雄英高校の合格通知が来てから五日後。俺は再び雄英高校に訪れていた。
今日ここへやって来た理由は、例の合格通知の立体映像でオールマイトが言っていた怪我人の治療のためだ。
今日と明日は土日で学校が休みだから大丈夫だと雄英高校に連絡を入れたら、朝早くに雄英高校の関係者だと言う眼鏡をかけた男が迎えに来てくれたのだ。ちなみに実家から雄英高校までの交通費は全て雄英高校が持ってくれた。
オールマイトがわざわざ俺に治療を頼み、雄英高校の教師が迎えに来てくれるだなんて、その怪我人とは一体どんな人物なのだろうか?
そんなことを考えているうちに怪我人が待っているという雄英高校の保健室に案内され、俺が一人で保健室に入るとそこにはまるで骸骨かと思うくらい痩せ細った顔色の悪い男が椅子に座っていた。その男は多分三十代くらいかと思うのだが、その痩せ細った体に顔色の悪さ、覇気の無さからもっと年老いているような印象を受けた。
「あの……。俺、ここに怪我人の治療を頼まれてきたんですけど……貴方が?」
「ああ、そうだよ。私のためにわざわざ遠いところから来てもらってすまなかったね。オールマイト達は今、用事で席を外しているんだ」
俺が声をかけると保健室に先にいた骸骨のような男は弱々しい笑みを浮かべて答えてくれた。
「それで早速だが、君に見てほしいものは……コレだ」
骸骨のような男がそう言って上着を脱ぐと、彼の左脇腹にある大きな傷痕が見えて俺は思わず息を呑んだ。
「………!? そ、その傷は?」
「これは今から五年前、あるヴィランによってつけられた傷でね。何とか一命は取り留めたが、呼吸器半壊に胃袋全摘と、日常生活を送るのすら少々辛いくらいなんだ」
ヴィランにつけられた傷? この人って元プロヒーローだったのか? ……いや、そんなことはどうでもいいか。
「話は分かりました。その傷に回復魔法をかければいいんですね? ……でも効果があるかは分かりませんよ」
「構わないさ。例えそれがどれだけ低い可能性でも、私はそれにかけてみたい」
「分かりました」
俺の言葉に骸骨のような男は覚悟を決めた声でそう答える。そこまで言われたら、もう俺から言うことは何もない。
俺は骸骨のような男に近づくと、彼の傷痕に両手を当てて呪文を唱えた。
「ベホマ」
「本当に上手くいくのですか?」
健人が骸骨のような男に回復魔法をかけていた頃、雄英高校の別の部屋で数人の男女が保健室の様子をモニターで見ており、眼鏡をかけた男が呟いた。彼は黒岸健人を雄英高校まで迎えに来た人物であった。
「君がそんな疑問を口にするだなんて意外だね。君の『個性』で彼がどうなるか分からなかったのかい?」
眼鏡をかけた男の呟きに、この部屋で最も小柄な影が聞き返し、部屋にいる全員の視線が眼鏡をかけた男に集まる。眼鏡をかけた男はしばらく無言ではあったが、やがて観念したように口を開く。
「……はい。この数日、『彼』の未来は全く見えませんでした。そしてあの少年、黒岸健人を迎えに行った時も『個性』を使ってみましたが、これからどうなるか未来を見ることができませんでした」
『『………』』
眼鏡をかけた男の言葉に、部屋にいる男女のほとんどが驚いた顔となり、眼鏡をかけた男に話しかけた小柄な影が興味深そうに頷く。
「へぇ……。それは中々興味深い話だね。でもそれだったら期待を持ってもいいんじゃないかな?」
「しかし彼の傷は今までどんな名医や希少な回復系個性の持ち主でも治療することは出来なかった。それを……………!?」
小柄な影の言葉に眼鏡をかけた男は反論しようとしたが、突然目を見張り立ち上がった。
酷い傷だ。
骸骨のような男にベホマをかけた俺は、相手の体が全く回復しようとしないのを感じ取った。ベホマの力は確かに骸骨のような男の体に影響を与えているが、その影響があまりにも少なすぎるのだ。
器に水を入れても底に大きな穴があるせいでほとんど水が漏れて溜まらない。
焚き木に更なる種火を送っても火を維持する薪が僅かしかないせいで火の勢いが出ない。
そんな手応えがないイメージが浮かび上がり、このままではいくらベホマをかけても時間の無駄だろう。そう思ったその時、俺は異世界で魔法を習い始めたばかりの頃、先生から教わった言葉を思い出した。
『ケント。魔法で一番大切なのは集中力ですよ。ただ魔力を放ちながら呪文を唱えても、それで呼び出せるのは効果の薄い魔法だけです。魔法の真の力を発揮したいなら、その魔法がどんな効果を出すのか正確にイメージすることです』
先生の教えを思い出した俺はベホマを維持したまま、骸骨のような男の体がどの様に回復するかをイメージする。
傷ついた臓器の細胞が活性化して少しずつ再生していくようなイメージ。それをベホマの魔力に乗せて送り出した瞬間……手応えのようなものを感じた気がした。
俺がベホマを使い始めてからどれだけの時間が経っただろうか? 多分時間にしてはまだ十分も経っていないだろうが、それでも個人的にはもう数時間も魔力を送り続けているような気がする。だがその甲斐もあってか、骸骨のような男の体が少しずつ回復していっているのが分かった。
水を淹れていたが底に穴が空いていた器が、穴を塞がれて水で満たされる。
種火を送っても薪がないので勢いが弱いままの焚き火が、薪を足されて火の勢いが増す。
そんなイメージが頭の中に浮かんだ瞬間、俺は自分の治療が完了したのだと悟り、ベホマを止めてそれまで閉じていた目を開くとそこには……。
骸骨のような男……ではなく、上半身裸のNo.1ヒーローが驚いた顔で俺を見ていた。
「「オールマイトォッ!?」」
突然の出来事に俺が叫ぶと、それと全く同時に俺を雄英高校まで連れてきた眼鏡をかけた男が、俺と同じく叫びながら保健室に飛び込んできた。
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