「それでは……初め!」
「先手必勝!」
ミッドナイト先生の合図と同時に拳藤がこちらに向かって駆け出し、右手を手刀の形にして振り上げる。あの構えは間違いなく……。
「岩砕掌!」
拳藤が繰り出したのは予想通りアバン流牙殺法岩砕掌。それも手刀を振り下ろす途中で個性で巨大化させてリーチを変化させている。これは知らない相手だったら避けるのは難しいだろうな。
「だけど……甘い! 海震掌!」
「くっ!?」
俺は拳藤の岩砕掌を横に飛んで避けると、お返しとばかりに海震掌を放ち彼女の体を吹き飛ばす。しかしこの程度で拳藤が参るはずがなく、彼女はすぐに立ち上がるとこちらを睨みつけてくる。
「まだまだぁ!」
「ああ、そうだろうな!」
再び向かってくる拳藤に俺も駆け出しぶつかり合う。お互いに拳や蹴りを放ち、攻撃を防いでは反撃をする。
そして十回以上お互いの攻撃を防いだところで俺と拳藤は同時に後ろに跳んで距離を取り、そこで拳藤が拳を構えたまま話しかけてきた。
「ねぇ、黒岸? あんた、何で使わないの?」
「使わない? 何をだ?」
「魔法と、物間との試合で使ったあの技よ」
そういえば俺ってば物間との試合で穿空掌……アバン流牙殺法の「空」の技を使っていたな。参ったな。心の眼で物間の位置を探ってから海震掌を使っておけばよかったな、俺の馬鹿。
「魔法はこれから先のことも考えて温存しておきたいんだよ。拳藤も気づいているんだろ? 俺の魔法力がもう全体の半分を切っていること」
俺は第一種目の障害物競走と第二種目の騎馬戦で俺は大きく魔法力を消費した。少しだけ仮眠をとって僅かに魔法力が回復したが、物間との戦いでそれ以上に消費してしまった。
「確かに……。もし魔法が使えていたら今頃えげつない手で負けていただろうし」
「ちょっと待て。お前は俺のことを何だと思っている?」
拳藤の言葉に俺が思わず聞くと彼女は僅かに首を傾げて口を開く。
「ん〜? 何でもありで怒ったら何をしでかすか分からないチートキャラ?」
「泣くぞ」
拳藤のあんまりな言葉に思わず本当に泣きそうになった。……って、よく見たら観客席にいるB組のクラスメイト達や緑達が頷いているのが見えるんだけど?
クソッ! お前らがそんな目で見るのだったらお望み通りに魔法を利用したえげつない手を使ってやろうか? レムオルで透明になっての奇襲から、アストロンで動けなくして場外に押し出すとか、色々アイディアはあるんだぞ。
いや、駄目だ。これは拳藤に「空」の技を教えるかどうかを見る試験だって自分で決めたじゃないか。この試合は今のまま拳だけで戦うべきだ。
「……魔法は使わない。それと物間に使った技は姿が見えない相手に使う技だからこれも使わない」
嘘は言っていない。先生も「空」の技の説明で見えない相手を攻撃する技と言っていたからな。
「そう。それだったら仕方がないね。……じゃあ、そろそろ行くよ!」
俺の言葉に一応納得してくれたのか再び攻撃を仕掛けてきた。
「海震掌!」
拳藤が次に繰り出したのはアバン流で最速の「海」の技。スピードで確実に当てようとする狙いはいいが……。
「覚えたての技なんかに!」
俺は拳藤が技を繰り出す直前に彼女の懐に入り込み、拳藤の攻撃を逸らすと同時に彼女のガラ空きになった胴体に拳を放った。
「………!?」
俺の拳は綺麗に決まり、拳藤は舞台に倒れてすぐに立ち上がろうとするが、その足は震えてダメージを受けているのが見て分かった。
「やっぱり強い……! でも、まだ……!」
拳藤はふらつきながらも戦意を失っていないようで、個性で両手を巨大化させるとこちらへ向かってきた。さっきの攻撃の手応えからみて恐らくあれが彼女の最後の攻撃だろう。一体どんな攻撃をするつもりだ。
「これ、でぇ!」
気合いの声と共に拳藤が放ったのは先程と同じ海震掌で、それを見た俺は少しだけがっかりした。あのダメージでまだ「海」の技を出せるのは凄いが、それだけだと……いや、違う!?
「当たれぇ!」
拳藤の右手による海震掌を避けた俺に、彼女は空いていた左手を手刀にして振り下ろそうとしていた。あの左手……まさか岩砕掌か?
海震掌の衝撃波で相手の体勢を崩して、岩砕掌の破壊力を確実に与える二段構えの攻撃。それって……。
「驚いた。俺のと同じだ」
「……え?」
俺の呟きに拳藤は虚を突かれた表情となり、その一瞬の隙を突いて俺は、ドラゴンクエストの異世界で編み出した自分だけのオリジナルの技を繰り出した。
「斬竜双撃!」
「……………!?」
俺のオリジナル技は拳藤の岩砕掌より先に彼女に決まり、拳藤は今度こそ気を失い、俺の勝利が決まったのだった。
そしてこの時の俺は気づいていなかった。
「…………………………」
拳藤が気絶して俺の勝利が決まった瞬間、観客席にいたマキナがこれ以上なく美しく、それでいて恐ろしい笑顔を浮かべていたことに。