「待たせたな。そっちの準備は……聞くまでもなかったな」
はかいのつるぎと鎧の魔盾を装備してから緑谷を見ると、彼もフルカウル状態となっており体から緑色の静電気を放ちながらこちらを見ていた。
「黒岸君……行くよ!」
「っ! やるじゃないか……お返しだ!」
緑谷はそう言うとフルカウルの超スピードによって一瞬で距離を詰めて、そのまま速度を乗せた拳を放ってきた。俺はそれを左腕の盾で防ぐとはかいのつるぎを緑谷に向けて振るった。
「くうっ!?」
俺がはかいのつるぎを振るった瞬間、緑谷は大きく後ろに飛んで、俺の攻撃は緑谷の腰の辺りをかする程度で終わる。攻撃がかすった箇所を見てみればジャージの一部が破けてはいるものの、切り傷などは見られなかった。
いいぞ、はかいのつるぎ。自信ありげに言うだけあって、うまく破壊力をセーブしているじゃないか。……って、おい? 一体どうしたんだ?
(………)
緑谷の体に切り傷がないのを確認した俺は、心の声ではかいのつるぎに話しかけるが、はかいのつるぎはそれに答えず何かを考えているような気配を感じさせた。
(……相棒。緑谷の奴、中に「何か」がいやがるぞ)
はかいのつるぎが俺にだけ聞こえる心の声で話しかけてきて、その口調は何かを警戒しているようであった。
緑谷の中? いやがるって一体何が?
俺が緑谷の攻撃を防ぎながらはかいのつるぎに話しかけると、はかいのつるぎは少し考えてから返事をする。
(人間の魂の気配に似ているな……。それも一人や二人じゃねぇ……複数の気配が微かにしやがる)
装備した者の心身を呪う(俺には効果は無いが)呪いの武具であるはかいのつるぎなら、人間の魂の気配を感じることも可能かもしれない。そう考えた時、俺は個性の反動で体を壊す緑谷の姿と、ドラゴンクエストの異世界で戦った魔王軍の大幹部の顔を思い出した。
なあ、はかいのつるぎ? その魂って、魔影参謀みたいに緑谷の体を操って体の限界を超えた無茶な動きをさせたりすると思うか?
(……いや。そんなタチが悪い感じはしねぇな。せいぜい緑谷の中から行動を覗き見ているだけじゃねえか?)
よかった。もし緑谷が本当にタチの悪い悪霊に取り憑かれていたら、試合は一先ず置いといて全力のシャナクかニフラムで除霊が出来ないか試すところだったぞ。
はかいのつるぎの言葉に俺が胸を撫で下ろして緑谷の方を見ると、彼は俺から距離を取って注意深くこちらを観察していた。
「やっぱり黒岸君は強い。武装をして全力で相手をしてほしいと頼んだのは無謀すぎたかな? でもあの人の期待に応えて、何より強いヒーローになるにはこれくらいのことはしないと。だけど一体どう戦う? こちらの攻撃は全て防がれている上に、黒岸君にはまだ魔法という攻撃手段があって、あの無数にある魔法のどれか一つでも使われたら本当に打つ手が無くなる。僕が勝つには黒岸君がまだ魔法を使っていないうちに、一気に勝負をつける短期決戦しかない。それも生半可なダメージだったらベホマですぐ回復されるから、一撃で気絶させるか場外に押し出す方法で。そしてその為にまず黒岸君の剣と盾を何とかしないと。何か、黒岸君の両腕の動きを封じる方法があればいいんだけど、僕にはそんな便利な技なんてないし……」
緑谷は構えを取りながら俺達に勝つ方法を必死で考えており、その思考は全て小声で口から漏れ出ていた。うん、緑谷のブツブツ芸(?)は今日も絶好調のようですな。アレは確かに緑谷で悪霊に取り憑かれてはいな……いや、待てよ?
なあ、はかいのつるぎさんや? 緑谷が時々あんな風に呪文を唱えるのって、アイツの中にいる人間の魂の影響だったりする?
(いや〜……。緑谷がたまにバグるのは単なる素なんじゃねぇの?)
俺の質問に答えるはかいのつるぎの声は微妙な感じで、もしはかいのつるぎが例の女戦士の姿であったら苦笑を浮かべているのだろう。
まあ、いい。はかいのつるぎが言う緑谷の中にある魂のことは気になるが、特に悪影響を出していないみたいだし今は放置でいいだろう。そう考えて俺が今度はこちらから緑谷に攻撃を仕掛けようとしたその時、「それ」は起こった。
「………! う、うわぁっ!?」
突然、緑谷の全身から出ている緑色の静電気が強くなったと思ったら、彼の両手から黒い帯のようなモノが大量に飛び出てきた。
な、何だ? 一体緑谷に何が起こったんだ!?