夢の中でTSして女になる男、夢日記をつけはじめる   作:(ノ≧▽≦)ノ

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水面下の戦い

 

 

 

 

『──お兄さんたち、おもしろいですね』

 

「あぁん?」

 

 俺の右肩付近から、鈴を転がすような女性の声が聞こえた。

 

 そう聞くとうらやましい状況に思えるが……残念なことに、その声を発したのは美女ではなく猫ちゃんである。

 

 ……今、右手で鉛筆削りを使用しているのだが、乗り心地が悪かったりしないのだろうか?

 

 

「俺からしたら、テメ……あんたらの方が、おもしろい存在だけどな。あんたは、あのサメ野郎の仲間なのか?」

 

 

 ──夢にでてきた異常な動物であること。

 

 ──人語で会話できること。

 

 ──この場所に現れたこと。

 

 

 パッと思いつくだけでもこれだけの共通点があるのだ。仲間だと推測するのも当然だろう。

 

 

『……わかりません。あのサメさんは、何者なのでしょう?』

 

「いや、俺に聞かれても…………って、『わかりません』? 『違います』じゃなくてか?」

 

 どういうことだ?

 

 仲間の中にサメ野郎として該当しそうなやつはいるが、正体を隠しているとかの理由で断言できないとか…………そんな感じか?

 

 そういえば……あいつ、自分のことをサメと言ったり、サメではないと言ったり、めちゃくちゃだったな。そら、仲間かどうかもわからなく──

 

 

 

『──いえ、そもそも"私"が何者なのかわからないので、その質問には答えようがないのですよ』

 

 

 

「まさかの記憶喪失ぅ!?」

 

 

 そんなんわかるかーっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど。そんなことが……』

 

 とりあえず、俺は夢で見た内容も含め、猫ちゃんに現状の説明をすることにした。

 

 半分は猫ちゃんのためだが、もう半分は自分のためだ。俺自身、今の状況を完全に理解しているとは言いがたいからな。いわゆる、現状把握というやつである。

 

 

「────と、まぁ、そういう感じで夢日記をつけていたんだよ。俺もやることなくて暇だったし、ちょうど良かったんだ」

 

『そうですか…………』

 

 そこまで話したものの、どうも猫ちゃんは浮かない様子だ。

 

 

「おい、どうした?」

 

『…………不快にさせてしまったら、すみません。でも、どうしても聞きたくて』

 

「ん?」

 

 

『お兄さんは、怖くないのですか?』

 

「……えらく、抽象的な質問だな」

 

 

『もし、自分が現実でその女の人を殺していたら……そう考えたりはしませんでしたか?』

 

 

「……………………」

 

 なんだ、そのことか。

 

 それなら、サメ野郎のおかげで解決済みだ。

 

 

「考えた、考えたよ。──なぁ、ちょっと自分語りしてもいいか?」

 

『え? え、えぇ。かまいませんが』

 

「ありがとう」

 

 俺は礼をしながら、頭の中で言いたいことを整理する。

 

 

「──俺はさ、今までずっと逃げ続けてきたんだ」

 

『逃げる、ですか?』

 

「あぁ。酒、たばこ、映画、ゲーム、アニメ、漫画──嫌なことがあったとき、俺はいつもそこに逃げていた。…………嫌なことに向き合うどころか、楽しい思い出で記憶の奥底に押し込んでいたんだよ」

 

 そんな自分を思いだして、思わず笑いそうになった。こいつ、どこからどう見ても完全にダメ人間である。

 

 

「だから、たぶん……罰、なんだろうな」

 

『罰……なぜ、そう思うのですか? 私が言うのも変な話ですが、ここが、あなたの妄想である可能性も否定できないのでは?』

 

「そうかもしれねぇな」

 

 確かにそうだろう。他にも、さまざまな可能性が考えられる。

 

 でも、そんなの関係ないんだ。

 

 

「つってもな、実際のところどうなのかは問題じゃねぇんだ。この場所が、俺が生みだした逃げ場でも、閻魔様が俺に与えた試練でも、悪魔どもの暇潰しでも──関係ない」

 

 

 どうして、こんなところにいるのかわからない以上…………いや、わからないからこそ──

 

 

 

「──俺は、俺のために、夢に向き合うんだ」

 

 

 

『……………………』

 

「はじめて…………そう、はじめてなんだ。嫌なことから逃げなかったのは。いろいろなものから目をそらし続けて生きてきた、俺がな」

 

 

 俺は、言葉を続ける。

 

 

「だから、これは"意地"だ。今度こそ、逃げずに立ち向かいたい。その先になにがあるのかを知りたい──そんな、意地」

 

『……意地、ですか。そんなもので、よく今まで耐えてこれましたね』

 

 耐えることができたのは、きっと、あいつがいたからだ。

 

 一匹のサメが、俺の脳裏によぎる。

 

 

「……俺一人では、無理だったろうな。でも、サメ野郎がいたから──」

 

 

 

 俺は、電車のすみでうずくまっているサメ野郎を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────おん♥️ あおん♥️』

 

 

 

 

 

 サメ野郎は、あえいでいた。

 

 

「テ、メェ…………ナニしてんだー!」

 

『ぐおぉ』

 

『あらまぁ』

 

 俺は、サメ野郎の脳天に手刀をくらわせた。

 

 

『な、汝、これは違うのだ。我は決して、汝の足蹴に興奮したからその快楽を貪っていた、というわけではない』

 

「テメェは、口を開くたびに俺をイラつかせるよなぁ」

 

『ぱくぱく』

 

「は?」

 

 なにやってんだ、こいつ。

 

 

『ぱくぱくぱくぱくぱくぱく』

 

「イライライライライライラ」

 

『ふふっ…………! クスッ、クスクス!』

 

 俺がサメ野郎の態度にイライラしていると、猫ちゃんが吹きだした。

 

 

「……なぁ、猫ちゃんや。あんた、笑いの沸点が低くないか?」

 

『ぱくぱく』

 

『ふっ、ふぅ……あ、ご、ごめんなさい』

 

『ぱくぱく』

 

「別に、責めてるわけじゃねぇよ。ただ、少し不思議に思っただけ──」

 

『ぱくぱ──』

 

「──だあぁーっ! うるせぇよ!? なんなの、お前? サメから金魚に転職でもしたのか、この野郎!」

 

『ゑ? だって、口を開けばいらいらしてくれるって……』

 

「イライラさせるための行為かよ!? テメェは、新手のかまってちゃんか!」

 

『ぐふぅ……! …………ふ、ふふっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『たくさん笑ってしまいました。……お兄さんたち、いいコンビですね』

 

「そうか…………っ? あんた今、変なことを想像しなかったか?」

 

 なんか、ぞくぞくしたのだが。

 

 

『い、いえ、そんなことは……あははっ』

 

「…………まぁ、別にいいけどよ。ってか、『お兄さん』と呼んでくれてるが、あんたから見て、俺は『お兄さん』に見えるのか?」

 

 俺は、俺の姿を視認できない。一応、あのクソ窓を経由して確認できるが、そこで見た俺の姿は人魂である。…………やっぱ、意味わからんな。

 

 

『見た目の話でしたら……人魂? に見えますね』

 

「あぁ…………ま、そうか」

 

 俺も、サメ野郎と猫ちゃんの性別を声で判断していた手前、これ以上は特になにも言えない。

 

 ……よくもまぁ、人魂に足を置く気になったな、とは思うが。熱そうとか思わなかったのだろうか?

 

 

『す、すみません。声質から男性と判断したのですが……。あの、もしかして、女性の方でしたか?』

 

「いや、男性だが」

 

『あっ、で、ですよね』

 

「……………………」

 

『……………………』

 

 お互いに無言になり、どことなく気まずい空気が流れる。

 

 空気を変える意味も込め、この猫ちゃんについて知っていることがないかサメ野郎に聞こうとして──俺は口を閉じた。

 

 

 なんと、サメ野郎はビクビクと痙攣していたのだ…………ドン引きである。正直言って、関わりたくない。口もききたくない。

 

 

 そんな感じで、所在なさを適当にやり過ごしていると──

 

 

 

『────うらやましいな』

 

 

 

 唐突に、猫ちゃんが呟いた。

 

 

「うらやましい? なんのことだ?」

 

『──え? あ、れ? な、なんでしょう……?』

 

「いや、俺が聞いているんだが……」

 

 なんてこった。サメ野郎に続いて、猫ちゃんまでおかしくなりやがった。

 

 ……これ、もしかして、サメ野郎のおかしさに触発されたんじゃねぇか? おのれ、サメ野郎。

 

 

 

『いえ、その! …………その、もしかしたら、私の人生って陰鬱としたつまらないものだったのかもしれない、と思いまして』

 

 

「おいおい、記憶喪失って話はどこにいったんだ?」

 

 というか、猫なのに"人"生って、これいかに。

 

『記憶は、ありません。でも、なんとなくわかるんです。…………私が忘れた記憶が、どうしようもなく、醜いものだと』

 

「……………………」

 

 それは思い込みによるものか、はたまた──真実であるが故か。

 

 カウンセラーでもない俺には、判断がつかない。

 

 

『お兄さんも、私と同じでした』

 

「……俺は、記憶喪失じゃねぇぞ」

 

『いいえ、言っていたはずです。ここにくる前の記憶は曖昧だ、と。その記憶が悲惨なものである可能性を考えた、と』

 

「……あぁ」

 

『私も、似たようなものです。……そして、私はそれに怯え、お兄さんはそれに向き合うことができた』

 

「それで、うらやましいってか」

 

『…………はい』

 

 ひょっとしたら、猫ちゃんは無意識のうちに、俺にシンパシーを抱いていたのかもしれない。

 

 だからこそ、いちいち俺と自分を比べてしまったのだろう。

 

 

 そう考えると、さっきの質問は──

 

 

「……なるほどなぁ。『怖くないのか?』という質問は、俺だけではなく自分に向けてのものでもあったと」

 

『…………そう、なのでしょうか?』

 

「たぶんな。でもまぁ、俺もあんたと同じだぜ」

 

 そう、同じなんだ。

 

 サメ野郎がいなかった場合の俺の姿──それが、この猫ちゃんというわけだ。

 

 

「さっきも言いかけたがな、俺が勇気を持てたのは、サメ野郎のおかげなんだよ」

 

『サメさん、ですか。…………って、ん?』

 

「…………。……そうだ。だから、あんたも……あぁ、なんだ、その…………」

 

 サメ野郎が俺にしてくれたように、俺も猫ちゃんを励まそうとしたのだが、なかなかどうして、うまく言葉がでてこない。

 

 ……あと、視界の端にとんでもないものが映ったような気がするが、きっと気のせいだろう。

 

 

『え、えっと、あの』

 

「……難しいな。やっぱ、俺にこういうのは向いてねぇよ」

 

 

 

 

『あの! そのサメさんなんですけど! なんか、ビチビチと痙攣しながら宙に浮かんでいって──』

 

 

 

 

「見るな」

 

『え?』

 

「俺たちは、なにも見ていない。いいな?」

 

『あっ、は、はい』

 

「…………ったく」

 

 

 サメといえば凶暴な生き物のはずなのに、どうしてか、あのサメ野郎は空気を弛緩していきやがる。

 

 でも、そのおかげで、猫ちゃんにどう伝えるべきかを整理できた。

 

 

 ──難しく考える必要なんて、なかったんだ。

 

 

 

「────なぁ、話してみないか?」

 

 

 

 心に残る、洒落た口前も、

 

 

「心の中で、気持ち悪い感情がグルグルしているんだろう?」

 

 

 心を刺す、正論の説教も、

 

 

「それを吐きだしちまえば、答えが見つかるかもよ?」

 

 

 そんなものは、必要ない。

 

 

「俺も、そうだったんだから」

 

 

 

 自分の伝えたいことは、ストレートに言った方が──

 

 

 

『………………とても、恐ろしいのです』

 

 

 

 

 ────案外、心を打ったりするもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それは、モヤだった。

 

 それを見ていると、不安な気持ちがあふれだす。

 

 

 ──それは、黒色だった。

 

 それを見ていると、気分が落ち込んでいく。

 

 

 

 ──それは、

 

 

 

 

 

 ──それは、優しかった。

 

 

 最初は、優しかったのだ。

 

 

 いつからだろう? それから優しさが消えたのは。

 

 いつからだろう? それから温もりを感じなくなったのは。

 

 

 …………いつからだろう? それから恐怖を覚えるようになったのは。

 

 

 

 

 ──それは、私に『邪魔だ』と言った。

 

 

 ──それは、私に『醜い』と言った。

 

 

 ──それは、私に『無価値』と言った。

 

 

 

 

 ──それは、私に『死ね』と言った。

 

 

 

 

 ──それは、

 

 

 

 それは………………

 

 

 

 それは一体、なにを伝えたかったのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猫ちゃんは、自分が抱える闇を吐きだした。

 

 

 俺は猫ちゃんの話に驚愕する。なぜなら、猫ちゃんが伝えてきたその感情は、つい最近、俺が抱いたものと同じであったからだ。

 

 

「あんた、まさかっ」

 

『…………? あの、なにか……』

 

 

 もしかして、この猫ちゃんの正体は──

 

 

「────い……や、なんでもねぇ。…………しかし、モヤなぁ」

 

 俺は、脳裏に浮かんだその考えを切り捨てた。

 

 それが、俺の感情に基づく推測でしかないうえに、仮にその推測が当たっていたとしても、それを猫ちゃんに伝えたところで混乱させるだけだろう。

 

 そう判断した俺は、猫ちゃんが語ってくれた話に向き合うことにした。

 

 

 

「…………。なぁ、『最初は、優しかった』っていうのはどういう意味だ?」

 

 あの語りの中で俺が一番違和感を覚えたのが、この部分だ。他が全て悪感情であることも違和感を強めている。

 

 

『うーん……。……ごめんなさい、私にもよくわかりません』

 

 猫ちゃんは申し訳なさそうに謝罪し、言葉を続けた。

 

『……ただ、私の中の"モヤ"に意識を向けたとき、その思いが、その感情が、私の心にあふれだしたのです』

 

「……ふむ」

 

 

 

 ──『姉は、手術台の脇に置いてあった袋から飴を取りだし、女の腹に詰め込んだ』

 

 

 

「……もしかしたら、猫ちゃんとその"モヤ"は、仲良しだったのかもしれねぇな」

 

『…………え?』

 

 俺の言葉に、猫ちゃんは呆けた声をだした。

 

 当然だろう。俺自身、突拍子もないことを言っている自覚はある。

 

 

 それでも──

 

 

 

 ──『女は、微笑みを浮かべている』

 

 

 

 ────それでも、だ。

 

 

「なぁ、猫ちゃんや。あんた、その"モヤ"のことは──嫌いか?」

 

 

『……えっと、わかりません。でも、きっと嫌いでしたよ』

 

「なぜだ?」

 

『だって、私はそれに恐怖や不安を感じて──』

 

「──"優しさ"も、感じたんだろう?」

 

『そ…………れ、は……。……………………』

 

 虚をつかれたかのような反応をした猫ちゃんは、考え込んでいるのか、しばしの間無言になる。

 

 約30秒後。再び、猫ちゃんが口を開いた。

 

 

『…………確かに、"モヤ"に対して"嫌い"という感情はわいてこないです。しかし、だからといって簡単には納得できません。だって──』

 

 猫ちゃんはそこで、先を言うのをためらうかのように、一旦言葉を区切った。

 

 

『────だって、仲が良かったと言うには、私の中にある恐怖は、不安は、あまりにも大きすぎる』

 

 

 もちろん、それは俺も考えていたことだ。

 

 だが、好きと嫌いは紙一重とも言うだろう。

 

 

「──その大きな負の感情は、仲が良かったからこそ生じたものかもしれないぞ」

 

『え……? ど、どういうことですか?』

 

「ほら、好きと嫌いは紙一重って言うだろう?」

 

『……そうなのですか?』

 

 ありゃ。

 

「…………。あー、なんて言えばいいか」

 

 知らなかったものはしょうがない。

 

 俺は気持ちを切り替えて、猫ちゃんにうまく伝わる言い方を考える。

 

 

 

「今から言うのは俺の持論であり、専門家の意見ではないという前提で聞いてほしい。…………例えば、だ。ファンもアンチもそこそこいる芸人がいて、そいつがSNSで失言し、炎上したとしよう」

 

『は、はい』

 

「失言する前からアンチだったやつの反応はこうだ。『いつかはやると思っていた』『もともとそういう思考が見え隠れしていたし、まぁ、驚きはないかな』」

 

『はぁ。なんとも淡泊な反応ですね……。それでは、ファンの方の反応は、どうなのでしょうか?』

 

 実際には、激怒して暴言を吐いたり、野次馬根性で罵りにいったりするアンチもいるが…………話がややこしくなるから、これについてはあとで教えることにしよう。

 

 

「その失言からアンチになった元ファンの反応はこうだ。『信じられない、まるで悪夢だ!』『ふざけるな! 俺たちを裏切ったってのか!?』『失望しました……』『金返せ!』」

 

『……もとからアンチだった方々と比べて、ずいぶんと感情的といいますか…………熱量を感じますね』

 

「だろ? じゃあ、次だ。その熱量はどこから生まれたと思う?」

 

『えっと…………"裏切り"、"失望"…………。────信頼?』

 

 俺は、猫ちゃんの回答に大きくうなずいた。

 

 

「正解だ。より正確に言うのであれば、信頼を含めた好意的感情全部だな」

 

『全部、ですか』

 

「あぁ。信用を失うのは一瞬と言うがな、プラスの信用がさがっていったとき、"0"でぴたりと停止するわけじゃねぇんだ。これまで積み重ねてきたものだけ、マイナス方向に振り切れていく」

 

『それは……裏切られ、失望するから、ですか?』

 

 その通り。

 

 そして、それらを耐えられるほど、受けとめられるほど、人の心は頑丈にできていないんだ。

 

 

「そうだ。────人の心なんて、容易く反転するんだよ」

 

 

『……反転』

 

「"+1"が反転したら"-1"だが、"+100"が反転したら"-100"だ。ファンとして活動的だったやつほど、アンチになったときの熱量も増大するのさ」

 

『……なるほど。それは確かに、"好きと嫌いは紙一重"と言えますね』

 

「そういうこと」

 

 今にして思えば微妙すぎる例えであったが、ちゃんと伝わったのであればよかった。

 

 

「まぁ、あれだ。だから、というわけでもないが…………もっと過去に目を向けてもいいんじゃねぇかな」

 

『でも、私はっ……』

 

「さっきも言ったが、二人とも仲良しだった可能性もあるんだ。その思い出を、今の先入観から恐怖で塗りつぶしてしまうのは…………少し、もったいなく思っちまうな」

 

『…………そう、ですね。それは、確かにもったいないです。私、がんばって過去に向き合ってみます!』

 

「おう!」

 

 

 

 

 

『────しかし、お兄さんは炎上? に関して、ずいぶんとお詳しいのですね』

 

 

「……………………」

 

 

『…………お兄さん?』

 

 

 

「う、ぐっ…………グッ!?」

 

 

 

 頭が、割れるように痛い。

 

 

 なんだ、これは。

 

 

 なにが、起きている。

 

 

『お、お兄さん! しっかりしてください!』

 

「ガァ、ア、アァ……!」

 

 

 頭痛がひどすぎて、猫ちゃんに返事ができない。

 

 

 

 ──徐々に、俺の目蓋が閉じていく。

 

 

 

 最悪だ。クソッタレなあの眠気が、こんなタイミングでくるなんて。

 

 

『──ぉ──! ──────!?』

 

 

 猫ちゃんがなにかを叫んでいるような気がするが、もはや、俺の聴覚はまともに機能していなかった。

 

 

 

 ──なにも聞こえない。

 

 

 こわい。

 

 

 ──頭の痛みがとまらない。

 

 

 こわいっ。

 

 

 ──視界が暗くなっていく。

 

 

 いやだっ!

 

 

 俺は、まだ、消えたくなんかっ──

 

 

 

「………………ァ」

 

 

 

 眠りに落ちる前の俺の視界には──

 

 

 

 

 ────泡を吹いて倒れているサメ野郎の姿が、映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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