「はぁ……。大丈夫かな?」
雄英高校入学試験当日。俺は内心の不安に耐えかねてつい一人呟いていた。
不安の元というのは勿論、今日受けている入学試験だ。
雄英高校、そこのヒーロー志望者を育てるヒーロー科の入学試験は、通常の筆記試験に加えてヒーローとしての実力を計る実技演習試験というのがある。実技演習試験は都会を模した試験会場内で、四種類のヴィラン役のロボットと戦い、ロボットを倒した時に得られるポイントの合計を他の受験者と競い合うというもの。
そして俺を含めたヒーロー科の受験生達は現在、筆記試験を終えて実技演習試験の準備をしていた。
ちなみに俺はこの実技演習試験に関しては全く不安を感じていない。不安を感じているのはその前に受けた筆記試験の方だ。
あの異世界から帰還(?)して、ヒーローになるために雄英高校を受験する事を決めた日から俺は、少しでも異世界にいた時の実力を取り戻すべく身体を一から鍛え続けた。だからよっぽど不利な状況にならない限りは大丈夫だという自信がある。
しかし筆記試験の方は実技演習試験程の自信はない。一応、身体を鍛えるのと同時に受験勉強もしていたのだが、自己採点をしていると気になる点がいくつも思い浮かんでくるのだ。
「はぁ……」
「ねぇ、大丈夫?」
筆記試験の不安によりため息を吐くと、誰かが話しかけてきた。声がした方を見るとそこには、ボサボサ頭でどこか愛嬌のあるニキビ顔が印象的な、俺と同じ受験生がいた。
「あっ、ゴメン。何だか調子が悪そうだから声をかけたんだけど……」
俺が視線を向けるとボサボサ頭の受験生は何故か謝ってきた。
「いや、大丈夫。筆記試験の結果が気になって、つい考え込んでいたんだ。こちらこそ心配をかけてすまなかった」
「ううん。それなら良かったんだ」
俺が答えるとボサボサ頭の受験生は首を横に振って、明らかにホッとした表情を浮かべ、それだけで彼が本当に俺の事を心配してくれていたのが分かった。
凄いな、彼は。自分も受験生で緊張しているはずなのに、こうして他人の、しかもこれからライバル関係の俺の心配をできるだなんて。
そこまで考えた俺はつい嬉しくなってボサボサ頭の受験生に自己紹介をすることにした。
「俺は黒岸健人。未来のヒーロー名はアバンナイト。君の名前は?」
「あ、うん。僕は緑谷出久……って、もう自分のヒーロー名を考えているの?」
俺の自己紹介、というかヒーロー名にボサボサ頭の受験生、緑谷が驚いた顔になり、俺達の会話を聞いていた他の受験生達が「もう受かったつもりかよ」とか「ヒーロー名とか気が早すぎだろ」とか笑ってくる。だけど……。
「当然。俺達は全員、雄英高校に受かって、将来はプロヒーローになるためにここにいるんだろ? だったらヒーロー名の一つや二つ、考えていてもおかしくないだろう? 勝利の女神ってのは、常に自分の勝利を信じて走っている奴にしか微笑んでくれたり、横っ面をひっぱたいてくれないんだよ」
『『………!?』』
と、俺が言うと緑谷と俺達の会話を聞いていた受験生達は全員、何かに気づいたような表情となり黙ってしまう。
あの先生なら、常に前向きでどんな困難を前にしても進み続けることを教えてくれた先生ならこう言うだろうと思って言った言葉は、予想以上に緑谷達に響いたみたいだ。
「HEY! 中々良いことを言うじゃねぇか、そこのボーイ! それじゃあ、準備もできたみたいだし試験を始めるぜ。はい、スタート!」
俺の言葉に首元にスピーカーみたいなものをつけた男、この実技演習試験の試験官で雄英高校の教師であるプロヒーロー、プレゼントマイク先生が試験の開始を告げた。……って!? もうスタート!?
俺が慌てて試験会場に向かって走り出すと、後ろから「もう試験は始まっているんだぜ?」というプレゼントマイク先生の声や他の受験生達の声が聞こえてきた。
「それじゃあ行こうか『相棒』」
俺は走りながら何も無い虚空から「あるもの」を取り出した。
それは一振の剣。無数の骸骨を寄せ集めて作ったような切っ先が斧の刀身が特徴的な剣。
この剣の名前は「はかいのつるぎ」。
地獄の悪魔が人間への憎しみを集めて作ったという設定で、高い攻撃力と「会心の一撃」の発生確率が魅力だが装備すると呪われて一定確率で行動不能になるという、ドラゴンクエストのファンの一部に人気がある剣だ。
俺がこのはかいのつるぎを手に入れたのは、あのドラゴンクエストの異世界に転移してすぐだった。
転移先の城の武器庫ではかいのつるぎを見つけて手に触れた俺は剣に呪われてしまった。だが結局俺ははかいのつるぎの呪いを解くことなくそのままこの剣を、大魔王との最後の戦いまで使い続けた。
異世界での時間も合わせれば使い続けた時間は十年以上になるため、俺がはかいのつるぎを「相棒」と呼ぶのは決して過言ではないと思う。
そして俺が「行動不能になるかもしれない」という凶悪なデメリットを持つはかいのつるぎを最後の戦いまで使い続けることができた理由は、俺自身の「個性」のお陰だ。
俺の個性は「超健康体質」。
どんな毒や病を受けてもすぐに無効化できる上に、傷や体力の回復も早いという個性。凄いと言えば凄いのだが、平時では「無個性」と大差無い超地味なこの個性、実はドラゴンクエストの世界の呪いにも有効だったのだ。
個性のお陰で行動不能というデメリットを排除できたことにより、はかいのつるぎは強力な上に使い易く、呪いの効果でどんな離れた所にあっても呼べばすぐにやって来て、おまけに手入れ不要という便利アイテムに大変身。
正直相棒、はかいのつるぎを持っている限り、どんな敵が現れても負ける気がしなかった。