夢の中でTSして女になる男、夢日記をつけはじめる   作:(ノ≧▽≦)ノ

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尾の白い黒猫

 

 

 

 

「イテテ…………」

 

『汝、なにをしておるのだ? いきなり自分の頬を千切ろうとして…………気でも違ったか?』

 

 サメ野郎は、成人男性のものと思われる渋い声色で、言葉を発した。

 

 

「あぁ、クソッ。…………いいか? 偉大なるサメ様は知らないのかもしれないが、俺たちひ弱な人間様は、頬をツネって現実と夢を区別するんだよ」

 

 

 ──誰が気狂いだ。狂っているのは、この状況そのものだろう。

 

 

 そんなことを思いながら、俺は頬をおさえた。

 

 ……強くツネりすぎただろうか?

 

 ジンジンと痛む頬に、自身の軽率な行いを反省する。ツネるにしても、もっと弱い力でツネるべきだっ──

 

 

 

「──って、アホか!」

 

 

 この場において、俺の頬が痛むかどうかなんて微塵(みじん)の価値もない。そんなことよりも、俺の隣に座っていやがるこのサメ野郎から、いかにして情報を引きだすかを考えなければ……。

 

 

『汝、我は阿呆ではない。訂正を要求する』

 

「今のは、自分に対しての発言だ!」

 

『……汝、生きていくうえで適度な自罰は推奨される行いだが、それが過度になってしまうと危険だ。その先に待つのは、被虐性欲の権化であるぞ』

 

「誰がドMだ、この野郎! …………おい、ちょっと待て」

 

 

 あらぬ疑いをかけられて憤慨してしまったが……今の発言からして、もしかすると、こいつは──

 

 

 

「──なぁ、サメ様よぉ」

 

『なんだろうか?』

 

 

 もし、そうなのだとしたら、話は変わってくる。

 

 

「あんた、そういうやつを…………そうなった"人"を、見たことがあるのか?」

 

 

 このサメ野郎が俺の妄想の産物ではないというのであれば、俺以外の誰かが、こいつを産みだしたのかもしれない。

 

 そう、『夢にでてくるあの女が、このサメ野郎を作った』ということもあり得るのだ。

 

 この推測が正しければ、こいつが、あの女のことを知っている可能性が高くなる。

 

 

 

『────見たことはある』

 

「……っ! それじゃ──」

 

『──まぁ、そいつは人ではなく、サメなのだが』

 

 

 は?

 

 

「いや、人じゃねぇのかよ!」

 

『というか、我のことなのだが』

 

「お前、ドMかよぉ!?」

 

 

 た、確かに、"見てきた"とも"体験してきた"とも読み取れる言い方ではあったが……あったがっ!

 

 ……なんというか、疲労感がはんぱない…………って、ダメだ、ダメだ! 次の眠りから覚めたときに、こいつがまだここにいる保証なんてどこにもないんだ。聞きだせる情報は、可能な限りおさえておかなければならない。

 

 

 

「はぁ……。もう疲れたから直球で聞くが──お前は一体、どういった存在なんだよ?」

 

 

 まずは、そこだ。

 

 ──こいつの正体がなんなのか?

 

 俺はそれを知りたい──知らなければならない。

 

 ……いや、本当になんなんだよ、こいつは。サメなのに、水がなくても平気そうにしているし、人間のように椅子に座っているし、日本語で会話できるし…………

 

 

 もう、サメの原形ないじゃん。

 

 サメなの見た目だけじゃん。

 

 

『汝、それを我の口から聞くのは、反則というものだ』

 

「その口ぶり……やっぱり、知っているんだな? この場所や、俺が見る夢についても──それを教えてはくれないのか? …………あと、生物学的にサメかどうかくらいは、はっきりとさせてくれ」

 

『言ったであろう? 反則だ、と。…………あと、我はサメである』

 

「チッ。…………オーケー、わかった。それなら、反則にならない正規の方法を教えてくれよ。答えではなく、答えに至る道だ。……その程度ならいいだろう?」

 

 お前のようなサメがいるか! とぶん殴りたくなったが、さすがに自重した。

 

 

『…………。……良かろう』

 

 わずかに逡巡を見せたサメ野郎であったが、どうやら、こちらの説得に折れてくれたらしい。

 

 

 

『────夢だ。夢に向き合え。夢に逃げず、夢から逃げず。その先に、汝の答えは見つかるだろう』

 

 

 

 夢に向き合え、か。

 

 

 

「わかったよ、教えてくれてありがとう。……それと、さっきは怒鳴ったりしてすまなかったな」

 

 高圧的な物言いになってしまったことを反省した俺は、サメ野郎に謝罪した。

 

 

『問題ない。むしろ、少々興奮を覚え──』

 

「──悪いが、俺の半径1㎞以内に入らないでくれないか?」

 

『な、なぜ』

 

「なぜもクソもあるかっ! このクソサメ野郎!」

 

 

『ああ^~』

 

 

「うお!? …………クソッ! なんなんだよ、こいつ! たちが悪すぎる!」

 

『我はタチウオではなく、サメであるが?』

 

「やかましいわっ!」

 

 

『ああ^~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【12日目】

 

///////////////////////////////////////////////////////////

 

 

 ここは、手術室。

 

 女は手術台に寝かされており、眠っているのか、目を閉じていた。

 

 そんな女の腹部にメスを入れた執刀医──『姉』は、女の腹を乱雑にこじ開ける。

 

 

 ──女の目は覚めない。

 

 

 姉は、手術台の脇に置いてあった袋から飴を取りだし、女の腹に詰め込んだ。

 

 女は、微笑みを浮かべている。

 

 

 ──女の目は覚めない。

 

 

 姉は、袋から消しゴムのカスを取りだし、女の腹に詰め込んだ。

 

 女は、少し身じろぎした。

 

 

 ──女の目は覚めない。

 

 

 姉は、袋からムカデを取りだし、女の腹に詰め込んだ。

 

 女は、苦痛に表情を歪め──

 

 

 

 

 ────女の目が覚める。

 

 

 

 

 そこは、駅のホームであった。

 

 

 線路の上で、呆然とした様子で佇む女。

 

 

 混乱する女は、自身の体を動かしホームにのぼろうとする。

 

 しかし、それは叶わなかった。

 

 

 女の背にあった手術台が、十字架へと姿を変え、女を(はりつけ)にしていたのだ。

 

 

 ──ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 

 

 近づいてくる電車の音が、女の恐怖心を駆り立てる。

 

 女は、助けを求めようと周囲を見回した。

 

 

 そこには──ホームの上には、女のクラスメートと、女の家族がいた。

 

 

 クラスメートと両親は、女のことなど気がつかず、ただただ談笑するばかり。

 

 女の危機に気がついていたのは──女の姉、ただ一人だけ。

 

 

 ────助けてっ!

 

 

 そう叫ばんとする女の喉から声はでず、代わりにでてきたのは、女の左腕であった。

 

 女の口から出現した腕が、救いを求め、天へとのびる。

 

 ホームの縁をつかんだ腕は、姉の足に踏みつぶされた。…………その惨状は、誰の目にも映らない。

 

 

 

 ──ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 

 

 

 女の眼前に、電車が迫る。

 

 

 

 

 その電車の運転席にいたのは────

 

 

///////////////////////////////////////////////////////////

 

 

 

 

「────いた、のは………………」

 

 俺はそこで筆をとめた。

 

 その先は、書きたくなかった。

 

 

 もし、その先を書いてしまったら…………あの光景を、あの感覚を、現実と認識してしまいそうで──

 

 

『────汝』

 

「…………っ!」

 

 

 暗い思考の沼に沈みかけていた俺は、サメ野郎に声をかけられたことで、現実へと戻ってこれた。

 

 ……いや、戻らない方が良かったのかもしれない。

 

 

 

「まだ、いやがったのかよ。サメ野郎」

 

『……汝、しっかりしたまえ。我の助言を忘れたわけではあるまい』

 

 わかってるんだよ、クソッタレ。

 

 

「助言…………助言、ね。『サメ野郎には罵声を浴びせよ』だったか?」

 

『その通りだ』

 

「……ぶっ飛ばすぞ」

 

『どうしたのだ、汝よ。突っ込みに、いつもの鋭さがないぞ』

 

 当たり前だ。今の俺に、そんなことを気にする余裕はない。

 

 

「……悪いが、少し黙っていてくれないか。自分の気持ちってやつを、落ち着いて整理したいんだ」

 

『ふむ……承知した。そういうことであれば、我も全力で黙秘を貫くとしよう』

 

 助かった。もし、このノリを続けられていたら、俺はこいつのことを殴っていたかもしれない。

 

 もっとも、あのクソ窓に一切のダメージを負わせられなかった俺のパンチを受けても、全く痛くないだろうが。

 

 

 

 なんにせよ、これでようやく、静かに──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──しかし、完全に黙るというのは、なかなか難儀なことであるな』

 

 

 静かに…………

 

 

『特に、呼吸時の音を無にするのが難しい』

 

 

 し、しず………………

 

 

『そもそも、我の体は本当に、肺に酸素を送り込む必要があるのだろうか? 我はその疑問を解消するべく、無呼吸状態の維持を試み──』

 

 

 

 

「────だあぁーっ! うるせぇよ!? 黙るって言ったのに、なんでテメェはずぅっとしゃべってんだ! 黙秘宣言から5秒も経たずにギブアップとか、ナメてんのか! テメェは、我慢ができない赤ちゃんか! それに、自分のことをサメだって言うんなら、エラで呼吸しろよ! なんで肺で呼吸してるんだよ! そもそも、なんで肺があるんだよぉ!」

 

 

 

 

『………………ぅ…………ぃ…………き……が……………………』

 

 

「え?」

 

 こ、こいつ…………死にかけてるー!?

 

 

「──ショック療法! おらっ!」

 

『うぐぇ』

 

 俺は、サメ野郎のクソしょうもない自殺を阻止するべく、こいつの腹に回し蹴りをくらわせてやった。──これは決して、鬱憤をはらすための行いではない。ないったら、ない。

 

 

『ウ、グゥ……。…………はぁ、はぁ、はぁ』

 

 どうやら、作戦はうまくいったようで、サメ野郎はうめきながらも呼吸を再開した。

 

 ……だが、腹部をいたわるように前傾姿勢になっているサメ野郎を見ていると、心の中でふつふつと罪悪感がわきあがる。

 

 

「あぁ、その、すまなかった。……痛かったよな?」

 

『はぁ、はぁ、も、問題ない』

 

 そう答えるサメ野郎は、明らかに問題ありな様子だった。

 

 

「……俺には、問題ないようには見えないのだが」

 

『はぁ、はぁ、大丈夫だ。なぜなら、この悶絶は痛みではなく、快楽によるものだから』

 

「やっぱ、お前黙ってろ!」

 

 

『ああ^~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ひとしきり騒いだあと、俺はノートを開いて、先ほどまで不機嫌だった理由をサメ野郎に話していた。

 

 

「この夢にでてきた電車──その運転席にな、『俺』がいたんだよ。だから、なんだ……その、パニックになっちまった」

 

『なるほど。いきなり我の頭を蹴ったりしたのは、そういう理由からか』

 

「いや、それはテメェのせい……って、そこ、頭だったのかよ!? じゃあ、その目と口がついている部位はなんなんだ!?」

 

『頭部だが』

 

「このサメ野郎、頭を二つお持ちでいらっしゃるー!?」

 

 なんでこいつはサメを自称しているのに、自ら、サメから離れていくんだ!

 

 

『なにをそんなに驚いているのだ。汝の知るサメの方が、一癖も二癖も強いだろう』

 

「B級映画のことなら、比較対象を間違えているぞ?」

 

『…………? ……! ………………!?』

 

 いや、そんな『……なん……だと……』みたいな反応をされても困るのだが。

 

 

『まぁ、そのような些事はどうでもよかろう』

 

「些事!? 自分の生態のことなのに!?」

 

『……汝、我は真面目な話をしようとしているのだ。そういう雰囲気を読み取れずに漫才をはじめようとするのは、よろしくないな』

 

「最初にボケたのは、テメェだけどな。5分前の自分の発言を思いだしてこい」

 

 いわゆる、ブーメランというやつだ。

 

 

『5分前、300秒前……『──だ、汝よ。突っ込みに、いつもの鋭さがないぞ』……特に問題のない発言に思えるが』

 

「正確に真正面から返してきやがった!? …………って、さっそくボケてんじゃねぇよ!」

 

 

 やっぱ、こいつ、わざとだろ!

 

 

 

 

『──それだけではないのだろう』

 

「あん?」

 

『自分が運転席にいたこと……汝がひっかかっているのは、それだけなのか?』

 

「……………………」

 

 

 

 ──え? こいつ、こんな空気でその話に戻るつもり? 唐突すぎない?

 

 

 

「いや、違う」

 

 

 …………でも、こんな空気だから、だろうか?

 

 

 気がつくと、俺は口を開いていた。

 

 

 

 

「──残ってるんだよ」

 

『……』

 

「あの夢を見てから、ずっと──あの女をひき殺した感覚が、俺をつきまとって離さないんだ」

 

 自撮りの夢からはじまったこの奇妙な夢の中で、こんなことは一度もなかった。

 

 

 ──『俺』が登場することも。

 

 ──『俺』の五感を感じることも。

 

 

「あの女をひいたときの、内臓を揺らすような衝撃が、頭の中が真っ白になる焦燥が、全身から訴えてくる痛みが、視界に映る赤色が、耳障りなブレーキ音が、口の中に広がる鉄の味が、吐き気を催す悪臭が…………忘れられねぇんだ」

 

 

 夢の中の出来事だというのに、リアルすぎるこの感覚の正体は──

 

 

 

「────あの夢は、現実だったんじゃないか?」

 

 

 俺は、その答えを知っているであろうサメ野郎に視線を向けた。

 

 

『……ここにくる前の汝の仕事は、車掌だったのか?』

 

「いいや」

 

『では、電車の運転室に入るような理由はあるか?』

 

「……ねぇな。俺は、自分で運転してみたいと思うほどの電車好きでも、車掌を人質に取るようなテロリストでもない」

 

 あぁ、クソ。わかる、わかるんだよ。テメェがなにを言いたいかなんてなぁ。

 

 

 でも、そうじゃないんだ。

 

 

 これは、そういう話じゃねぇんだよ。

 

 

『ならば、少なくとも、汝が電車でその女をひいたわけでは──』

 

「──違うんだ、違うんだよ、サメ野郎。俺は、今まで人をひいたことなんてなかったんだ。人をひいたときの感覚なんて、知りようがないんだよ」

 

 俺だって、あんなの夢ではじめて体験したことだと思いたい。

 

 

 でも、それなら、この"既視感"は──

 

 

「だったら、俺は一体、この感覚をどこで体験したっていうんだ」

 

 

 

 ────なぁ、誰か、教えてくれよ。

 

 

 

 

『──汝よ』

 

「…………なんだよ」

 

『汝は、どうやってここにきたか覚えているか?』

 

 サメ野郎の質問に回答するため、俺は記憶を探った。

 

 

「…………覚えてねぇな。俺の記憶は『夜中に自転車に乗ってコンビニへ行くところ』で途切れている。そこから先の記憶はない」

 

『そうか。──それなら、焦る必要はないだろう』

 

「なに?」

 

『我は『夢に向き合え』と言ったが、それは『夢を享受しろ』という意味ではない。それは、思考停止と同じだ』

 

「む……」

 

 サメ野郎の言い分にムッとしたが、反論はできなかった。

 

 自身の言動を省みて、"思考停止"と言われてもしょうがない部分も確かにあると、そう思ったから。

 

 

『汝の行いは、『全ての欠片が揃っていない状態で、はめ絵を完成させようとする』行為に等しい』

 

「はめ絵?」

 

『……ぱずるのことだ』

 

「ぱずる……あぁ、パズルか」

 

 かなり今さらだが、こいつの言葉ちょっとわかりにくいな。はめ絵なんて単語、はじめて聞いたぞ。

 

 

 ──けど、わかりやすい例えだ。

 

 

「……なるほど。確かにそりゃあ、無謀も無謀。思考停止と言われてもしゃあねぇな」

 

 俺は、焦りすぎていたのかもしれないな。

 

『む。声に活力が戻ってきたな』

 

「あぁ。サメ野郎、テメェのおかげだよ。──ありがとうな」

 

『……そう素直に礼を言われると、少し面映ゆいな』

 

 そう言うと、サメ野郎は顔を隠すようにして、こちらに背を向けた。

 

 

 

「おいおい、照れんな────って、なんかサメ野郎の背中が消えていってるー!?」

 

 

 

 なんだこれは! なにが起きているんだ!?

 

 

『そうか…………もう、時間なのか』

 

 

 ──『時間』。

 

 その単語から、これからサメ野郎がどうなるのか、察した。……察してしまった。

 

 

『汝、どうやら我は、あと少しでここから消えてしまうようだ』

 

「……っ! そんな!」

 

 やはりかっ……!

 

 

『我の体が消えてしまう前に、せめてこれだけは、汝に伝えておきたい』

 

「……聞いてやる」

 

 ゴクリ、と俺はつばを飲み込んだ。

 

 きっと、サメ野郎の最期の言葉になるだろう。聞き逃さないようにしなくては……。

 

 

 

 緊張が高まる中、サメ野郎は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実は──我はサメではなかったのだ』

 

「いや、それは知っている」

 

『……なん……だと……』

 

 

 その言葉を最後に、サメ野郎は完全に消失してしまった。

 

「あぁ、そんな…………」

 

 サメ野郎の最期に対し、どうしようもない虚しさとやるせなさを感じていたとき、俺は気がついた。

 

 自身の足元──さっきまでサメ野郎がいた場所に、小さな十字架が落ちていることに。

 

 

「サメ野郎…………」

 

 

 ──それは、夢の中では不吉な代物だった。

 

 ──しかし、そんなこと、今の俺には関係ない。

 

 

 俺は、それを慎重な手つきですくいあげる。

 

 

「……………………」

 

 こんな場所に一人で夢日記をつけていたら、頭がおかしくなっていたかもしれない。

 

 俺が正常でいられたのは、間違いなく、サメ野郎のおかげであった。

 

 

 

「……祈ってやるか」

 

 

 俺は、サメ野郎のご冥福を祈り続けた。

 

 

 

 次の眠りが訪れる、そのときまで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【13日目】

 

///////////////////////////////////////////////////////////

 

 

 コンクリートで囲まれた空間に、女がいる。

 

 女は壁に穴を空けようと、自分の頭を壁に打ちつけた。

 

 感情のない表情で、何度も、何度も、打ちつける。

 

 

 ──壁から、悲鳴がこぼれる。

 

 男性の声によるものだ。

 

 

 やがて、男の声が弱々しくなっていき──ついに、壁に穴が空いた。

 

 

 

 穴の先から、一匹の黒猫が──尾の白い黒猫が、女を見つめてい────

 

 

///////////////////////////////////////////////////////////

 

 

 

 

「──い、い、あ、あ、あ、あ………………」

 

 視界に映るその光景に、俺の口は意図せず痙攣しはじめた。

 

 あまりの衝撃に、体がこわばり、力が入る。

 

 

 

『どうしたのだ、汝よ。そのような力の加え方をしてしまっては、鉛筆に負荷が生じてしま──』

 

 

「──なあぁんで、テメェがここにいるんだよ、サメ野郎!?」

 

 

 鉛筆の芯が少しだけ犠牲になったが、目の前の問題と比べると些細なことだった。

 

 

 

『我は、ここにきたから、ここにいる』

 

「そういう意味じゃねぇよ! テメェ、さっき死んだじゃねぇか!?」

 

『別に、死んでないが』

 

「あれ死んでなかったのー!?」

 

 じゃあ、あの消え方はなんだったんだよ!

 

 

『"サメふーど"を食す時間帯になったのでな。家に帰ったのだ』

 

「ただの一時帰宅だった! …………ってか、サメフードってなに? ドッグフードの親戚?」

 

『む……。犬の食べ物と一緒くたにされるのは、心外だな』

 

「あ、すまん」

 

 これには、さすがの俺もすぐに謝った。自分の食べ物を『犬の餌と同等だ』と言われたら、そりゃあ怒るだろう。これは、俺が悪い。

 

 

『大粒の鶏肉、牛肉、野菜が入ったものや、ささみ、骨型ガムといった──』

 

「──これ、ただのドッグフードだー!?」

 

 俺がサメ野郎に突っ込みを入れた、そのときだった──

 

 

 

 

『ク……クス…………クスッ、クスクス!』

 

 

 

 

 ──室内に、鈴を転がすような女性の笑い声が響いたのは。

 

 

「なっ、誰だ! でてこい!」

 

『一体どこに……』

 

 俺とサメ野郎は辺りをキョロキョロと見回すが、俺たち以外の生物は見つからない。

 

 

『ここですよ』

 

 

 先ほどと同様の鈴を転がすような声が聞こえたため、俺はそちらの方向に顔を向けた。

 

 

 そこは、サメ野郎の口の中で──

 

 

「──あらー! サメ野郎の口内に猫ちゃんがー!?」

 

 

 そこには、夢で見た『尾の白い黒猫』がいた。

 

 

 

 ……………………?

 

 

 

 

「……って、サメ野郎! テメェ、さっき『一体どこに』とか言ってただろうがー!」

 

 

『ぐおぉ』

 

 

 

 俺は、サメ野郎を力強く蹴飛ばした。

 

 

 サメ野郎は、盛大に吹っ飛んだ。

 

 

 猫ちゃんは、俺の肩に飛び移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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