「まったくよぉ! お前はオレ様がいないと何にも出来ないんだなぁ!?」
「……ああ、そうだな。お前にはいつも世話になっているよ」
マキナとの戦いが何も分からないうちに終わった後、俺は自分の控え室で自分に向けられた声に相槌を打っていた。
「大体さっきの試合は何だよ? 『あの』マキナが何も考えずに戦いに挑むものかよ? 他はどうかは知らないが、アイツは戦いに関しては一級品に厄介なのは俺達が一番知っているだろうが?」
それに関しては一切の異論がなく頷くと更なる声が聞こえてくる。
「それなのに何の備えも無しにただ弱点のライデインを放って、結局は読まれて奇襲されやがってよぉ。オレ様が手を貸さなかったら負けていたかもしれないって分かっているのか?」
「分かっているって。その事には本当に感謝している。……でも、そろそろ突っ込ませくれないか?」
俺はそこまで言うと俺はさっきから声をかけてくる声の主に視線を向ける。
「お前は何でいきなりペラペラ喋っているんだよ? 『はかいのつるぎ』さんよぉ?」
そう。さっきから俺に話しかけていたのは、ドラゴンクエストの異世界に転移した時から使っていた剣、はかいのつるぎだった。
マキナとの試合の最後、はかいのつるぎの柄尻が彼女の腹部に突き刺さったのは、もしかしてはかいのつるぎ自身の仕業ではないかと俺は思った。だから試合が終わってはかいのつるぎに返事が返ってくるとは期待せずに話しかけた途端、はかいのつるぎは今のように言葉を発してきたのだ。
結論から言うとマキナを気絶させたのは、はかいのつるぎの仕業だった。その事に関しては助かったし非常に感謝しているのだが……。
「試合の時にあんなに思わせぶりに話しかけたらさ……しばらくの間は勿体ぶって話さないものだろう? ほら、物語の展開的に……?」
「はっ! オレ様がそんな事を気にすると思うかよ。オレ様を誰だと思っていやがる? オレ様は『はかいのつるぎ』。ドラクエから出てきたチート野郎様の相棒様だぜ」
俺が物語の展開について言うと、はかいのつるぎはそれを鼻で笑ってきやがった。どうでもいいけどドラクエから出てきたチート野郎って、以前USJを襲ってきたヴィランが俺に向けて言った言葉だよな? 気に入っているの?
「ああ、そうかよ。でも何でいきなり喋れるようになったんだよ? というか、お前が喋れるってことは鎧の魔盾も喋れるのか?」
「喋れるようになったのはつい最近だな。理由は知らん。鎧の魔盾はまだ喋れないけど、近いうちに喋れるんじゃねぇの?」
はかいのつるぎは俺の質問に興味なさそうに答える。しかし鎧の魔盾も喋るようになるかもしれないのか……それは賑やかになりそうだな。
「そうか……。じゃあ次に聞きたいんだけどお前のその…… ん?」
俺がはかいのつるぎに次の質問をしようとした時、控え室の扉がノックされた。扉を開けるとそこにいたのはこれから決勝で戦う相手、緑谷だった。
「緑谷? 一体どうしたんだ?」
「あ、うん。……って、アレ? さっき誰かいなかった? ドラゴンクエストに登場しているような格好の……」
緑谷は俺の控え室を見て首を傾げているが、俺はそれに気づかないふりをして緑谷に話しかける。
「気のせいだろ? それで何の用なんだ?」
「え? ああ、そうだった。……黒岸君にお願いがあってきたんだ」
「俺に?」
その後俺は緑谷の口から出た「お願い」に僅かばかりに驚かされ、
(はっ! 中々無謀で面白いことを言うじゃねぇか。お前もそう思うだろ、相棒?)
それと同時に頭の中にはかいのつるぎの笑い声が聞こえてきたのだった。