【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
追記
UA2万超えありがとうございます。
冬月の家と言うのはNERV本部から歩いていけるような距離にある。有事にはいつでも、即本部へと急行できるようにとの判断だ。本部付近で要塞都市にあるため一軒家ではなく、マンションの一室に居を構えている。一応NERV本部の副司令という立ち位置のため、マンションの中では割と大きな家であった。
その家には二人の新しい住民がやってきた。
「ここが私の家だ。家具やらは殆ど無い。必要があれば私が買うから安心してくれ」
「広いですね」
「ここが冬月副司令の家」
その新しい住人二人とは、碇シンジと綾波レイである。二人は引っ越しのための荷物を持ってきている。荷物と言っても二人とも(普通の人に比べれば)碌に持ってきていない。シンジは元々一人で暮らしてきたから荷物は少ない。彼は寝食さえできれる環境であれば生きて行けるので、持ち込み物は少ない。綾波は言うまでもない。彼女は廃墟に住んでいたので何にもない。この光景にはさすがの冬月も少し驚いた。その冬月の家もあまり物がない。単に老人であるので物を持たないのだ。
「さぁ、上がってくれ。君たちの新しい家だ」
「た、ただいま」
「ただいま」
「うむ」
二人はそのまま家の中へと上がっていく。冬月の家は割と大きく、元居た葛城ミサトの家よりは広い。リビングもキッチンも広くて一世帯が住むにも広く感じられるほどである。そのリビングからは各々の部屋へと向かうことができるように動線が配慮されていた。ご老体には嬉しい設計である。
「まぁ見ての通りだよ。リビングとキッチンだ。大きめのテレビがあるから、好きな番組を見るといい。私はテレビはそこまでみないから構わん。キッチンには一通りの家電や調味料など料理の必要なものは揃えてある。そこでなんだが…シンジ君」
「はい。料理は任せてください」
「すまないね。この老体だから料理は体にくるんでな」
別にシンジの料理を毎日食べたいというわけではない。本当にこの老体には料理は難しいのだ。手先は不器用ではないが、料理をするには疲れるのだ。多忙な毎日で疲れも溜まっている状態で料理をすれば体を壊しかねない。齢60ほどの人間に重い動きは無茶である。そうは言いつつも、やはりシンジの料理を食べたいという気持ちも大きいのは事実である。
「食材とかは配送してもらっているから買い出しは最低限で済むようにしてある。あぁ、私は葛城君とは違ってお酒は飲まないから安心してくれ」
「あ、はい」
キレイに掃除がされているキッチンとリビングを紹介したので、二人のプライバシーとなる部屋を案内する。部屋は洋室でドアで仕切られている。部屋には冬月が先に置いておいたベッドに本棚、タンスなどが置かれている。もちろん、クローゼットも完備している。
「これならプライバシーを確保できるだろう。何か欲しい物があれば逐次言ってくれ。すぐにでも用意するから」
「ありがとうございます」
「レイ君の部屋もほぼ同じだ。二人の部屋は隣同士にしてあるから好きにしたまえ。壁は厚いから多少うるさくしても大丈夫だ。私の部屋も遠くにあるから。二人で仲良くすればいい」
必要となる案内は完了したので、あとは若い二人に各々の引っ越し作業を任せる。ここからは各人のプライバシーの問題に関わるので、老人の冬月はそそくさと退散する。冬月は自室に戻って、二人がノビノビとできるように気を遣ったのである。
さて、残された二人はどうするのか。
「あれ、綾波は引っ越し作業しなくていいの?」
「持ってきたのはこれだけだから」
そう言って綾波は手に提げていた部活の生徒が持つような大きなバッグ一つを見せる。対してシンジは段ボールを数個持ってきている。その段ボールは予め配送してもらっていて、その他の物は綾波と同じくバッグ一個に収めていた。さすがの収納の腕前である。
「そ、そうなんだ」
「私はすぐに終わるから、碇君の引っ越し作業を手伝う」
「え?いいの?」
「えぇ」
「じゃあ…まずは、あの段ボールたちを開けてくれる?結構固くガムテープで止めているからカッターを使ってね。カッターは鋭いから気を付けてね」
引っ越し作業に対応できるようにシンジはカッターやハサミと言った日常的に使うような文房具をこのような時には持ち歩いていた。そのカッターを渡されたレイは手際よく段ボールを開けていく。
シンジはバッグを開けて、しまっておいた衣服類をタンスに仕舞ったり、クローゼットに仕舞っていく。彼の私服はそこまで多いわけではないので時間はかからない。一応だが、中学の制服は予備も含めて沢山持ってきたのでそれらはクローゼットにハンガーにかけていく。
「欲しいものが全部用意されてる。冬月先生には感謝してもしきれないな」
「碇君、段ボール開けたよ」
「ありがとう。その中から僕の私物が入っているから、適当に出していって。割れ物とか取り扱い注意の物は無いから多少乱雑でもいいよ」
「わかった」
乱雑に置いていって良いとは言ったが、レイは非常に丁寧にシンジの私物を床に置いて行く。床には衝撃緩和のためにフカフカシートを敷いてあるから落としても安心だ。隅々にまで冬月の配慮が張り巡らされている。さすがは元教育者で老練な人物である。
その上に物を置いて行くレイなのだが、様子がおかしい。慎重に丁寧に置いてくれているのはわかるのだが、それにしては時間がかかり過ぎている。ちょっと、いや、結構おかしい。何かあったのだろうか。レイを見て見よう。
「碇君の使っていた物…碇君の」
ふむ、どうやら綾波レイは想い人の碇シンジが長年使ってきていた私物を手に取って観賞()しているらしい。彼女にとってシンジの私物と言うのは芸術品でもあって、嗜好品でもあるらしい。時たま、匂いを嗅いだりしている。
「碇君…碇君」
「…触れないでおこう」
その碇シンジ氏は複雑な感情にあった。
若いカップル二人が仲良く引っ越し作業をしている頃、冬月は自室にこもって仕事をするかと思えば、一人で物思いにふけっていた。仕事に関するし、彼ら二人にも関することについてである。そう、次なる使徒戦のことを考えていた。次の使徒は恐らくだがラミエル。使徒の中でも圧倒的な強さを持っていた。
~冬月サイド~
「第六の使徒…あのプリズム状の使徒を如何にして撃破するか…か。初対面の悲劇は避けることができるにしても、あの作戦を再びするしかない。あの作戦は大掛かりなだけではなく、リスクが大きすぎる。しかし、あの使徒を撃破するにはどうしても陽電子砲が必要か」
来る使徒が変に狂っているのはわかっている。それでも、予測することは可能だ。今度の使徒はラミエル。使徒の中でも圧倒的な攻撃力と防御力を有するプリズムのような使徒。見た目は美しいが、中身は強烈。前世のヤシマ作戦で何とか撃破したが、あれはかなり危なかった。
「主たる攻撃方法は変わらずしかないか。ならば、確実に撃破できるよう、また被害を少なくするために補助を徹底するしかないか。あの超高エネルギー砲は厄介すぎる」
ラミエルからの放たれる超高エネルギー砲の威力は凄まじい、一撃で山を焼き飛ばして貫通して遠距離の砲台を焼き尽くす。陽電子砲らを守る為にはエヴァの盾とエヴァ本体を以てして何とか耐えられるぐらい。
「気を引くにしても使徒は確実に学習してきている。神に限りなく近い存在らしくて嫌になる。となれば、最悪の場合を考えてだな。一撃は確実に耐えられるような縦深陣地を構築するしかない。装甲ビル群では役者不足かもしれんから、特殊装甲を何重にも重ねた盾を幾つも作らせるか」
チルドレンたちが苦しむことなく使徒を撃破する手段を延々と考えていた。
続く
まだラミエル戦にはいきません。冬月家での日常を書くつもりです。
それでは次のお話でお会いしましょう。