異世界帰りのヒーロー、アバンナイト   作:兵庫人

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一筋縄ではいかないようだな

 正直な話、俺は今の緑谷の戦闘能力はA組とB組を合わせた一年のヒーロー科でも上位に位置していると思っている。

 

 自分の個性に少しずつ慣れていき、まだ岩砕掌は修得していないが拳藤と鉄哲と同じように俺からアバン流牙殺法を習っている緑谷は、一撃の破壊力だけを見ればプロの武闘派ヒーローにも負けないだろう。だから俺は相手の心操がどんな相手だろうと、緑谷がすぐに勝ってしまうだろうと思っていた。

 

 しかし現在、緑谷は俺の予想を反して負けようとしていた。……それも、自分から場外をしようとする意外な形で。

 

 試合が開始すると心操は緑谷に何か話しかけ、それに緑谷が返事をしたと思った途端、彼はまるで人形のように立ち尽くした。そして心操が「そのまま自分から場外に出ろ」と言うと、緑谷は心操に背を向けて場外へと歩き出して今に至る。

 

「おい、何やってるんだ緑谷!? そのままだと本当に場外になっちまうぞ!」

 

 A組の観客席から尻尾を生やした男子生徒が叫ぶが、緑谷には聞こえていないようで無表情のままだった。その様子を見て俺の中で一つの予想が浮かび上がる。

 

「もしかして……心操の個性って、洗脳か催眠の個性とかだったりするのか?」

 

「……あり得ますね。でしたら『声をかけて相手が返事をする』というのが個性の発動条件なのでしょうか?」

 

「そうか。だから騎馬戦の時、心操に話しかけられた騎馬が動きを止めたのね」

 

 俺が自分の予想を口にすると、それを聞いた塩崎と拳藤が合点がいったとばかりに頷き、物間が口に手を当てて呟く。

 

「だとしたらマズいね。緑谷はA組でも珍しい素直な性格だから、ああいったからめ手には弱い。このままだと本当に負けてしまうね」

 

 そう言っている間にも緑谷は場外へと歩いていき、後一歩足を踏み出せば場外となるその時……。

 

「………!」

 

 突然、緑谷を中心に強風が吹き荒れる。会場内のほとんどの人は何が起こったのか分からずにいるが、俺は一つの確信に近い予感を覚えて緑谷の体を見ると、緑谷の右手の指が二本ほど、明らかに変な方向に折れ曲がって赤黒く変色していた。

 

 恐らく緑谷は辛うじて動く右手の指を個性の超パワーで弾き、わざと暴走させたのだろう。今の強風はその反動で、指は当然今のように折れ曲がってしまったが、その痛みのお陰で緑谷は元に戻ったようだ。

 

 本当に緑谷って入試の時から無茶苦茶するよな。

 

 それから後は全身を強化したフルカウル状態となった緑谷が一撃で心操をあっさりと倒したのだが、観客席にいるプロヒーロー達は心操の個性を高く評価していた。

 

 確かに心操の個性は声をかけられて返事をしたら即戦闘終了になる強力な個性だから、上手く使えばヴィランとの戦闘で大きな戦力となるだろう。……このトーナメント、中々に一筋縄ではいかないようだな。

 

 第二試合は鉄哲とA組の切島との試合。

 

 鉄哲の個性は身体を鋼鉄にする「スティール」で、切島の個性は身体を金属のように硬くする「硬化」。

 

 個性も戦闘スタイルもダダ被りで、それだけなら両者とも一歩も譲らない泥試合が展開されただろう。しかし……。

 

「岩砕掌!」

 

「ぐわっ!?」

 

 鉄哲が放った岩砕掌が切島の左肩に当たり、切島が苦しそうな表情を浮かべて膝をつく。

 

 へぇ? 腕を鋼鉄にした鉄哲の岩砕掌は俺から見ても下手なモンスターを一撃で倒せる威力があるのに、それを食らってまだ戦意を失っていないなんて、あの切島って奴タフだな。

 

「……す、スッゲェ技だな? 何だよ、それ?」

 

「今のか? 今のはアバン流牙殺法岩砕掌っていって、黒岸から教わった拳を使った技だよ。俺はまだこの技しか使えないけど中々効くだろ?」

 

「アバン流……?」

 

「黒岸はアバンナイトっていうヒーロー名を名乗っていてな、それが使えるからアバン流って言ってたぜ」

 

 試合会場から切島と鉄哲の会話が聞こえてくる。

 

 俺のヒーロー名がアバンナイトだからアバン流というのは、鉄哲達にアバン流牙殺法を教え始めた時に俺が言った嘘だ。まさかドラゴンクエストの異世界で世界を救った勇者から学んだという訳にもいかず、苦し紛れで言った嘘なのだが今のところは疑われずいている。

 

「おいぃ。黒岸ぃ」

 

 俺が切島と鉄哲の戦いを見ているとカマキリのような顔をしたクラスメイト、鎌切尖が話しかけてきた。

 

「どうした、鎌切?」

 

「今、鉄哲の奴……拳を使った技って言ったよなぁ? それじゃあ『剣とかを使った技』もあるってことかぁ?」

 

 鎌切の奴、鋭いな。今の会話だけでそのことに気づくだなんて。

 

 俺は鎌切のカンの良さに内心で感心しながら頷いてみせた。

 

「あるよ。というか俺のアバン流は剣を使った技が本領。鉄哲や拳藤に教えたのはそれを拳で使った応用技だ」

 

「……じゃあ、その剣を使った技、体育祭が終わったら俺にも教えやがれ」

 

「そうだね。僕も興味あるかな」

 

 俺と鎌切の会話に同じくクラスメイトの庄田二連撃が入ってきた。

 

「さっきの鉄哲の岩砕掌という技はとても凄い技だった。あれを覚えることができれば僕はもっと強くなれる気がする。黒岸、教えてくれないかな?」

 

「……分かった。俺達はいつも早朝と放課後、それと休日に訓練をしているからそれに参加しなよ。その時に教える」

 

 俺は鎌切と庄田の言葉に頷いてみせた。

 

 鎌切は少し攻撃的すぎるところがあるが、それでも二人ともヒーローになるために雄英に来たのだ。きっと先生の技を正しいことに使ってくれるだろう。それならばクラスメイトが強くなるための協力を惜しむ理由はない。

 

 そう考えて俺が鎌切と庄田に返事をしたその時、鉄哲が二発目の岩砕掌で切島を気絶させ、第二試合は鉄哲の勝利で終わった。

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