異世界帰りのヒーロー、アバンナイト   作:兵庫人

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これは結構有難いかもしれないな

『ええ……? 話を聞くとあのドラクエのコスプレ美少女は黒岸のはかいのつるぎが変身した姿みたいだけど……? イレイザー、はかいのつるぎって人間そっくりに変身できたっけ?』

 

『知らん。ひとくいサーベルみたいな剣のモンスターや、モシャスを使って主人公の姿と特技をまねるモンスターは知っているが、はかいのつるぎがそうだという情報は聞いたことがない』

 

 実況席で困惑するプレゼントマイクの質問に相澤先生が答えるているのが聞こえてきた。相澤先生、ドラクエ詳しいですね。前にスリーからファイブまでクリアしたって言ってましたけど、それ以外のもクリアしているんじゃないですか?

 

 俺と一緒に舞台に上がったドラクエの女戦士がはかいのつるぎだと知って観客達のざわめきが更になる。

 

「皆、お前がはかいのつるぎだと信じられないみたいだな。まあ、仕方がない……というか、俺だっていまだに半信半疑だからな」

 

「………」

 

 俺が自分の気持ちを正直に口にすると、はかいのつるぎは満面の笑みで中指を立ててきた。

 

「ったく、相棒までオレ様を疑うのかよ? 人間になれたものはなれたんだからしょうがねぇだろ? ほら、『ゴメ』の例もあるし、世の中には戦士と一緒に旅しただけでイケメンの人間になったホイミスライムもいるらしいぜ?」

 

 ゴメ、ゴメちゃんか……。懐かしい名前を聞いたな……。

 

 はかいのつるぎの言葉を聞いて俺は、世界に一つしかない伝説のアイテムが変身して、世界に一匹しかいない珍しいスライムとなった、弟弟子の親友のことを思い出した。

 

 言われてみれば確かにゴメちゃん以外にも、チェスの駒から生まれて最終的にメタルスライム系の生命体となった親衛隊隊員もいるし、道具が生命体となるのは絶対にありえないと言うほどではないのかもしれないな。

 

 しかしはかいのつるぎよ? 神々が創造した伝説のアイテム、そして世界で初めて人間の仲間になった伝説のホイミスライムと自分を同列にするのはどうなんだ?

 

「……まあいいか。ここでこんな話をしても仕方がないしな。緑谷もそろそろ始めないか?」

 

「え? あっ、うん。……ミッドナイト先生、これを」

 

 俺に声をかけられて我に返った緑谷は、ジャージのポケットに入れていた一枚の紙を取り出すと、それをミッドナイト先生に手渡した。その紙は前の試合でマキナが提出したのと同じ、はかいのつるぎと鎧の魔盾の使用を許可する書類で、それを見たはかいのつるぎが面白そうな笑みを浮かべる。

 

「緑谷の奴、控え室で言ったことマジみたいだな。良い根性してやがる」

 

 はかいのつるぎの言葉に、俺は控え室で彼女と話していた時に緑谷がやって来て、ある「頼み」をしてきたことを思い出す。

 

 緑谷の頼みというのは、俺にはかいのつるぎと鎧の魔盾を装備した全力で戦ってほしいというもの。本人が言うには俺のことを凄いと思っているからこそ、お互い全力で戦いたいとのことらしい。

 

 その気持ちは分かるし嬉しいのだが、俺は緑谷の頼みは無謀すぎると思った。

 

 何度も言うが鎧の魔盾はともかく、俺がはかいのつるぎを装備して全力で戦えば本当に緑谷を殺してしまうかもしれない。だから俺はマキナ以外の相手にはかいのつるぎを使う気はなかった。

 

 しかしそんな時、はかいのつるぎが俺にだけ伝わる心の声で「オレ様に任せときな! オレ様が手を貸したら相棒が全力で戦っても緑谷を死なせないからよ」と伝えてきたので、装備の使用許可の書類にサインしたのだ。

 

「おい……。本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「おうよ、任せとけ」

 

 俺が聞くとはかいのつるぎは胸を張って自信ありげに返事をする。

 

 こうやって実際に話をする……どころか、はかいのつるぎに意思があるのを知ったのも今日が初めてなのだが、とりあえずは彼女を信じてみよう。はかいのつるぎはあのドラゴンクエストの異世界に転移した時からずっと命を預けてきた相棒で、騙したりはしない……はずだ。

 

 そして俺がはかいのつるぎを信じることに決めるのと同時にミッドナイト先生が開始の合図を告げた。

 

「それでは決勝戦……初め!」

 

「こい、鎧の魔盾。鎧化(アムド)!」

 

 試合が始まると同時に俺が鎧の魔盾を呼び出して全身鎧に変形させると、やっぱり変身シーンはウケがいいのか観客席から歓声が聞こえてきた。俺はそれを聞きながらドラゴンクエスト3の女戦士となったはかいのつるぎに手を伸ばす。

 

「いくぞ、相棒」

 

「応よ!」

 

 はかいのつるぎは俺の言葉に返事をすると全身が紫色の炎に包まれ、炎が消えると女戦士の姿から俺がよく知る切先が斧の剣の姿へと変わった。そしてはかいのつるぎを手に取った俺はそこであることに気付く。

 

「これ……刃が?」

 

 はかいのつるぎの刀身を見ると刀身の刃が潰れており、頭の中にはかいのつるぎの自慢げな声が聞こえてくる。

 

「どうだ? これなら安心だろ? 人間に変身する応用で本体の刀身もある程度変化させたんだよ」

 

 そう言えばはかいのつるぎは手入れをしなくても自動で刀身の修復や刃の鋭さを維持していたし、それの逆をしたってことか。……これは結構有難いかもしれないな。

 

 将来ヒーローとなる以上はヴィランと戦う力は必要不可欠だが、それでもヴィランを殺害していいわけではなく、はかいのつるぎは本来の威力が高すぎてヴィランを殺してしまわないよう手加減するのが非常に難しい。だが今の刃を潰したはかいのつるぎは剣の形をした棍棒のような状態で、手加減も大分やり易くなった。

 

 これなら本気で戦っても緑谷を間違って殺す、なんてこともないだろう。

 

「まあ、当たりどころが悪かったら死ぬだろうし、骨の一本や二本は折れるだろうけどな」

 

 俺の考えを読んだかのようにはかいのつるぎの声が聞こえてきた。……うん。やっぱり過信せず気をつけて戦おう。

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