異世界帰りのヒーロー、アバンナイト   作:兵庫人

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俺の個性をコピーしろ

 マキナと爆豪の試合は、試合内容は見応えがあったがその前のやり取りが酷すぎた。実際物間なんて「A組に同情したくはないけど男としては同情せざるを得ない。A組の無様な姿を笑ってやりたいけど男としては笑えない」という、今まで見たことのない表情を浮かべていたし。

 

 ちなみにこの試合で雄英高校男子の間で「絶対に逆らってはいけない女子ランキング」にマキナの名前が堂々一位にランクインしたのだが、それはまた別の話。

 

 試合が終わった後、喉が渇いた俺は何かジュースでも買って飲もうと自販機を探して通路を歩いていたら、突然一人の男の大声が聞こえてきた。

 

「焦凍! 待て! 待つんだ焦凍!」

 

 大声を出していたのはヒーロースーツを着て顔から炎を出している大男、ヒーローランキング二位の燃焼系ヒーロー、エンデヴァー。そしてエンデヴァーが話しかけているのはA組の轟だった。

 

 轟はエンデヴァーと目を合わそうとせずに歩いて行こうとするが、それでもエンデヴァーは必死に轟に話しかけようとする。ヒーローランキング二位のトップヒーローがあんな表情をするなんて一体何事だ?

 

「大切な話なんだ! いいから話を聞くんだ、焦凍!」

 

「……うるせぇな、何だよ?」

 

 エンデヴァーの言葉に根負けした轟が立ち止まって面倒臭そうな顔を隠そうとせずにそう言うと、エンデヴァーは本題を口にする。

 

「さっきの試合で戦っていた女子生徒、機械島巻菜! 彼女とだけは関わるんじゃないぞ!」

 

 ……!? ここでもマキナ案件かよ? アイツは本当に何をしているんだ?

 

「……関わるなも何も、アイツはクラスメイトだぞ? 無理だ」

 

「クラスメイト……!? そ、それでもだ! 彼女と必要以上関わるな! 彼女は悪魔……いいや! 男を抹殺するキラーマシンなんだ!」

 

 トップヒーローの一人にここまで言わせるだなんて、マキナの奴、本当に何をしたんだ?

 

 

 

「なぁ、緑谷? お前、機械島と幼馴染みだったよな?」

 

「え? うん。そうだけど?」

 

 それから数分後。俺が客席に戻って自販機で勝ったジュースを飲んでいると、A組の観客席から轟と緑谷の話し声が聞こえてきた。

 

「じゃあ機械島とエンデヴァーの間に何か因縁のようなものがないか知らねぇか?」

 

「まきちゃんとエンデヴァーの間に因縁……ああっ! 中二の時のプロヒーローの股間へジャイアントスイング事件! そういえばあの時に来ていたヒーローがエンデヴァーだった!」

 

 ちょっと待て、何だその事件?

 

「ちょっと待て、何だその事件?」

 

 緑谷の叫びに俺の心の声と轟の声がシンクロした。いや、俺達だけでなく、今の言葉を聞いた全員の心が一つになったはずだ。

 

「それで緑谷? そのプロヒーローのって、どういうことなんだ?」

 

「うん。僕が中学二年生の時にプロヒーローが学校に訪問するイベントがあったんだ。それでやって来たプロヒーローがエンデヴァーで、よりにもよってその時にまきちゃんとかっちゃんがケンカしたんだ。それでまきちゃんはかっちゃんを高速のジャイアントスイングで投げ飛ばして、かっちゃんの頭……というか顔が向かった先が、その……丁度止めにきたエンデヴァーの股間で……って、轟くん?」

 

「………!」

 

 緑谷から聞かされたマキナが起こした惨劇に、轟は信じられないといった表情でフリーズしてしまう。

 

 というかマキナの奴、幼馴染みだけじゃなくて他のプロヒーローにもトラウマ植えつけているのかよ?

 

 

 

 そんな緑谷と轟とのやり取りの後で行われた第六試合と第七試合は、似たような内容の試合だった。

 

 第六試合で戦うのはA組の麗日お茶子と同じくA組の八百万百。

 

 麗日の個性は触れた物を無重力する「無重力」で、八百万の個性は体の脂質から生物以外なら何でも作り出す「創造」。どちらも強力な個性だが、麗日の個性が接近戦特化なのに対して八百万の個性はどの距離からも対応が可能。

 

 だから麗日と八百万の試合は、何とか距離を詰めようとする麗日とそれを妨害して距離を取ろうとする八百万の、鬼ごっこのような展開となった。

 

 個性で自分の重さを無くして軽快で素早い動きを見せる麗日。マキビシや煙幕で相手の接近を阻みつつゴム銃などで攻撃をする八百万。

 

 二人の戦いは中々決着が着かなかったのだが、試合時間終了直前で、個性を使いすぎた反動で麗日が倒れて勝者は八百万となった。

 

 第七試合は拳藤とA組の芦戸三奈との戦い。

 

 拳藤の個性は両手を巨大にする個性で芦戸は酸を分泌する個性。

 

 この試合でも片方は接近戦に特化して、もう片方は距離を取って戦える個性。だから試合が始まってからの序盤は、距離を詰めようとする拳藤を芦戸が酸を投げつけ距離を取ろうとする、第六試合によく似た展開だったのだが中盤あたりで大きく流れが変わることになる。

 

「はぁっ!」

 

「うわっ!?」

 

 拳藤が手刀にした右手を横薙ぎに振るった瞬間、突風が起こって芦戸が投げた酸を切り裂き、突然の出来事に芦戸が尻餅をつく。

 

「ようやく出来た……! アバン流牙殺法海震掌!」

 

 アバン流牙殺法海震掌は俺が教えた爪系の武器や拳を使うアバン流刀殺法の海波斬にあたる技なのだが、この短期間、しかも試合の真っ最中でものにするなんて……拳藤の奴、やるじゃないか?

 

「な、何それー? それも貴女の個性ー?」

 

「違うって。これは黒岸の特訓で身につけた技だから!」

 

 芦戸の言葉に答えながら拳藤が再び彼女に向けて走り出す。その後、芦戸は再び何度も酸を投げつけて攻撃をするのだが、拳藤の新技である海震掌に吹き飛ばされ、最後はようやく距離を詰めた拳藤が芦戸を場外へと押し出して拳藤の勝ちとなった。

 

 そして次はいよいよ俺の試合で対戦相手は物間。

 

 物間の個性は別の人間の個性を五分間コピーして自分も使えるようになる「コピー」。しかしそれには相手、つまり俺に触れないといけないし、前もって誰かの個性をコピーすることはルール上認められなかった。

 

 つまり試合が始まったばかりの物間は「無個性」と全く同じ状態で、だから俺は試合が始まると彼に……。

 

「物間、俺の個性をコピーしろ」

 

 と言って、物間に右手を差し出したのだった。

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