【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
冬月はこの前の使徒戦で発生した仕事を全て終わらせて、NERV内の自室で悠々と過ごしていた。副司令だから多忙ではあるが、冬月の能力を以てすればあっという間に終わらせることができる。後の時間は前世の記憶と経験からこれから出現する使徒との戦いに関する戦略を練る。また、碇の計画を如何にしてシンジ君のシナリオに書き換えるかを考えていた。
そんな中で自室がノックされた。
「入りなさい。鍵はかかっていないよ」
「失礼します」
「やはり君かね。碇シンジ君」
「すいません……冬月先生とお話したくて」
冬月副司令の自室を訪れたのは碇シンジだった。なぜ来たかは冬月には分っていた。前世と多少は異なっているだろうが、大体は同じだ。十中八九で葛城ミサトとひと悶着があったと見ていい。
「構わんよ。座りなさい。茶と菓子ぐらいはだそう」
副司令の自室なだけはあり応接室の役割を有している。大きなテーブルを挟んで二人は対面して座った。シンジの顔色を伺うに、ややブルーな感じがしている。ブルーと言うよりは、思春期特有の感情だろうか。
「まぁ、すぐに話さんでいい。少し、落ち着いたら話してくれ」
温かいお茶と芋羊羹をだして、食べさせる。相手の人が精神的に参っていたり、感情が揺れている時は無理に話させようとしない方がいい。一旦のワンクッションとして飲み物や菓子を出して、相手を懐柔させた方が得策だ。人間は胃の中に何か入れれば落ち着くようになっている。
徐にお茶を飲んで菓子を頬張っている様子を見ると、相当参っているようだ。
「実は…(長い話を始めた)」
=中略=
※↑PCだとページの中央ですが、スマホだとずれてます
「そうか。葛城君に絞られたか」
「はい。最初の攻撃がやり過ぎだと」
「確かに視界を著しく悪化させたから、その点ではやり過ぎと言えたな。しかし、使徒という未知なる敵に相対して冷静に動くのは難しい。まだ一回しか戦っておらず、碌に経験を積んでいないんだ。そんなに気を落とすことは無い。ただ、葛城君の言いたいことも分かるから、彼女のことを悪く言わないでくれよ」
「それはもちろんです。僕が悪いので」
「あまり自分を貶めるんじゃない。謙虚になって振り返って、自分のミスを認めるのは大事だ。それでも、やり過ぎは毒だ。時には割り切るのが肝心だよ」
「割り切る……ですか」
「あぁ。考えすぎて自爆しては意味がない。時にはだよ、時には」
慕っている人物から優しく諭されてシンジは落ち着きを取り戻しつつある。やはり、葛城ミサトと衝突した。そして、その反動で冬月の下へと来たようだった。前世は家出して放浪したが、今回は冬月という良き理解者がいたので彼を頼ったようだ。常日頃から様々なことでお世話になっているから、今日も頼りに来たということ。
その冬月は自身も茶を啜って、芋羊羹を頬張る。見ればシンジは割と早いペースで羊羹を食べている。余程口に合ったのか、ストレスで食べているのかの二択だろう。
「すまないね。老人の好みで。君たちが好きそうなものを用意できたらよかったのだが」
「あ、いえ! 僕は好きです。なんか落ち着く気がして」
「そうかね。それならよかった。勉強のほうはどうかね? 私の教え方が古くて現代に通用するか」
「先生のおかげでトップではないですけど、僕は結構上の方にいます。綾波と一緒にですけど」
シンジは冬月先生と呼ぶのは単にそう言う呼び方だからだけでなく、本当の先生のように勉強を教わっているからである。なんせ、彼はエヴァのパイロットのため忙しく、勉強の時間が足りない。学校生活もパイロットとしての仕事が優先であるため削られている。空いた時間で勉強するにしても一人では限界がある。そこで、冬月に勉強を教えてもらっていたのだ。元大学教授で優しく丁寧に教えているのが効果を発揮して、短時間でも効率的に勉強をすることができた。結果的にシンジは学年でも割と上位にいた。彼と常に一緒にいる綾波は元より学を詰め込まれているので必然的に上にいる。
「その言い方だと、ファーストチルドレンと上手くやれているか。彼女の零号機の方の試験も進んでいる。上手く行けば、初号機と零号機の二機体制で戦うことができる。そうすれば、君だけに負担をかけることなく使徒と戦える。すまないね、これまで君だけに押し付けてしまって。私の方で可能なことはしているが、余りにも微力だ」
「そんなことはないです!前の使徒戦は冬月先生の指示のおかげで勝てました」
「少しは自分を誇りたまえ。あれは君の戦いで、君が勝ちをもぎ取った。それは事実だ。まぁ、とにかく、これからは比較的楽に戦える。それだけは約束する」
一旦休憩をするため、また茶を啜る。数十秒沈黙が続いたが、シンジが再びバツが悪そうに切り出した。
「冬月先生にお願いがあるのですが……」
「何かね? 君からのお願いなら、この老人にできる範囲で応えるが」
「その、綾波と一緒に住んではダメですか?」
「む? ファーストチルドレンとか?」
「はい。ほら、綾波も」
シンジがファーストチルドレンのことを呼んだかと思えば、扉が開かれた。そこにはファーストチルドレンこと綾波レイが立っていて、そのまま入室してきた。なんということだろうか。なんとまぁ、碇シンジは策士だった。冬月に来たのは自分一人だけだと思わせていたのだ。本当は二人で動いていた。一応申し上げておくが、シンジのブルーな感じは嘘偽りではなく本当だった。おそらくシンジを綾波が支えつつ冬月の自室にまで来たのだろう。そして一旦、シンジが自分の相談をするために部屋に入る。そうして自分の話が終われば、次なる二人の話をするために二人で入る。隙を生じぬ二段構えだった。
「冬月副司令。お願いします」
二人は立って深々と頭を下げた。冬月は少し後悔していた。確かに自分の方で碇シンジ君がファーストチルドレンと仲良くなるようにしておいたが、こんなに早く二人が解け合っているとは思いもしなかった。さすがはユイ君の息子とユイ君のクローンだ。これは仕組まれた運命とは全く無関係の純粋な心の繋がり。
「これは参ったな……見事だよ。いいだろう、私の方で碇には掛け合っておく」
「本当ですか!?」
「あぁ。私は嘘は嫌いだ。君たちを応援するのが本音だが、碇への掛け合いの建前としては『パイロットを集中させることで合理化を図る』としておく。構わんかね?」
「構いません。碇君と一緒にいれるのなら」
「お願いします」
まったく、本当にこの二人は純愛なことだ。老人から見れば眩しくてたまらない。しかも、二人ともユイ君の血を引いているため、眩しさに更に磨きがかかっている。
「わかった。私に任せてくれ。しかし、そうなるとだな。君の住んでいる葛城君の家では手狭だろう」
「あ」
実際に住んでいるシンジは「そうだった」と言わんばかりに声を出した。ミサトの家は決しては狭いわけではないのだが、広いということでもない。あくまで一人で暮らすような家であった。一応前世ではアスカも一緒に暮らしたが窮屈だったことは言うまでもない。
「ふむ、その様子だと考えが思いつかないようだね。どうかな? 私の家に来ると言うのは?」
「え? 良いんですか?」
「冬月副司令の?」
そんなに驚くことなのだろうか。二人はかなりビックリしている。シンジ君の顔は( ゚Д゚)となっている。
「何、老人一人住むには些か広すぎてね。正直に言って手に余る。君たち二人が何不自由なく、プライバシーを確実に確保できるぐらいの大きさは余裕である。ただ、この老人が住む家だ。とても、おしゃれとは程遠い家だがな」
「え、あの。何もかもすいません。お願いします」
「お願いします」
二人はまた頭を下げてきた。冬月は「すぐにでも準備に入る」と言って、彼は早速動き始めた。二人と細かい点を詰めるのは後日ということにして帰らせた。その日の内に司令の碇に二点の許可を得て言質を取ると、葛城君への伝達も行った。
その時の冬月は普段の厳しい顔ではなく、ホクホク顔だった。
続く
冬月おじいちゃん爆誕のお知らせ。
それでは次のお話でお会いしましょう。