アバンストラッシュ。
自分が持つ最大の力と速さ、そして心の叫びを同時に発揮することで初めて放たれる、ドラゴンクエストの異世界で俺が先生から学んだアバン流刀殺法の奥義だ。
俺が放ったアバンストラッシュの閃光は三体の脳無を飲みこみUSJの外へと吹き飛ばしたが、アバンストラッシュを放つ直前に僅かに力をセーブしたし脳無の個性を考えれば死にはしないだろう。
とにかくこれで相手の戦力は手の男と黒い霧のヴィランだけ。ここからどう出るかと俺達が思っていると、手の男が出した次の行動は「逃げる」ことだった。
手の男はしばらくの間、俺がアバンストラッシュでUSJに開けた大穴、三体の脳無が吹き飛んだ先を無言で見た後、拍子抜けするくらいあっさりとした声で、
「ゲームオーバーだ。……帰ろ」
と、言ったのだ。
もちろん俺だけじゃなく相澤先生とマキナも手の男を捕らえようとしたが、その前に彼の言葉を聞いていたのか黒い霧のヴィランが手の男の側に現れて例の黒い霧で移動を開始した。何でも相澤先生の個性は発動に相手の本体を見る必要があるので、今回は上手く個性を消せなかったらしい。
最大戦力である脳無がやられるとあっさりと、それも一応味方であるはずのヴィラン達を簡単に見捨てて帰ろうとする手の男は、まるでゲームをしている子供のような印象を受けた。そこまで考えたところで手の男は体が黒い霧に包まれる直前に俺の方を見てきて、
「お前の顔は覚えたからな。ドラクエから出てきたチート野郎。……また遊ぼうぜ?」
と、言ってきた。
どうやら俺は手の男に目をつけられてしまったようだ。
その後、ヴィラン襲撃の報せを聞いてオールマイトをはじめとする雄英高校の教師陣がUSJに駆けつけ、そこにいたヴィランを全て逮捕して今回の事件は終了した。
そして俺は、俺のために負傷した緑谷をベホマで治療してる時に弟弟子がいつか言っていた言葉を思いだし、あることを決めたのだった。
ヴィラン達によるUSJ襲撃事件から二日後。今日は休日であるので俺は学校の訓練室の一つを借りて物間、拳藤、鉄哲、塩崎と一緒に訓練をしていた。
「それにしても黒岸って、よく毎回毎回訓練室を貸してもらえるね? 普通訓練室って、他の学年も使うからこうしょっちゅう貸してもらえないんじゃないの?」
訓練の合間に拳藤が俺に聞いてきた。俺達は毎日早朝と放課後、休日は丸一日訓練室を借りており、彼女の疑問は最もだろう。
多分だがこれは以前オールマイトの怪我を治したこと、そして俺が保健委員を引き受けたことが関係しているのだと思う。実際訓練の最中に生徒の治療で呼び出されたこともあったし。
「俺が保健委員になったからじゃないか? リカバリーガール以外の回復要員が長い間校内にいたほうが学校としても助かるって感じで」
俺が自分の考えを口にすると拳藤だけじゃなく話を聞いていた他の三人も納得した顔で頷いてくれた。
「それよりも、今日から一緒に訓練するのが二人増えるから」
俺の言葉がよほど意外だったのか、拳藤達四人が驚いた顔をすると、ちょうどその時訓練室に二人の生徒が入ってきた。
「し、失礼します……」
「失礼します」
訓練室に入ってきたのは緑谷とマキナで、この二人が俺が呼んだ今日から一緒に訓練をする仲間だ。
「え……!? A組の緑谷出久と機械島巻菜ぁっ!? どうしてここに来た!? さては僕達の訓練を観察しに来たスパイ「俺が呼んだ」……親友!?」
物間が緑谷とマキナを見て半狂乱になって叫ぶ言葉を俺が遮って言うと、物間だけじゃなく拳藤達三人もこちらを見てきた。
「緑谷とマキナにはこの間のUSJで色々手伝ってもらったり、助けてもらったからな。その礼と言ってはなんだけど、一緒に訓練をしないかと誘ったんだよ」
俺の言葉に拳藤、鉄哲、塩崎は納得してくれて物間も渋々とだがそれでも首を縦に振ってくれた。
二日前のUSJで緑谷の治療をしていた俺はいつか弟弟子が言っていた言葉を思い出した。それは勇者は沢山いたほうが心強いという内容の言葉で、確かにそうだと納得できた。
あの手の男はこれから先も俺達の前に現れるだろう。その時は今回のUSJみたいなこともまた起こるかもしれない。
だったらそれに備えてもっと強くなればいいだけだ。それに加えて仲間達も俺と同じくらい強くなってもらえば更に安心だ。
これが俺が出した結論で緑谷とマキナを訓練に誘った理由で、ここでふと「勇者の家庭教師」を名乗っていた先生のことを思い出す。俺のやっていること、先生と同じじゃないか?
「俺が勇者の家庭教師、か……」
そう呟いて俺は緑谷とマキナを加えて訓練を再開するのだった。