【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
「では、ファーストチルドレンとサードチルドレンの両名は私預かりとする」
「はっ!シンジ君をお願いします」
NERV副司令の冬月は部下である葛城ミサトと対面していた。先の使徒戦での反省や、これから使徒とどのように戦うのか、そしてファースト及びサードの身柄の移送について話していた。一通りの話しは終わって会話は終わるかと思ったが、冬月はその気はなかった。
「葛城君」
「はい」
「君は焦り過ぎているな」
「焦り…ですか?」
「そう、焦っている。君は使徒を殲滅することに全力を尽くしてくれている。それは非常にありがたい。しかし、それは『使徒への復讐心』から来ているのだろう?君のお父様を、人生を奪った使徒への」
「…はい」
葛城ミサトはNERV内でも非常に優秀な人間で、使徒との戦いでもその手腕を発揮してくれている。冬月が割り込むことがあるが、普通に素晴らしい手腕を持っている。また、使徒戦だけでなく裏方でも尽力してくれていてNERV内の大きな功労者である。では、そのように彼女を動かしているエネルギー源は何だろうか?
そう、使徒への復讐心である。南極でのセカンドインパクト爆心地で、父親の挺身の甲斐あって生き延びた彼女は使徒への猛烈な復讐心を抱いている。人類の敵だからとか、そんな安易な理由からの復讐心ではない。もう、とてもとても筆舌できない。
「君の気持はわからんでもない。だが、それを表に出し過ぎて使徒戦やパイロット達との交流に支障が出ては困る。君はもう大人なんだ。少しは落ち着きたまえ」
「はっ」
そう言って冬月はミサトを帰した。葛城ミサトはファーストはいいとして、サードチルドレンの碇シンジ君とはあまり良好な関係は築けていなかった。共同生活を送っていたので悪くはなかったが、親密ということでもない。シンジは過去の経験から軽い対人恐怖症を持っていて、ミサトもやや同じだった。だから合うかと思われたが、ミサトは自身の復讐心を表に出すあまり、仕事上でパイロットであるシンジへと厳しく当たることが多かった。その行為は上官であるから正解であるが、相手はまだ14歳の少年だ。そして、彼一人に色々と押し付けてしまっている。それを考えれば、少々強すぎた。
それを言うなら冬月はどうなんだと言われそうだが、彼は全く違った。副司令と上の上の人であるが、パイロットたちには優しく接していた。叱るのはまた別の人の役割なので叱ることは無い。叱ることは無くても諭すことは多々あり、その度にメンタルケアの真似ごとをしていた。パイロットと同じ目線に立って、常に優しく接してくれ、時には諭してくれる冬月への信頼は極めて厚かった。何気にシンジとレイは暇があれば一緒にいるので、その結果として冬月もレイとは頻繁に接していて、レイからの信頼も厚かった。
「碇の奴も葛城君も皆それぞれ心の弱さを持っているか。かく言う私も人のことは言えないが。さて、私は私の仕事をしないとな」
まだ仕事はあるので、冬月は自身の執務室へと戻っていった。
~NERV本部内実験施設~
「零号機の実験か…綾波は大丈夫かな?」
シンジは今日行われるエヴァ零号機のテストの見学に来ていた。見学とは名ばかりで本当はパイロットの綾波レイの応援のためである。また、テストを心配しているのである。
現在のNERVで実際に戦えるエヴァは初号機しかいない。これでは万が一のことを考えると心もとない。だから早急にエヴァ零号機が実戦運用に耐えられるようにしないといけない。
「頑張れ綾波」
(零号機の起動テストを開始します)
赤木リツコ博士のアナウンスが流れて、シンジは観覧コーナー的な場所から零号機を見つめる。超分厚い強化ガラスを挟んで零号機が立っている。既にプラグは挿入されていて、起動されるのを待つだけである。
少しばかり待つと、無事に零号機は起動した。あくまで今回はちゃんと起動できて最低限の動きができるかどうかを見るだけのテストなので、激しい動きはしない。実戦ではまだ初号機が主力となるから、零号機に過大な期待はされていない。最小限の動きができるだけでも充分。実戦に投入できるエヴァが一機でも増え、たとえ最小限の動きだけしかできないとしても、それだけで大違いだ。
「やった!動いた!」
シンジは一人で喜んではしゃぐ。その光景を見ていたのか、それとも見ていなかったのかはわかないが、同じ観覧者の碇ゲンドウの方は少し頬を吊り上げていた。鉄面皮と称される人が少しでも表情を変えるのは不気味だ。傍から見ればテストが成功して嬉しいからだと見えるが、実際は違う。自身の計画を成就するための準備の一つが完成されたからだ。
さて、零号機を動かした張本人の綾波レイは何を思っていたのだろうか?では零号機のプラグ内の彼女を見て見よう。
~零号機 プラグ内~
「動かせた。テストは成功。これで碇君を守れる。碇君と一緒にいることができる」
零号機を動かすことに成功して喜んでいたが、その直後に盛大な惚けをかましていた。碇シンジと出会うまで彼女は生きる目的は使徒を倒して、ゲンドウのためになることだった。ただ道具として生きるだけであったのだ。いくらクローンとはいえ、彼女は生きた人間だ。それが道具だなんて、なんと卑劣なことか。しかし、碇シンジと出会い心を通わせることで変わった。一人の少女として碇シンジと一緒にいたい、ずっといたい。自分の本心から碇シンジと過ごすことを望んでいたのだ。一応彼女は碇シンジに惹かれるよう作られていたが、その心はそれ以上だった。間違いなく彼女は、自分の心で碇シンジをアイしている。
「零号機…お願い。碇君を守る為に手を貸して」
それぞれのエヴァはパイロットと通じ合う。エヴァはただのロボットではないことはこれまでの使徒戦で明らかになっていることだ。
その零号機は綾波の願いを汲み取ったかのように鼓動を送ってきた。零号機の返答を何と言うかわからないので、適当な表現が見つからないため「鼓動」とさせていただく。
「ありがとう。私は碇君と…(ブツブツ惚けを呟く)」
まったく、いったい、何回「碇君」と言えば彼女は気が済むのだろうか。プラグ内で惚けを連発する綾波は置いておいて、零号機の起動テストは成功した。よって、本日のテストの目標は達成された。また、零号機は最低限の動きもできるということで実戦投入も恐らく可能であると認められた。これよりNERVではエヴァは初号機と零号機の二機体制となるのである。
続く
次話は引っ越しの予定です。
それでは次のお話でお会いしましょう。