異世界帰りのヒーロー、アバンナイト   作:兵庫人

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個性が変質したものなんじゃないか?

「それで? 緑谷に黒鞭って個性が出た理由は大体分かったけど、どうして俺達まで緑谷の精神世界にいるんですか?」

 

「それは……」

 

「多分それはオレ様が原因だな」

 

 俺が気の良さそうな兄さんに質問をすると、それに答えたのは気の良さそうな兄さんではなく、はかいのつるぎだった。

 

「オレ様と相棒は呪いによって魂が繋がっているのは相棒も知っているよな? そしてここからはオレ様の推測なんだが、あの時の緑谷の黒鞭は明らかに暴走していて、恐らくは魂と普段以上に深く繋がっていたんだろう。そんな黒鞭の一本をオレ様で切り払おうとしたせいで、オレ様を通じて相棒と緑谷の魂が一時的に繋がったんじゃねぇか?」

 

「そういえば確かに黒鞭をはかいのつるぎで切り払おうとしてからの記憶が無いな……。あの、それで俺達は元の世界に帰れるんですか?」

 

 はかいのつるぎの説明を聞いてから俺が聞くと気の良さそうな兄さんは一つ頷いて答えてくれた。

 

「もちろん帰れるよ。それに現実世界だとまだ一秒も経っていないはずだから問題はないはずさ」

 

 気の良さそうな兄さんの言葉を聞いて俺だけでなく緑谷も安堵の息を吐いた。もし現実世界でも同じ時間が流れていたとしたら、今頃俺達は病院に送られて、決勝戦も中止になっていたかもしれないからな。

 

「丁度いい機会さ。現実世界に戻ったら黒鞭の暴走も収まっているはずだから、そこの坊主を相手に黒鞭の扱いに慣れておくといいさ。俺の黒鞭はいい個性だからさ、使えて損はないさ」

 

「は、はい。……あ、でも」

 

 革ジャンの男に返事をした緑谷はその後すぐに考え込む表情となる。

 

「緑谷、どうしたんだ?」

 

「うん……。黒鞭のことなんだけど、どう説明したらいいのかなって……」

 

「ああ……」

 

 決勝戦で黒鞭の暴走を見せた以上、皆から黒鞭について聞かれるのは避けられないだろう。だけど「個性を譲渡する個性」についてはバカ正直に話すわけにもいかないし、短い付き合いだけどそれでも隠し事が苦手だと分かる緑谷はどう誤魔化したらいいか悩むところだろう。

 

 ……仕方がない。ここは俺が一肌脱ぐか。

 

「要するに、緑谷の個性が超パワーと黒鞭の両方を出せるものだと、周りに信じこませればいいんだろ? ……俺が何とか誤魔化してやろうか?」

 

「えっ!? できるの?」

 

「かなり強引だし、上手くいくか分からないけどな。それでもいいか?」

 

「う、うん! お願い!」

 

 俺がそう言うと緑谷は何度も首を縦に振り、俺はそれを見てどの様に緑谷の個性を誤魔化すか考えをまとめる。

 

「じゃあ、現実世界に帰ったら俺が話すから、緑谷は驚くふりをするか適当に相槌を打ってくれ」

 

「え? それだけでいいの?」

 

「いいんだよ。というかお前、嘘とかつけないだろ?」

 

「……うん。そうだね……」

 

 緑谷が俺の言葉に俯きながら返事をすると、気の良さそうな兄さんが口を開いた。

 

「話はまとまったみたいだね。それじゃあ、そろそろ現実世界に戻すよ」

 

 気の良さそうな兄さんがそう言うのと同時に視界が暗くなっていき、やがて視界が完全に無くなる直前、気の良さそうな兄さんが何かを呟いたような気がした。

 

 

 

「………!?」

 

 次に目を覚ますと俺は試合の舞台の上に立っていて、目の前には手から黒鞭を出した状態で驚いた顔で辺りを見回している緑谷の姿があった。

 

 どうやら俺達は無事現実世界に帰れたみたいだな。……さて、それじゃあそろそろ始めますか。

 

「それがお前の新技、もしくは『本来の個性』か? 緑谷?」

 

「ふぁっ!?」

 

 俺の言葉に緑谷が面白いくらい驚いた表情となる。

 

 緑谷の奴、驚くふりをしてくれとは言ったが中々迫真の演技じゃないか。

 

(いや、どう見てもあれは素で驚いてるだろ?)

 

『はぁっ!? オイオイ、黒岸! あの黒い帯みてーなのが緑谷の本来の個性って、どーいうことだぁっ!?』

 

 はかいのつるぎのツッコミと同時に実況席のプレゼントマイク先生の声が聞こえてくる。丁度いい。これを利用させてもらおう。

 

「……俺はここ最近、緑谷に戦い方や個性の使い方を教えてきた。そしてその最中に俺は何度か、緑谷の個性の使い方に違和感を感じていた」

 

 プレゼントマイク先生の声に答えるように周囲に話しかけると、周囲の視線が俺に集中するのが分かった。ここまでは予定通りなのだが……おい、緑谷。お前まで興味深そうに見てきてどうするんだ?

 

「緑谷。確かお前のお母さんの個性は『物を引き寄せる』個性だったよな?」

 

「えっ!? あ、うん。そ、そうだけど?」

 

 俺が以前緑谷から聞いた話を確認すると、急に話しかけられた緑谷は盛大に驚きながらも首を縦に振った。

 

「……これは俺の推測で確証なんかないんだが、お前の本来の個性はお母さんの『物を引き寄せる』個性が変質したものなんじゃないか? そう、『黒い帯を放ち、帯が捕らえた物を超パワーで引き寄せる』個性に」

 

「えええっ!?」

 

『いやいやいや! 流石にそれは無茶苦茶じゃね!? 発想力が凄すぎるな、黒岸!?』

 

 緑谷の手から出ている黒鞭を指差して俺が言うと、緑谷は更に驚いてプレゼントマイク先生もまた驚いた声で放送をする。そしてプレゼントマイク先生が言う通り、確かに今俺が言った嘘は無茶苦茶でとてもじゃないが信じられないだろう。しかしここは一気に押し通す。

 

「確かに無茶苦茶な考えかもしれないけど、今まで無個性だったのに急に超パワーの個性に目覚めて、しかもそれが試合の最中に変質した、なんてトンデモ話よりはマシだと思うけど? それだったら今まで発動が出来なかった個性が少しずつ使えるようになって本来の力が開花したと考える方が自然じゃないか? 元々緑谷は今まで例がないくらい個性の発動が遅咲きなのに、病院とかで正確な検査とか受けていないんだろ?」

 

 俺が緑谷に話しかける形で、自分でも考えながら話しているという外見をとりながら言うと、話を聞いていた観客達が戸惑いながらも徐々に納得した表情となっていくのが見えた。

 

 よし。これで緑谷の個性を誤魔化すのは一応成功した筈だ。……しかしそれにしても。

 

(おいおい、マジかよ……。観客の奴らどころか、教師までもが相棒の無茶苦茶なホラ話を信じ込んじまっているぞ? あんな話をマトモに聞くなんて素直すぎね?)

 

 頭の中にはかいのつるぎの呆れたような声が聞こえてくる。

 

 そうだよな……。俺が言うのも何だけど、もっと疑われると思っていたのにこんなあっさりと信じるだなんて……。なんか変なニュースとかに流されて事件を起こさないか心配になってくるんだけど?

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