緑谷と轟の試合は最初のうちは互角であったが、戦いが進むにつれて緑谷の方が優勢になっていった。理由は分からないが轟の動きが徐々に悪くなっていき緑谷の動きについていけなくなっていったのだ。
しかし轟の動きが悪くなった今が絶好の攻撃のチャンスなのに、そこで緑谷は攻撃をやめて俺達には聞こえないが轟に何か話しかける。その時の緑谷の表情は轟の心配をしつつもどこか怒っているようだった。
これは、どうやらマキナが言っていた轟が何か悩みを抱えていて緑谷がそれをなんとかしたいという考えは当たっていたようだな。
轟の方もやはり俺達には聞こえないが緑谷の言葉に返事をして、会話をしている緑谷と轟の表情は少しずつ感情を激しくしていき、やがて緑谷が何かを大声で叫んだ次の瞬間、試合に変化が訪れた。
「轟から炎……?」
なんとテレビの中にいる轟の左半身から炎が吹き出し、今まで氷で冷やされていた試合の舞台に強い風が吹き荒れたのだ。
「マキナ。轟の個性は何なんだ? アイツは氷系の個性じゃなかったのか?」
「それは半分だけ正解です。轟さんの個性は『半冷半燃』。体の右半身からは冷気を、そして左半身からは炎を出す個性です」
「……それ、どこの氷炎将軍?」
マキナの言葉を聞いて俺がドラゴンクエストの異世界で戦った魔王軍の六大軍団長の一人を思い出して呟くと、彼女は目を見開いてこちらを見てきた。
「それです……! 今まで轟さんを見てきて何かが喉まで出かかっていたのですが、そうです。轟さんの個性はあの方と全く同じでした」
ああ、やっぱりマキナもそう思っていたのか。
ちなみにだが、この時の俺との会話が切っ掛けでマキナの中で轟のあだ名が決まり、更にはそれを聞いた彼が彼女がつけたあだ名を自らのヒーロー名に採用することになるにだが、それはまた別の話。
そしてそんな話をしている間に、轟は冷気と炎の急激な温度差によって暴風を起こし緑谷を場外に吹き飛ばそうとする。しかしその瞬間、緑谷は……。
『………!』
テレビの中の緑谷は何かを叫ぶと右手を手刀にして横薙ぎに振るい、轟が起こした暴風を切り裂いた。
あれは海震掌!? 緑谷の奴、岩砕掌だけでなく海震掌も試合の土壇場で修得したのか?
海震掌は高速の攻撃で炎や吹雪等の形のないものを斬るアバン流最速の「海」の技。しかもフルカウルの超パワーで振われたそれは、暴風を切り裂くだけでなく轟の体も吹き飛ばし、轟は場外に吹き飛ばされた衝撃で意識を失い勝敗は決した。
「緑谷の奴、また強くなったな。……それじゃあ俺達もそろそろ行くぞ」
「待ってください。その前にケントにはしてほしいことがあります」
緑谷の勝ちが決まり、俺が控え室を出ようとするとそこにマキナが話しかけてきた。……って、してほしいこと? 一体何だ?
最初は疑問に思ったが、話を聞いてみるとマキナのしてほしいことというのは、実に彼女らしい要望だった。
準決勝第二試合。戦い合うのは第一種目の障害物競走や第二種目の騎馬戦、そしてこれまでの試合で予想外な行動や並外れた実力を見せた黒岸と機械島の二人で、自然と観客達の注目も集まっていた。
「それでは選手入場……って、あら?」
試合の舞台に立つ審判役のミッドナイトが選手を呼ぶと、今まで選手は東西の入場口からそれぞれ入場してきたのに、黒岸と機械島の二人は東側の入場口から入場してきた。これに対してミッドナイトは驚いた顔となり、視界席にいるプレゼントマイクの放送が聞こえてきた。
『おいおいおい! 黒岸と機械島の二人、仲良く二人で入場ってどういうことだ?』
「すみません。試合の前にこの書類を提出していたもので」
マキナはプレゼントマイクの放送にそう答えると、手に持っていた一枚の紙をミッドナイトに手渡し、その紙を見たミッドナイトが黒岸とマキナを見る。
「これは……。本当にいいの? 機械島さん?」
「はい。構いません」
「そう。分かったわ。それじゃあ、二人とも位置について」
ミッドナイトの指示に従って黒岸とマキナはそれぞれお互いから少し離れた位置につき、それを確認したミッドナイトが試合開始の合図を出す。
「それでは……初め!」
「………!」
ミッドナイトの合図と同時に、マキナが個性で自分の前世の体、キラーマシンを創造しようとする。一回戦で彼女と戦った爆豪は、キラーマシンが完成する前に攻撃をしたが、黒岸は攻撃を仕掛けようとせずただ小さく呟いた。
「こい」
黒岸が呟くのと同時に、彼の頭上に切先が斧の骸骨で作ったような刀身の剣と物々しくて不気味な大楯が現れ、それを見た観客達からざわめきが生まれる。しかし彼の行動はまだ終わりではなかった。
「
黒岸の言葉に反応して不気味な大楯、鎧の魔盾が変形をして彼の体を包み全身鎧へと変わる。
先程マキナがミッドナイトに手渡した紙は、対戦する選手双方の同意があればサポートアイテムなどの使用を許可するという内容で、黒岸の武装を許可するためにマキナが用意したものであった。全ては全力を出した黒岸と戦うために。
そして黒岸が全身鎧へと変形した鎧の魔盾を装着するのと、マキナがキラーマシンを完成させてその内部に入り込むのは全くの同時であった。