視点:三人称
天皇賞秋を惜しくも二着で逃し、結果を出すことができなかったトレーナー。ウオッカ自身は、「俺自身のせいでもあるんだ。全部トレーナーのせいじゃねえよ」と言うが、トレーナーは自責の念に駆られていた。
自信をもって臨んだウオッカとの鍛錬の日々。どこで間違えたのか、三年という短くも長い時間をトレーナーは振り返っていた。桜花賞では一着を、日本ダービーでも一着を取ることができた。彼女の、ウオッカの願う通りに二人三脚で進んできたつもりだ。
時にはぶつかり、時には笑い合い、悔しさに涙をのんだ日もある。
天皇賞秋に挑むと決めた時も、心配はしていなかった。ウオッカなら大丈夫だと、これまで積み重ねてきた努力はトレーナーが一番知っていたからだ。だが、結果は二着。二着だ。
「なぁ、トレーナー……」
砂浜で二人、並び立つ。なんだ、と返事をするも、自分の声に覇気がないことをトレーナーもわかっていた。辛いのは走ったウオッカのはず、落ち込んでいるのはウオッカの方こそだろう。自分が落ち込んでどうする、彼女を励ますのは俺の役目だろうと、そう奮い立たせようと思えど身体も喉も思うように動かなかった。
「俺はさ、あんたと組めてよかったと思うぜ」
ぱっと顔を上げ、隣を見る。背筋を伸ばし、遠く沈みゆく太陽を眺めている。堂々とした立ち姿だった。
どう返そうかと悩み、言葉を出せないままのトレーナーにウオッカはニカリと笑う。
「へへ、最後は上手くいかなかったけどよ。それって俺の力不足ってことになるだろ?」
違う、と言おうとする男にウオッカは手を翳す。指を一本立て、左右に振った。
「確かに、あんたの力不足もあったかもな」
そう言われてるとは思っていなくて、呆然と、とまではいかずとも難しい顔でウオッカを無言で見つめる。
「だからよ――」
真っ直ぐと夕日にきらめく海を見て、そしてトレーナーへと顔を向ける。その瞳には、太陽のように燃え盛る熱が宿っていた。
「――俺も、あんたも。強くなって出直そうぜ」
自身の身体に活力が満ちていくのを男は感じた。ウオッカのトレーナーとしてはもう終わりだと思っていた。それは事実であり、決められていたことだ。だけれど、ウオッカは言うのだ。もう一度と。お互いに足りなかったものを埋めてきて、強くなった二人で駆け上がろうと。
燃える眼差しに、男もあふれんばかりの熱を瞳に込め、歯を見せて真っ直ぐに笑いかける。
【一年後、また会おう。相棒!】
拳を突き出し告げると、ウオッカは一度瞬きをし、それから豪快に笑って頷いた。
「おう!!」
突き出された拳がぶつかり、お互いの熱が伝わったような気分になる。トレーナーは少しだけ気恥ずかしくなり、ウオッカもまたむずがゆさに頭を乱暴にかく。
「へへ、っしゃあ。頑張るとしますか!!」
一声。
声を張り上げるウオッカに、トレーナーも同様に声を張った。海に向けて叫ぶ男を見て、ウオッカは明るく笑う。
俺たちに諦めなんて似合わねえ、なあ"相棒"。声には出さず、ウオッカは隣で手を振り上げるトレーナーを見て言った。トレーナーに先ほど言われた"相棒"という単語が、どれほど嬉しかったことか。こいつわかってねえんだろうなと、真っ直ぐ過ぎるくらいに一直線な男へ視線を送る。
どうした?と首を傾げる男に、ウオッカはなんでもねえと肩を叩き笑う。予想以上に力が入ってしまったらしく痛がるトレーナーを見て、彼女はくつくつと笑った。
海風が吹き、二人の鼻に潮の香りが届く。再出発にはちょうどいい、鮮やかな潮風だった。沈みゆく太陽に二人分の影が踊り、まるで応援でもするかのように、夕日に照らされた海面が眩しく輝いていた。
ブログで書いてて気が向いたのでこちらに投稿しました。他にも書いたり書かなかったりします。ウオッカ、かっこいいよね。
当たり前のようにウオッカをウォッカだと思ってました。恥ずかしいね!誤字報告ありがとうございます。