緑谷と轟の試合。本当だったら観客席で直接見て緑谷の応援をしたかったのだが、この試合が終わればすぐに俺の試合となるので、選手控え室にあるテレビで緑谷達の試合を観戦することにした。
……何故か次の試合の対戦相手であるマキナと一緒に。
「あの、マキナさん? 何でここにいるの? ここ、俺の控え室だったはずだけど?」
「私の控え室よりここの方が観客席から近かったですから」
俺の質問にテレビを見たまま返事をするマキナ。コイツって今更だけどこれ以上なくマイペースだよな。
「それとも私がここにいると何か不都合でも?」
「いや、そんなことはないけど……始まったか」
マキナと話しているうちに試合が始まり、テレビの中の緑谷と轟が動きを見せた。
最初に動いたのは轟で、瀬呂との戦いでも見せたあの巨大な氷を作り出して緑谷を凍らせようとする。しかし緑谷は轟の冷気をフルカウルの高速移動で避けて、どうしても避けられない氷は岩砕掌で砕き、轟に接近していく。
『……!』
轟は緑谷の攻撃を紙一重で避けると全方位無差別に大量の氷を作り出して緑谷を引き剥がす。
それからは緑谷が轟の氷を避けて接近戦を仕掛け、轟も緑谷の攻撃を避けて氷の全方位攻撃で距離を取るというやり取りが何回か繰り返されたが、俺はこのやり取りにどこか違和感を感じた。
「緑谷……もしかして手加減しているのか?」
今までのやり取りの中には緑谷が轟に確実に大ダメージを与えられる場面がいくつかあったが、何故かそういう場面に限って緑谷は攻撃をしていなかった。その理由が分からず俺が首を傾げていると、横にいるマキナが口を開いた。
「もしかして轟さんは何か悩みのようなものを抱えていて、出久はそれを知っているのでは?」
「轟が悩み? それが何で緑谷が手加減する理由になるんだ?」
「あの異世界で貴方達、勇者のパーティーもたまにしていたでしょう? 相手が悩みを抱えているとわざと決着をつけずに、戦いの最中なのに相手が悩みを解決するまで待つことが」
俺の言葉にマキナは初めてこちらを見てドラゴンクエストの異世界での戦いを言う。
確かに言われてみればそんなこともあったような気がするな。
「よく覚えているな。というかマキナも緑谷のことを『勇者』だと思っているんだな。……何でお前はそう思うようになったんだ?」
俺が緑谷を「勇者」と思うようになった切っ掛けはUSJで自分も怖いはずなのに命懸けで俺を助けようとした勇気を見たことだが、マキナはそれより前から緑谷を認めていたような感じがする。同じ幼馴染みで、実力だけなら緑谷よりもずっと上の爆豪があんなに低評価なのに。
「……ケントも知っていますが、出久は雄英高校の入学試験まで個性が発現せず、ずっと『無個性』という扱いでした」
マキナはテレビに視線を戻して緑谷と轟の試合を観戦しながら緑谷の過去を話し始めた。
「出久は子供の頃からオールマイトのような強いヒーローになりたいと言っていましたが、無個性の人間がヒーローになるのは非常に困難で、周囲の人間は無個性なのにヒーローになりたいという出久を笑って否定しました。勝己を初めとする同年代の友人達とその親、学校の教師、そして実の母親でさえも。出久の母親の引子さんは笑いはしませんでしたが『無個性に産んですまない』と泣きながらに謝罪をして、遠回しに出久の願いを否定していたことに変わりはありません」
「それは……」
マキナの口から聞かされる緑谷の過去に、俺は何を言えばいいか分からなかった。
夢を叶える為の道のりは他人よりも遥かに険しく、夢を叶える為の努力をしようにも理解者はいないどころか、笑うか諦めろと諭してくる者しかいない状況。
俺がもし緑谷と同じ状況だったら諦めずにいられたのだろうか? 俺の場合はドラゴンクエストの異世界での先生の教えがあったお陰で、一から訓練をやり直すことに躊躇いはなかった。だが正直途中で訓練が辛くなったことも何度かあり、その度に当時近所に住んでいた紳士を自称するおじさんに励まされたのを嬉しく思った。
「同じだと思いませんか?」
俺が子供の頃、訓練の休憩中に紅茶の差し入れをしてくれた紳士を自称するおじさんのことを思い出していると、マキナが声をかけてきた。
「え? 同じって何が?」
「出久と貴方達勇者パーティーです。あの異世界では最初、多くの人々が魔王軍に刃向かうのは絶望的だと感じていたはずです。ですが勇者パーティーは周りの絶望など関係ないとばかりに戦いを続けました。その姿は周りから否定されながらもヒーローになるという夢を諦めない出久に似ていると思いませんか?」
「ああ……なるほどな」
マキナの言葉を聞いて俺はようやく彼女が緑谷を認めている理由を理解した。
「……でも、だったらマキナが緑谷を鍛えてやればよかったんじゃないのか? 子供の頃から鍛えていたらもっと早く個性が目覚めていたかもしれないぞ?」
緑谷が今まで個性を使えなかったのは、緑谷の体が個性の力に耐えきれるようになるまで脳がリミッターをかけていたというのが俺の予想だ。そしてマキナも俺と同じく子供の頃から訓練をしていたと聞いている。だからもし緑谷がマキナと一緒に訓練をしていたら個性が目覚めていたかもしれないと思う。
「……もちろん子供の頃に何回か出久を訓練に誘いました。でも訓練をすると出久は次の日、必ず酷い筋肉痛になって、いつの間にか私の訓練を避けるようになったのです」
俺の疑問にマキナは相変わらずの無表情だが、どこか不機嫌そうな口調で答える。
……うん。マキナってば戦士としては一流だけど教える才能は全く無さそうだもんな。