俺が飛田弾柔郎こと、ジェントル・ジャスティスと出会ったのは、あのドラゴンクエストの異世界に転移するより前、九歳の時だった。
当時の俺は周りの友人達と同じく「ヒーローになって活躍したい」という夢を持っていたが、個性の「超健康体質」は常に健康であること以外は無個性と同じであるため、周りから「そんな個性ではヒーローになれない」と言われていた。自分の夢を否定されたことが悔しかった俺は、周りを見返してやろうと一人で走り込みをしたり格闘技の真似事などをして、その時にジェントルと出会ったのだ。
ジェントルは周りの友人達とは違って、俺のヒーローになりたいという夢と「超健康体質」という個性を決して笑ったりせず、紅茶の差し入れをするついでに基本的なトレーニング方法を教えてくれた。
そしてその一年後、ドラゴンクエストの異世界に転移して何年もの冒険の末に帰ってきた俺は「一晩で雰囲気が変わった不気味な存在」と周りから見られて孤立してしまう。だけどジェントルは俺の変化に驚きながらも気味悪がったりせず、異世界での力を取り戻そうとする俺の訓練に、いつも通り紅茶の差し入れをしながら付き合ってくれたのだった。
ジェントルには心から感謝している。家族以外で俺の変化を受けとめてくれて、夢を応援してくれたのはジェントルだけで、彼の差し入れの紅茶と応援はこれ以上ない心の支えと言えた。
俺にとってジェントルは、ドラゴンクエストの異世界で出会った先生と同じ「恩師」であるのは間違いない。今回の体験学習でジェントルの事務所を志願したのも、あれから少しは成長したと思われる自分の姿を見てもらいたかったからだ。
しかしその恩師の一人であるジェントル・ジャスティスはというと……。
ノートパソコンの前で机に突っ伏してガチ凹みしていた。
体験学習三日目。ジェントルの事務所にある客室に泊まっている俺が朝目覚めて事務室に行くと、ジェントルが自分の机に顔を埋めて何やら暗い雰囲気を纏っていて、その隣ではラブラバさんが必死にジェントルを励ましていたのだ。
……いや、一体どういう状況なんだ?
「え〜と、おはようございます。……あの、これは一体どうしたんですか?」
とりあえず挨拶をしてから質問をすると、俺に気づいたラブラバさんがこちらへやって来て小声で話しかけてきた。
「おはよう、アバンナイト君。ジェントルのことなんだけど……実は、昨日配信した映像の評価が全然駄目だったの」
「配信した映像? 何ですか、それ?」
「ほら、アバンナイト君ってこの間の雄英体育祭の優勝者だったでしょう? だから二日前にアバンナイト君がやって来た映像と、昨日一緒に街をパトロールした映像を編集して『雄英体育祭優勝者がやって来た件』ってタイトルでネットに配信したの」
ジェントルとラブラバさんは一体何をやっているんだ? ここに来た時からラブラバさんがやけにビデオカメラを撮影してくるなとは思っていたけど、そんなことをしていたのか。……もっと別のことをしろよ。
「……色々言いたいことはありますけど、俺の映像の評価が駄目って、どの辺りが駄目だったんですか?」
正直あまり聞きたくはないが俺は一応ラブラバさんに質問をすることにした。ヒーローというのは人気商売のところがあるから、俺の行動に問題があるのなら早いうちに直しておくべきだろう。
「アバンナイト君には特に問題は無かったわ。……ただ、アバンナイト君がジェントルの所にやって来たことが視聴者に信じてもらえなかったみたいで、その辺りを散々叩かれたの」
ああ、なるほど。だからジェントルはあんな風に落ち込んでいるというわけか。
(ハッ! 何だか面白そうな奴らじゃねぇか)
ジェントルが落ち込んでいる理由に納得していると、頭の中にはかいのつるぎの声が聞こえてきた。
はかいのつるぎ、ジェントルとラブラバさんが気に入ったのか? だったら人間の姿になって話してみたらどうだ?
(んー。いや、やめとくわ。よく分からないけど、ジェントルの前で人間の姿になったら、あのラブラバって奴がうるさそうだからな)
……………確かに。
はかいのつるぎの意見に俺は思わず納得するのだった。