異世界帰りのヒーロー、アバンナイト   作:小狗丸

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【番外編】四人同時の行動

 人は当然ながら個人によって考え方や行動が異なる。例え息があった双子が「全く同じ行動をしよう」と意識したとしても、僅かばかりの「誤差」が生じる。

 

 そしてここに四人の人物がいる。

 

 黒岸健人。

 

 緑谷出久。

 

 爆豪勝己。

 

 相澤消太。

 

 この四人は「雄英高校ヒーロー科の関係者」という共通点はあるが、それ以外は考え方も行動パターンも完全に異なっている。しかしある日、この四人が場所こそは違うが、全く同じ時間に同じ気持ちで同じ行動を取ったことがあった。

 

 これはそんな非常に珍しい出来事の、本人達も知らない記録である。

 

 体験学習二日目の夜。その時、黒岸と緑谷と爆豪はそれぞれの体験学習先のヒーローの事務所で、相澤は雄英高校の職員室でテレビを見ていたのだが、突然テレビが緊急のニュースを放送した。

 

 その近況のニュースとは、とある地方都市で三十人以上のヴィランが暴動を起こしたというもので、テレビ局が生放送している中で一人のヒーローが三十人以上のヴィランの前に現れた。

 

 ラビットヒーロー、ミルコ。

 

 特定の事務所を持たずに日本全国をまわり、自らの個性「兎」による強力な跳躍力を初めとする高い身体能力を活かして、女性でありながら多くの凶悪なヴィランを撃退してきた武闘派のヒーローである。

 

 ミルコが今回のような大きな事件をどこからか嗅ぎ付けて解決に乗り出すのはいつものことなのだが、今日はいつもと少し違っていた。

 

「おーおー。悪そうなヴィランがいっぱいいるな! 取り敢えず全員蹴っ飛ば……?」

 

 三十人以上のヴィランを見てミルコが好戦的な笑みを浮かべ、今まさに飛びかかっていこうとしたその時、突然空から巨大な「何か」がヴィラン達の元に降ってきた。

 

 空から降ってきて数名のヴィランを踏み潰したのは、脚が無いのにもかかわらず何らかの力で宙に浮かび、両手に威圧感を放つ戦槌と剣を持った、とあるゲームで敵キャラクターとして登場するロボット……キラーマシン2であった。

 

『『………!?』』

 

 ヴィラン達はいきなりゲームの敵キャラクターであるキラーマシン2が現実世界に現れたことに驚き絶句して、ミルコが楽しそうに笑う。

 

「ははっ! 個性の使用を許可してすぐに奇襲とは中々いいぞ、『イージス』!」

 

「ありがとうございます。ミルコさん」

 

 ミルコの言葉にキラーマシン2、強襲装甲ヒーロー「イージス」こと機械島巻菜が礼を言い、それを聞いてミルコが頷く。

 

「よし! それでは私も遅れないようにしないとな! 行くぞ!」

 

 そう言うとミルコは今度こそヴィラン達に向かって飛びかかり、それと同時に巻菜が乗り込んでいるキラーマシン2もヴィラン達に攻撃を開始した。

 

 そしてその後、繰り広げられたのは戦いではなく一方的な蹂躙であった。

 

「脱兎の如く蹴りまくる!」

 

「はぁっ!」

 

『『ギャアアアアアッ!?』』

 

『『……………!?』』

 

 ミルコが蹴りを放ったり、巻菜のキラーマシン2が武器を振るう度にヴィランがゲームのように吹き飛ばされ、周囲にいる目撃者達はその嵐のような戦いぶりをただ驚きの表情で見ることしかできなかった。

 

「ひ、ひいいっ!? 助けて! 助けてぇ! お、お巡りさぁん!」

 

 三十人以上いたヴィランの一人が恐怖に堪えかねて近くにいた警察官に助けを求めようとする。しかし……。

 

「じ、自首します! 自首しますから助……ゲッ!?」

 

「逃がさん!」

 

「逃がしません」

 

『『………!?』』

 

 警察官に助けを求めようとしたヴィランは、ミルコの踵落としとキラーマシン2の戦槌によって警察官の目の前で地面に叩きつけられ、「じ、自首するって……言ったのに……!」と涙を流しながら呟いてから気絶した。

 

 これには警察官だけでなく目撃者達もドン引き。おまけに生放送を見ていた視聴者達もドン引きである。

 

 しかしミルコと巻菜は周囲がドン引いているのにも気づかずにお互いの顔を見て、やがてミルコが面白そうに笑う。

 

「イージス! お前、やっぱり筋がいいな! だがまだまだ私の方が強いからな!」

 

「……総合的な戦力は兎も角、ヴィランを倒すスピードと効率は負けていないと判断します」

 

「ほう……」

 

「……」

 

 ミルコの言葉に巻菜が返事をするとミルコは好戦的な笑みを浮かべ、巻菜はキラーマシン2の内部で見つめ返す。それから数秒間見つめあった二人は突然視線をヴィランの方へと向けて行動を開始した。

 

「私の方が速い!」

 

「いいえ。私の方が速いです」

 

 どうやらミルコと巻菜の二人は、どちらが多くのヴィランを倒せるかで勝敗を決めることにしたらしい。そして勝負の得点代わりにされたヴィラン達は……。

 

『『イヤアアアアアアアアアアアッ!』』

 

 全員泣きながら逃げ出した。こうなればもはやヴィランとしての目的やプライド等は何処にも存在しなかった。

 

 そこから先は三十人以上のヴィランと二人のヒーロー(一人はまだ学生だが)によるリアル鬼ごっこが行われ、その様子は正に阿鼻叫喚という言葉が相応しかった。

 

 

 

 プッ。

 

 テレビの緊急ニュースがヒーローとヴィランによる鬼ごっこになったところで黒岸と緑谷、爆豪と相澤の四人は、ほぼ同時にテレビの電源を切った。その後、テレビの電源を切った四人は、そのまま頭痛をこらえるかのように額に手を当てると同時に呟く。

 

「マキナがまたやらかした……」

 

「まきちゃんがまたやっちゃった……」

 

「マキがまたやらかしやがった……」

 

「機械島がまたやらかしたか……」


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