「いいっ……! 二人ともとってもいいわよ! そういう青臭いの、先生とってもとっっても好きよ! それじゃあ試合、始め!」
何やら妙にテンションが高くなったミッドナイト先生の合図と同時に、俺と物間は後ろへと跳んで魔法を放った。
「「ギラッ!」」
俺と物間が放った魔法は、タメ無しで放てる上に攻撃魔法の中でも最速のギラ。俺達が放ったギラは舞台の中央でぶつかり合う。
「……へえ? 腕を上げたじゃないか?」
物間のギラはただ呪文を唱えただけの魔法ではなく発動のイメージがしっかりとしていて、最初の戦闘訓練で放ったベギラマとは比べ物にならない「圧力」を感じた。入学からの訓練で魔法の基礎ができてきた証拠だ。
「ハハッ……親友にそう言ってもらえると嬉しいね。でもこれくらいだとは思わないでくれよ?」
俺の言葉に物間は僅かにぎこちない笑みを口元に浮かべながら返事をする。
やせ我慢とはいえそこまで大きな口を叩けるだなんて大したものだ。……でも、まだまだ甘い!
「……ヒャド」
「えっ!?」
俺はギラに集中しすぎて足元がおろそかになった物間にヒャドを放ち、彼の足元を凍りつかせた。それにより動揺した物間に俺はすかさず次の攻撃魔法を放つ。
「イオ!」
「……!?」
魔法の砲撃は足元が凍って身動きがとれなくなった物間に直撃し、彼の姿は爆炎に飲み込まれてしまう。これで終わったかって……ん?
最初はギラで力比べ。次はヒャドで足止め。イオで追撃。
………あれ? 何だかスッゴいデジャブ。
今の戦いの流れに違和感を感じて空を見上げると、そこには空を浮かぶ物間の姿があった。
「トベルーラ? いつの間に?」
「ふふん。驚いたかい、親友? イメージの基礎と魔法力の放出を覚えれば僕だってこれぐらいはできるさ。何より空を飛ぶなんて全てのヒーローの理想だからね。そりゃあ覚えるさ」
自慢気な笑みを浮かべて答える物間に、俺もトベルーラで飛んで頭突きをお見舞いしてやろうかと思ったが、それより先に彼は次の魔法の呪文を唱えた。
「レムオル!」
空中に浮かぶ物間が消えて観客席から驚きの声が上がる。物間の奴、死角から攻撃魔法を仕掛けてくるつもりか?
「させるか、バギマ!」
「うわぁっ!?」
空に向けて風力を最大にしたバギマを放つと、透明化が解けた物間が舞台に墜落するが、物間は受け身をとるとすぐにこちらへ魔法を放つ。
「くっ! イオラ!」
物間の手から放たれた数個の魔法の砲撃。しかしその狙いは俺ではなく、魔法の砲撃は俺の手前で地面に激突して盛大な爆煙を起こした。
「煙幕? 物間は一体何処に?」
「ピオリム……ここだよ!」
「っ!?」
突然の煙幕で俺が一瞬物間の姿を見失うと、物間は魔法で自分の速度を上昇させてこちらへ殴りかかってきた。俺は物間の拳を両腕を組んで防御するが、物間は自分の奇襲が防がれても気にすることなく笑みを浮かべていた。
「これでコピーの時間、五分延長だね」
っ!? 最初から俺にダメージを与えるのじゃなくて、触れること自体が目的だったのか? となると物間の狙いは……。
「お前、長期戦狙いか?」
「その通り! 親友は魔法力を温存する必要があるけど僕はそれがない! 魔法を使った勝負でこの差は大きいよ?」
物間は俺の言葉に頷いて自分の考えを口にすると、再び後ろへと跳んで魔法を発動させる。
「レムオル! マヌーサ!」
物間の姿が消えた瞬間、数人の物間の幻影が現れる。今度は騎馬戦で使ったレムオルとマヌーサのコンボか。物間の奴、本当に魔法力のペース配分を無視しているな。
この試合はトーナメントのまだ序盤、一回戦だ。俺がこれから先も勝ち抜くのなら物間の言った通り、魔法力を最低でもベホマが一、二回は使える程度は残しておきたい。
それに対して物間は、魔法を使えるのがこの試合だけだから、魔法力が枯渇する寸前まで魔法を使うことができる。
魔法戦闘でこの差はとても大きく、そこに目をつけた物間の着眼点は中々のものだと思う。……だけど物間?
一体いつからこの試合は魔法のみを競う試合になったんだ?
「………」
「イオラ!」
俺が目を閉じて精神を集中すると、それを隙だと思った物間が魔法を放ってきた。
透明になった物間は自分が作り出した幻影と幻影の間をすり抜けるように走りながら魔法を放つのが「分かる」。俺は物間の魔法の砲撃を最小限の動きで避けると、透明になった物間がいる方に向けて右の掌底を放つ。
「穿空掌!」
「っ!? がはっ!」
俺が右の掌底を放つと物間は勢いよく場外に吹き飛ばされた。
アバン流牙殺法穿空掌。
拳を使ったアバン流刀殺法の空裂斬に当たる技で、目に見えない相手の生命エネルギーを感じ取り、そこへ闘気を放つ技。
「物間君、場外! 勝者、黒岸君!」
ミッドナイト先生の言葉を聞きながら物間の方を見ると物間は場外で気絶していた。
「物間、お前は強くなったよ。魔法だけの勝負だったら、お前が勝てたかもしれないな」
これは俺の本心だ。だけどこの試合は魔法だけを使った試合ではなく、物間の敗因は俺の魔法にしか警戒していなかったことだろう。
更に言えば俺がドラゴンクエストの異世界で先生から学んだアバン流刀殺法は、魔王を倒して世界を救うために剣術以外にも体術、魔術、呪術等の様々な分野を研究してその極意を取り入れた、先生が言うところにベリーベリーストロングな剣術だ。透明になって囮の幻影を出した程度で破られるようなものではない。