異世界帰りのヒーロー、アバンナイト   作:兵庫人

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人を助けることができました

「ここだよ」

 

 リカバリーガールについて行った先は都内で一番大きな総合病院。その手術室であった。

 

 俺達が到着した頃にはインゲニウムの手術は終わっていて一先ず死ぬのは免れたが、まだ危険な状態らしく数人の医者と看護師が油断なくインゲニウムの状態を監視していた。リカバリーガールも部屋にある医療装置が記している数値や医者から手渡されたカルテを見て辛そうな表情を浮かべている。

 

「これは……予想以上に酷いものだね。……黒岸君や。早速で悪いけどお願いできるかい」

 

「はい」

 

 俺がリカバリーガールの言葉に頷いて前に進み出ると、事前に話を聞いていたらしい医者と看護師達が俺の前を開けてくれた。

 

 麻酔によって手術台の上で眠っているインゲニウムは確かに弟の飯田と顔立ちがよく似ていた。しかし血を流し過ぎたせいかその顔色は白く、今にも死んでしまいそうに見えた。

 

「ベホマ」

 

 俺はインゲニウムの手を取ると回復魔法を唱えた。

 

 傷口の方は医者が縫合してくれているので体の修復は後回し。まずするべきなのは生命力の補充だ。

 

 以前オールマイトにベホマをかけた時に感じた「消えかけの焚き火に薪を加えて火の勢いを増す」イメージを思い浮かべながらインゲニウムに魔力を送ると、医療装置の数値等が変動してリカバリーガールや手術室にいる医者と看護師達が驚きの声を上げる。だがインゲニウムの顔色が目に見えて良くなっているところから、悪い結果にはなっていないのだろう。

 

 生命力の補充が完了した手応えを感じると、次にインゲニウムの体の修復を始めたのだが、インゲニウムの体全体に魔力を送った瞬間、奇妙な違和感を感じた。

 

 何だ? この、体の中にある「線」が何本もちぎれてしまっているような感覚は? よく分からないけど「コレ」って、放っておいたら不味いよな?

 

 奇妙な違和感を感じた俺は「ちぎれた線と線を結び合った後に、その結び目が消えて元の一本の線になる」というイメージを追加してインゲニウムの体に魔力を送り傷を消していく。そしてベホマを唱えてから一分ぐらいが経過して、インゲニウムの傷が完全に消えると、俺は精神を集中させるために閉じていた目を開いたのだが……。

 

『『……………』』

 

 目を開くと手術室にいる医者と看護師達が全員目を限界まで見開いて俺の顔を凝視していた。

 

「え? あの、何ですか……?」

 

「……奇跡だ」

 

 俺が思わず訊ねると医者か看護師達の誰かが呟き、その言葉に手術室にいる全員が頷くのだった。

 

 ………いや、何事?

 

 

 

 

 

 飯田天哉は走っていた。

 

 体育祭の最中、母親から実の兄であるヒーロー、インゲニウムがヴィランに重傷を負わされたと聞いた飯田は、自らの足が早くなる個性「エンジン」を使って兄が運ばれた病院へと向かって走り出した。ヒーロー免許が持たない者が個性を使用するのは通常禁じられており、非常に真面目な性格の彼からしたらとても信じられない行為だが、今の飯田にはそれを気にする余裕はなかった。

 

(無事でいてくれ、兄さん……!)

 

 電話で兄のことを教えてくれた母親は泣いており「もしかしたら助からないかもしれない」と涙声で言っていた。その言葉が飯田にどうしようもない不安を与えるのだが、彼に今出来ることは病院へと向かいながら兄が助かることを祈ることぐらいであった。

 

 病院にたどり着いた飯田は受付に兄がいる病室を聞くや否や、受付の人の言葉をろくに聞かず病室に走っていく。

 

「兄さん!」

 

「ん? 天哉じゃないか?」

 

「……………兄さん?」

 

 病室のドアを開けて叫んだ飯田が見たものは、コンビニのハヤシライスの弁当を食べている自分の兄、インゲニウムこと飯田天晴の姿だった。病室にいる天晴はヒーロー戦闘服(コスチューム)ではなく病院の入院服だったが、それ以外はいたって健康に見えてそれが飯田を困惑させる。

 

「兄さん? ヴィランに重傷を負わされたんじゃ……?」

 

「ああ、そうだぞ。危うく死にそうになったが、彼が助けてくれたんだ」

 

「彼?」

 

「………」

 

 飯田の質問に答える天晴の視線の先には、病室の隅で居心地が悪そうにグレープフルーツジュースを飲んでいる雄英高校の学生服を着た少年、黒岸健人の姿があった。

 

「黒岸君……? そうか、君が……!」

 

 ここでようやく黒岸の存在に気づいた飯田は、彼が雄英高校の入試で複雑骨折をした緑谷の右腕を一瞬で治したことを思い出し、一つの考えに思い至る。

 

「黒岸君。君が兄さんを助けてくれたんだね?」

 

「そういうことだ」

 

 飯田の質問に答えたのは黒岸ではなく、兄の天晴であった。

 

「医者が言うにはいつ死んでもおかしくなくて、もし助かっても下半身が動かなくなっていたそうだ。でも彼のベホマのお陰で体は元通りだし、足だっていつも通りに動く。明日の検査で異常がなければすぐにヒーロー活動を再開できるってさ」

 

「………!?」

 

 その場で両足を動かし走るポーズを取って笑う天晴を見て飯田は、自分の大切な兄と尊敬するヒーロー、その両方を救われたことに気付き、言葉を失うと同時に両目から涙が溢れだした。

 

「おいおい? どうしたんだよ、いきなり泣き出して?」

 

「ごめん、兄さん……! 嬉しくて……!」

 

 苦笑する天晴に返事をして涙をぬぐおうとする飯田だったが、しばらくの間彼の涙が止まることはなかった。そしてそんな兄弟の姿を見て黒岸は、二人に聞こえない小声で呟いた。

 

「先生……。貴方から教わった力で人を助けることができました。……ありがとうございます」

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