「ほう、ここが保須市か。中々いい街じゃないか」
「そうね、ジェントル」
駅から降りて街の様子を見たジェントルが言うと、それにラブラバさんが頷き返事をする。
体験学習五日目。俺達はジェントルの事務所がある街とは別の街……どころか別の県、東京都の保須市に来ていた。
何故俺達がこの保須市に来ているかというと、それは昨日ジェントルが呟いた一言が切っ掛けだった。
『そうだ。保須市へ行こう』
ジェントルがそんな「京都へ行こう」みたいなノリの言葉を言ったのは、パソコンの達人であるラブラバさんがインターネットの情報網からとあるヴィランがこの保須市に潜伏しているという情報を得たのを聞いたからだ。
ステイン。
ヒーローのみを狙い、これまでに多くのヒーローを再起不能、あるいは殺害してきた「ヒーロー殺し」の異名を持つ凶悪なヴィラン。
そして俺が先日ベホマで治療した飯田の兄、インゲニウムを襲い、病院送りにしたヴィランでもある。
保須市にステインが潜伏していると知ったジェントルは、「凶悪なヴィランを捕まえる協力をするために、あとついでにここで活躍をしてこの間炎上して人気が下がったネットの人気を取り戻すため」という、前半が本音であってほしい目的で俺とラブラバさんを連れて保須市にやって来たのだ。
「東京都内なのに落ち着いた雰囲気がとてもいい。できれば仕事ではなくプライベートで来たかったね」
「ジェ、ジェントル!? それってもしかしてデー……」
(……なあ、相棒? コイツら、本当に大丈夫なのか?)
俺がのんきに話をしているジェントルとラブラバさんを見ていると、頭の中にはかいのつるぎの呆れたような声が聞こえてきた。……うん。まあ、はかいのつるぎの気持ちも分からなくはないが……。
大丈夫だと思うぞ? ジェントルもラブラバさんも実力者だし、根は真面目で正義感が強いから事件が起こればきっと……ん?
心の中ではかいのつるぎに話しかけていると、少し離れた場所から何やら騒がしくなった。騒がしくなった方を見てみると、人相の悪い男がバッグを脇に抱えて走っており、その後ろで女性が叫んでいた。
「誰かその人を捕まえてぇ! 私のバッグ!」
「むっ? 引ったくりかね? 私の前で犯罪を犯すとはなんと愚かな」
女性の叫びを聞いてジェントルが表情を引き締め、自分の個性を使って引ったくり犯を捕まえようとするのだが、それより先に行動に出る者がいた。
「脱兎の如く蹴っ飛ばす!」
「……!?」
ジェントルよりも先に行動に出たのは頭に兎のような耳を生やした女性で、彼女は引ったくり犯に強烈な蹴りを叩き込んで、まるでサッカーボールのように吹き飛ばした。
あれはプロヒーローのミルコ!? 何でこんな所に……っていうか、容赦ないな? いくら何でも普通たかが引ったくりにそこまでするか?
そしてミルコに蹴り飛ばされた引ったくり犯が飛んでいく先には、四本足の全身青のロボット……キラーマシンの姿があった。
……あれってもしかしなくてもマキナか? あいつ、ミルコの所に行っていたのか?
「捕まえます。……あっ?」
『『あっ』』
マキナが乗るキラーマシンはミルコに蹴り飛ばされた引ったくり犯を右手を繰り出して捕まえようとしたのだが、間違って引ったくり犯を掌底を叩き込む形で殴り飛ばしてしまう。
これを見てマキナだけでなくミルコや俺達も思わず声を出してしまって、ミルコに蹴り飛ばされた上にマキナのキラーマシンに殴り飛ばされた引ったくり犯は、近くにあるそば屋の中に玄関を破壊して激突したのだった。
「こンの……大馬鹿者どもがぁぁぁっ!!」
数分後。街に一人の男の怒声が響き渡った。
怒声を上げたのはエンデヴァーで、その巨体からは怒りが具現化したような炎が凄まじい勢いで立ち昇っている。
エンデヴァーの前には、それぞれ首に「私は過剰な暴力を振るった愚か者です」というプラカードを首から下げて地面に正座しているミルコとマキナの姿があり、後ろには両手に箸と蕎麦つゆが入った容器を持っている轟の姿があった。
先程マキナが殴り飛ばした引ったくり犯が激突したそば屋、そこでは丁度パトロール中の昼休憩でエンデヴァーと轟が昼食を食べていたらしい。これにより久しぶりの息子との団らんを邪魔されたことと、現行犯の引ったくりとは言えオーバーキルすぎる暴力を振るったことにエンデヴァーは激怒して、こうして説教をしているのである。
ミルコとエンデヴァーがこの街にいるのはジェントルと同じくステインが目的なのだろう。普通に考えれば無数にいるヒーローでも上位にいる二人がここにいるのは頼もしいはずなのだが……。
……なあ、はかいのつるぎさんや?
(どうした、相棒?)
何だか俺、少し不安になってきたんだけど?
(……ああ、だろうな)
正座をしているミルコとマキナに説教をしているエンデヴァーを見ながら、はかいのつるぎに心の中で話しかけると、はかいのつるぎはこちらを同情しているような声で返事をしてくれた。