロックに耐えかねたシンジがヘルプを求めた。ヘルプを求められたが、2人は微動だにしなかった。その光景がとても良いものだったから、至極当然の反応だ。
数分ほど、その微笑ましいことは行われていた。ずっとこのままが本望だが、体力的な問題で続けることはできない。渋々、レイとアスカはロックを解除した。この世にあるロックの中で、最も厳重なロックだった。
「はぁ…助かったぁ」
「さってと。おふざけはここまでにして、そろそろ行きましょ」
「アスカだけどね、ふざけていたのは」
「失礼ね。これは、アタシなりの愛の伝え方よ」
「そう、愛の伝え方」
共同戦線を張るレイとアスカ。2人とも共通の人、碇シンジを愛している。その愛から来る行動らしい。にしては、かなり強引だ。渚カヲル君でも、こんなことはしないだろう。
このまま、夫婦漫才をするなどして、ずっと駅にいるわけにはいかない。5人は駅の外へと向かうことにする。ホームと改札とを結ぶ橋の階段を上がって行く。誰も置いて行かない、離れないことを明示するために、彼らは横一列で並んでいた。
階段を上って、連絡橋を通って改札まで来た。切符等は持っていない。いや、そんなものは必要ない。そのまま改札を通過しても誰にも怒られない。不正乗車でも何でもない。ちゃんと、正規の乗車であったからだ。
そして、5人は駅から出た。
駅の前には、広場がある。
そこで、シンジは…
~駅の前にある広場~
広場に一人の老人が立っている
あの人だ
忘れるはずがない
NERVに来た時から、よく目をかけてくれた
いつも、自分に寄り添ってくれた
心を痛めた時には、何も言わず傍にいてくれた
勉強を教えてくれた
真実を教えてくれた
あの人には感謝してもし切れない
青年
いや
少年は
駆け出した
両目から大粒の涙を零しながら
あの人のもとへ駆ける
「先生…冬月先生ッ!!」
「ただいま…シンジ君」
終劇
これで…お終いです。逆行冬月コウゾウ先生が、シンジ君の幸せのために頑張るお話でした。前書きにて予告しましたが、アフター作を新規小説で投稿する予定です。こちらは完全不定期となります。ご了承ください。
改めまして
これまでの、長い間のご愛顧及びご愛読。本当にありがとうございました。
また、お会いできるのを楽しみにしております。
それでは…